CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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久しぶりのまとまった休日なのでどんどん書こう! と思って二日連続投稿。
明日からまたやることやらなきゃいけないからエネルギーを出し切りました。
前回、まさかの死亡者が出てしまい絶望的でした。
果たして今回はどうなってしまうのか。
また、今回は勝手な自己解釈と無理矢理設定が出てきます。
「おかしい」と思った方はどうか飲み込んでこの小説との縁を切ってください。ストレスを感じないためにも!
では、どうぞ!





code:23 終わっていた戦い

 『Re-CODE:07』風牙が『Re-CODE』を名乗ることを許されたのは最近のことだった。『捜シ者』が日本に降り立ち、これから起こる戦いの準備を進めていた時のこと。まだリリィと仙堂同様ただの(・・・)部下でしかなかった風牙は『捜シ者』に呼び出された。突然の呼び出しに風牙はこの上ないほど緊張していた。無理もない。主とも言える存在から急に呼び出されれば誰でも不安に思うだろう。ましてや彼はまだ数ある部下の一人。その不安は計り知れない。

 緊張で体を強張らせながら、風牙は『捜シ者』に指定された場所に向かった。そこには、奥に鎮座した『捜シ者』の他に風牙たちの間では六聖人とまで呼ばれる『Re-CODE』が何人かいた。自分とはあまりにも格が違う者たちが集っているのを見て、風牙の緊張は最高潮に達していた。そんな風牙の緊張を察したのか、『捜シ者』は柔和な微笑みを浮かべ用件を口にした。

 ──風牙に『Re-CODE』の新たなナンバーを授ける、と。

 「わ、私に『Re-CODE』のナンバーを授けるって……本当ですか、『捜シ者』!」

 「ああ」

 驚きのあまり『捜シ者』の言葉をそのまま繰り返し用件を確認する風牙。対して『捜シ者』は変わらず微笑みを浮かべたまま、自分の言葉が真実であると告げた。しかし、それでも風牙は信じられないようで戸惑いの表情を浮かべている。すると、『捜シ者』が言葉を続けた。

 「君が務めるナンバーはこれから戦いを始める上で必要になる新しいナンバー。……今の『コード:ブレイカー』に対抗するための手段だ」

 「『コード:ブレイカー』に……ですか?」

 「その通りだ」

 『捜シ者』の言葉を聞いていた風牙だったが、突然別の者が話に入ってきた。声の方向を見ると、そこにいたのは真冬日にするような厚着をした褐色色の肌をした男……雪比奈だった。

 「お前も事前に得た情報でわかっていると思うが……今の『コード:ブレイカー』には今までいなかったはずの『コード:07』が存在する。そして、その異能者は少し厄介な異能を持っている」

 「厄介な異能……?」

 「奴は『脳』の異能を操り、人間でありながら人間の限界を超えることができる。どれほどの力を持っているのかはわからないが……野放しにしておくには少し危険だと『捜シ者』は考えた」

 「そこで、君の力が必要になった」

 雪比奈の言葉に続けて『捜シ者』が口を開いた。風牙は反射的に『捜シ者』の方を見た。見ると、『捜シ者』は立ち上がり、ゆっくりと風牙のところまで向かってきていた。それを見た風牙は改めて姿勢を正し、『捜シ者』を真っ直ぐ見た。

 「『コード:07』の『脳』の異能は情報によると近距離戦に特化している。彼を完膚なきまでに斃すのなら、相手を務めるのは相手を近づけさせないことに特化した者に任せる必要がある。そして、その役目を務めることができ実力・思想ともに申し分ないのが……君だよ、風牙」

 歩きながら言葉を続けた『捜シ者』は話が終わるのと同時に風牙の目の前に立った。相変わらず柔和の微笑みを浮かべているが、目の前にしたことで風牙はびりびりとしたプレッシャーを感じ思わず目を逸ら した。

