CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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頑張って本日二回目の投稿。
遅くなって申し訳ございません。
いよいよ『捜シ者』と対面した大神たち。
ついに戦いが始まります。
では、どうぞ。





code:16 『捜シ者』

 『捜シ者』に占拠されたと思われる放射性物質の研究所。乗り込んだ大神たちを出迎えたテロリストを蹴散らした彼らの前に、今回の事件の主要人物である者が現れた。

 「……『捜シ者』!!」

 「…………」

 照明を背にして研究所の屋上に佇む目深に帽子をかぶった細身の男。大神の部屋で見た『捜シ者』の写真と同じく口元に右手を当て、その右手の甲には特徴的な刺青が見えた。帽子を目深にかぶっていることと彼の後ろから当てられている照明のせいで顔は見えないが、見える限りの仕草と容姿だけで彼が『捜シ者』だということはすぐにわかった。よく見ると、彼の隣には昼に大神を襲った雪比奈が立っている。

 「あれが、『捜シ者』……」

 目の前に現れた『捜シ者』に驚く桜。それもそうだ。彼女にとって、『捜シ者』とはずっと気になっていた人物の一人だった。大神が『コード:ブレイカー』になってまで殺したい相手であり、大神の育ての親だという『捜シ者』。それがどのような人物なのか、彼女はずっと知りたかった。

 (どんな顔をしているのだ? どんな顔を……どんな眼を……)

 何とかして『捜シ者』の顔を見ようとする桜。彼の顔……眼を見ようと桜は意識を集中させ──

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 「ぬお……」

 

 

 

 

 

 

 そうして見えたのは横から顔をのぞかせる遊騎の顔。今まで写っていた『捜シ者』に重なるように桜の目と鼻の先に顔を出したのだ。

 「遊ぼーや。『にゃんまる』もみんなも」

 「お前ッ! 今、どういう状況かわかって──」

 「あかん」

 場違いな遊騎の言葉に腹を立てる刻。しかし、その刻の言葉を遮って遊騎は桜に注意を促した。

 「あいつと眼合わせたらあかん。合わせた瞬間魂持ってかれるで」

 「ゆ、遊騎君……」

 最初の場違いな台詞を言った時とは違い真剣さを感じさせる遊騎の表情。遊騎とて曲がりなりにも『コード:ブレイカー』の一人だ。『捜シ者』の脅威も痛いほど知っているのだろう。だからこそ彼は桜を止めた。それが彼女のためだから。

 「なあ、ろくばんも──」

 そして、『捜シ者』を前にして冷静さを保っていられるか不安である大神にも声をかける遊騎。だが、遊騎の言葉はすでに遅かった。

 「…………」

 「…………」

 無言で『捜シ者』を睨む大神と微笑を浮かべたままそれを受ける『捜シ者』。彼らの間には張りつめたような緊張感があり、遊騎もそれ以上に大神を止めることはできなかった。

 「……大神。これが最後のチャンスだ。戻ってこい、『捜シ者』の元へ」

 「何!」

 『捜シ者』の隣にいた雪比奈が一歩前に出て大神に言葉をかける。反抗の態度を見せる大神だったが、雪比奈は構わず言葉を続ける。

 「『コード:ブレイカー』になって正義になったつもりか? 無駄なことだ。人は変われぬよ、大神」

 「ッ……!」

 雪比奈の言葉に黙り込む大神。“悪”である『捜シ者』ではなく、その“悪”を裁く『コード:ブレイカー』になることで自分は正義の立場にある。だが、それは立場だけであり本質は変わらない。雪比奈はそう言いたいのだろう。

 しかし、それは大神自身がよくわかっていた。

 「……だからと言って、オレの死に場所はもうお前らの元じゃない」

 悪には悪を。自らを“悪”として“悪”を裁き続けてきた大神にとって、自分が“悪”だということは百も承知だった。それは今までの彼の言葉からもわかる。彼は決して自分を正義などとは思っていない。

