結構、回想と現実が入り混じってるのでわかりにくいかもしれないです。
夜中の住宅街。その中にある月明かりと街灯のみに照らされた道。そこに三人の学生と一匹の小犬が並んで歩いていた。その内二人は大神と桜。そして子犬とは『子犬』のこと。もう一人は、特徴的なはねをした金髪のオッドアイの少年だった。
「このバイトは“正義”の味方をやる代わりに他では得られぬ対価を得ている。つまり『コード:ブレイカー』の六人それぞれに目的があるってワケ」
オッドアイの少年が歩きながら説明をしている。相手は桜だ。少年の説明を聞いて桜の頭に疑問符が浮かぶ。
「目的?」
「たとえば……大切な誰かを護るため、とか」
「と……
桜は、急に雰囲気が変わった少年の名を戸惑いながら呼んだ。
少年の名は
「ま、どーでもいいケド」
そう言って、刻は雰囲気を戻した。それを見た桜は、聞いても無駄だと思い話題を変えることにした。
「そうか……。刻君、『コード:ブレイカー』がそれぞれに目的があるというのならそれは大神にもあるのだろう?」
桜は思い切って自分が一番気になっていることを聞いた。桜は今まで何度も見た。大神が人を殺すところを。そして、殺す過程で大神が傷つき血を流すところを。何故、傷つきながらも人を殺すのか。桜はそれが気になって仕方がなかった。
「桜チャン、大神については興味津々だネ。オレ、妬けちゃうナァ。もしかして……」
質問を受けた刻は、桜の背後に回った。そして……桜の胸を揉んだ。
「ココ、もう揉まれちゃ「破廉恥な!」ガフッ!」
そして、すぐさま桜の制裁を受けた。桜に思いっきり殴られたことで、刻は道に倒れて頭から血を流していた。さらに、そのあまりの威力に道には数本のヒビが拡がった。
「ヒドイナァ。姉ちゃんはよくてなんでオレはダメなんだヨ」
倒れた状態で刻は視線だけを動かして桜を見た。桜は、刻の「姉ちゃん」という言葉に反応した。
「姉ちゃん? ……ということは、やはり藤原先輩のご兄弟か! 目が同じだものな!」
桜の言う通り、刻のオッドアイは寧々音と同じ色だった。金色の右目に銀色の左目。さらに言うと、刻の特徴的な髪のはねも寧々音の髪と似ていた。
「ふむ……ならば仕方ないか? いや、どうなんだ?」
姉がいいのだから弟もいいのでは? 桜の中にはそんな疑問が浮かんで桜を迷わせていた。その隙を狙ってか、刻がゆっくりと桜に近づく。両手を桜の胸に向けて伸ばした状態で。そして、あと数cmで触れるというところで刻は桜から離れた。大神が手刀で刻に攻撃しようとしたからだ。その後、大神は桜に「こいつは平気で嘘をつく。いちいち騙されるな、馬鹿」と説教をした。
「大神! 誰が馬鹿だ!」
「そー、そー。誰が噓つきだっテ? 大神君」
大神の説教に桜と刻が反応した。大神は桜を無視して、刻の方を見た。
「テメエ以外に誰かいるか?」
「……ムカつくな、お前」
その瞬間、二人の間に険悪な雰囲気が流れた。桜も危機感を感じたのか、大神に対する怒りを忘れて話を逸らすことにした。
「そ、そういえば!今日は大神と刻君以外にもう一人誰か来るのだろう?」
それは、今から数十分前の話。学校で寧々音たちと話した後、大神と桜はいつも通りに帰宅した。その道中、大神に何者かから電話がかかってきて大神はある場所に向かった。そのある場所とは、国会議事堂だった。大神についていった桜はガードマンに止められ、大神はなぜかスルーされて国会の中に入ってしまった。その後、桜は機転を利かせた作戦でガードマンを抜けた。しかし、中に入った途端スーツを着た異様な雰囲気を纏う男たちに囲まれた。そんな桜を救ったのが刻だ。刻は桜を自分の連れと言い、桜を大神のところに案内した。桜がそこで見たのは大神と、彼と話す謎の連中。そして、大神と顔を合わせた時によって知らされた。
今日の仕事は刻と大神。そしてもう一人を加えた三人で行う、と。これが、刻が大神たちと行動を共にしているとある事情だ。