 「で、ですが……そういうことでしたら私よりもあの方(・・・)の方が確実かと思いますが……」

 口ごもりながら風牙は視線をあの方(・・・)に向けた。壁に背を預けた状態で腕を組み、目を瞑りやや顔を下げた状態でその場に佇む……『Re-CODE』の一人に。

 風牙の視線が動いたことで、『捜シ者』は彼と同じ方を見た。そして、その視線の先に誰を捕えたのか理解すると『捜シ者』はゆっくりと目を瞑った。

 「……なるほど。君の言いたいことはわかるよ。確かに、より確実さを求めるなら君の意見は正しい。……だけど」

 風牙の意見を受け入れているかのように『捜シ者』はゆっくりと話した。そして一呼吸置いたかと思うと、瞑っていた目を開けて風牙の手を握った。突然のことに風牙は目を見開き、『捜シ者』の顔を真正面から見た。

 「それでも私は君に任せたい。さっきも言った通り、私には君の力が必要なんだ」

 「……ッ!」

 その言葉が最後だった。その日、『捜シ者』からかけられた言葉はそれが最後だった。その後、風牙が覚えているのは新たなナンバー……『Re-CODE:07』を名乗ることを決めた自分を歓迎する彼の笑顔だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日から、風牙は『コード:07』夜原 優を斃すことを目的としてきた。『捜シ者』の期待に応えるため、自分が他の部下たちとは違うことを証明するために、何より自分が『Re-CODE』で在り続けるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハハハハ! ハハハハハハハハハ! これで! これで証明された! オレが新たな『Re-CODE』の一人だ! ハハハハハハ!」

 大量の血を流し、体の中心に風穴が開いた優の向こう……破壊された壁から見える外から入ってくる風を感じながら、感情を爆発させたかのように笑う風牙。その声は壁の穴から外に流れたが虚空に消え、彼と同じ部屋にいる桜たちは呆然とした様子でそれを見ていた。

 「急にぶっ壊れやがった……」

 「感情があまりに高ぶり理性を忘れているようですね」

 風牙の変貌ぶりに刻は不気味そうに呟き、平家は変わらず冷静にその場に立っていた。すると、今まで風に背を預けていた大神が壁から離れ、風牙の方を向いた。

 「それより、今の言葉はどういうことだ? 今の戦いでお前が新たな『Re-CODE』であると証明された……というのは」

 「……ハッ」

 大神の問いを聞き、感情のままに笑っていた風牙は笑い声をピタリと止め、短く息を吐き捨てた。そして、未だ先ほどの笑いの余韻が残っているのか、ニヤリと口角が上がった顔を大神たちに向けた。

 「言葉の通りだよ……。この戦いで、オレは名実ともに真の(・・)『Re-CODE』として認められたんだ」

 「おかしな話だな。お前は最初に名乗った時、自ら『Re-CODE:07』と名乗った。今のお前の言葉を聞くと、今までは違っていたように聞こえる。それは矛盾じゃないのか?」

 「……矛盾?」

 矛盾、という大神の指摘を受けた風牙はボソリと呟いた。すると、途端に俯き表情が見えなくなった。しかし、それは決して長い時間ではなく風牙はすぐに顔を上げ始めた。ただ、彼にはある変化が生じていた。

 「──矛盾なんかしてねぇさ」

 消えていた。先ほどとは打って変わり、笑みが一切消え無表情となった顔を浮かべていた。そして、風牙はその表情のまま語りだした。

 「オレが『Re-CODE:07』を任命されたのはついこの間のこと。『捜シ者』の考えってことで他の『Re-CODE』も含めたほとんどの奴が反対もせずにオレを認めた。だが、中には上辺だけの連中が少なからずいた。まあ、考えてみればそうだよな。今まで名も知られてないような部下の一人が急に幹部クラスに昇格したんだからな」

 「つまり……あなたはその者たちに自分が『Re-CODE』を名乗るにふさわしいということを証明しようとしたというわけですか」

 風牙の話を聞き、平家が予想を口にした。自分を認めない他の者たちに自分の力を認めさせる……それこそがこの戦いにおいての風牙の目的であると。それを聞いた風牙は、フッと鼻で笑った。