 「どけよ、大神。おしゃべりは……終わりだヨ!」

 大神と『捜シ者』の間に割って入る刻。未だロストしているため、『磁力』ではなく二丁の拳銃で『捜シ者』に攻撃を仕掛けた。しかし、それは意外な形で止められた。

 「…………」

 「銃弾を素手で……!?」

 突然、『捜シ者』の前に現れた大柄な人物。その者は刻が放った三発の銃弾を素手で……それも片手でいとも簡単に止めた。すると、大柄な人物は刻を見て呟いた。

 「ほう、知った顔だな」

 「……!」

 その言葉が終わった瞬間、その人物は止めた銃弾を片手で潰し始めた。そして、細かい鉄となった銃弾を大神たちに向け指の力だけで放った。

 「ッ!」

 指の力だけとは思えない速度で迫ってくるバラバラになった銃弾。当たればそれなりのダメージを受けるだろう。しかし、『磁力』を操って銃弾を止めることができる刻はロストしており大神の『青い炎』は触れたものしか燃やせない。遊騎が『音』の異能で避けさせるか、優が『脳』で強化した力と刀を使って斬り刻むくらいしか方法が無かったが、銃弾はすでにそれすら間に合わない位置に──

 

 

 

 

 

 

 「キャッチ・アンド・リリース・アンド……デス・リアクションですよ」

 

 

 

 

 

 

 「平家先輩!」

 銃弾が大神たちに届く寸前、平家がさっそうと現れ『光』のムチで銃弾を斬り刻んだ。銃弾は威力を失い無機質な音を立てて地面に落ちた。すると、屋上にいた『捜シ者』たちは大神たちに背を向け照明の光の中に進んでいった。

 「大神。我々を葬ると言うのならここの最上階まで来るがいい。その時がお前の最期だ」

 雪比奈の言葉が終わると『捜シ者』たちの姿は完全に光に呑まれた。しばらくして照明が消えると、そこには『捜シ者』たちの姿は欠片もなかった。

 「くそ!」

 瞬間、大神は研究所の中へと通じる扉を乱暴に開いた。そこに普段見せるような冷静さは無く、ただ感情の赴くままに動こうとしていた。

 「お、大神……」

 「やめておけ。今のあいつには何を言っても無駄だ」

 「しかし……」

 あまりの迫力に止めようとする桜の言葉にも力はない。優はそんな桜を止めたが、桜自身もわかっているのだろう。今の大神を止めることはできない、と。だが、それでも見過ごすことはできなかった。だからこそ彼女は迷っている。何とかして止めることはできなかいと思っている。しかし、こうしている間に大神は一人で歩を進めた。すると……

 「…………」

 「…………」

 敵ではない。それは確かだ。ただ……異常だった。

 歩き始めた大神の前に現れたのは、ゴールデン『にゃんまる』の頭を被った状態でしゃがんでいる遊騎だった。大神は遊騎を避けて進もうとするが、遊騎も同じ方に体を移動させてそれを遮る。逆の方に移動してもまた遮られる。ならばと大神は足早に遊騎の横を少し乱暴に通り過ぎた。すると、遊騎は被っていたゴールデン『にゃんまる』の頭を取り大神に被らせ走り出した。

 「今度はろくばんが鬼やで~」

 「お、おい! 今のあいつにそんなことしたら何するかわかんねーダロ!」

 奔放すぎる遊騎の行動に刻は怒鳴り散らした。『捜シ者』のこととなると大神が周りを見ないということは刻もよく知っている。だからこそ、彼は今の遊騎の行動がどれほど危険なことかわかっていた。わかりやすくいうなら、火に油を注いだようなものだ。そして、大神はゴールデン『にゃんまる』の頭を外し構わず進もうと──

