今回から『捜シ者』篇でございます。
『捜シ者』篇は長いので「序・中・終」の三部構成でいこうと思います。
第一回の今日は大人気のあの方が登場です。
それでは、始まるにゃん!
code:12 つかの間の休息
人見の事件から数日後。人見の事件は“エデン”の情報操作によって隠蔽された。総理処刑の映像はハッカー集団の仕業でそのハッカー集団は全員逮捕。爆発はガス管の破裂と報道された。
そして、今の季節は夏。大神たちの通う輝望高校でも夏服に衣替えとなった。しかし、それでも変わらないものはある。その一つがここにあった。
「グレート☆シャイニングですねぇ」
「そうですね」
輝望高校の屋上。そこでティーセット一式を広げてお茶を楽しんでいるのは、夏だというのにガッチリと冬服の学ランを着た平家。そして、平家に対してちゃんと夏服を着ている優だった。
今はちょうど昼休み。二人は屋上で優雅にお茶会を楽しんでいた。
「しかし、こうして優君とお茶をするのは久しぶりですね」
「確かにそうですね。大神が休みの分、オレにも仕事が多く回ってくるので」
優の言う通り、大神は人見の事件の後は休養をもらっていた。その分、大神が担当するはずだった仕事が他の『コード:ブレイカー』に回っているというのが今の状況だ。
「オレとしては構わないんですが、平家さんとお茶をする回数が少なくなっているのは残念です」
「おや。嬉しいことを言ってくれますね、優君。照れてしまいます」
「ハハッ。本心ですよ」
微笑みを浮かべながら紅茶を飲む優。普段の彼なら、まずこんな表情は見せない。学校でも仕事でも彼は無表情でいることが多い。そんな優が笑っているのだから、優が持つ平家への信頼の高さがよくわかる光景だった。
平家も優と同じように微笑みを浮かべながら愛読書である官能小説を読みつつ紅茶を楽しんでいた。しかし、急にティーカップを置き本も閉じた。そして、ゆっくりと優のことを見た。
「ところで優君。少し聞きたいことがあるんですが」
「……なんですか?」
平家の様子を見て、優も持っていたティーカップを置き平家を真っ直ぐと見た。先ほどまでとは違い、真剣な雰囲気が周囲に漂い始めた。そして、平家はゆっくりとその口を開いた。
「『あの力』についてです」
「!」
『あの力』。そう聞いた瞬間、優は目を見開いた。平家はそんな優に構わずに話を続けた。
「ふと気になったのですが、『あの力』はもしかして人見にも?」
「……ええ。彼がまだ『コード:ブレイカー』だった頃に」
「そうですか。では、人見は知っていたんですね。『あの力』の存在を」
「……『あの力』について初めて話したのは人見さんだったので。人見さんが『コード:ブレイカー』を離反してしまったので、平家さんにもお話ししましたが」
「なるほど。そういうことでしたか」
そう言うと、平家は再び本を広げティーカップを口にした。どうやら『あの力』についての話はもう終わりらしい。優もティーカップを口にする。すると、再び平家が口を開いた。今度は本を読んだままだ。
「そういえば、『彼女』には伝えたんですか? 人見のことを」
『彼女』と聞いて、優の眉間に少ししわが寄った。しかし、平家の前だからかすぐに元に戻った。
「……伝えましたよ。あの日のうちに」
あの日、というのは人見の事件があった日のこと。そのことを思い出したからか、優の表情が少し暗くなった。
「そうですか。『彼女』はなんと?」
「『残念だったね』、と」
「『彼女』らしいですね」
「……そうですね」
その瞬間、突然携帯のバイブ音が聞こえてきた。そして、優が内ポケットから携帯を取り出した。
「すみません」
「いえ、大丈夫ですよ。誰からですか?」
優が画面を見て相手を確認する。画面に表示された番号を見て、優は少し驚いた。
「この番号は……大神からです」
「ほう。大神君から優君に電話とは珍しいですね」
「そうですね。では、少し失礼します」
「ええ」
優は小走りで屋上に入るドアの所に行きドアの向こうへと消えた。平家は優が行った方向を見ながらポツリと呟いた。
「優君……。やはり君はタイミングさえ合っていれば、人見の跡を継いでいたかもしれませんね」