 「そうだ。オレが『Re-CODE:07』を任命することになった理由でもある……夜原 優を斃すことでな」

 「どういうことや。ななばん関係あらへんやろ」

 「残念ながら関係あるんだよ。そもそも、オレのナンバー『Re-CODE:07』は他の『Re-CODE』とは少し違う。これは『捜シ者』の親衛隊である証と同時に一人の敵を斃すことを使命としたナンバー。そう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 『コード:07』夜原 優っていう一人の『コード:ブレイカー』を斃す……っていうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞き、大神たちに衝撃が走った。風牙が今言ったことは、大神たちがついさっき平家から聞いた話とほとんど一致していたからだ。風牙は優を斃すために用意された者であり、そのために彼は『Re-CODE:07』を名乗っている……という平家の推測と。

 「オイオイ……! なんで『捜シ者』はわざわざ一番苦手な相手を用意するくらい優のこと警戒してんだヨ……! あいつはお情けで『コード:ブレイカー』になったような奴だゼ? つーかヨ、そんだけ重要な奴だったら“エデン”の連中がもっと良い待遇してるっつノ」

 自分が否定した平家の推測が当たっていたことに驚きを隠せない刻は目を見開きながら風牙に理由を尋ねた。しかし、風牙から返ってきた答えは望んだ答えとはかけ離れていた。

 「オレが知るか。オレは夜原 優を斃すことが使命としか言われていない。どうせ元から理由には興味なかったしな。オレは自分の力が『捜シ者』に認められ、信頼されているっていうことがわかっただけで十分だった。そして何が何でも『Re-CODE:07』としての使命を果たそうと思った。それだけだ」

 「……となれば、直接『捜シ者』に聞くしかありませんね。素直に話すとは思えませんが」

 風牙の答えを聞き、平家はこれからするべきことを冷静に呟いた。最後の部分は憂いているようにも聞こえたが、その眼には強い闘志が宿っていた。言葉として出したことで、『捜シ者』との戦いを改めて意識したのだろう。

 すると、再び風牙に変化が起きた。

 「おいおい……おいおいおいおいおいおい…………」

 ぶつぶつと同じ言葉を繰り返し、徐々にその顔を俯かせていく。そして、表情が見えなくなるまで俯いたかと思うと、再びあの歪んだ表情を見せた。

 「何勝手に話進めてんだ! まずはオレをどうにかするんだな! まあ、結局は無駄な相談だがな! お前らが『捜シ者』にたどり着く前にオレがお前らを全滅させる! 真の『Re-CODE』の仲間入りをしたこのオレがな! さあ! 次は誰がオレの相手をするんだ!」

 再び殺気を爆発させた風牙が構えた。そして、それを見た大神たちも構え────

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハ? なんで?」

 「意味がわかりませんね」

 「謎です」

 「頭ぶっ壊れたんか?」

 ──ることはなく、ただその場で首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……はあ? お前ら……何言ってんだ?」

 「イヤ、それこっちのセリフなんだケド。なんでオレたちがテメーと戦うんだヨ」

 大神たちの態度に風牙は意味がわからないという反応をしたが、一向に大神たちは動こうとしない。

 「なんでって……次はお前らだろ! お前ら以外に誰が戦うんだよ!」

 「……だからなんでですか? 理解に苦しむんですが」

 呆れたように言う大神を見て、風牙は眉をしかめた。そして、彼らに対し怒りを爆発させた。

 「ふざけるな! 理解に苦しむのはオレの方だ! さっきまでオレと戦っていた夜原 優はもう死んだんだ! オレが斃した! だったら次は残ったお前らだろうが!」

 怒りに任せて彼が自らの目で確認した事実を次々と告げた。そして、それを聞いた大神たちは──

 「……驚きましたね。あれ(・・)で終わらせるとは。『Re-CODE』っていうのはずいぶん優しい心の持ち主なんですね」

 「はあ!?」

 大神の言葉に風牙は声を荒げる。すると、今まで黙っていた桜がゆっくりと口を開いた。

 「一体……さっきから何を言っているのだ? 先輩は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜原先輩なら……さっきからずっとそこにいらっしゃるではないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、指を鳴らす音が部屋に響き風牙の鼓膜を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……は?」