 「……今度はどんな遊びを思いついたんですか? 遊騎」

 「ア、アレ……?」

 予想と違い、大神はいつもの落ち着いた様子を見せていた。彼はそれ以上進もうとはせず、その場で遊騎と談笑を交わしていた。

 「遊騎君……まさか、今のは大神を落ち着かせるために……?」

 遊騎の思わぬ形の処置に驚く桜。子供のように見えて、『コード:03』という上の立場にいる者という自覚を持っているのかもしれない。

 「いつまで遊んでいるのですか? 遊騎君」

 すると、いつの間にかティーセットを広げていた平家が割り込んだ。なぜか遊騎が持って来ていたチャーリー4号が相席していた。

 「今回のバイトはあなたに依頼したはず。事態は急を要するんです。勝手についてきた大神君や刻君、もちろん優君とも遊んでいる時間はないんですよ」

 「…………」

 「遊騎君」

 「バイトはしーひん」

 黙ったままの遊騎。平家が語尾を少し強くすると遊騎は悪びれる様子もなく我儘を言った。こういうところを見ると子供なのだから不思議に感じる。

 「悪い子ですね。ならば『コード:ブレイカー』をおやめなさい。同時にそれは死を意味し──」

 平家の言葉が途中で止まった。原因は遊騎の奔放すぎる行動……では済まないことをしでかしたから。ティーポットに入った紅茶を平家の頭にかけ始めたのだ。

 「いやや言うとるやろ。一個上やからってえらそうやわ。この『眉無し』が」

 「バ、バカ!」

 ド直球過ぎる言葉を放つ遊騎。平家の恐ろしさをよく知っている刻はガタガタと体を震わせていた。

 「ジーザス!」

 しかし時すでに遅し。微笑みを浮かべながらだったが、平家は『光』のムチを遊騎を縛り上げた……はずだった。

 「って、コラ! オレを盾にするナー!」

 「音速でかわしましたか」

 縛られたのは遊騎ではなく刻だった。大神の言う通り、遊騎は縛られる寸前に音速で刻と入れ替わったのだ。刻にしてはこの上なく迷惑な話であるが。

 当の遊騎はというと、平家から視線を外して眉をしかめていた。そして、心から嫌悪しているような声で言った。

 「嫌いや……。にばんも…………“エデン”も」

 そう言うと、遊騎は平家たちに背を向けて走り去っていった。まるでその場から逃げ出すかのように。そんな遊騎を見て桜は心配そうに声を上げた。

 「遊騎君!」

 「心配いりませんよ、桜小路さん。我々は『捜シ者』のいる最上階を目指しましょう」

 遊騎を心配した桜を平家が制し、彼は視線の先にあった階段へと足を進めた。……遊騎にかけられた紅茶を滴らせながら。

 「…………」

 平家の言葉から一同が階段に向かっていく中、優だけはその場から動かずにいた。遊騎が走り去っていった方向をじっと見つめながら。

 「何をしているのですか、優君。行きますよ」

 それに気付いた平家が彼を呼んだ。これまでの二人の関係を見る限り、優はすぐにこの言葉に従うはずだった。しかし、彼が次に発した言葉は意外なものだった。

 「……遊騎と一緒に行って二手に分かれます。そのほうが効率がいいですから」

 平家に背を向けたままそう言うと、優は遊騎と同じ方向へ走っていった。逆らったのだ。今まで誰よりも従っていたはずの平家の言葉を。二人のやり取りを見て、桜はボソリと呟いた。

 「夜原先輩……やはり遊騎君が心配で……」

 「それはありえませんよ、桜小路さん」

 「え?」

 桜の言葉をすぐさま否定する平家。その顔は変わらず微笑みを浮かべており、彼はその表情を崩すことなく空を見上げた。

 「優君もわかっているのです。遊騎君は悪い子ですが、『コード:03』の称号を持つ『コード:ブレイカー』だということを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 電灯の明かりのみが照らす薄暗い研究所の廊下。研究所だというのに、その廊下には絵画や銅像が多く飾られていた。いくら明かりがあるとはいえ、薄暗い場所だと気分すら暗くなってくる。さらに場違いさを醸し出している絵画と銅像が気味悪ささえ感じさせる。すると、そんな暗い雰囲気はそぐわないような明るい歌が響いた。

 「♪にゃんにゃんにゃんまるみんなのなかま~♪こころやさしい──」

 「にゃんこのみかた……だろ?」

 「……ななばん」

 遊騎の歌っていた歌の歌詞を口にしながら優は遊騎の前に姿を現した。彼の姿を見ると、遊騎は気まずそうに彼を独自の呼び名で呼んだ。優もそれを感じたのか、両手を挙げながら遊騎に声をかけた。

 「心配するな。お前を連れ戻しに来たわけじゃない。お前は何をすべきかちゃんとわかっている。 あくまで平家さんたちとオレたちで二手に分かれることになっただけだ」

 「……そっか」

 安心したのか、スッと上を見上げる遊騎。すると突然、何かを思い出したかのように遊騎は手をポンと合わせた。そして、優の目の前まで移動するとポケットからある物を取り出して優に渡した。

 「なら、シール貼るの手伝ってや。チャーリー5号、6号、7号……」

 ある物……『にゃんまる』のシールを近くにあった銅像に貼りながら奥へと進んでいく遊騎。よく見ると、廊下の壁や絵画にも多くのシールが貼られていた。

 「大神の家にあった人形の仲間ってことか。まったく……ん?」

 自分が来るまで好き勝手やっていたであろう遊騎の姿を想像してため息をつく優。そしてシール貼りに参加することなく遊騎について行っていたが、そこで優はある違和感を感じた。遊騎がシールを貼っていった銅像から発せられる、何やら不気味な違和感を。

