CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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ようやく異能が登場です。
オリキャラの異能についてはかなり考えました。
チートのようでチートではないのを目指しました。
けど、やっぱり……チートなのかな?


code:03 怒りの裁き

 異能とは一部の人間が持つ特殊な能力のことだ。『コード:ブレイカー』は、この異能を用いて悪を裁く。そして、その異能は人によって全く異なる。

 大神は、人を一瞬でチリも残さず燃やし尽くすほどの熱さを持つ、左手から発する『青い炎』。

 刻は、鉄などに作用し触れずに物を飛ばしたり、銃弾を送り返すことができる『磁力』。

 優は……まだ異能を使っていない。

 田畑邸に着いた大神たちは、刻が『磁力』を作用させてセキュリティシステムをダウンさせ、『磁力』で扉を捻じ曲げて田畑邸内に入った。そこで待っていたのは田畑邸のガードマンたちだった。桜は近づいてきた相手に得意の格闘術を、刻は『磁力』を使いガードマンが撃ってきた銃弾を反発現象で送り返し、大神はガードマンたちが撃った銃弾を『青い炎』で防ぎ、刻の最後の一本だった煙草も燃え散らした。

 ちなみに、この過程で優は特に何もしていない。桜が「もちろん人殺しは良くないのですが、先輩は戦わないのですか?」と微妙に矛盾している質問をしたが、優はしれっとこう返した。

 「オレがやるよりも二人がやったほうが効率がいい」

 実際、話が終わるころには終わっていた。さらに道中、大神が『コード:ブレイカー』になった目的が『(さが)(もの)』を見つけて殺すためということが刻から明かされた。しかし、当の大神は『捜シ者』という名を聞いた瞬間、尋常ではない殺気を放った。そこまでして殺したい相手である『捜シ者』が何者なのか。桜の中に、また新たな疑問が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「田畑、お前の言う通り世の中には死んでいい人間もいる。ただし、テメエみたいな悪人(ゴミ)のことだがな。田畑……!」

 場所は変わり田畑邸の地下室のような部屋。『子犬』が犬自慢の嗅覚で入り口を見つけたのだ。入ってみると、そこにあったのは大量の人間の臓器。これが何を意味するのか。田畑が稀血と呼ばれる特殊な血液を持った人たちを拉致・監禁しているという話を踏まえればわかるだろう。

臓器売買。この瞬間、田畑は“悪”だと判明した。

 「待て! 大神! 殺してはダメだ!」

 桜が大神を止めようと前に出ようとする。彼女はとても正義感が強く、“悪”を絶対に許さない。それは、人殺しを行う大神も同様だった。そもそも、彼女が大神の仕事についてくる理由も大神が人を殺すのを止めるためなのだ。相手が“悪”だろうと殺してはいけない。それを大神に教えるために。桜はそれを成すために大神と行動してきた。それが正しいことだと信じて。

 「ッ!?」

 しかし、その考えが本当に正しいのか。桜は考えることになる。震える手で桜の腕を掴んだ、全身包帯だらけの男によって。

 「殺してくれ……。あいつら、息子のゆうたまで切り刻んだ……。許せない……! 殺してくれ……!」

 「……!」

 その瞬間、桜の思考がフリーズした。“悪”だから殺してはいけない。そう信じていた。

しかし、現実はどうだ?

 目の前の男は田畑の、“悪”の死を望んでいる。それを救いとしている。“悪”を殺していけないのなら、目の前の男は救われないということなのか?田畑に殺された息子のために彼の死を望む男は間違っているのか?そんな思いが桜の中を巡っていた。

 「…………」

 大神は、そんな桜を無視して歩を進めた。桜はそれに気づき、急いで大神を止めようとした。

 「お、大神! 待……」

 「ハイ、そこまで」

 「刻君!?」

 大神を止めようと進んだ桜を刻が後ろから覆いかぶさるで止めた。桜は、またふざけているのか、思い刻を振り払おうとした。しかし、できなかった。耳元で囁かれた刻の言葉によって。

 「桜チャン。言っとくけど、今の迷ってる君じゃ大神は止められない。……ひとつ教えてあげるヨ。世に言う正義のヒーローって奴はさ、正義のためなら悪いヤツをブッ殺すからヒーローなんだよネ」

 「と、刻君……」

 刻の手には「ひのタマン たい あくまじん」というタイトルの絵本があった。タイトルだけでわかる。それがヒーローが主人公のお話だと。ヒーローが悪者を斃す話だと。刻が言っているのは、『コード:ブレイカー』とこの絵本のヒーローの根本は変わらないということなのだろう。