 変わった。目に見えるもの、景色が変わった。破壊された壁の向こうに見える外の景色。それは変わっていない。変わらず闇に支配された夜だった。変わったのはそのすぐ前。

 「死体が……消えただと!?」

 破壊され一部しか残っていない壁のその一部を背もたれにしてなんとか落ちずにいた優の死体。見続ければ目が痛くなるほど大量の血が流れており、体の中心には風穴が開いている。それは誰が見ても死体だとわかるものだった。

 しかし、今の風牙の目に映る景色にそんなものは影も形も無い。あるのは破壊された壁の瓦礫だけで、あれだけ大量に流れていた血はまるで残っていない。もちろん優の死体も。

 「どういうことだ! 確かにあいつはオレが殺したはずだ! さっきまでそこに死体があったろう!」

 「い、いい加減にしろ! さっき言っただろう! 夜原先輩ならそこにいると!」

 そう言いながら桜はある一点を指差した。風牙は混乱しつつも桜が指差した方向を見た。

 そして……見た。ありえるはずがない、いるはずのない……彼の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 「夜原……優……!?」

 桜が指差した方向には、『鎌鼬の舞』による大量の傷を残っているが血はすっかり止まっており、風穴などどこに開いていない体でその場に立つ夜原 優の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ど、どういうことだ! お前はさっき……オレの『台風の目(ハリケーン・アイ)』で体を貫かれて死んだはずだ! それが……なんで……!」

 意味がわからない。今の風牙の思考を支配していたのはそれだけだった。自分の中に存在するあらゆる知識をどう使っても目の前の状況が説明できない。そのことに恐怖も感じたのか、風牙は無意識のうちに優との間に距離を取っていた。そして、風牙を混乱させている優は静かな表情でそれを見ており、ゆっくりと口を開いた。

 「オレはあの時、お前の技を受ける前に移動した。つまり、本当の(・・・)オレはあの技を完全に避けていた」

 「何言ってやがる! じゃあ、さっきまでそこにあった死体は何だ! あの一瞬で別の場所から死体を持って来たっていうのか!」

 平然とあり得ないことを言う優を見て風牙はさらに声を荒げて、さらにあり得ないことを口にする。もはや冷静な判断ができないほど興奮状態にあるのだろう。それに対して、優は何事も無かったかのように冷静さを保ちながら風牙の問いに答えた。

 「そんなことは『脳』の異能を使っても不可能だ。お前が見ていたのは……間違いなくオレの死体だ」

 「な、何を言っている! 今度は自分が生きていることを否定するのか!」

 矛盾している優の言葉に風牙はさらに混乱する。そんな風牙に構わず、優は大きく息を吐きある事実(・・・・)を告げた。

 「簡単な話だ。オレの死体がお前にだけは見えていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・)……それだけだ」

 「オレにだけだと……!? あれは幻覚とでも言うつもりか!」

 「……確かにそうだな。言ってみればあれは幻覚かもな」

 「何……!?」

 優が告げた事実を聞き、風牙の頭の中が少しクリアになった。幻覚という一つの可能性を見出したからだ。

 「あ、あの……夜原先輩」

 「……なんだ」

 すると、桜がおそるおそる手を挙げた。優は視線のみ動かすと用件を聞いた。そして、桜は少し申し訳なさそうに尋ねた。

 「その、よく状況がわからないので教えてください。一体、先輩は何をしたのですか?」

 「……まあ、もうそろそろ説明しようと思ったところだ。お前でもわかるように工夫はしてやる」

 「は、はい!」

 桜が返事を返すと、優は風牙のことを見た。少しの間とはいえ黙っていたので、少し落ち着きを取り戻したようだった。それを確認し、優は少しずつ話し始めた。

 「まず、桜小路たちに言っておく。今の今まで、風牙にはオレが死んだと思っていた。なぜなら、こいつの目にはオレが竜巻を受けて体を貫かれた姿が見えていたんだからな」

 「え!? しかし先輩はずっと──」

 「ああ。実際の(・・・)オレは竜巻を避けてずっと部屋の角で体を回復させていた。それは桜小路たちが見ているはずだ」

 優の言葉を聞き、風牙は桜たちの方を向いた。その迫力に桜は少し驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻して口を開いた。