人見の跡を継ぐ。それは『コード:01』になる、つまりエースになるということを意味している。しかし、それを信じる者は誰もいないだろう。おそらく当の本人である優も否定する。それでも、平家はそう思っていた。その根拠は不明だが。
すると、優がドアを開いて平家の所に戻ってきた。
「すみませんでした」
「大丈夫ですよ。それで、大神君はなんと?」
呟きの時とは違い、柔らかな笑顔を見せる平家。彼に対して、優は淡々と内容を告げた。
「
「おや、そうですか」
遊騎、というのは彼ら『コード:ブレイカー』にとって仲間……同じ同業者のこと。大神、刻、平家、優以外の『コード:ブレイカー』だ。
「それで、遊騎が腹をすかしているみたいだから奢ってやってほしい、だそうです」
「そうですか。では、行ってくるといいでしょう」
「いいんですか?」
「構いませんよ。“エデン”には私から連絡しましょうか?」
平家の言葉に優はしばらく顎に手を当てて考えた。そして、考えがまとまると再び平家のことを見た。
「いえ。遊騎に話を聞いて必要そうだったらオレから連絡します」
「そうですか。ではお願いします」
そして、優は携帯を内ポケットにしまい、平家に向かって頭を下げた。
「それじゃあ失礼します」
優は再びドアの向こうに消えた。階段を降りる音が段々小さくなっていく。その後、平家は一人で紅茶と読書を楽しんだ。
「ここか……」
平家と別れた後、優は遊園地に行った。大神の話ではここに大神、桜、刻、遊騎がいるらしい。経緯としては、刻が大神を訪ねて来たため、大神となぜか桜も一緒に早退。そこで偶然にも遊騎を見つけた、ということらしい。ちなみに、異能を使ったのでそんなに時間は経っていない。
「しかし、広いから探すのも一苦労だな……」
優は周囲を見渡しながら言った。平日の昼なので人はそんなに多くはないがなにぶん広い。そのため、探すだけでもそれなりの労力を要する。
「まあ、まずは行動だな。まずは向こうに……ッ!?」
優が行動を始めた瞬間、いきなり体が重くなった。いや、体が重くなったというよりは何か負荷がかかった。それも、何かが乗っかったというよりは何かに掴まれている感覚。視線を自分の腹部に落とすと、誰かの腕が自分の腹部をがっちりと掴んでいた。優は警戒しながら後ろを見た。
最初に目に入ったのは燃えるような赤い髪。そして、だらしなく伸ばされた足。うつ伏せ状態のため顔は見えないが優はその特徴だけで誰だかすぐに理解した。そして、その人物の名前を呼んだ。
「重いぞ、遊騎」
「……ななばん、遅いねん。腹減ったわ。早よなんかおごって」
優に名前を呼ばれた人物……
「それで遊騎。何日食べてなかったんだ?」
「3日」
「“エデン”から支給された家は?」
「どこだか忘れた」
「サイフは?」
「どっかいった」
「携帯は?」
「欲しい言うおっちゃんにあげた」
遊園地の売店の前にあるテーブル。そこに大量の食べ物を置き、その食べ物を食べまくる遊騎に優は連続で質問した。遊騎は食べながらではあるがちゃんと答えた。すると、大神が仕方なさそうな顔で口を開いた。
「……遊騎。どうしてそんな状態なのに最後の100円までクレーンゲームに使ったんですか?」
実は、大神は優に電話した後、優が来るまで遊騎にある質問をしていた。それは「所持金はないのか」というものだった。それに対する遊騎の返答が「クレーンゲームに使った」というものだったのだ。
大神の問いに、遊騎は大神の方を見ずにまるで遠くを見ているかのように呟いた。
「……だって、『にゃんまる』好きやし」
それを聞いた刻が頭をかきむしり始めた。そして、座っていたベンチから立ち上がって遊騎を見た。ちなみに、今の刻は閉成学院の夏服を着ているが子供の姿。つまり、ロストしているのだ。
「お前! やっぱり頭のネジ一本抜けてんじゃねーの!? あんな所で寝るとかありえねーし! お前がオレより上なんてサギだろサギ!」
実は大神たちが遊騎を見つけた時、遊園地のゲームコーナーの床でキャラクターのぬいぐるみの山に頭を突っ込んで寝ていたのだ。それを桜が助けようとしたのが遊騎を見つけるきっかけになったのである。