 「田畑。貴様のような悪(クズ)はこの世から消え去るがいい。跡形もなくな」

 「はたして君にそれができますかな? 『コード:ブレイカー』君?」

 その瞬間、大神から紅い液体が飛び出た。

 「……ッ!?」

 「「さあ、解体手術のお時間デス」」

 見てみると、大神の背後に白衣を着た屈強な男が二人いた。どちらも明らかに一般人とは呼べない雰囲気をしており、その両手にはメスが握られていた。

 「彼らはウチの執刀医です。ロシア特殊部隊スぺツナズで最高の暗殺技術を体得しているので腕は確かですよ」

 「ちっ……」

 大神が左手を伸ばした。『青い炎』で燃え散らそうとしたのだろう。しかし、その手は空気を掴み、男たちは大神の背後に移動していた。それぞれ、大神の左腕と右腕を切りながら。

 「大神!」

 「速いナァ……」

 刻が感心したかのように言った。確かに、男たちのスピードはかなりのものだ。一般人なら目で追うこともできない。コンビネーションも中々だ。

 「さっき聞こえたけどあなた、何やらステキな力を持ってるんでしょ?」

 「でも、それも直接触れないと使えないとなれば、意味ないわね」

 男たちが大神の唯一の弱点を指摘した。その顔には、勝ち誇ったかのような笑みが浮かんでいた。

 「あいつら、異能についても知ってんのカ?」

 「いや、おそらくオレたちの会話を傍受したんだろう。お前があいつらと同じことをペラペラと喋ってたからな」

 「だからナニ? そんなの言い訳にもならねーヨ」

 まるで大神のことを心配していないかのような刻の言葉。優はやれやれとため息をついた。

 「診察終了!」

 「さあ、解体手術よ!」

 肩、足と大神の体がどんどん傷ついていく。傷の多さに比例して大神の体から流れる血も増えていく。しかし、大神はいくら攻撃を受けても悲鳴なんて一言も上げなかった。

 「ウフフ。クールね、アナタ。でも痛いなら痛いって言っていいのヨ? ……ん?」

 男の足元に何かが転がった。それは、クマのぬいぐるみだった。首の部分にはネームプレートが付いていて、「ゆうた」と書かれていた。それは、先ほど桜に田畑を殺すよう頼んだ男が口にした子どもの名前。白衣の男は、ぬいぐるみをひょいと拾い上げた。

 「ああ。思い出したわ。このぬいぐるみの持ち主ね、すごくきれいな内臓の持ち主だったの。でね、解体した時に彼ったら“助けて”って言ったのよ。……バカよねえ!」

 そう言うと、男たちは笑みを浮かべた。その顔はとてつもなく下品な、“悪”の顔だった。

 「“助けて”よ! “助けて”! 助けるわけないじゃない! その声が聞きたくてやってんだから!」

 「そんな声もあなたで67人目? いえ76人目? 忘れたけどこれだから解体手術はやめられない!」

 男たちは下品な笑いを浮かべながらぬいぐるみをメスで引き裂き、地面に叩きつける。この時、彼らは気づかなかった。その行為が……

 「あなたも言いなさいよ! 必死になって! “助けて~”、“助けてお願い~”って! さあ、早く……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の男を悪魔に変えたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ガハァッ!?」

 「夜原先輩!?」

 男の言葉が遮られ、その屈強な体が吹っ飛んだ。一人の男の……夜原優の回し蹴りが顔に命中したことによって。

 「い、いきなりなにす…………る……」

 「…………」

 優は無言で男を見下していた。その制服に身を包んだ体からは想像できないような殺気を放ちながら。まるでその場に存在する全てを手にかけるような雰囲気。それは彼のはるか後ろにいる桜と刻にも感じられた。桜は知っていた。このような雰囲気を出した人間が行う行動を。桜はそれを止めるべく動き出す。

 「せ、先輩! 殺しては……」

 しかし、刻がまたも桜を止めた。先ほどとは違い、力を込めた腕で桜の体を捕まえることで。

 「無駄だヨ、桜チャン。ああなったあいつには、もう言葉は届かない。……よく見たほうがいい。あれがあいつの本性なんだカラ。大神と同じ。感情なんて無いただの……殺人マシーン」