 「は、はい。私の記憶だと先輩は風牙の技を避けて、ずっと角で休まれていました。そしたら急に風牙が笑い出して『Re-CODE:07』について聞きました」

 「バカな……じゃあ、オレが見ていたのは幻覚……? だが、一体どうやって……」

 驚愕の事実に風牙は頭を抱えた。自分がいつから幻覚を見ていたのか。そしてその方法は何なのか。風牙はそれがわからなかった。

 すると、優がポツリと呟いた。

 「オレはお前に吹き飛ばされる前、一瞬の隙を突いてお前の背後に回って頭を掴んだ。そこでお前たちに聞くが、オレは頭を掴むことで何をしようとした思う?」

 「……頭を潰そうとした、と答えておきましょう」

 まるで何か含みがあるかのように大神が答えた。おそらく、大神の答えはその場にいたほとんどの者と同じ内容だろう。今まで優の裁きを見てきた『コード:ブレイカー』と桜はもちろん、事前に情報収集を行っていた風牙も優がどのような裁きを行うか知っている可能性はある。なにより、身体能力を上げる『脳』の異能を使う相手に頭を掴まれたら誰でもその可能性を考えるだろう。

 「そうだな。オレも戦いが始まった時はそうやって終わらせようと思っていた。……だが、戦っているうちに一筋縄でいかないことに気付き、オレはそれをやめた。つまりオレはあの時、砕こうとして頭を掴んだんじゃない」

 「面倒くせーな。素直にアレ(・・)使ったって言えヨ。ぶっちゃけオレたちはわかってるシ」

 「と、刻君? 何か知っているのか?」

 「ま、すぐわかんじゃナイ?」

 まるで優が何か知っているかのような口振りの刻。桜が疑問に思い尋ねたが、刻は答えようとしなかった。すると、優は周りを見て、答えようとする者がいないことを確認すると右手を前に出して掌を上に向けた。

 「なあ、刻。オレの異能はなんだ?」

 「テメーの異能は『脳』。自分の脳のリミッターを外して身体能力を上げて頭砕くだけっていうオレの『磁力』の足元にも及ばねー異能ダ」

 優の質問に答えつつも自分の株を上げようとする刻。しかし、優は特に文句を言わずに「そうだ」と正解を告げ、そのまま続けた。

 「オレは自分の脳を操りリミッターを外すことができる。それは今までやって見せた通り正解だ。……だがな」

 途端、優は右手に力を込めて握り拳を作った。そして、スッと目を細めて風牙を視界に捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「オレが操れるのは自分の脳だけ……とは今まで一度も言ってないよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 静止した。優の言葉を聞いた瞬間、まるで空気が凍ったかのように静寂が訪れた。原因は衝撃。物理的なものではない。精神的なものだ。しかし、その衝撃を受けたのは『コード:ブレイカー』以外の者たちだった。『コード:ブレイカー』たちは最初からわかっていたかのようにただ黙っていた。

 その衝撃を与えた張本人である優は右手を下ろすことで一呼吸置き、再び話し始めた。

 「オレは自分の脳だけじゃない。他人の脳を操ることもできる。さっきみたいに……頭を掴んだ状態だったらな。脳っていうのは感覚器官にとって核みたいなものだ。目は見たものを脳が処理することによって初めてそれを視覚で認識することができ、耳は鼓膜の振動を脳が処理することで初めてその音を認識することができる」

 両手をズボンのポケットに入れて説明を続ける優。その主な内容は脳事態に関するものだったが、一通りの説明を終えると、再び一呼吸置いて間を作った。そして、ゆっくりと口を開いた。

 「……だったら、だ。脳がわざと(・・・)誤認するように操れば、他人とは違う景色を見せたり他人とは違う音を聞かせることも可能だと思わないか?」

 「──ッ!」

 その言葉を聞き、風牙はハッとした。自分が何をされたのか……彼はそれを完全に理解した。そして、風牙が気付いたことに気付いた優は風牙の方を向き言い放った。

 「『壊脳(かいのう)』。相手の頭に触れることで相手の脳を操作し、幻覚や幻聴……その他にもあらゆる身体の異常を発生させることができる技だ。……まあ、相手の異能量に左右される制限時間付きだけどな」

