今回の話なんですが、昨日の夜に書き始めて深夜に書き終わりました。
書いている間は無我夢中でした、はい。
やはり、その作品が好きだからできるんだなと思いました。
今回は前回までとは打って変わって大神のターンです。
では、どうぞ。
「ッ──!」
「や、夜原先輩!?」
風牙を斃し戻ってきた優だったが、突然糸が切れた人形のように膝を突いた。無理もない。風牙との戦いで彼が受けた負担はかなりのものだ。大量に血を流し、限界が近い体を異能で酷使し続けた彼の体はもう限界だろう。
「夜原先輩! 大丈夫ですか!? あまり無理はなさらない方が……!」
「……こんなの、歩いているうちに回復させる。それより……あまり近づくな」
「あ……」
優を心配して駆け寄った桜だったが、受け入れられることはなくあっさりと受け流された。そして、優は鞘に納めた刀を支えにしながら歩き出した。桜は思わず手を伸ばしたが、断られるだろうと思いすぐに手は止まった。
刀を支えにしながら腰を丸くし、よろよろと歩く優。そんな優の前に、彼とは対照的に凛と背筋を伸ばして立つ平家が立ちふさがった。何か思うことがあるのか、その目は鋭く優のことを捉えていた。
「いけますか?」
一言。平家から発せられた言葉はそれだけだった。ここから先、自分たちと共に行く気はあるか……という意思の確認なのだろう。優は体力の限界を感じているのか、荒くなった呼吸を何度も繰り返しながら平家の目を見ていた。そして、ゆっくりと目を閉じて呼吸を整える。少し呼吸が落ち着きを取り戻すと、優は大きく息を吐きスッと目を開けて平家を見た。
「……はい」
同じく一言。自分には共に行く意思があることを伝えた。優の言葉を聞いた平家はただ黙って優の目を見て、優も同じように平家の目を見た。
「……ならば行きましょうか。ですが、優君は極力戦闘をしないように。いいですね?」
「……はい!」
共に行こうとする優の意志を認め、これ以上の戦闘をしないと誓わせた平家は優に背を向けて歩き出した。進もうとする平家を見て、優はボロボロの体で進みだした。
しかし、誰かに足をかけられ優はその場で派手に転んだ。
「な──!?」
前のめりに転び、思いきり顔を床に打ち付けた優。そんな彼を見下ろす、足をかけた張本人が冷たく言葉をかける。
「情けねーナ……。今のテメーなんていたところで何の役にも立たねーんだヨ。さっさと帰りナ」
「…………」
口に咥えた煙草から濛々と出る煙越しに優を見下ろす刻。彼による冷たい視線と言葉を受けながら、優は床に打ち付け汚れがついた顔を拭った。鋭い視線で彼を見上げながら。
「ア? なに、その目。オレに文句あるワケ?」
「……正直に言ったらどうだ? 『聞きたいことがあった相手を斃された腹いせに八つ当たりさせろ』……ってな」
「アァ!?」
優の目に刻は苛立ちを覚えると、優はほくそ笑みながら刻を挑発した。すると、刻は眉をしかめ殺気に似た怒りをこめた視線を優にぶつけた。優も目を逸らすことなくそれを迎え撃つ。戦いは終わったが、二人の間には不協和音が生まれつつあった。
「刻君! 夜原先輩! やめるのだ!」
それを見ていた桜が直ちに止めようとする。彼女の言葉を聞いて萎えたのか、刻は舌打ちをしながら先に進みだした。刻が離れると、優も立ち上がり再び進みだす。桜は心配そうに二人の背中を見ていたが、かける言葉が見つからずただ黙っていた。大神と遊騎も傍観に徹している。
なにやら不穏な空気が漂ってきた一行。すると、平家が唐突に振り返り口を開いた。
「刻君、あまり幼稚なことはしないでください。優君も、戦いの後で気が立っているのはわかりますが落ち着くように」
「ケッ」
「……すみません」
平家の言葉を聞き、刻は不機嫌そうに顔を逸らし、優は申し訳なさそうに目を伏せた。優と違い反省の色を見せない刻を見て、平家は仕方なさそうにため息をついた。そして、ポツリと呟いた。
「心配いりませんよ、刻君。あなたの知りたいことは、
「……ハ?」
平家の言葉に、刻は立ち止まり鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。言葉の意味を刻は問いただそうとしたが、その前に桜が聞き始めた。
「へ、平家先輩! もう一人とはどういうことですか!? この研究所にはもう一人『Re-CODE』がいるのですか!?」
