三か月ぶりの投稿となってしまい申し訳ありません!
立て込んでいたものが一先ず終わったので、一気に書き上げた所存でございます。
久しぶりに書いたため、一部のキャラの性格が変わっていたり書き方がおかしい部分があるかもしれません。
やっぱり定期的に書かないとダメですね……。
そんなことを考えた話です……どうぞ!
「夜原先輩、お願いします!」
「何度でも言う……断る」
「そこをなんとか!」
「絶対に嫌だ」
このやり取り……すでに十二回目である。
輝望高校の近くには放課後の学生をターゲットにした店が少なくない。学生の身なりや制服の着方などに対する校則も少なく、わりと自由な校風である輝望高校では放課後の買い食いなどに対しても寛大である。そのため、近くに設置してある店では放課後に制服でも気軽に立ち寄れるように様々な工夫をしている。例を挙げるなら、学生料金として値段を安くしたり、ちょうど授業が終わる時間辺りにちょっとしたタイムセールをしたりなどだ。
その当人である輝望高校の学生たちだが、もちろんその恩恵を満喫している。彼らは間違っても現代を生きる年若い学生だ。そのようなサービスに飛びつかないわけがない。特に喫茶店などは学校ではできない話をする際にも、少ない料金で気軽に立ち寄れるのでかなり人気だ。
そして、今日もそんな学校ではできない話をする数人の若者がいた。
「三度目の正直……ならぬ十三度目の正直! 先輩、お願いします!」
「…………」
「ついに無視を!?」
「いい加減疲れた」
輝望高校1-B所属の桜小路 桜。その向かい側に座るのは輝望高校3-A所属の夜原 優。さらに、その周りには……
「…………」
「くぁ~……」
「ZZZ」
桜と同じ1-B所属の大神 零に閉成学院高校一年の刻、彼らより年下の天宝院 遊騎。この三人がそれぞれの時間を過ごしていた。
今の状況はというと、彼らは輝望高校近くの喫茶店に入り隅の方にある机を挟んで三対三で座れるソファータイプの席に座っていた。ちなみに席順としては、一列は奥から桜、刻、遊騎の三人、もう片方の列は奥から優、大神の二人となっている。そんな中、桜は必死に優に何かを頼み込み、優はことごとく断っている。それを見ている大神は一人でコーヒーを飲み、刻は退屈そうに欠伸をし、遊騎は目を開けたまま寝ていた。
この状況を見ればわかるが、彼らが集まっている原因は桜だ。桜が優に質問するために喫茶店に集まったのだ。そして、わざわざ喫茶店を選んだということは学校関係の話ではない。
「先輩……なぜなんですか。なぜ教えてくれないんですか……!」
「…………」
桜は俯き、ぐっと拳を握る。その姿は真剣そのものであり、質問の内容も彼女にとって真面目なものであると伺える。しかし、優は相変わらず不愛想なままで、とても質問に答える様子は見えない。
そして、優の態度に我慢できなくなったのか、桜は今一度、質問の内容を繰り返した。
「私はただ
「ッ~……!」
ドン、と机を叩いて身を乗り出す桜に対し、優は眉間にしわを寄せて片手で頭を抱えた。
なぜ、こうなったのか。事の発端は、数時間前の昼休みまで遡る。
「いやぁ、相変わらず平家先輩のお茶は絶品なのだ」
「それには同意する」
「ありがとうございます。桜小路さん、優君」
「…………」
輝望高校の屋上では、大神、桜、優、平家の四人によるお茶会が開かれていた。まあ、お茶会と言ってもいつものように平家が勝手に用意をして大神たちはそれに付き合わされた形である(優に関しては自分から参加)。いつものように大神たちは平家の用意したお茶や菓子を食べ、平家は
そんな中、平家がポツリと口を開いた。
「ところで優君。一つ聞きたいことがあるのですが、いいですか?」
「……? 構いませんが……」
突然の質問。優も思わず首を傾げたが特に何も考えず応じる。しかし、その質問によって彼らの間に流れてた平和な空気が一変した。
「あの時、リリィに何をされたんですか?」
「ブフッ!」
「ぬお!? 夜原先輩、大丈夫ですか!?」
「へ、平k──ゴホゴホ! 平、気だ──ゴホゴホ!」
「……全然、平気に見えませんよ」
平家の質問の内容に思わず飲んでいたお茶を噴き出した優。桜は慌てて優の背中をさすり、大神は平然とお茶を飲みながら優の強がりな発言にツッコんでいた。
それから数分後。優が落ち着いたところで話は再開した。
「……ゴホン。平家さん、なぜ今その質問をしたんですか?」
「ふと気になったからです」
「……そうですか」
あまりにもフリーダムな平家の発言。平家以外の人間に同様の質問をされれば優は即座に答えるのを断っていただろう。しかし、普段から尊敬している平家から質問されては断ることが難しい。だからこそ、優は「そうですか」など弱気な返答をしたのだ。
すると、桜が真剣な表情で二人の間に入ってきた。
「平家先輩、夜原先輩はリリィから毒を受けたのでしょう? だから夜原先輩は倒れて……」
グッと手を握る桜。その様子からは、その時に何もできなかった自分に対する怒りのようなものを感じられた。
しかし、当の優はというと……
(なあ、大神。毒って何のことだ?)