 優の口から語られた優の力。その内容と自分の身に起きた出来事を重ね合わせ、風牙は目を見開いた。

 「ま、まさか……!」

 「ああ。……風牙。お前の脳はもう壊れた」

 風牙を指差し優は宣言した。それは風牙にとって絶対的に自分が不利な立場にあり、自分の負け……死を宣言されたのと同じに聞こえた。優の説明の全てが本当なら、自分にはどうすることもできない。脳を狂わされ続け、わけもわからず気付いた時には絶命しているかもしれない。

 「つーか、桜チャンはとっくに知ってると思ったゼ。一回、優が『壊脳』使うとこ見てるわけだし」

 「そ、そうなのか? 一体いつ……」

 「田畑邸に侵入した時ですよ。あの時、優は田畑の娘を眠らせましたよね? あれは優が『壊脳』で脳を操って強制的に脳を睡眠状態にしたんです」

 「あの時か! そうか、だからちさちゃんは眠ってしまったんだな。つまり、夜原先輩は頭に触っていれば相手を自由自在にできるのだな……」

 かつての出来事を通して桜は『壊脳』を理解した。それを確認すると、優は風牙を指差していた手を下げた。すると、今まで黙って説明を聞いていた大神が納得したような顔で口を開いた。

 「ま、正直なことを言うと途中からそんな予感はしましたよ。あなたがずっと角で休んでいるのに『使命を果たした』と豪語することに違和感を感じていたのですが、『壊脳』を使ったというなら納得です。一体どんな幻を見せていたんですか?」

 「あの竜巻に貫かれて体に穴が開いたオレの死体と……それを見て叫ぶ桜小路くらいだな。最初はオレの死体だけでいいと思ったが、リアリティを出すために叫び声を追加した」

 「なるほど、想像できます」

 風牙になす術がないと全員が理解したからか、談笑を始める優たち。平家と遊騎もそれを見ながら安堵の表情を浮かべている。桜も風牙を無力化したということを理解し、どこか安堵を感じていた。

 しかし、そんな彼らとは正反対の感情を抱く者が一人。

 「ふ、ふ……ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!」

 風牙が激高し『風』を発動させ、部屋の中に再び突風が吹き荒れた。それは今までこの部屋で感じたものの比ではない。全力で踏ん張っていないとあっという間に体を持って行かれそうだった。

 「やっべ! 遊騎は!?」

 「ご安心を……! 私の手の中です」

 「おー」

 遊騎は平家に掴まれているため何とか無事だった。桜は自慢の身体能力のおかげで一人でも十分に耐えていた。

 だが、一番心配すべきは優だった。最も風牙の近くにいるため風の威力を誰よりも強く受けているからだ。すると、吹き荒れていた突風が風牙の掌に集まりだし、巨大な竜巻を作り出した。

 「なにが『脳を壊した』だ! オレは『Re-CODE:07』風牙! お前を斃すために選ばれた存在だ! そのオレが……! テメーに負けるわけねぇぇぇぇ!」

 風牙はその手に『台風の目(ハリケーン・アイ)』を構え、優に向かって突っ込んでいった。意表を突かれた優は反応できず立ち尽くしており、風牙はニヤリと笑った。

 「感覚器官を狂わせるっていうんだったら簡単だ! 狂わされていない間にテメーを殺せばいい! 大方もう制限時間になったんだろう! オレとテメーだったら間違いなくオレの異能量が多いから時間も短かったようだな! くらえぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 叫びながら風牙は優との距離を詰め、『台風の目(ハリケーン・アイ)』を直接優の体に押し付けた。風牙の目の前で、優の皮膚が、骨が、肉がバラバラになっていく。生暖かい返り血を至近距離で浴びながらも、風牙は『台風の目(ハリケーン・アイ)』を押し付け続けた。

 「ハハハハ! 残念だったな、夜原 優! 恨むんだったらオレと会った運命を呪うんだな! ハハハハハハハハ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──隙だらけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な……!」

 肉を斬り裂く風牙の鼓膜を揺らし、腹から胸にかけて違和感を感じた。そして、風牙の目には自分の足が真正面から(・・・・・)見えた。上下全てが逆転し、落下しているのか下から抵抗の風を感じる。そんな今まで感じたことの無い感覚を感じていると、上から優の声が聞こえた。