「ええ。すでにあなた方も見ています」
「そうなのですか!?」
淡々と語られる言葉に桜は目を丸くした。しかし、思い当たる人物がいないのか桜は頭を抱えた。
「しかし、一体誰が……? まったく見当が──」
「──雪比奈」
「え?」
大神の口から出た名を聞き、桜は首を傾げる。しかし、大神は構わず続けた。
「雪比奈のことでしょう? あなただったら知っていてもおかしくありませんしね」
「……さすが大神君。気付いていましたか」
「ど、どういうことなのだ、大神! なぜ平家先輩が知っているとわかったのだ!?」
まるで最初から平家が知っていることに気付いていたような大神の口ぶりに、桜は大神を問い詰める。すると、大神は再び淡々と話し始めた。
「さっき仙堂が言っていたでしょう。以前、『コード:ブレイカー』と『捜シ者』の勢力が戦ったことがあると。それはオレたちの一世代前……人見がいた頃の『コード:ブレイカー』のこと。そして、平家はその頃からすでに『コード:02』だったはずです」
「グレートアンサーですよ、大神君。まさにその通りです」
「な、なんと!」
大神から語られた事実に桜はこの上ないほど目を丸くした。しかし、すぐにハッとしたように刻のことを見た。思ったのだ。平家が『Re-CODE』のことを知っているなら、敵に聞くよりも平家に聞く方が確実ではないか、と。刻はそんな桜の視線に気付いたが、すぐに顔を逸らして煙を吐いた。
「いいんだヨ、桜チャン。オレは
「刻君……」
目の前にある楽な道ではなく、あえて遠くにある茨の道を行く。何が彼をそうさせるのかはわからないが、桜はそんな刻の覚悟を受け止めそれ以上何も言わなかった。
「……ケド」
すると、刻は急にポツリと呟いた。そして次の瞬間、彼は怒りを露わにしながら平家に詰め寄った。
「
「おやおや」
「『おやおや』、じゃねーっつノ!」
突然、平家に対し怒りを爆発させる刻。平家は平然と構えていたが、逆にそれが刻の怒りを増幅させているようだった。その様子を見て、桜は慌てながら事情を聞こうとした。
「ど、どうしたのだ、刻君。
「オレが教えたるし」
「遊騎君?」
慌てている桜の足元で、遊騎が尻尾を揺らしながら言った。桜が気付くと、遊騎は思い出すような口調で話し始めた。
それは刻が仙堂を斃し、大神たちの後を追おうとした時のこと。置いていかれたことに腹を立てていた刻は文句を言いながら進もうとしていた。
「ったく、ふざけんなよナ! オレが必死こいて戦ってんのに無視して先行くとか何考えてやがんだ、あいつら!」
「さっきから何回同じこと言っとんねん。……あ、あれや。ろくばんたちはあのドアの先行ったで」
遊騎が示した方向……そこには先へと進むためのドアがあった。刻はそれを見つけると、大股歩きでドアに近付いていった。
「ったく。あいつら、追いついたらゼッテー文句言っ──」
そう言いながら刻がドアノブに手をかけようとした。まさにその瞬間──
「てやぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「おー」
刻は身動きが取れなくなった。そこかしこから放たれた……荒縄に体中を縛られたことによって。
「荒縄のトラップの犯人なんてアンタ以外にいるわけねーダロ! 人を置いていった上にトラップ仕掛けるとかどんだけ性格ひねくれてんだよ!」
「あれは敵が追ってきた時用ですよ。そうですか。刻君が引っ掛かってしまいましたか。だから遅かったわけですね」
「アンタのせいでナ!」
「ななばん、大丈夫か?」
「ああ。心配するな、遊騎」
「大神の家なら行ったぞ。ちょっとシャワーを借りたりしたが」
「ちょ……! 代わってください!」
場所は変わり階段。一刻も早く先に進むべきなので、話しながら進むことにしたのだ。
刻は平家に文句を言いながら、優は遊騎を肩に乗せて励まされながら進んでいた。そんな中、桜は携帯にかかってきたクラスメイトからの電話に対応しており、誤解しか生まない桜を見かねて大神が携帯を奪って代わりに電話していた。
とてもじゃないが、これから敵のいるところに向かおうとしているようには見えない。大神と電話しているクラスメイトたちも、大神たちがそんな危険な場所にいるとは思っていないだろう。