「大神、一体誰が来るのだ? 教えてくれ」
「…………」
桜は大神に尋ねたが、大神は無視して歩き出した。普通に考えれば、国会で聞いた時点で刻と一緒に仕事をすることを聞いた大神が、もう一人の協力者が誰なのか知るはずはないのだが。
「ならば、刻君!」
桜は大神に聞くのを諦めて、刻に尋ねた。『コード:ブレイカー』の目的を話してくれた時のように教えてくれる、と思ったが、返ってきた答えは真逆のものだった。
「悪いケド、オレあいつ嫌いなんだよネ。だからあいつの話はしたくない」
そう言って、刻も歩き始めた。二人に自分の問いをスルーされて、桜の中に怒りが沸き上がった。
「むむむ……! あー! スッキリしないのだ! 一体誰だというのだ!」
「……夜中にそんな大声出すとは、ずいぶん近所迷惑な奴だな」
ついに大声を出した桜。そこに聞こえてきたのは、男の声だった。しかし、それは聞いたことの無い声ではなかった。むしろ、記憶に新しい声だった。桜は、声が聞こえた方を向いた。そして、そこに立っている意外な人物の名を呼んだ。
「夜原先輩!?」
そこにいたのは学校で顔を合わせた夜原優だった。電柱に寄りかかり、上の方に付いたライトで全身が照らされている。桜が驚いていると、大神が優に近づいていった。
「……先に来ていたのか」
「“エデン”からの指示だ」
「ハッ。あんな奴らの命令を素直に聞くとか、テメェは本当に犬野郎だな」
「……何とでも言え。オレは“エデン”に従う」
優は、大神だけでなく刻とも普通に話し始めた。それを見て、桜の驚きはますます大きくなる。
「あ、あの……もしや夜原先輩が刻君が言っていたもう一人の……?」
「一緒にバイトをする人間ってことだろ。確かにそれはオレだ」
平然と答える優。しかし、その答えはあることを意味することになる。桜はその意味を確認した。
「で、では先輩も大神や刻君と同じ『コード:ブレイカー』なのですか?」
「ああ」
「な、なななな何ですと!?」
またも平然と答える優。それに反比例するかのような驚きようを見せる桜。すると突然、刻が間に入ってきた。
「一緒にしないでほしいナァ」
「と、刻君?」
刻の口には煙草が咥えられていた。国会で初めて会った時も吸っていて、桜は注意したがスルーされてしまった。だから、今も吸っているのだろう。
刻は煙草を口から離すと、口から煙を吐き出した。
「こんなやつと“同じ”なんて、虫唾が走るネ」
そう言って、再び煙草を咥える刻。煙草のことは一度スルーされたので、桜は刻の態度を注意することにした。
「刻君。そんな言い方はよくないのだ。仮にも年上の方だぞ」
「関係ないネ。年は上だろうが、番号はオレのほうが上だし」
「番号?」
刻の口から出た言葉に桜は首をかしげた。そして、チラリと大神を見た。すると、大神はため息をついてから説明を始めた。
「……僕たち『コード:ブレイカー』には『コード:ナンバー』という01から06までの番号があるんです。僕は『コード:06』。刻は『コード:04』。基本的に番号が数字として小さいほうが格上なんです。……僕は最近『コード:ブレイカー』になりましたから一番下の『コード:06』なんです。誰でも最初は06ですから」
「おお! そうなのか! あの番号にはそういう意味があったのか。では、夜原先輩は何番なのだ? 刻君より下ということは、五番ですか?」
桜が優の方を見て尋ねると、優は桜から顔を逸らした。そして、ポツリと呟いた。
「……07」
優の口から出た番号は、先ほどの大神の話では一度も出てこなかった番号だった。桜は再び首をかしげた。
「07、ですか? 『コード:ブレイカー』は06まででは? ん? もしや私が聞き間違いを……」
「こいつは“エデン”に泣きついて、“エデン”のお情けで『コード:ブレイカー』になったんだヨ」
