CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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本編突入です。
第一話だというのにキャラがたくさん出てきます。
キャラの特徴とかは頑張ったのですが、わかりにくければアニメの公式サイトなどで見てください。





code:01 帰還と出会い

 日本の首都である東京。そこにある日本の政治の中心地、国会議事堂。そこの一室で一人の男が椅子に座りながらテレビをジッと見ていた。

 『本日、渋谷の交差点でビルのガラスが割れる事故が発生しました。幸いにも怪我人はいないとのことです。続いてのニュースは』

 そこでテレビの画面が黒に変わった。男がリモコンを操作しテレビを消したからだ。リモコンを机の上に置くと、男は指を組んだ。

 「……相変わらず、やることが派手だね。まあ、これで余計なことはしないだろう」

 微笑を浮かべながら呟く男。すると、部屋にノックの音が響いた。男は音の出所であるドアのほうに目を向けた。

 「入りたまえ」

 「失礼いたします」

 入ってきたのは黒いサングラスとスーツに身を包んだ男。男は手に資料のような物を持っており、それを持ったまま椅子に座っている男の前まで歩いた。

 「総理。先ほど、『コード:06』のエージェントより連絡があり、桜小路桜は間違いなく珍種だそうです」

 総理と呼ばれた椅子に座った男。彼は日本の現総理大臣である藤原(ふじわら)総理。そう考えると、スーツの男は政治関係者で政策についての話なのか、と思うかもしれない。しかし、会話の内容は明らかに政策とは無縁だとわかる。

 「……やはりか。『コード:06』が直接確かめたのだろう?」

 「はい。異能を使いましたが打ち消されたようです」

 「そうか、そうか。『コード:06』を向かわせた甲斐があったというものだ」

 藤原総理は微笑みながら言った。彼にとっては良い報告だったようで笑顔のまま話を続けた。

 「それで、他には何かあるかい?」

 「はい、もう一つ」

 スーツの男は返事をすると、藤原総理をまっすぐ見ながら報告した。

 「『コード:07』が帰国しました」

 それを聞いた藤原総理の顔から先ほどまでの笑顔が消えた。いや、笑顔自体は消えていない。ただ、笑顔が明らかに先ほどまでの笑顔とは違った。まるで人をあざ笑うかのような、そんな笑顔に変わった。

 「……そうか。戻ってきたか。……『コード:07』、真性の犬が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「話はまだ終わっていない!」

 時は一日経ち、場所も変わった。ここは輝望高校。都内にある普通の高校だ。そこにあるクラス、1年B組で一人の少女が一人の少年に対して大声を上げていた。少女の名は桜小路(さくらこうじ) (さくら)。少々、桜色が入っていて腰の辺りまで伸びた黒髪。触れてしまえば折れてしまいそうなほど華奢で儚げな肢体。この輝望高校のマドンナ的存在で男子生徒からの人気も高い。しかし、実はこの桜という少女はそんな見た目通りの少女ではない。だが、それは後に語るとする。

 今、桜は目の前にいる少年との間にある机に何枚もの新聞紙を置いて、少年と話をしようとしていた。一方の少年は桜の行動がよくわからないらしく、桜を不思議そうに見ている。

 「ここに真実は一つもない。……どういうことだ?」

 ここ、つまり桜が机の上に置いた新聞紙。そこには、ヤクザの関係者が逃亡したこと、警察官僚と警察官数人が失踪したことが載っていた。一見すれば、時々聞くようなよくあるニュース。しかし、桜は知っていた。このニュースの真実を。この情報が、偽りだということを。

 「さあ、どうなんだ。早く答えろ、大神(おおがみ)

 大神、と呼ばれた少年。彼の名は大神(おおがみ) (れい)。数日前に1年B組に転校してきた転校生だ。真面目さを感じさせる6:4分けの短い黒髪。着崩さずに着られた制服。そして、左手のみにしている黒い手袋。手袋以外なら、どこからどう見ても真面目な優等生と思える少年だった。現に、今も感じの良い微笑を浮かべている。

 「桜小路さん。朝からそんなに大声を出したら喉に悪いですよ。先ほど買ってきたお茶です。まだ口は付けていませんから、どうぞ」

 「む? ……それもそうだな。では、いただくとしよう」

 そう言って、大神は桜に缶のお茶を差し出した。桜も大神の言葉に納得したようでお茶を飲み始めた。二人の仲の良さを感じさせるような光景。しかし、次の瞬間にはそう見れない光景になった。