そして、刻が言ったように遊騎のナンバーは刻より上だった。遊騎は『コード:03』。『コード:02』である平家、元『コード:01』の人見などを見ると、ナンバーが上の『コード:ブレイカー』はどこか威厳のようなものが感じられる。しかし、当の『コード:03』遊騎は……。
「…………」
「ネジを探すな! 比喩表現だっつーの!」
「…………」
「大神にも優にもねーから! ホントお前わけわかんねー!」
自分の髪をかき上げて頭のネジを探し、当然ながら見つからなかったので大神と優の頭を調べ始めていた。威厳の欠片もない行動である。
大神と優の頭を一通り調べて満足したのか、遊騎は腹をかきながらライオン型の置物に座り、そのまま横になった。
「うん。ハラいっぱい。おやすみ」
「だからこんな所で寝るなって!」
刻が短い腕を振り上げて怒鳴った。しかし、遊騎はあっさりと熟睡してしまった。そんな遊騎を見ていた優は大神の方を見た。
「ところで、なんで刻はお前を訪ねてきたんだ? ロストしてるし」
「さあ、知りませんね。ロストに関してはバイトの量が増えたからだそうですが」
「……なるほど。その文句を言いに来たってことか。しかし、大神。お前だって金はあるだろ。なんでわざわざオレを呼んだ?」
「あいにく持ち合わせが少なかったので。なにぶん学生ですから」
「オレだってそうなんだが……。まあ、いい」
頭をかきながら優は立ち上がった。そして、内ポケットから携帯を取り出した。
「“エデン”に連絡ですか?」
「ああ。見事に全部無くしてるみたいだからな。まあ、5分もあれば全部揃う──」
「今はバイトはしーひん」
突然、遊騎が起き上がった。そして優の手から携帯を取り電源を切った。
「今日はろくばんの家に泊まる」
優に携帯を返すと大神を見ながら遊騎は言った。それを見て、優は携帯を内ポケットにしまい、大神はため息をついた。
「……わかりました。あなたの好きにするといいですよ、遊騎」
それを聞いて、遊騎は万歳していた。その様子を見て、桜は驚きを隠せないようだった。
「珍しいな。大神が人の言うことを聞くなんて」
確かに大神の性格を考えると、彼が人の言うことに素直に従うというのは珍しい。行動からは感じられないが、大神は大神なりに遊騎から威厳を感じているのかもしれない。
すると、再び座った優が遊騎に話しかけた。
「なあ、遊騎。何で大神の家なんだ? 別にオレの家でもオレは構わないぞ」
「……ななばんの家じゃダメやねん。オレ、ろくばんが一番欲しいお土産持ってきてん。楽しみにしててな。……ZZZ」
「目を開けたまま寝るなー!!」
「…………」
言いたいことを言った遊騎はそのまま寝息を立て始めた。それを見た刻がまた怒鳴り、桜は遊騎を不思議そうに見ていた。
(バイトをしたくないとは……。大神、刻君、平家先輩、夜原先輩と個性は違えど各々偽りの生活をキチンと維持し最優先でバイトをこなしている。なのに遊騎君はみんなより年下のようだが学校にも行ってないようだし……。本当に『コード:ブレイカー』なのだろうか……)
「あげる」
「え?」
桜の考えはそこで中断された。いつの間にか起きた遊騎が目の前に立ってぬいぐるみを差し出してきたからだ。それは、遊騎が最初に頭を突っ込んでいたあのキャラクターのものだった。
「さっきオレのこと本気で心配してくれたやん。だから『にゃんまる』あげる」
猫のようにピンと立った耳、赤を主としたシンプルな服、「にゃんまる」と書かれた旗を背中に掲げ、右手には猫じゃらしのようなものを持っている。これは今、子供を中心に大人気のキャラクター「にゃんまる」である。先ほどから遊騎が言っている「にゃんまる」とはこのキャラクターのことで、遊騎は「にゃんまる」が大好きだった。桜はこの『にゃんまる』のことは詳しく知らなかったが、笑顔でそれを受け取ろうとした。
「おお。では、ありがたく頂戴す──」
しかし、突然現れた不良たちによってそれは叶わなかった。
「遊騎君!」
後ろから歩いてきた不良たちの一人の肩にぶつかった遊騎は、バランスを取れず倒れた。桜は助けようと遊騎に駆け寄る。
「熱っちいい! なにしやがんだコノ野郎!」
「マサさんのコーヒー代弁償しろよな! 5万円だコラ!」