「いや、違うんです……! 今のは言葉のアヤでして皆さんが思ってるようなことは……!」
興奮気味のクラスメイトからの言葉に大神は苦闘していた。そんな大神を見て原因を作った桜は「大神がみんなと仲良く話している」と思い込み笑顔を浮かべていた。
そうこうしているうちに階段が終わり、彼らは長い廊下を歩いていた。大神は未だ誤解を解けずに電話を続けている。そうしてしばらく歩いていると、大きな扉の前に着いた。他にそれらしいものもなく、桜は特に躊躇することなくその扉を開けた。
しかし、そうして開けた扉の先には意外な人物が立っていた。
「…………」
扉の先……ロビーのような内装の部屋の中央に佇む一人の男。その姿に、桜は見覚えがあった。
「さ、『捜シ者』──!」
「ッ──!」
桜の言葉に大神は電話を無視して扉の先に進んだ。
そして、背後からの攻撃を受けた。
「……避けたか」
「雪比奈──!」
開いた扉の陰に隠れ、大神の背後から攻撃を仕掛けた雪比奈。彼の攻撃である手刀は大神目掛けて放たれたが、紙一重で大神はそれに気付き避けた。だが、完全には避けきれず桜の携帯が真っ二つに裂けた。
「燃え散れ!」
そこからの大神の行動は早かった。すぐに真っ二つになった携帯を捨てて左手の手袋を外し、その手に『青い炎』を灯す。そして、雪比奈を燃え散らそうと彼に向かって手を伸ばした。
しかし、雪比奈はそれを避けることなく右手で組むように受け止めた。
「お、大神の『青い炎』で燃え散らない!?」
「……オレの異能はお前の異能を相殺できることを忘れたか?」
「チッ!」
すぐに左手を振り払い組まれた手を解放し距離を取る大神。雪比奈も手が解放されると、すぐに『捜シ者』の隣へと移動した。
「『青い炎』を相殺……!? 一体、どんな異能なのだ……」
「……さすがは『Re-CODE』が一人、雪比奈さんですね」
大神の『青い炎』をたやすく無効化させた雪比奈の異能に桜は驚き、平家は薄ら笑いを浮かべながら見ていた。すると、『捜シ者』の隣に立った雪比奈が眉をひそめた。
「黙れ。本当ならお前から殺してやりたいが……今回は『捜シ者』から止められている。そこで黙って見ていろ。お前の声を聞いていると反吐が出る」
「…………」
「せ、先輩……?」
異様な雰囲気を漂わせる平家と雪比奈。まるで因縁に似た何かを感じた桜はただ戸惑っていた。
しかし、その雰囲気は大神の言葉により消えた。
「言え。なぜ放射性物質が無いここを占拠した」
「……もはや知っても意味はない。我々の真の目的はすでに達せられた。しかし……」
平家と対峙した時は違い無表情で話す雪比奈。すると、急に先ほど大神と組んだ右手を見つめだし、ポツリと呟いた。
「……やはり、
「何を言っている……?」
雪比奈の口から出た意味深な言葉に、大神は意味がわからないらしく眉をひそめた。しかし、桜は違った。「
それは人見と対峙した時。左手の指輪を外した時の大神だった。その時の彼の力はすさまじく、人見を完全に沈黙させた。これは桜もあの後に知ったことだが、大神にはこの時の記憶が無い。ほとんど無意識のうちに発動したのか、それとも何か理由があるのかはわからない。だが、桜にとって大神の「
「まあいい。だが大神。お前はなぜ『捜シ者』を憎む? 『捜シ者』はお前にとって恩人のはず。親を失い路頭に迷っていたお前にあらゆることを教え込んだ。生きるために必要なことをな。その恩を仇で返すつもりか?」
「…………」
雪比奈の言葉が鍵となり、大神の中で過去の記憶が溢れた。それは、かつて『捜シ者』と共に過ごした記憶。
彼の笑顔が輝いていた時の記憶──
親を失い一人になった時、隣にいてくれた
言葉や勉強など、あらゆることを教えてくれた
何度も食事を共にした
大切なことを教え、大切なものをくれた
──いいかい、約束だ。人殺しはダメだ。お前が死ぬのもダメだ。だから、この手袋は人を傷つけないための”お守り”だよ。
──違う
──そこに優しさなんて存在していなかった
──ただ、彼は……
「だが、その全てはオレを利用するためだった──!」
震える。体がではない。それは指輪。左手の指輪がカタカタと震えていた。しかし、大神は構うことなく手を伸ばした。そうして、かつて『捜シ者』からもらった“