(あの人が勝手に勘違いしてるんですよ。気になるなら本当のことを言ったらどうですか? どうせ話していたら目が合った、くらいのことなんでしょう)
(……ノーコメントだ。まあ、勘違いしているならそういうことでいい)
大神とコソコソと桜の勘違いについて把握していた。そして、桜が勘違いしていると知った優はそれでことを済ませようとした。しかし──
「いえいえ、よく考えてみてください。もし毒を受けていたとしたら起きてすぐに風牙と戦えるわけがありません。何かしらの後遺症が残っているはずです。ですが、優君はすぐに戦うことができた。つまり優君は毒を受けてはいなかったのです」
「な……!」
「そ、そうだったのですか!」
ペラペラと桜の勘違いを訂正する平家。突然のことに優は思わず固まった。そして、桜は驚愕の事実に目を見開いていた。さらに、桜は身を乗り出して優に向かっていった。
「夜原先輩! 毒を受けたのでなければなぜ倒れたのですか!? リリィに何をされたのですか!」
「へ、平家さん!」
「おや、もうこんな時間ですか。それでは私はこれで。優君、質問の答えはまた後日に聞きますからよろしくお願いします」
「ま、待ってください!」
「夜原先輩! 教えてください!」
「来るなぁぁぁぁ!」
(悪魔だな……)
その後、優は昼休み中ずっと桜から質問され続けた。昼休みが終わって一件落着したかに思えたが、放課後になった途端に桜に捕まり、喫茶店に連行されたのだった(ちなみに、刻と遊騎は途中で会ってそのままついてきた)。
そして、現在に至る。早い話、元凶は平家というわけだ。
「というか、あの時のことなんて終わったことだ。今となっては関係ない」
「ですが、気になるのです! 身を挺して私とリリィを助けてくれた夜原先輩が倒れるなんてよっぽどのことです! 拘束された状態のリリィが何をしたのか……ぜひ教えてください!」
(駄目だな……。こうなったら答えを聞くまで絶対に引かない。気の毒としか言えないな)
いい加減、面倒くさくなり話を切り上げようとする優だったが、完全にスイッチが入った桜の前では無意味なことだった。今の桜のしぶとさをよく知る大神は悟ったかのようにため息をついた。
すると、今まで会話に入ってこなかった人物が口を開いた。
「つーかサ、ちょっと考えればわかることジャン。
刻である。気怠そうにソファーに寄りかかって、口には棒付きの飴を咥えている(禁煙席のため煙草の代わり)。突然の言葉に、桜は疑問符を浮かべる。
「刻君、知っているのか? だが、刻君はあの時まだ戦っていたはずだが……」
「あのネ~桜チャン。言ったでショ? ちょっと考えればわかるっテ。ココを使うんだヨ、ココ」
「???」
そう言って、親指で頭を指差す刻。しかし、桜は腕を組んで眉間にしわを寄せるだけだった。そんな桜を見て、刻を仕方なさそうにため息をついた。
「桜チャンも知ってるでショ? 優が女の子と目を合わせるとどうなるか」
「む……? …………そ、そういえばぁ!」
大袈裟なリアクションで驚く桜。そして、今となっては懐かしい事実を口にした。
「夜原先輩は女性と目を合わせると顔が真っ赤になって倒れてしまうのだ! そしてリリィはもちろん女性だ! やっとわかったのだ!」
「……桜小路。周りの目を気にしろ」
桜は自ら(?)辿り着いた真実に感動し、立ち上がりながら喜びの声を上げた。一方の優は、知られたくない事実を知られた気恥ずかしさに耐えながら桜に注意を促した。
その後、桜は周囲に頭を下げながら再び席に座り、一度落ち着いてから話を再開した。
「なるほど……。二人で話していたら偶然、リリィの目を見てしまったのですね。では、不慮の事故ということですね。リリィを疑ってしまった私はなんと愚かだったのだ……!」
「…………」
桜はリリィを疑ったことを反省しながら真実を噛み締めていた。ちなみに、優はどこか遠くを見つめるような目で窓の外を見ていた。おそらく、気恥ずかしさからの現実逃避だろう。そして、大神と刻は桜たちのやり取りを終わって気が抜けたのか、大きくため息をついた。
「つか、桜チャンが優の奴を引っ張ってっから何事かと思ってついてきたらコレだもんナァ。なんか損した気分だゼ」
