CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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絶対上旬には終わらせる……そう思って一気に仕上げました
とりあえず今回の話で『捜シ者』篇 序は終わりです
番外篇を挟んで次は中となります
ただ、今回は一気に書いたことと書いたのが夜だったため文章がおかしい部分があるかもしれません
ですが特に最後の部分は新キャラも登場なので楽しく書くことができました
さらに、これから忙しくなってくるので次回からの投稿はかなり遅くなるのですが、その分のエネルギーも込めました(多分)
では、どうぞ!





code:29 訪れぬ平穏

 深夜の生徒会室。そこにはまるでお祝いのように鍋を囲む者たちの姿があった。

 「うむ。元に戻っても会長のもつ鍋は絶品なのだ」

 その中には、いつも着ている女子用の制服を身に纏った桜の姿もあった。雪比奈との戦いの中で、小さくなるという謎の現象に陥った彼女だったが、元に戻った今となってはその時に感じていた不安も無くなったのだろう。すっかりいつもの笑顔を浮かべて鍋を味わっている。

 「いかにも、もつ鍋だからね。ところで刻君は食べないのかい?」

 「イヤ……もつって内臓ダロ? オレってそういうの苦手……。噛み切れねーシ」

 「何を言ってる。その噛み応えがいいんだろう」

 「そうですね。そもそも、もつとは主に牛の腸を……」

 「説明しなくていいっつノ!」

 談笑しながら鍋に具材を足していく相変わらず着ぐるみの会長、もつが苦手らしく手を付けようとしない刻、そんな刻を理解できないという目で見る優と悠長にもつの説明を始める平家と、彼らも各々に鍋を楽しんでいた。それに、会話にこそ加わっていないが遊騎も鍋を堪能していた。……なぜか着ぐるみを着て。

 しかし、ただ一人……大神だけがその輪の中に加わろうとはしなかった。彼らに背を向け、項垂れるように視線を下に向けて座り込んでいた。すると、そんな大神が視界に入った桜が彼に声をかけた。

 「大神、お前も食べるのだ。みんなで囲んで食べているから美味しいぞ」

 「フフ……次は()のもつなんてどうです?」

 「プ……()か! それって着ぐるみ(・・・・)じゃなくて生きてる方だよナ?」

 「ろくばんももつ食おーや。一緒にこれ(・・)着てな」

 「いかにも、優君も何か言ってあげたら?」

 「触らぬ神に祟りなし、です」

 桜以外に『コード:ブレイカー』たちも大神を誘うが、どこか棘を感じる言葉だった。ちなみに、遊騎が言っているこれ(・・)とは彼が着ている羊の(・・)着ぐるみのことだ。まあ、彼にしてみれば他の者たちと違って悪意はないかもしれないが。

 大神自身も彼が意図していることがわかっているらしく、彼らが声をかける度にその体を震わせた。そして、彼はゆっくりと桜たちの方を向いた。

 「……何のことですか?」

 輝くような優等生スマイルで。

 (コイツ、さっき()の件を無かったことに(スルー)しようとしてやがル……)

 大神のその笑顔から、会長が何気なく言った一言により起こった一騒動のことを無かったことにしようとしている大神の意図を感じ取った刻。見る限りだとこの上なく面白いことなのだが、自分が同じ立場でも同様のことをすると思うので刻はそれ以上何も言わなかった。

 「ま! 桜小路さんも元に戻ったことだし万事解決! みんなよかったね!」

 その原因である会長は呑気に喜んでいた。よく見ると、頭の部分には大神に燃え散らされた形跡である焦げがあった。完全に燃え散らなかったのは彼が珍種だからなのだろう。

 「……チッ」

 そんな会長に背を向け、大神は小さく舌打ちをした。それと同時に、近くにあった何本かのボールペンを握力だけで折った。それだけで彼の怒りが相当なものであることがわかる。