「だからオレは貴様がくれたこの手袋を捨てたりしない。貴様への憎しみを忘れないために──!」
「お、大神……」
手袋を手にして『捜シ者』を睨みつける大神。桜はその迫力にただ圧倒されていた。大神は自分を育ててくれた『捜シ者』に利用された……それが真実ならば、大神は『捜シ者』に裏切られたことになる。そこに一体何があったのか。桜にはまるでわからない。
「貴様だけは……貴様だけは許さない! 『捜シ者』!」
そして、その間に大神は動いた。手袋を投げ捨て、『捜シ者』に向かって『青い炎』が灯った左手を伸ばす。左手は止められることも無く『捜シ者』の頭に向かっていき、そして──
「燃え散れ。」
『青い炎』は巨大な業火となり、『捜シ者』の顔を焼き尽くした。
「……無駄だ」
雪比奈が呟く。そして、大神は気付いた。
自分が燃え散らした『捜シ者』の顔は……彼が知るものとはまるで違うことに。
「……偽物か!」
「に、偽物!?」
『捜シ者』を燃え散らした大神の口から出た言葉に桜は目を見開いた。一瞬、信じられなかった。しかし、かつて共に過ごした大神が言うのだ。それに、これで終わりではあまりにもあっけなさすぎる。これで終わるのならばとうの昔に『捜シ者』は斃されているはずだ。
「……真の目的はすでに達せられたと言っただろう」
大神の隣で雪比奈が呟く。彼が動かないところを見ると、やはりここにいた『捜シ者』は偽物で間違いない。なら、
「雪比奈ァ……! アイツは……『捜シ者』はどこにいる! 言え!」
「大神……」
学校でもバイトでも、大神は基本的に静かだった。しかし、今の大神は激昂し、今までに無いほど荒々しい雰囲気を漂わせている。それを敏感に感じ取ったのか、『子犬』が桜の足元で小さくなって震えている。
怒鳴り散らす大神に対し、雪比奈は静かな顔で、静かな声を発した。
「わからんな……。そこまで必死になる理由が。あの人……『捜シ者』はお前の──」
同時刻、ある事件が国会議事堂で起きていた。
「そ、総理……」
「お逃げ、ください……」
普段、政治家が集まり意見を交わす国会の一室。そこで大量の人間が血を流し倒れていた。そんな死臭にまみれた場所で、椅子に座りながら対談を交わす者たちがいた。
「まったく……君にはしてやられたよ。『コード:ブレイカー』のほとんどが出払っている時に私を直接狙ってくるとはね」
一人は藤原総理。この異常な状況の中でも煙草を咥え、手と足をそれぞれ組んで何事も無かったかのように平然と言葉を発している。自分を守るエージェントは全て死体へと姿を変えた今でも、普段と変わらない様子だった。
そして、その藤原総理と向かい合うように座るもう一人の人物。藤原総理は平然としているが、その人物の姿は驚愕の一言に尽きるものだった。
「……さて、今度は何をお捜しなのかな?」
その姿はあまりにも白く、あまりにも静かで、あまりにも──
「──『捜シ者』」
その全てが大神と同じだった。
「お前の兄だろう、『捜シ者』は……」
「な……!?」
フッと笑みを浮かべる雪比奈。それは驚きで顔を染める桜を、認めたくないであろう事実を改めて感じている大神に対する嘲笑のようにも見えた。
そんな雪比奈を前にし、大神はただ黙って彼を睨みつけていた。
CODE:NOTE
Page:17 『Re-CODE』
『捜シ者』直属の親衛隊として『捜シ者』より認められた精鋭たち。『コード:ブレイカー』と同じようにナンバーがあり、『01』から『06』まで存在している。そのため六聖人とも呼ばれている。『捜シ者』が認めたということもあり、彼らは異能と各分野のスペシャリストとされている。また、現在は『コード:ブレイカー』と同じように『07』が存在している。しかし、突然決まったということもあり、彼を心から認めるものは少ない。そのため、『07』が存在する今でも『Re-CODE』は六聖人と言う者も少なからずいる。
『Re-CODE』の正体に関しては謎に包まれており、現在わかっているだけでも三人。かつて寧々音を殺したという瘢痕の男、大神の過去を知るものの一人である雪比奈、新しく『07』として称号を得た風牙である。また、異能に関しては風牙の『風』以外は謎。
※作者の主観による簡略化
四天王とかっていますよね。そういう人たちです。六天王……七天王なんです、彼ら。