 「8号、9号、10号……ん?」

 そして、その違和感は遊騎も感じ取った。いや、感じ取ったというよりは見た(・・)のだ。10号としてシールを貼ろうとした銅像。それが小刻みに動いているということに。

 「う……」

 「おっちゃん、どうしたん?」

 「遊騎、これは──」

 小刻みに動くどころか声を発する銅像。いや、銅像ではない。一足早くそれに気付いた優は注意を促すよう遊騎に忠告しようとした。しかし、それとほぼ同時に彼女(・・)は現れた。

 「フフフ……それもすぐに固まるわ。どう? リリィの特製ドール、いい出来でしょ? ここの用無し研究員たちを神経毒でカチカチに硬直させてみたの」

 「…………」

 「……昼間の女か」

 「久しぶり、ってわけでもないか。あの時はどうも♪」

 遊騎と優の視線の先に現れた女性は、二人にとって忘れるはずもない人物だった。昼間に大神たちを襲撃し、異能『分泌』を操る『捜シ者』の部下の一人であるリリィ。彼女は不敵な笑みを浮かべて銅像……彼女の『分泌』によって硬直させられた研究員に囲まれた状態で、その中の一人に抱きついていた。

 すると、彼女を囲んでいた研究員の中の一人の腕がピクピクと小刻みに動いた。さらに、それに合わせて弱々しいうめき声も聞こえてきた。

 「う……く……」

 「あら? あなた、どうしたの? ……そっか。リリィの毒がもっと欲しいのね。いいわよ。骨の髄まで染み渡らせてア・ゲ・ル♪」

 彼に気付いたリリィが、手から『分泌』した毒を未だ小刻みに動く彼の手にかけた。すると……

 「…………」

 小刻みに動いていた彼の手から一切の動きが無くなり、それと同時にうめき声も消えた。彼は完全に硬直してしまった。彼もまた、リリィの言うドールにされてしまったのだ。

 「フフッ! 出来上がり! やっぱりリアルなドールのほうが抱きしめ甲斐があるもんね! アハハ!」

 「……ずいぶんと悪趣味なことだ」

 「…………」

 外道、という言葉がこの上なく相応しいリリィの振る舞いに嫌悪感を示す優と黙り込む遊騎。すると、リリィは笑みを浮かべたまま優と遊騎の方を向き、全身から毒を『分泌』させながらゆっくりと彼らに近づいていった。

 「心配しなくても、次はあなたたちの番よ。特にそこの赤毛のボーヤ。あの時はよくもリリィに恥をかかせてくれたわね。お礼に気持ちよく殺して──」

 瞬間、リリィの額に『にゃんまる』のシールが貼られた。見てみると、いつの間にか遊騎がリリィの目の前まで移動して彼女の額に手を伸ばしていた。直接皮膚に触れているわけではないので毒を受けてはいないだろう。

 「な……!?」

 「……お前」

 「…………」

 そして、ようやく口を開く遊騎。それと同時に彼はゆっくりと顔を上げ、リリィの顔を正面から見た。何の興味もないような、そんな冷たい視線で。正反対とも言える煮えたぎるような感情を心の内に秘めながら、彼はストレートな言葉を口にした。

 「ウザイわ。やっぱ嫌いや」

 

 

 




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 現役『コード:ブレイカー』の『コード:04』を務めるオッドアイの少年。家から近いという理由で偏差値70越えのエリート校である閉成学院高校通っている。軽薄な外見と言動からふざけているように見えることが多いが、やる時はやる男。現日本国総理大臣である藤原総理の息子であり輝望高校に通う藤原 寧々音の弟。寧々音のことはとある理由でよく気にしているが、反対に藤原総理のことは嫌悪している。
 異能は『磁力』。鉄などに作用して触れずに物を飛ばしたり、銃弾を送り返すことも可能。ロストすると身長が子供のように小さくなる。また、ロストした状態だと二丁の拳銃を主な武器として用いる。さらに、左目の視力が8.0あることから遠くの対象を狙う時は右目に眼帯を装着する。より遠くの物が見えるようになるが、片目なので立体視はできない。
 モットーは……本編でのお楽しみ。

※作者の主観による簡略化
 ふざけている人ほど実は思慮深いというお決まりキャラ。

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