 刻の目が鋭くなった。その目には、尻餅をついた状態の白衣の男と、それを見下す優。

 「な、なによ……。なんなのよ、アンタ……」

 「…………」

 「だ、黙ってないでなんとか言いなさいよ!」

 白衣の男がメスを優に向けて突っ込んだ。しかし、次の瞬間。男の手からメスの刃が消えた。

 「な!?」

 それを行ったのは優。彼が放った回し蹴りが、メスの刃を木端微塵に砕いたのだ。

 「ま、まさか足でメスを……!? ありえない!」

 「黙れ」

 明らかに先ほどまでとは違う声。学校で聞いたものとも、『コード:ブレイカー』という正体がわかった時のものとも違った。

 「これ以上、(クズ)の言うことを聞く気はない」

 「この……ガキがぁぁぁぁぁ!!」

 メスを砕かれた男が優に突っ込んでいった。素手で優を殺すつもりなのだろう。しかし、それは自らの寿命を縮める行為だったとすぐに知る。

 「がぁ!」

 優が右手を突き出し、男の顔を掴んだ。そして、そのまま壁に押し付ける。

 「殺した相手を忘れるような下衆は死ね。最後に教えてやる。オレが殺すのはお前で129人目だ」

 「う、うそ……。や、やめて!」

 男が命乞いを始めた。その目から涙を流しながら、先ほどまでの態度とは180度違う。だが、その言葉が優に届くことはなかった。

 

 

 

 「目には目を」

 「あ……、や、やめ……」

 

 

 

 「歯には歯を」

 「あ……ああ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「悪には無慈悲(むじひ)なる(さば)きを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 男の顔が潰れた。いや、砕かれた。優の握力によって。一人の少年の握力で大の男の頭蓋が砕かれたのだ。頭を砕いたことで優の体は返り血に染まる。顔も、服も、何もかも。

 「よ、よくも!」

 もう一人の白衣の男がメスを構えて優に向かっていった。敵討ちのつもりだろうが、それは間違った行為だった。

 「な!?」

 こちらの男も頭を掴まれた。それは、親指に指輪をした左手。大神だ。

 「い、いや……!」

 「燃え散れ。」

 男の体が『青い炎』に包まれる。体の一片も、塵の一つも残さずに。男の体が燃え散るのには、十秒とかからなかった。

 だが、桜の意識は大神の『青い炎』ではなく、優の方に向かっていた。

 「夜原先輩……人の頭を割るなんて……。一体どうやって……」

 「あれがあいつの異能『脳』だヨ」

 刻が桜を解放した。とりあえず、この場に残った“悪”は裁いたからだ。ちなみに、田畑はすでにどこかに姿を眩ませていた。

 「の、『脳』?」

 「人って、普段は本気になっても本来の力の3割程度の力しか使えないって知ってる? 脳にリミッターがかけられているからサ。あいつは、そのリミッターを自在に外すことができる。そうすることで、あらゆる感覚器官が普通の人間以上になる。筋力のリミッターも外れるからその力もとんでもないものになるってワケ」

 「う……うむ?」

 スラスラと説明する刻。一方の桜はいまいち理解できてないようで、眉間にしわを寄せながら首を傾げていた。すると、優が桜たちのところに戻ってきた。その体は、男の血でベッタリと汚れている。

 「つまり、いつでも火事場の馬鹿力を出せるってことだ」

 「おお! そういうことですか!」

 「今のでわかったのかヨ……」

 優の説明で合点がいった桜は目を輝かせ、桜の思考回路が理解できない刻は呆れた顔をしていた。と思ったら、桜はハッとして優を睨みつけた。

 「先輩! なぜ殺したのですか! いくら悪人でも殺すことは!」

 「……悪人でも殺すことはない。お前はそう言いたいのか?」

 「そ、そうです!」

 「あれを見てもか?」

 優が親指を立てた状態であるものを指差した。それは、先ほどの包帯を巻いた男だった。ボロボロになったクマのぬいぐるみを持った大神が男の傍にいる。

 「オレと大神があの二人を裁くことであの男は救われた。あの男は間違っているか?」

 「それは……」

 「どうでもいい」

 大神が割って入ってきた。その後ろでは、『青い炎』が雄々しく燃えていた。炎の中に、かすかに包帯を巻いた男とクマのぬいぐるみが見えた。大神にとって、せめてもの弔いなのだろう。

 「オレたち『コード:ブレイカー』は悪を裁く。その結果、誰かが救われようとオレたちはただの悪。正しいとか間違っているとかなど関係ない」

 「……何、感情的になってんの? たかがバイトだろ。お前のそういう所マジウゼェわ」

 大神の言葉を聞いて、刻が苛立ち気に大神を睨みつける。優は二人の様子を気にせず顔を拭い、桜は自らの中に生まれた葛藤と戦っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「燃え散れ。」