 「ま、桜チャンも元に戻ったワケだしこれで全部解決。じゃ、オレはこれで帰るワ。おつかれさ──」

 すると、刻が鞄を持って立ち上がった。そもそも、彼がここに来たのは小さくなった桜のその後が気になったからだ。桜が元に戻ったからここにいる意味も無いというわけだ。

 そうして、刻は生徒会室から出ようと扉に向かい──

 「まだ終わってはいませんよ」

 「ハ?」

 部屋から出ようとしたまさにその時、いつの間にか扉の横まで移動した平家が彼を制した。そして、まだ終わっていないとはどういうことか説明を始めた。

 「引き続き、大神君・刻君・遊騎君・優君の四人には桜小路さんの護衛のバイトをお願いします。……どうやら『捜シ者』のターゲットは桜小路さんらしいので」

 「わ、私が!? なぜですか、平家先輩!」

 それは驚きの内容だった。かつて『コード:ブレイカー』と互角以上の戦いを繰り広げた『捜シ者』が桜のことを狙っているというのだ。以前、始末屋である春人に命を狙われたことはあるが、その時はヤクザの子供が狙われているという情報があったため自分が狙われる理由に納得することはできた。だが、今回に関しては見当がつかない。桜にしてみれば、自分は『コード:ブレイカー』である大神たちと関わっていることや実家がヤクザであること以外は普通の学生と変わらないと思っているからだ。

 しかし、大神たちにしてみれば思いつく理由はある。それは、彼女が珍種であるからだ。異能が効かない珍種という存在に『捜シ者』が興味を持ったとしても不思議ではないからだ。

 それぞれが考える中、平家は目を瞑って淡々と桜が狙われる理由について答えた。

 「それは“エデン”のパーフェクト・トップ・シークレットですので言えませんが……そのパーフェクト・トップ・シークレットはたとえ『コード:ブレイカー』全員の命を失ってでも護らなければならないものです」

 「お、大神たち全員の命を失ってでも……!? そんなものあるワケが……」

 何よりも命を大切にする桜にとって、平家の言葉は衝撃的だったかもしれない。しかし、平家にとって……いや、“エデン”にしてみればその通りのことなのだ。大神たちや桜は知らないが、雪比奈が『捜シ者』の偽物と共に研究所を占拠していた時、本物の『捜シ者』は単独で総理と対談していた。彼が捜すある物(・・・)の在処を聞くために。

 そのある物(・・・)こそ、かつての人見との戦いで桜が託された(キー)(今は『子犬』が口の中に入れている)。しかし、どうやらそのことを大神たちに言う気は無いらしく、彼らの中で疑問が膨らんでいく。

 「……どうせ言っても教えないでしょうから詳しく聞きませんが、それが本当だとしたらすでに『捜シ者』と『Re-CODE』は動き出しているでしょうね」

 どんなに気になっても平家が教えないと思った大神は聞くことを諦め、『捜シ者』たちの動きについて考え始めた。確かに大神の言う通り、すでに『捜シ者』たちは目的のために動き出していると見て間違いないだろう。となれば、桜を隠したり逃がすのではなく、守ることが彼らがすべきことと言える。

 「なあなあ、『にせまる』。『にゃんまる』助けたってや」

 「お、ナイスアイディア! コイツ、結構役に立ちそうだしナ! どうせすぐに『いかにも~』ってOKして──」

 すると、遊騎は会長に協力を申し出た。桜を元に戻すなど、自分たちが解決できなかった問題を簡単に解決した彼を頼りに思っているのだろう。その意見には刻も賛成らしく、笑顔で会長の方を向いた。しかし──

 「……悪いが手は貸せぬ」

 「エ?」

 会長の口から出たのは拒否の一言だった。さらに、その声色も先ほどまでとは違い重さを感じるようだった。そして、その声色のまま会長は続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「“エデン”と『捜シ者』……かつての戦いを経て、私はどちらとも組まぬと誓った。今まで通り中立の立場に立たせてもらうよ」

 「か……会長?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな意味深な言葉を最後にし、桜と平家を除く『コード:ブレイカー』たちは護衛のバイトのために生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あの会長といい平家といい……絶対何か隠してんダロ!? 何がパーフェクト・トップ・シークレットだヨ!」

 「……とにかく、桜小路さんを護らなければならないのは事実。それは後で考えればいい」

 「そうだな。オレたちは与えられたバイトをこなしていればいい」

 「ヘッ、相変わらず見事な犬っぷりで感心するゼ」

 旧校舎から出た大神たちは、これからのことを考えるため適当に道を歩いていた。その道中、刻は『子犬』をボールのように手の上でバウンドさせながら文句を言い続け、大神と優がなんとか刻をなだめていた。ちなみに遊騎は棒で様々な物を叩いていた。

 すると、彼らの話を聞いていた桜が勢いよく宣言を始めた。

 「いや、心配はいらん! こうして体が元に戻った以上、自分の身は自分で護るのだ!」

 闘志を瞳に宿して宣言する桜。はっきり言って、彼女とそれなりの時間を過ごしてきた大神たちはこうなることを予想しただろう。思えば、春人の時もそうだった。彼女は断固として大神たちに自分を護らせようとはせず、自分で自分を護ろうとしていた。

