別作品でも書きましたが、しばらく投稿できなくなります。
そのため、今日の投稿にエネルギーを注ぎ込みました。
今回で最初の番外篇は終わりです。(活動報告にネタが全く集まらないのは信用がない証でしょうか……)
とにかく、最後を務めますは夜原先輩です!
今までご無沙汰だった分、薄い本ができてもいいくらい人見と関わらせます!(オイ)
ちょっとグロテスクな描写とやり過ぎなところもあり、さらに長いです!
それだけ一生懸命やったということで許してください!(泣)
では、どうぞ!
陽が落ち、月のみが照らす闇に支配された夜の世界。その中でも特に闇の支配を受ける場所がある。それは山だ。木々に生い茂った葉によって月光は遮られ、ただでさえ淡い唯一の明かりがほとんど届かなくなる。この時間、そんな場所に“人”などいるわけがない。
いるとすれば、この世の道理から外れた“悪”だけだ。
「くそ!」
闇に支配された山中を下に向かって自動車で疾走する男。無精ひげを生やしており、その見た目から中年だと判断できる。
彼は逃げていた。自分の場所を襲ってきた敵から。車に木の枝がかすろうが関係ない。ただ木と正面衝突して止まらなければいい。男はそう考えながら山を降りていた。
「一体、どこから情報が洩れやがった! ……ええい! 今はそんなことはいい!」
男は自分の場所を襲ってきた敵がどうやって場所を突き止めたのか考えたが、軽く興奮状態にあるため正常な思考ができなかった。男はすぐに考えるのを諦め、全神経を運転に集中させた。
そして、それから数分が経った。
「ハア、ハア……。ここまで来て追ってくる車もねえ……」
時間の経過と周囲に追っ手と思われるものが無い状況に男は安心した。そして、安心することによって興奮状態も落ち着き、男は敵に襲われた時のことを思い出していた。敵のシルエットに敵の声。そして、敵の準備の悪さを。
「しかし、あいつは誰の命令で来やがった……? 顔は暗くて見えなかったが、声の感じからして男だろう……。だが……とんだ馬鹿のようだ。逃げる時に見てみたが、辺りにはオレの車しかなかった。てことは、あいつは徒歩でここまで来た。だが、こっちは車。……ハハ! なんだ、慌てることなかったな!」
逃走……つまりその場での勝利を確信して大笑いする男。車などの移動手段を持っていなかった敵に、自分が今まで移動した時間が彼の勝利を後押ししていった。
しかし、その勝利は一瞬で遠いものとなる。
「どわぁ!」
急に車体が揺れた。まるで外から強い衝撃が加わったかのように。男は気づかぬうちに木にぶつかったと思い、急いでブレーキペダルを踏んだ。急ブレーキをかけたことにより、タイヤが下の土を勢いよく後ろに放つ。数秒後、ガクンと軽く車体が揺れ車は止まった。男はすぐに車から降りて原因を調べる。ボンネットや前輪がある前方部分に異常は見られない。男は後方部分に移動した。すると、左後輪に異常を見つけた。
「な、なんだこれは!?」
男が見たのは変わり果てた左後輪。握り拳ほどの大きさの石がタイヤにめり込んでいるのだ。それは明らかに側面からぶつかったようだったが、男の理解が追い付かない。
「一体どうなってんだ! 誰がこんなこと────!」
「教えてやろうか?」
瞬間、“悪魔”の囁きが男の耳に響いた。
「う、うわあああ!」
男は突然背後に現れた人物に驚き、その場で向きを反転させ尻餅をついた。向きを変えたことで背後に立った人物が目の前に見えるが、月光を背に立っているため顔が見えない。
「ち、近づくんじゃねえ!」
男は咄嗟に内ポケットに手を入れた。そして、中から闇に紛れるほど黒い物体を取り出し、目の前に立つ人物に向けた。そして、黒い物体……拳銃の引き金を夢中で引いた。