 「って! 違うのだ!」

 瞬間、桜の手にあった缶が一瞬で潰れた。桜の握力によってだ。普通に考えれば、ただの女子高生が缶を握りつぶせるはずはない。だが、桜にはそれが可能だった。

 実は、この桜小路桜という少女は格闘技を心得ておりとんでもなく強いのだ。さらに、昔の武士のような喋り口調をしており、とてもじゃないが華奢で儚げとは思えない武士娘だった。

 「話を逸らすな、大神! 私は覚えているのだぞ! 昨日あったことを!」

 昨日あったこと。それを聞いた大神は机の上に広がる新聞紙を片付け始めた。そして片付けながら、先ほどまでと変わらぬ微笑みのまま言った。

 「昨日あったこととは、オレがヤクザの連中を全員殺し、そこに突入してきた警察官、それを指示した警察官僚も皆殺しにしたこと、ですか?」

 大神は、確かにそう言った。近くにいる桜にしか聞こえぬくらいの声で。とてもじゃないが、普通の男子学生がやることではないようなことを。平然と口にした。

 「そんなことはオレも覚えてますよ。オレが『コード:ブレイカー』としてやったことですからね。ヤクザ共は麻薬を売りさばく悪人。警察官も警察官僚もそのヤクザに協力していた、正義という化けの皮を被った悪なんですから」

 『コード:ブレイカー』。大神が口にしたその単語は、普通なら聞くことはない言葉。何故なら、これは言ってみれば闇の世界の言葉。俗に言う裏社会でも一部の者たちにしか通じない言葉だ。

 『コード:ブレイカー』とは『存在しない者』。本当の名前も、過去も、家族も。全てを捨て、罪を犯したのに様々な理由で罰から逃れた者たち。そんな“法では裁くことのできない悪”を裁く存在だ。協力している警察官僚によって捕まらないヤクザ。同じく権利を利用して捕まらない警察官と警察官僚など、形は違えど、そんな“悪”は数多くいる。なぜ『コード:ブレイカー』である大神がこんな普通の高校にいて学生をやっているのか。それを大雑把に言うと、桜が大きく関係しているからだ。

 「ですから、自信を持っていいですよ。その眼で見、その耳で聞いたものだけが真実なんですから。珍種の桜小路 桜さん」

 「誰が珍種だ! お前はまた意味の分からんことを!」

 大神の言葉に桜は怒りをあらわにする。大神が言った「珍種」という言葉。それが、大神が輝望高校にいる今の理由だった。珍種である桜を監視・観察するのが今の大神の仕事のため、大神は輝望高校にいるというわけだ。まあ、転校してきた理由は別の理由だが、それはどこか別の機会に語るとしよう。

 「しかし、あの真実をこうも完璧に隠すなど……。一体どれほどの力を持っている……。『コード:ブレイカー』とは何だというんだ……」

 「……そうね。私も知りたいわ」

 得体の知れない存在である『コード:ブレイカー』の力を認識し、冷や汗を流す桜の背後から、桜に同意する声がした。そこにいたのは、緑のジャージを着て、眼鏡をかけた女性。そして……

 「この犬がどうしてここにいるのかってことを……!」

 「か、神田(かんだ)先生! それと『子犬(こいぬ)』!」

 眼鏡の女性は1年B組担任の神田先生。生徒からは「神田ちゃん」の愛称で親しまれている。そして、その神田先生に捕まってジタバタしている子犬は桜がつれてきた『子犬』。ちなみに、命名したのは桜である。

 「桜ー、ゴメンねー! 神田チャンに見つかっちゃった!」

 神田と『子犬』のさらに後ろで三人の女子生徒が申し訳なさそうな顔をしていた。彼女たちは桜のクラスメイトであると同時に親友だった。クリーム色のツインテールでスタイルの良い高津(たかつ) あおば、茶髪でロングストレートのツボミ、頭の上に団子を作り焦げ茶色の髪をした紅葉(もみじ)の三人だ。

 「学校にペットは連れてきちゃダメって校則に書いてあるでしょ! 誰の犬ですか!」

 神田先生が顔を真っ赤にして怒鳴った。すると、桜は大神を、大神は桜を指差した。

 二人はこの後、神田先生がいつもいる体育準備室に放課後になったら来るよう言われた。

 

 

 

 

 

 「な、なんてかわいそうなの~!」

 体育準備室に神田先生の泣き声が響き渡った。教室にいた『子犬』について大神と桜に話を聞いた神田先生だったが、その美談ぶりに感動してこのように泣き崩れてしまったのだ。その話の内容とは、「母犬が不良グループによって殺され、子どもである子犬が路頭に迷っているところを大神と桜が助けた」というものだった。ちなみに、この話をしたのは大神だが、実はこの話は真実半分嘘半分だった。