 だが、彼はそれを許さなかった。いや、許せるはずが無かった。

 「だから──にゃわ!?」

 「まったく、懲りない人ですね。でもダメですよ」

 大神だ。力説する桜の頬を引っ張り、彼女の言葉を中断させた。突然のことに両手をパタパタと振る桜だったが、大神は構わず彼女の頬を引っ張り続けた。しばらくすると、大神はその手を離して桜に背を向けた。そして、視線だけを彼女に向けて今度は大神が宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……今度はちゃんと護ります。あなたを小さくした時のようなヘマは二度としません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お、大神……」

 今日一日、桜は大神の姿をより身近で見てきた。だからこそ、彼がどれだけ自分のことに対して必死になっていたか、どれだけ責任を感じていたかわかった。そんな彼からの言葉は、この上なく強い覚悟を感じるようなものだった。そこに込められた覚悟を感じ取ったのか、桜はそれ以上言葉を続けようとはしなかった。

 すると、代わりに刻が口を開きさっさと歩き始めた。

 「あ、じゃあ大神に任せるワ。オレは一回帰って──」

 「帰ったらあかん。みんなで『にゃんまる』護るし」

 しかし、遊騎がそれを許さなかった。刻の服の端を掴み、彼を帰そうとはしなかった。だが、刻もどうしても帰りたいらしく、遊騎を追い払おうとした。

 「あのな、お前は大神の家とかで寝てたからいいケド、オレは連日連夜働きづめなワケ。だからいい加減、ベッドで寝たい──」

 「……あ?」

 「しっかりと『にゃんまる』様をお護りさせていただきマス……」

 キレた遊騎の前に、刻は潔く諦めて護衛のバイトをすることに決めた。というより、決めるしかなかったというのが正しい。

 すると、遊騎は元に戻って桜の前まで移動して彼女を安心させようと話し始めた。

 「『にゃんまる』、心配いらんで。オレたちがしっかり護ったるし」

 「遊騎君……」

 ただ純粋な遊騎の言葉に桜は感銘を受け、何も言わずに受け入れていた。だが、刻がそこに入り横槍を入れてきた。

 「オイオイ、お前は家も財布も無いだろガ。そのくせに何を言ってんだヨ」

 確かに、遊騎が大神たちと合流した時に彼は優との問答の中でそう言っていた。財布は無くし、家の場所は忘れ、携帯も他人にあげたと。本来ならすぐエージェントに連絡して用意させるが、今回は遊騎が断ったためまだ用意されていない。そう考えると、遊騎の言葉は少し無責任なように感じる。

 しかし、遊騎は意外な言葉を口にした。

 「家は無いで。でも住むトコはあんねん」

 「ハア?」

 言葉としては矛盾しているとしか思えない言葉。家は住む場所でしかないのに、その家は無くて住むところはあると言うのだ。思わず眉をしかめた刻の気持ちもわかるというものだ。

 すると、遊騎はトコトコと歩き出してある場所を指差した。

 「この奥や」

 「奥って……公園かヨ!?」

 遊騎が指差した先には、柵の向こうに広がる木々があった。見る限りだと、かなり大きめの公園のように見える。その公園の中にあると言っているかのような遊騎の言葉に刻が驚いていると、遊騎はさっさと柵を乗り越えて公園の中に入っていった。仕方ないので、刻たちもそれに続いて中に入っていく。

 「も、もしかして野宿とか? それは勘弁してほしいっつーか……」

 「それはない……と言いたいが遊騎だからな」

 自由奔放な性格のため、遊騎は一般的に場違いと言えるようなことを平然とやってのける。さらに彼はどこでも寝てしまうので、野宿というのは十分にあり得ることだった。それを心配する刻と優だったが、遊騎は構わず進み……急に立ち止まった。