不良たちが遊騎を睨みつける。肩がぶつかった不良の顔には、コーヒーがほんの少し付いていた。どうやら持っていたコーヒーがぶつかった衝撃でこぼれたようだ。
「5万円だと!? そんなバカな!」
「ああ!? 全部こぼれちまったんだ! 払いな!」
遊騎に代わって必死で不良たちに抗議する桜。一方、遊騎は倒れたまま、地面に落ちてコーヒーがかかった「にゃんまる」を呆然と見ていた。
「にゃん……まる……」
ポツリと、力なく遊騎は呟いた。
「ゴチャゴチャうっぜえんだよ! このアマ!」
こちらはこちらで、不良が桜に殴りかかろうとしていた。桜の武道の腕を考えると問題はないだろう。しかし……
「大神?」
大神はそれを止めた。その顔に一筋の冷や汗を流しながら。
「んだテメエ! 邪魔するとテメエから先に地獄見して──」
「死にたくなければ早く逃げてください」
「あ?」
次の瞬間、不良が大神と桜の前から消えた。地面に殴りつけられたのだ。それをやったと思われる少年はどす黒いオーラを放ちながら地の底から唸るような声を出した。
「お前ら全員そこに一列にならべ……。はじから順番に、ブチ殺ス。」
やったのは他でもない遊騎だった。先ほどまでのどこかのほほんとした雰囲気は一切なく、殺気を溢れさせえていた。
「ブチ殺ス!!」
「「ギャアアアア!!」」
残った不良たちが殴られて気絶している不良を抱えて逃げた。さらに、逃げたのは不良たちだけではない。大神、刻、優、わけがわからない桜も逃げていた。
「大神、あれは一体……?」
「遊騎の地雷を踏んでは駄目です。ああなると誰にも止められません。しかも……」
「てっ」
桜に尋ねられた大神が説明していると刻が転んだ。子供の体だとやはりいつものようには動けないようだ。その時の背後にいた遊騎がゆっくりと刻を見下ろした。
「まずはお前からか……。このクサレ『磁力』野郎」
「ま……。や、やめて遊騎く……。ボクは味方……」
「
「きゃああああ!!」
遊騎の容赦ないアッパーを受け、刻はお星様になった。
「無差別に攻撃を仕掛ける……。ある意味、遊騎は最凶の『コード:ブレイカー』かと」
「だな」
「おお!!」
空港。そこは各国へと人を送り、各国から来る人が最初に来る場所である。そこに、異様な雰囲気をまとう3人がいた。
一人はチャイナ服のような服を着た女性。服の上からでも彼女が抜群のスタイルを持っているということがわかった。
もう一人は長袖でフード付きの服をフードまでしっかり被っている褐色の肌をした男性。そんな厚着をしていて、日本の季節は夏だというのにまったく汗をかいていない。
最後の一人は帽子とフードをまとった男性。その身長と体格は、二人より一回り大きいと言っても過言ではない。
「相変わらず湿気臭い所だね。この国は」
チャイナ服の女性が呟いた。そして、彼らは目的地に向けて歩き出した。
「遊騎。あれだけ食べたのにファミレスに入るなんて。まだ足りないんですか?」
「ちゃう。ここで『にゃんまる』フェアやっててな。応募券2枚で『にゃんまる』シール。応募券5枚で走る『にゃんまる』くん。10枚でゴールデン『にゃんまる』が当たるんや」
遊騎が指差す先。会計脇の棚の上には黄金に輝く巨大な「にゃんまる」があった。
「い、いらねー!!」
「心配せんといてな。ゴールデン『にゃんまる』は絶対に当ててよんばんにあげるわ」
「いらねーつってんだろ!」
「ろくばんは6番やからシールで堪忍な」
「…………」
「ななばんもシールやな」
「…………」
自由奔放に行動する遊騎。刻にゴールデン「にゃんまる」をあげると宣言し、大神と優の顔にシールを貼り、再び食事に戻った。そもそも彼らがファミレスに移動したのはこの遊騎の奔放さが原因だった。キレて刻をお星様にした遊騎はどこかへ消えてしまい、なんとか戻って来た刻と一緒に大神たちは遊騎を探していた。そして、「にゃんまる」フェアをやっているこのファミレスで食事をしているのを見つけたというわけだ。それを特に気にすることもなく食事を続ける遊騎を見て、桜は難しい顔をしていた。
「むう……。なあ、大神。遊騎君は本当に『コード:ブレイカー』なのか? とてもそうは見えないのだが……」