 「残念だが、さっきまでお前の感覚器官が正常だったのはオレが一時的に(・・・・)正常に戻していただけだ。お前が異能を発動してからは全て幻。……これは“エデン”の研究結果だが、異能っていうのも体と同じで脳に支配されているらしい。脳が『使う』と処理したからこそ身体は反応して異能を発動する。だから、異能者には異能者特有の異能を使う細胞や器官が存在する。お前に幻覚を見せるついでに脳を通してそれも操り、異能を使えなく(・・・・・・・)した。つまり、お前はただオレに突っ込んできただけだ」

 上下が逆転した視界に、優と胸から上が無い(・・・・・・・)誰かの体が映った。下からの風を受けながら優の言葉を聞いていたが、どうにも頭に入ってこない。それどころか、だんだん考えることすらできなくなってきていることに気付いた。

 それに気付いているのかはわからないが、優は言葉を続けた。それはおそらく、優と風牙にしか聞こえないほど小さく、風牙もよく聞き取れなかった。

 「一つ言っておくが、まだ『壊脳』の制限時間には余裕があった。時間にして約十分。つまり、オレとお前の異能量を比べるとオレの方が上ってことだ」

 そう言うと、優は胸から上が無い誰かの体を足で押し、壁の外に蹴り出した。それを見てようやく風牙は気付いた。今、自分は壁の外に出て地面に落下しており、胸から上と下で体が分かれているのだということに。

 「ッ──!」

 薄れゆく意識の中、風牙は歯を食いしばった。そして、残った力を全て出すつもりで叫んだ。

 「これも幻か! だとしたらくだらないな! 待っていろ! 制限時間が切れたらすぐにオレがぶっ殺してやる! 何もかもバラバラにしてな! ハハ! ハハハハハハハハハハハハ!!」

 せめて自分を救おうとしたのか、今の状況を『壊脳』による幻だと言いながら風牙は落ちていった。そして、風牙は完全に夜の闇に消えた。風牙を斬り捨てる時、『脳』で身体能力を強化していた優の耳には地面に落下した音も聞こえ、戦いの終わりを感じた。優は刀を鞘に納め、風牙が落ちていった方を見下ろした。

 「どうやら……THE END(ジ・エンド)だったのは『コード:07』(オレ)じゃなく、『Re-CODE:07』(お前)だったようだな」

 そして、優は外に背を向け戻っていった。斃した敵が言い続けた勝利の言葉とともに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──『Re-CODE:07』……THE END(ジ・エンド)

 

 

 

 

 

 

 




CODE:NOTE

Page:16 大神と桜のクラスメイトたち

 大神と桜が通う輝望高校1年B組のクラスメイトの中でも特に二人と関わりが深い者たち。マエシュンことお調子者の前田、剣道部所属の沖田、タッキーことノリの良い武田、パソコンを常備している島津、高校生とは思えない身長からデカ杉と呼ばれる上杉の男子メンバーと桜の親友である爆弾ボディーの高津 あおば、ボーイッシュな雰囲気を持つツボミ、控えめな性格の紅葉の女子メンバーの計八人。女子メンバーは元々、桜と仲が良かったことから大神とも話すようになり、男子メンバーは転校したての大神に興味を持って関わっていったのが始まり。ほとんどが高校に入ってからできた友人だが、前田とあおばはバレンタインデーの時の会話からわかる通り幼馴染であり、実は上杉も同じく幼馴染のためよく三人で登校したりする。
 大神が転校してからそれなりの日数が経ったが、当然のことながら大神の正体を知る者は一人としていない。他の生徒同様、二人は付き合っていると思っている。大神の正体を知らないため、大神がバイトで傷を負いそのまま学校に来るとひどく心配する。男子メンバーは他校の生徒にやられたと思い込み大神の相談に進んで乗ったこともあるため基本的に全員友達思い。しかし、大神本人に仲良くする気はあまりない。

※作者の主観による簡略化
 モブ……と言い切れないほどいいキャラしている皆。紅葉可愛い。



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