 「ここや、ここや。ほら、鳥の巣あんねん」

 「……そうか」

 枝の上にある鳥の巣を指差す遊騎。それから再びしばらく歩くと……また立ち止まった。

 「ここや、ここや。ほら、噴水あんねん」

 「……あっそ」

 噴水を指差した遊騎は三度進み始めた。さすがに心配になったのか、大神が声をかける。

 「遊騎、あなたの住むところはまだなんですか?」

 「もう少しやで」

 振り返らず、進みながら大神の問いに答える遊騎。それからしばらくし、また遊騎が立ち止まってある場所を指差した。

 「ここや、ここや」

 三度目の正直……であることを信じて、大神たちは遊騎が指差した先を見た。

 そこにあったのは……像の形をした滑り台などの遊具だった。

 「やっぱ予想通りじゃねーかヨ!」

 最初に心配した通りの結果になったことで我慢の限界を迎えたらしく、刻は声を大にして遊騎に詰め寄り始めた。

 「いい加減にしろヨ! “エデン”の保護無しでお前みたいなお子様が一人で暮らせるワケが──」

 刻に詰め寄られる遊騎だったが、彼は動じることなく指差し続けた。そして、彼は平然と言った。

 「この先のアレ(・・)や」

 「ハア!? この先に何が──」

 遊騎の言葉に、刻は怒りを感じながらも彼が指差す方向を再び見た。そうした彼の目に入ったのは、あまりにも衝撃的なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これがオレのすみかやし」

 遊騎が指差しているのは、まさに豪邸としか呼べないほど立派で巨大な建物だった。そして次の瞬間、豪邸の中から何人もの執事とメイドが現れ綺麗に並び、()を迎えた。

 「お帰りなさいませ、社長(・・)!」

 「天宝院社長(・・)!」

 「うん、帰ったわ」

 呼ばれた()……遊騎は平然と彼らに対し返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ゆ、遊騎が社長ォォォォォ!?」

 あまりにも意外な事実に遊騎以外の全員が目を点にして驚き、その場でただただ硬直していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 情報化などにより、現代社会では様々な場所で機械が溢れている。そのためか、特に都内では夜になっても明るい。もちろん自然のものではなく人口のものだが、昼と大して変わらぬように見える。さらにそこを歩く者たちも酔っ払いや腕を組む男女、客を呼び込むバーの店員など様々だ。

 「…………」

 その灯りの中、雪比奈は相変わらず厚着でフードを被っているという異様な姿でそこにいた。壁に背を預け、ただ眼前を見つめていた。感情など無いかのように冷たい目で。

 そんな彼に、同じように異様な姿をした二人組が近づいていった。そして、その内の一人が親しげに(・・・・)彼に声をかけた。

 「ヤッホー雪! 久しぶり! 会いたかったYO()!」

 「…………」

 「日和(ひより)時雨(しぐれ)……」

 話しかけてきたのは特徴的な喋り方をする赤寄りの桃色の髪色をした日和と呼ばれたツインテールの少女。髪型を保たせている左右それぞれのリボンと制服のような服装。外見は年相応の格好をしていると思われるが、場所が場所だけにそれが逆に不似合いだ。

 そして、もう一人は少女と違って寡黙な少年。彼は白と銀の中間のような髪色をしており、しわ一つ無いスーツを着用している。ゴーグルのような形をした眼鏡が目と眉を完全に隠しているため、いまいち表情が読めない。おそらく彼が時雨だ。

 「でも久しぶりの再会がこんな人混みの中なんてヤボ過ぎるYO()! それに他のみんなはまだ来てないじゃん! 相変わらず気まぐれNE()! 日和は雪に会えただけで嬉しいけど!」

 そう言うと、日和は人懐っこそうな笑顔を浮かべて雪比奈に抱きついた。一方の雪比奈はそれを拒もうとはせず、何も言わずに受け止めていた。

 その横で、時雨はしゃがみ込んで細い路地に視線を向けていた。その視線の先には、ボロボロになった子猫が何匹もおり、か細い鳴き声を上げていた。すると、時雨は懐からサンドウィッチを取り出して小さくちぎり、掌に乗せて子猫たちの前に差し出した。子猫たちは最初こそ警戒していたが、一匹が口をつけると次々に集まり出し、感謝の言葉を述べているかのように鳴きながらサンドウィッチを口にした。

 「へへ~」

 「ああ? この酔っ払いが! うぜえんだよ!」

 「ぎゃあ!」

 すると、彼らの後ろで一騒動が起きていた。どうやら酔っぱらった男性が誤って若者にぶつかってしまったらしい。若者は怒りに任せて男性を殴り飛ばした。さらに、地べたに倒れた男性を仲間と共に囲んで何度も蹴り始めた。男性は何とか許してもらおうと謝るが、若者たちはやめようとはしない。

 「やだ、ケンカ?」

 「関わんない方がいい、ほっとけよ」

 通行人のほとんどが似たようなことを言い、誰も彼らを止めようとはしなかった。それは雪比奈たちも同様である。日和は雪比奈に抱きついたままその様子を見ており、時雨は子猫にサンドウィッチを与えている。