 真実はこうだ。母犬が不良グループによって殺されそうになり、それを桜が助けようとしたが隙を突かれて危機に瀕していた。それを救ったのが大神だった。しかし、その救い方は普通ではなかった。大神は不良グループを皆殺しにすることで桜を救った。さらに、どういうわけか母犬すらも大神が首を絞めて殺してしまったのだ。その理由はわからないが、不良グループに関しては理由がはっきりしている。不良グループは昨日大神が壊滅させたヤクザの下部組織で、彼らもヤクザと同様、捕まることない“法では裁ききれない悪”だからだ。

 元々、大神が輝望高校に来たのもこの不良グループが大いに関係している。大神が不良グループのメンバー数人を裁いたところを桜に目撃され、大神は桜を口封じに殺すために転校してきたのだ。その後、桜が珍種とわかるまでは、目撃情報を他人に言わないように監視するため、高校に在籍していたというわけだ。

 「グス……わかりました! そういうことなら、連れてきても構わないわ! この体育準備室も使っていいからね!」

 「おお! ありがとうございます、神田先生!」

 「ありがとうございます」

 神田先生の寛大な対処に二人は礼を言った。その後、神田先生が実家から届いたという玉ねぎや焼酎を『子犬』に与えようとしたため一悶着あったが、とりあえず落ち着いた。

 「では、失礼しました」

 とりあえず、『子犬』は体育準備室に預けて荷物を取りに準備室を出た桜。神田先生に『子犬』のことを説明した時やクラスメイトと接する時、そして『コード:ブレイカー』として悪人を裁く時の大神の変化っぷりに不気味に思いながら、教室に向かって歩き始めた……が。

 「ちょ!?」

 突然、桜の背後から手が現れた。そして、あろうことか桜の胸を揉み始めた。

 「や……やめろー!」

 さすがの桜もこれには耐えられず、その場を離れた。そして、自分の胸を揉んだ不埒者に制裁を下すため振り返って顔を確認した。そこにいたのは、特徴的なはねをした金髪に眼鏡をかけた、童顔の少女だった。

 「よかった。桜ちゃんのおっぱいたち、今日も元気なの~」

 童顔の少女は平然と、のんびりとした口調で言った。彼女を見た桜は制裁を下そうとした手を下ろし、戸惑っていた。何故なら、彼女は仮にも女性であり、輝望高校の生徒会に所属する先輩だったのだ。

 「ふ、藤原(ふじわら)先輩……。いつも言っておりますが、淑女が淑女のち……乳房を触るというのはいかがなものかと……」

 藤原(ふじわら) 寧々音(ねねね)というのが彼女の名前だ。先ほどの行動からは想像できないだろうが、輝望高校生徒会の副会長なのだ。ちなみに、桜の言葉からもわかる通り、桜にとってこのやり取りはよくあることだった。何故そこまで桜の胸を気に入っているのか本人に聞いてみると、「ぽよぽよでほわほわしてて、寧々音は大好きだから」とのことだ。

 桜から行動をやんわりと注意された寧々音だが、途端に怪訝そうな顔をして桜から離れ始めた。そのことに罪悪感を感じたのか、桜はため息をついて言った。

 「わかりました……。少しだけなら」

 「わ~い!」

 許可が下りた途端、幸せそうな顔で桜の胸に飛び込み顔をうずめる寧々音。それを桜は耐えることにしてじっとしていた。すると、寧々音の頭の上に誰かの手が置かれた。それは、いつの間にか寧々音の背後にいた学生服を着た短く黒い髪をした男子生徒のものだった。

 

 

 

 

 

 「……副会長。それは桜小路さんのご迷惑になると何度言えばわかるんですか」

 

 

 

 

 

 「あ~、ゆーくん。久しぶりなの~」

 頭に手を置かれたことで上を向いた寧々音。男子生徒は寧々音よりも背が高かったため、上を見るだけでも顔を見ることができた。対して、男子生徒は寧々音が顔を見ようとした瞬間、寧々音から視線を逸らした。当の寧々音は気にしていないようだったが、桜はというと……

 (何なのだ、こやつは! 目も合わせないとは失礼ではないか!)