「し、仕方ないだろう、刻君。気になるものは気になるのだ」
「まあ、それも解決したんですからもういいじゃないですか」
「オレはそうでもないがな……」
談笑する大神たちに対し、優は疲れたように言葉をかける。彼としてもやっと質問攻めから逃れることができたので気が抜けたのだろう。
しかし、彼にしてみればこれでよかったのかもしれない。なぜなら本当の真実は違うからだ。あの時、優が倒れたのはリリィと目を合わせたからではない。目を合わせたのではなく、リリィから感謝の意味を込められたキスをされたからだ。キスと言っても頬にされたため、軽い方だ。もっと言うならアメリカなどの外国なら挨拶と同レベルのことだ。
だが、女性が苦手な優にとっては
まあ、優にしてみればその真実に辿りつかれる前に話が終わったのはよいことだった。もし真実を知られれば、何かと追及されるに決まっているからだ。
「とにかく話は終わりだ。オレはもう──」
とりあえず話は終わったため、優は帰ろうと立ち上がった。しかし、思わぬ人物の邪魔が入った。
「……ほんまにそうなん?」
「ゆ、遊騎……!」
見ると、今まで眠っていた遊騎がしっかりと優の方を見ていた。どうやら、いつの間にか起きていたらしい。帰ろうとした瞬間にかけられた思わぬ言葉に優は完全に硬直した。おそらく、今日は優にとって厄日に違いない。
「どうしたのだ、遊騎君。何か気になることがあるのか?」
「だって、おかしいやろ」
「あー、おかしいナ。女の子と目を合わせてぶっ倒れるなんて男として終わってるも同じだからナ」
遊騎の言葉に桜も首を傾げ、刻はひらひらと手を振って軽口を言った。彼にしてみれば、遊騎の疑問はいつもと同じ意味不明な発言と同じなのだろう。
しかし、遊騎は的確で鋭い指摘を何気ない様子で口にした。
「そうやないねん。確かにななばんは目ェ合わせると倒れるけど、ずっと合わせてたらやろ? 捕まってたんなら話は別やけど、『コロまる』は手ェ捕まっとったからななばんを捕まえるのは無理ちゃうん?」
「アレ……そういやそうだナ」
「そうなのだ! 私と目を合わせた時もすぐには倒れなかったのだ!」
「ッ……!!」
遊騎の言葉に納得している刻と桜を見て、優は思わず頭を抱え込んだ。ようやく終わったかと思えた尋問がまた始まろうとしているからだ。さらに……
「ということは、目を合わせる以上のことをリリィにされた……ということですね」
「お、大神! テメェ!」
「フッ、なにか?」
ここぞとばかりにドSな笑みを浮かべる大神。どうやら、ここからは彼も敵に回るつもりらしい。ただ聞いていることに嫌気がさしたのか、あるいは話を早く終わらせようとしているのかは不明だが。
「サテ、優……」
「一体なにがあったのか……」
「はよ詳しく……」
「教えてほしいのだ!」
「ぐ……!」
あまりにも最悪な状況に冷や汗が流れる。場所は喫茶店で目立たない隅の席。近くの席に客も座っていないため他人に聞かれるということはない。これは不幸中の幸いだ。しかし、席順が最悪だった。通路側なら逃げられたが、優が座っているのは奥の窓側の席で隣には大神がいる。まずこの時点で逃げるのは難しい。異能を使って身体能力を上げれば逃げられるが、そんなことをすれば喫茶店のどこかしらを破壊することになってしまう。自分が逃げるためだけに店を破壊するのはさすがに気が引ける。
(ダ、ダメだ……)
何を選んでも、どう選んでもいい結果は生まれそうになかった。いや、正確に言えば一つだけある。何事も無く、穏便に済ます方法が。それは……
(話すしか……ないのか……)
それは優にとって最も避けたいことであり、最も知られたくないこと。そして、この場で最も有効なこと。おそらく今の優は、普段の様子からは考えられないほど弱気になっているだろう。弱点を突かれると人はここまで弱くなってしまうのかと恐ろしくなってしまう。
「……オ、オレは、あの時…………」
グッと、何か痛みに耐えるかのように優は口を開く。感覚としては古傷を抉る感覚に似ているような気がする。しかし、優はそれに耐えて続ける。
「あの時、リリィに──」
当時のことを思い出して卒倒しそうになるのを我慢しながら、優は隠してきた真実を──!