 しかし、若者が男性を蹴る音が恐怖に感じたのか、子猫たちは震えながら時雨から離れていった。時雨は離れていく子猫の後ろ姿を黙って見ていたが、その間も若者は男性を攻め続ける。

 「このクズが! 死ね!」

 「すみません、すみません! どうか許して──」

 「うっせぇ!」

 すっかり酔いも覚めて謝罪の言葉を並べる男性だったが、若者は聞き入れずに拳を構えて殴りかかる。しかし、その拳は男性に届かなかった。突然、割って入って来た……時雨に止められたことで。

 「ああ!? なんだ、テメエは! 邪魔するとテメエから殺すぞ!」

 「た、助けて……助けてください……」

 時雨は前から若者に胸倉を掴まれ、後ろから男性に縋り付くように服の端を掴まれた。だが、時雨はそのどちらの言葉にも答えなかった。ただ、静かに一言だけ言った。

 「猫のエサの邪魔だ」

 「あ? 何言って──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、若者たちの体が細切れにされたかのようにバラバラになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……え?」

 突然、目の前で起こった出来事に、男性は意味がわからず呆然とする。そして、何があったか理解すると震えた手で時雨を指差した。

 「あ、あんた……今、殺し──」

 男性の言葉の途中、時雨を指差していた男性の手の手首から先が男性の体から離れた。そんな男性を背に、時雨は眼鏡を外しながら再び口を開いた。

 「……言ったはずだ」

 時雨が口を開いている間に、男性の体中が徐々にずれて(・・・)いった。男性は恐怖を感じて声にならない悲鳴を上げていたがすでに遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「邪魔だ」

 深く刻まれた隈に鋭く冷たい眼。左の眉は途中で途切れ、バーコードが刻まれていた。その時雨の冷たい眼が男性を射抜いたのとほぼ同時、男性の体は一瞬で若者たちと同様にバラバラになり血の雨となって時雨の体に降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「い、いやあああああ!」

 「人殺しぃぃぃぃ!」

 男性をバラバラにした方法は謎だ。しかし、誰が見てもそれを時雨がやったというのは明らかだった。そのため、それを見ていた多くの一般人は恐怖を感じて一斉に逃げ出した。しかし、その中で唯一逃げ出さない者が二人。日和と雪比奈だ。彼らは何もなかったかのようにその場にいた。

 「やだMO()~! 時雨! 服に返り血ついちゃったじゃない!」

 それどころか、日和は服に血がついたことに文句を言い始めた。だが、そこには慌てる様子などまったくない。つまり、彼らにとっては今のような光景が珍しいことではないということ。その証拠に、男性の返り血を最も浴びた時雨はその返り血を拭おうともせず、再び子猫たちのところへ向かい、サンドウィッチを与えた。

 子猫たちは音が無くなったからか再び集まり出し、時雨の手からサンドウィッチを食していた。時雨は返り血が甲についた手で子猫の頭を撫でる。しかし、その眼は変わらず冷たく鋭いままだった。

 「……行くぞ、時雨」

 背後から彼を雪比奈が時雨を呼んだ。時雨はサンドウィッチを道に置くと、立ち上がって子猫たちに背を向けた。そして、雪比奈と日和と共に歩き始めた。

 「『捜シ者』が我々を待っている。捜し求めたものを手に入れるために」

 「……わかっている」

 雪比奈の言葉に時雨は淡々と答える。そして、時雨は足早に歩き出して二人の前を歩き始め、自分たちの目的を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「桜小路 桜が持つ(キー)は、『捜シ者』の忠実なる戦士である我々『Re-CODE』が頂戴する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の街に悲鳴が響き渡る。それは確実に、これから起こるであろう戦いの始まりを知らせる鐘となった。

 

 

 




CODE:NOTE

Page:22 雪比奈

 『捜シ者』と行動を共にする凄腕の異能者。褐色肌で真冬を思わせるほどの厚着を着込んでおり、いつもフードを被っている。表情の変化が少なく感情が読めない。しかし、平家に対しては何か特別な感情を持っている。『Re-CODE』の一人。
 異能の詳細は不明だが、氷を生み出して放ったり盾のように使って防御したりするため氷系の異能であると思われる。大神の『青い炎』を相殺することができるほど強力なものであり、ほとんど動くことなく大神たちを追いつめたこともある。

※作者の主観による簡略化
 クール&不思議キャラ。



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