 ものすごい形相で睨んでいた。格闘技の心得がある彼女にとって、このようなちょっとした礼儀作法すらも気になるらしい。

 「あら、夜原(やはら)君。そういえば、海外留学から昨日の夜に帰ってきてたのよね」

 神田先生が男子生徒に親しげに話しかけた。神田先生の言葉を聞くと、桜は目をパチパチさせた。

 「も、もしや夜原先輩ですか!」

 「……知ってるんですか?」

 「もちろんだ。大神、お前は知らないだろうがこの人は夜原(やはら) (ゆう)先輩なのだ。生徒会の会計さんで、少し前から海外に短期留学していたのだ。ですよね、夜原先輩」

 大神の問いに答え、確認のため本人と顔を合わせようとする桜。しかし、当の優は先ほど寧々音から顔を逸らしたように、桜からも顔を逸らして返事をした。

 「……ああ」

 それを見て、桜は再びものすごい形相になり、拳をわなわなと震わせていた。

 「や、夜原先輩……! 人と話すときは目を見て……って、藤原先輩!?」

 桜が優に注意をしようとすると、寧々音が間にゆらりと入ってきて桜の胸に再び顔をうずめた。

 「桜ちゃん、仕方ないの~。ゆーくんは見れないから~」

 「見れない、とはどういう意味ですか? 藤原先輩」

 胸に顔をうずめていることは気にしないことにしたらしく、寧々音に尋ねる桜。すると、優が突然口を開いた。

 「君が1年B組に入った転校生、大神 零君か」

 「…………」

 どうやら大神に話しかけたようだった。優は先ほどまでとは違って大神の顔を見ながら話しかけていたが、対する大神は少し不機嫌そうな顔をしていた。

 「大神君?」

 すると、話しかけられた大神ではなく寧々音が反応を示した。そして桜から離れると、大神にゆっくりと近づいていった。

 「大神君と桜ちゃんって付き合ってるって噂だけどダメなの。ひーたんとみーたんは寧々音のだからあげないの~」

 「……ひーたん、みーたんとは?」

 「左のおっぱいがひーたん、右のおっぱいがみーたんなの~」

 「あいにく僕はまだみーたんにもひーたんにもお目にかかったことがないので僕の負けです」

 普通に会話を進める二人。相変わらずゆっくりとした口調の寧々音と、寧々音の言葉に引きもせず答える大神。後ろでは桜が「マジメに答えるな!」と怒っていた。

 「それじゃーね、大神君には特別。みーたんとひーたんの秘密を教えてあげようかなー」

 そう言うと、寧々音は眼鏡を外した。眼鏡を外したことで、寧々音の瞳の色がより鮮明に見えた。そして、ここで初めてわかった。寧々音の瞳の色が左目と右目で違うことに。金色の右目と銀色の左目が彼女の目だということを。

 桜も知らなかったらしく、思わずその目に見入っていた。すると……

 「……!」

 「な!?」

 突然、大神が寧々音の頭を掴んだ。瞬間、桜が急いで止めに入ろうとした。

 「大神! やめろ!」

 桜の制止の言葉を聞いてから数秒後、大神は寧々音を掴んでいた手の力を抜いた。そして、ぽんぽんと頭の上に二、三回優しく手を置いた。

 「すみません、先輩。人違いでした」

 その後、大神はその場を去った。桜は大神の行動に怒りを示しながら共に去っていった。その場に残った神田先生と寧々音は頭に疑問符を浮かべ、優は腕を組んで大神の背中をずっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああ……ナァニ?」

 その日の夜。満月が輝く中、都内の工事現場に組み立てられた鉄骨の上に一人の少年が座っていた。少年は左手に煙が出ている煙草を持ち、右手で携帯電話を耳に当てていた。おそらく電話がかかってきたのだろう。

 「……わかってる。悪人(ゴミ)掃除だろ? どうせ一人や二人。オレ一人で楽勝……え? 大神 零と? ……それにあいつも? ……わかった。構わないヨ」

 そう言うと、少年は電話を切った。そして、左手に持っていた煙草を口まで運び、煙を口から吐き出した。

 「ちょうどいいヤ、大神。オレ様が教えてやるヨ。この『コード:ブレイカー』の刻様がテメエの非力さをナ。それと、あいつ。あいつには、犬野郎に出番はねぇってことを改めて思い知らせてやるヨ……」

 月明かりに照らされた少年の顔。金色の右目と銀色の左目が妖しく光った。




第一話ですが結構地味な感じです。まあ、『コード:ブレイカー』についてはあまり触れなかったこととCODE:BREAKERの代名詞とも言える異能に全く触れなかったことが原因でしょう。
次回からはそういう部分も少しずつ出てきます。
では、また次回。


【挿絵表示】



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