今度は刻が説明した。しかし、それでも桜の中に疑問は浮かび、桜はそれを消化すべく質問を続けた。
「“エデン”? お情けとは?」
「さっき国会議事堂で大神と話していた奴等いたデショ? あいつらが“エデン”。オレたち『コード:ブレイカー』の上司みたいなやつらだヨ」
「僕たち『コード:ブレイカー』が悪を裁くと、奴らが『コード:ブレイカー』の存在を隠すために情報操作を行っているんです。政府の関係者ということであらゆる権力やあらゆる手段を使って」
「そ、そうだったのか……」
刻と大神によって桜の疑問はどんどん消化されていった。そして、残った疑問は一つ。
「それで? 夜原先輩がお情けで『コード:ブレイカー』になったというのは?」
「それは……」
「しゃべるな。オレが自分で説明する」
桜の最後の疑問を刻が答えようとすると、優がそれを止めた。すると、刻は眉間にしわを寄せて優を睨んでから歩き出した。どうやら、刻はかなり優のことが気に入らないようだ。
「本来『コード:ブレイカー』は01から06までしか存在しない。さっき大神が言った通りだ。そして、オレが『コード:07』だというのも本当だ。ここから長くなる。歩きながら話すぞ」
「わかりました」
相変わらず桜とは全く目を合わせないまま、二人は歩き始めた。順番としては、一番前が大神と刻。少し離れて桜と優という具合だ。
「『コード:ブレイカー』はそれぞれに目的がある。それはオレも同じだ。オレはどうしてもその目的を達成したかった。だからオレは、ある知り合いに頼んで“エデン”のところに行き、“エデン”に頼んだ。『コード:ブレイカー』になりたい、ってな。だが、最初は断られた。オレが頼みに行ったときには大神が『コード:06』になっていたから、番号に空きはなかった」
「ある知り合い、ですか?」
「それについて話す気はない」
桜の問いをバッサリと切り捨てる優。優はそのまま話を続けた。
「その後も何度も頼んで、何とか特例ということで認めてもらった。条件はあったがな」
「条件?」
「ああ。『コード:ブレイカー』は上位ナンバーの奴が死んだり、評価が上がるとナンバーが上がる。簡単に言うと昇進とか昇格だな。だが、オレにはそれがない。一生07のまま。一生下っ端ってことだ」
昇進・昇格がない。務める上で、これ以上悪い条件はないだろう。一般企業で言えば、一生お茶係。部活で言えば、一生玉拾いとか雑用ということなのだから。
「そうなのですか……」
「さらに、『コード:07』っていうナンバーは特例としてオレに与えられたものだからな。オレが死んでも後任はいない。“エデン”が言っていたが、オレは最初で最後の『コード:07』だそうだ。『コード:ブレイカー』は『存在しない者』だが、オレはその『存在しない者』の中でも本来なら存在しない人間。都合のいい捨て駒だ」
言いながら、優はフッと笑った。桜には、それが自虐の笑みのように見えた。すると、刻が首だけ振り向いて立ち止まった。
「話は終わったようだネ。ナイスタイミング。じゃ、
彼らの前にあったのは巨大な鉄製の扉。扉から離れると、奥に建てられている立派な家が見えた。
「政治家の
「その真偽を確かめて、“悪”なら全てを闇に葬れってことサ」
またも明らかになった“正義”と思っていた人物の“悪”の顔。警察官や政治家と言っても、結局は人間ということなのだろうか。
「……行くぞ」
「仕切んじゃねーヨ。犬野郎が」
優が一歩前に出ると、刻がそれをすぐさま追い越した。今宵も、『コード:ブレイカー』による裁きが始まろうとしていた。
というわけで、夜原優さんが『コード:07』でした。
彼が『コード:ブレイカー』になった理由とは何なのか?
彼の異能は何なのか?
それはこれから明かされていきます。
ちなみに、異能については次回で明らかになります。
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