「遊騎は自由奔放。誰にもコントロールできないんです。その性格も異能も『コード:ブレイカー』で唯一の存在ですから」
「大神。その顔で語ってもピンとこないと思うぞ」
「ほっといてください。というより、あなたに言われたくありません」
桜の質問に答えた大神だったが、いつの間にか顔にシールを貼られた者同士である大神と優の言い合いになっていた。大神に聞くのを諦めた桜は遊騎本人に話を聞くことにした。
「なあ遊騎君。さっき『バイトはしーひん』と言っていたな。あれはなぜだ?」
「だって“エデン”嫌いやし」
予想外の答えが返ってきた。『コード:ブレイカー』にとって“エデン”は上層部。その“エデン”が嫌いだと言うのだ。
「“エデン”が嫌いなのに『コード:ブレイカー』をやっているのか? やはり遊騎君にも目的があるのか? ……その、言いたくなければ別にいいが」
「“エデン”が嫌いやから“エデン”の下についとるんやし」
「え? それはどういう……」
「おめでとうございます! ゴールデン『にゃんまる』! 最後の一つでした!」
桜の言葉は突然の大声によって阻まれた。どうやら誰かがゴールデン「にゃんまる」をゲットしたらしい。ゲットしたのは妊婦と小さい子共だったが遊騎は彼らに対してブチギレし、桜、刻、優によって止められた。
「そや、ろくばん。思い出したわ。ろくばんへのお土産。お土産話や」
あの後、何とか遊騎をなだめた大神たちはファミレスでくつろいでいた。和やかで平和な雰囲気だったが、遊騎の言葉によってそれは一変した。
「あいつが、『捜シ者』がココに戻って来とるよ」
「!」
『捜シ者』。それは大神が『コード:ブレイカー』になった理由とも言える男だった。遊騎の話では、その『捜シ者』が日本に戻ってきたというのだ。多くの危険分子を引き連れて。実はこのことは刻と優も知っていた。というより、大神を除く『コード:ブレイカー』は全員知っていた。大神に知らせなかった理由は「見境がなくなる」からだ。実際、大神の前で『捜シ者』の名前を出すと大神からは尋常じゃない殺気を感じる。だから“エデン”は大神の耳には入れないようにしていたのだが、遊騎にしてみればそんなのは関係ないようだ。
「あ~あ。言っちまいやがった。どこまで遊騎は奔放なんだヨ」
「まあ、こうなった以上仕方ないだろ」
「刻君!? 夜原先輩も知っていたのですか!?」
「仕方ないでショ。大神は『捜シ者』のこととなると見境なくなるし」
「…………」
大神は反論するでもなく、ただ黙ったままだった。すると、遊騎が再び喋りだした。
「そうはいかへんのや。今回は」
「は?」
「あのな。今回の『捜シ者』の『
「……!」
大神が目を見開いた。優と刻もそれは知らなかったようで表情が硬くなった。
「あらあら、驚いて声も出ないとは驚きねぇ……。これで『コード:ブレイカー』だというのだからリリィの方が驚きよ? 大神 零」
「な……!?」
大神の背後の席。そこにいた女性からの言葉に桜は席を立ちあがる。女性はチャイナ服のような服を着たスタイルの良い女性だった。大神は目だけ動かして尋ねた。
「……誰だ、キサマ」
「あら……。随分かわいい顔してるわねぇ、大神 零。殺しちゃうの惜しいなぁ……。でも、『捜シ者』の命令だから仕方ないか」
すると、大神は彼女の胸倉を強引に掴んだ。その勢いで女性の服の胸の部分のボタンが外れる。
「『
「せっかちね。そんなに焦っちゃダ・メ・よ?」
リリィが指を鳴らした。その瞬間、店内にいた大神たち以外の人間全員が銃を大神に向けて構えた。店員も客も関係なしだ。おそらく全員リリィの部下だろう。
「遊ぶんならたくさんで遊ぼうよ。ねぇ、大神。このリリィのために死んでくれる?」
その瞬間、彼らの平和な時間は終了し新たな戦いの幕が開こうとしていた。
CODE:NOTE
Page:5 『コード:エンド』
異能者が異能を使い続けると起こる現象で異能の終わり。徐々にロストの間隔が短くなり、最終的には自らの異能が暴走して異能者自身を喰らう。過去の『コード:ブレイカー』の中にはこの『コード:エンド』によって亡くなった者も多くいたが“エデン”はその事実を隠してきた。
※作者の主観による簡略化
中二的に言うと「力の代償」。