────ぐ~~~
「あ?」
『え?』
突然響いたその音は、あまりにも気が抜ける音だった。まるで魔法にでもかかったかのように、強張っていたからだから力が抜ける。声を揃えて反応した辺りを見ると、音の出所は大神、刻、遊騎の三人ではない。ましてや優のわけがない。となれば、考えられるのは……
「あ、あはは……。声を出し過ぎてお腹が減ってしまったのだ……。先輩、お話の前に何か注文してもいいですか?」
「……あ、ああ」
「おお! ありがとうございます!」
照れ臭そうに笑って優に尋ねたのは桜だった。つまり、先ほどの音は彼女の腹の音だ。桜は優から許可が出ると、満面の笑みでメニューを開き財布を取り出していた。
一見すると、これは優にとってチャンスのように思える。しかし、覚悟を決めた今の優にとってはその覚悟を鈍らせる魔の時間である。俗に言う「生殺し」というものに近い。
(ったく、どこまでもマイペースな奴だ……)
そんなことも知らず鼻歌を歌いながら財布を開く桜を前に、優は大きくため息をついた。彼女のおかげで話す決心が鈍った優だったが、状況は大して変わらないため再び話す覚悟を固めて──
「あああああああ!!」
「ちょ……! どうしたんですか、桜小路さん!」
「『にゃんまる』?」
突然の悲鳴に似た桜の声。大神は慌てた表情で桜を見て、遊騎も心配そうに顔を覗かせる。当の桜はというと……
「…………」
真っ白に固まったまま涙を流していた。その手に、
「お金が……お金が無いのだ……。これじゃあ、何も注文できないのだ~!」
「……なんつーか、やっぱ桜チャンは桜チャンだわ」
おいおいと嘆く桜の隣で、呆れた表情を浮かべる刻。同様に、大神と優も呆れた表情をしており、遊騎はボーッと桜を見ていた。
「はあ……。ったく、コイツは……」
その呆れを隠そうともせずに優はため息をつく。自分は今まで彼女に追いつめられていたのだと考えると情けなくなってくる。どうやって桜をなだめるか考えたその時……
「……!」
優の中で妙案が浮かんだ。そして、彼はそれを実行に移した。
「おかわりなのだ!」
「あ、オネーサン。オレもおかわりで」
「オレもや」
「僕もコーヒーのおかわりお願いします」
「お前ら、少しは遠慮ってもんを────いや、言うだけ無駄か」
優が考えた妙案……それは「質問をやめたら食事を奢る」というものだった。それを提案した瞬間、桜は物の見事に承諾し、次々と注文をし始めた。誤算だったのは、他の三人も好き勝手に注文し始めたことくらいだが……彼らからの追及を逃れることもできるので結果オーライと言えるだろう。元凶である平家だが……彼にとって何があったかなど本当は興味が無いだろう。おそらく、桜を上手く誘導して優を困らせようとしたに違いない。だから、今日一日優を悩ませた質問攻めに関する問題はこれですべて解決した。
後の問題といえば……
「おかわりなのだー!」
「オレもー!」
「なあ、ななばん。『にゃんまる』グッズ買ってきてええ?」
「最近、缶詰のストックが減ってきてたんですよね。お願いできますか?」
彼らの食欲と我儘に優の財布がどれだけ耐えられるかということだ。
「……すみません。ここってカード使えますか?」
というわけで番外篇第八話目でした!
いかがでしたか? 優は痛い目に遭っていましたか?
最初は人見と遊騎の話にしようと思っていたのですが、ふと「リリィとのくだりをいじらせてみよう」と思い二人の話は次回にして今回の話を書きました。
書いてて思ったんですが、実際同じ立場にいたらここまで迷いませんよね(笑)
「うわ、大袈裟に書きすぎた」って反省しました(笑)
ちなみに輝望高校の校風云々に関しては完全に妄想です。大神の片手手袋や生徒たちのフリーダムな服装について先生がとやかく言っている場面が無いので「じゃあ自由ってことでいいや」と思いそういう設定にしました。
次回から少しずつ投稿ペースを戻していこうと思います。すぐにできないのはまだ忙しい時期が続きそうだからです(笑)
では、読んでいただきありがとうございました!