 田畑の体が『青い炎』に包まれた。哀しい顔をした大神によって。病気の娘であるちさのために、同じ稀血の人間でちさに適合する臓器を探すために稀血の人間を殺していた田畑。だが、桜は許せなかった。どんな理由があろうと多くの人を殺した田畑を。“悪”という存在を。そんな桜がとった行動は……ハグだった。

 ハグをすることで、“悪”である田畑も、他の人間と同じ温かい血が流れている一人の人間だということを伝えたのだ。それは、桜が自らの葛藤と戦い抜いた結果、得た答えだった。どんな理由があっても殺しちゃいけない。これは理屈じゃない。桜のその言葉で、良心を取り戻した田畑。大神を、正義の味方である『ひのタマン』と言い、自分を悪である「あくまじん」として、大神に自分を殺させようとした。それが、田畑なりの償いだったのだろう。そして、大神はそれを感じ取ったのかはわからない。

 だが、大神は田畑を裁いた。

 田畑の体を燃え散らす『青い炎』は少しずつ小さくなり、塵すらも残さずに消えた。これでよかったのかはわからない。ただ、田畑にとってはよかったのだろう。

 しかし、だからと言って全員が納得するわけではなかった。

 「よくも……、よくもパパを…………! 『あくまじん』でもパパはパパなのに! 『ひのタマン』なんて大嫌い! 死んじゃえ! 死んじゃえー!!」

 ちさが車いすから身を乗り出し、持っていた絵本を大神にぶつけた。身を乗り出したことで床に着いた体を何とか起こして、桜はちさに駆け寄りその体を支える。ちさは涙をあふれさせながら大神を睨んでいる。大神は、その場から動きもせず、頭のみ動かしてちさを見た。そして、冷たい目でちさを見下した。

 「……ああ、そうさ。お前の父親はオレが殺した。だが、このままだとお前は病気によって何もできずに死ぬ」

 「な……! 大神!」

 それは正しかった。しかし、目の前で父を殺された病気の少女にとっては酷な真実だった。それでも、大神は言葉をつづけた。

 「悔しかったら生き延びてみろ。生き延びてオレを殺しに来い。覚えていてやる。オレはお前のことを絶対に忘れない」

 「パパを……パパを返せ! 悪魔ー!! うわああああああ!!」

 「ち、ちさちゃん……!」

 暴れるちさを桜は止めようとする。しかし、彼女は病気を持つまだ幼い少女。まるでガラスのように儚い存在。桜はちさを止めようとする腕に力を込めることができなかった。

 「…………」

 すると、優がゆっくりと桜の隣に座った。そして、ちさの頭を何の躊躇もなく掴んだ。

 「先輩!? まさか!」

 桜の頭の中に先ほど頭を砕かれた男のイメージが浮かぶ。そして、最悪の展開が頭をよぎる。

 「先輩! ダメです!」

 「心配するな」

 そう言うと、優はゆっくりとちさから手を離した。見ると、ちさは眠っていた。先ほどまで喉を傷めそうなほどの声を出していたというのに、今は安らかな寝息を立てている。

 「簡単な催眠術だ。問題はない」

 「……そうですか」

 「さ、早いとこ出ようぜ。どうせここは大神が燃やすシ」

 刻の言葉に桜と優が頷く。見ると、大神の左手には『青い炎』が灯っていた。そして、ちさを連れた一行は田畑邸を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 田畑邸の庭。『青い炎』に包まれる田畑邸を前にして大神と桜は何やら話し込んでいた。そこから少し離れた場所で、眠ったちさの隣で刻と優が話していた。

 「なあ、どうせアレ使ったんだロ? なにか消したワケ?」

 「……いや、眠らせただけだ。下手に消せば、この子の生きる意味がなくなる」

 刻はしゃがんだ状態で『青い炎』で火を点けた煙草を咥えながら、優は立って目の前の『青い炎』を見たまま話していた。

 優の返答を聞いた刻は、頭をかきながら立ち上がった。

 「あっそ。んじゃ、報告は済ませたからオレは行くとするヨ」

 「本当のターゲットのところ……か?」

 優の言葉を聞くと、刻はピタリとその体を停止させた。そして、ギロリと優を睨みつけた。

 「聞いてたのかよ。趣味悪ィーな」

 「聞こえたんだ。オレは仕事中、ずっとリミッターを解除してるからな。ちなみに、今はもう異能を解いている」

 「チッ……」

 刻は舌打ちをすると歩き出した。優が聞いたという「本当のターゲット」の下に向かうのだろう。つまり、今回の件の黒幕だ。それが誰なのか、優は特に興味はなかった。裁くべき“悪”が何人いようと関係ないからだ。

 すると、桜との話が終わったのか大神が歩いてきた。すでに異能を解いていた優は大神に何があったのかはわからないが、顔を手で覆った大神の様子を見て彼にとって予想外なことが起こったことだけは安易に予想できた。

 「どうした? 少し顔が赤くないか?」

 「黙れ」

 無愛想にもほどがある大神の返答。大神はそのまま優の横を通り過ぎた。しかし、優はまったく気にせずに続けた。

 「まあ、あの珍種は何するかわからないからな。奇想天外な行動をしても不思議はないが、お前がそんなになるほどとはな。貴重なものを見た」

 「…………」

 すると、大神がピタリと立ち止った。優が振り向いて首を傾げていると、大神はそのままの状態で話し出した。

 「……桜小路さん」

 「む?」

 突然、名を呼ばれた桜は小走りで大神と優の下に向かった。いまだ、大神は二人に背を向けたままだ。

 「なんだ、大神」

 「優に何か言いたいことがあるんじゃなかったんですか? 例えば、人と目を合わせて話せ、とか」

 大神が振り向きながら言った。それも、満面の優等生スマイルで。

 「おお! そうだ!」

 「な……!」

 桜はポンと手を叩き、優は青ざめた顔をしていた。

 「先輩!人と話すときは目を見て話さないと失礼ですよ!さあ、私と目を見て話しましょう!」

 「な!? や、やめろ!」

 二人の距離が近かったこともあり、桜は優の顔をいとも簡単に掴んだ。両手で顔の両側を掴んでいるため、桜の力を考えれば絶対に逃げられない。

 「くそ! なら異能で……」

 『脳』の異能を使おうとする優。そんな優を見て、大神は意地の悪い笑顔をしながら言った。

 「珍種に触られていては異能は使えませんよ、優」

 異能が使えない。それは珍種の特殊能力のようなものだった。それだけではなく、珍種には異能が効かず、異能を無効化することができるのだ。異能を完全に打ち消す存在。それが珍種だ。優がそれを実感したのはいいが、それはずいぶん間抜けなやり取りによるものとなってしまった。

 「な、なに!? なら!」

 優は最後の手段として目を瞑った。そこまでして、優は桜の顔を見たくないのだろうか。しかし、すぐに優の目は開かれた。後ろから回された大神の手によって、強制的に開かれたのだ。

 「お、大神! お前!」

 「僕もあなたの貴重な姿を見たいと思いましてね」

 大神にとって、これは仕返しなのだろう。一方の桜は、チャンスを生かそうと顔をぐいと近づける。

 「さあ、先輩!」

 「う……!」

 そして、桜と優の目が完全に合った。桜はジッと優の目を見る。対する優は、冷や汗をダラダラと流していた。

 「う……あ……」

 すると、優の顔が徐々に赤くなっていった。それに呼応するかのように冷や汗の量も増えていった。

 「あ、ああ…………」

 「先輩……?」

 さすがの桜もおかしいと思い、首を傾げる。しかし、すでに遅かった。

 「ガフッ……!」

 優は……倒れた。

 「先輩!? どうしたんですか!? 大神! 私は何かしてしまったのか!?」

 顔を真っ赤にして倒れた優と慌てふためく桜。そして、それを見て満面の笑みを浮かべる大神。満足したのか、大神は満面の笑みで桜の問いに答えた。

 「優は女性が苦手なんですよ。目を合わせるだけで赤面して、言葉もはっきりしなくなる。十数秒も目を合わせていると、今のように倒れるんですよ。理由は知りませんがね」

 「な、なんだと! 先輩! せんぱーい!!」

 すでに田畑邸を燃やす『青い炎』も消え、闇のみとなった夜の街に桜の声が響き渡った。




オリキャラの異能もわかったので改めて設定を載せます。
どうぞ、ご覧下さい。





名前 :夜原(やはら) (ゆう)
年齢 :18歳
身長 :175cm
体重 :59kg
血液型:A型
好物 :カレーライス、和風の物
所属 :『コード:ブレイカー』コード:07、輝望高校3-A
異能 :『脳』…脳のリミッターを自在に解除することで、身体能力を強化することができる。
弱点 :女性と目を合わせることができない(十数秒も合わせていると倒れる)
セリフ:「目には目を 歯には歯を 悪には無慈悲(むじひ)なる(さば)きを」



弱点がとんでもなく情けない夜原さんでした。


【挿絵表示】



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