「死ね! 死ね! 死ねぇぇぇぇぇ!!」
しかし、男の銃弾は一発として当たることは無かった。的外れな方向に向かっていったわけではない。ただ、目の前に立つ人物が全て避けているのだ。人とは思えないほど素早く、的確に。人の目ではとらえることすら難しいスピードの銃弾を、少しもかすることなく。そして、目の前に立つ人物にかすり傷一つ負わせることなく、男の銃弾は底を尽いた。
「な、なんだ! なんなんだ、お前は!」
男の体はガクガクと震え、次々と冷や汗が噴き出ていた。圧倒的な恐怖により、男の体も異常を示していた。それに対して、何事もなかったかのように落ち着いた様子を見せる目の前の人物。
「生憎だが、“
「ば、化け物がぁぁぁ!!」
「化け物で結構だ。もう……楽になれ」
そう言うと、男の頭部を掴む彼の手に力が込められた。瞬間、男の頭がい骨がミシミシと音を立て始めた。
「目には目を 歯には歯を 悪には無慈悲なる裁きを」
彼……夜原 優による裁きの完了を祝うかのように、割られた男の頭部から鮮血が溢れ出た。
「…………」
血でベッタリと汚れた自分の右手を見ながら立ち尽くす優。彼の足元には先ほどまで恐怖で怯えていた男の死体が転がっており、彼が殺したというのは明らかだった。まあ、実際にそうだからいいかもしれないが。優は足元に転がる男の死体を見下ろした。そして────
「おっと」
体の位置をずらし、後ろから現れた男をやり過ごした。
男は避けられたことで体勢を崩すが、すぐにバランスを取り二本足でその場にしっかりと立った。
「ひどいなぁ、優。避けるなんて」
「後ろから気配消した人が近づけば避けるに決まってるでしょう。……人見さん」
優は目の前に立つ男……人見を呆れた表情で見た。人見は頭をかきながら「ハハハ」と笑う。
「それもそうだね。じゃ、後始末は“エデン”のエージェントがやるだろうから帰ろうか」
「そうですね。行きま──え?」
人見に言われ、歩き出す優。すると、人見が笑いながら右手を挙げていた。彼が求めていることを理解すると、優は自分の右手を見てから言った。
「……汚いですよ?」
「構わないよ」
「はあ……」
優はため息をつくと、人見と同じように右手を挙げた。
そして、二人は互いの右手を叩いた。
「お疲れ様、優」
「ありがとうございます、人見さん」
「どういたしま──」
その瞬間、人見は倒れた。あまりにも急すぎる展開に優は心配して人見に駆け寄る。
「人見さん!? 急にどうし──!」
しかし、彼の心配は徒労だったとすぐにわかった。
「……ZZZ」
「ロストかよ!」
その後、優は人見を背負って山を降りていった。異能を使っているため苦労することはなかった。その道中、優は少し首を動かして人見の顔を見た。涎を垂らしながら幸せそうに寝ており、その姿を見て優はフッと微笑んだ。
「……まったく。頼れるんだか、頼りないんだか。……けど、そんなあなただから『01』なんでしょうね。……おやすみなさい、人見さん」
それは、まだ彼らが共に戦っていた頃の話────
「人見さん、神田です。入ってもよろしいでしょうか?」
「ん? ああ、構わないよ」
“エデン”が管理するビルの一室に二人のやり取りが響いた。人見が許可すると、“エデン”のエージェントである神田は「失礼します」と言ってから部屋に入った。
「人見さん、言われた通り優さんのデータを持ってきました」
「ありがとう、神田」
人見は神田から一枚の紙を貰い受けた。そこには、優の顔写真と彼の詳細な情報が載っていた。“エデン”が管理している『コード:ブレイカー』個人のデータだ。今まで行った裁きや異能について載っている。人見は優のデータを見ながら何やら考えていた。すると、神田が人見に尋ねた。
「人見さん、なぜ急に優さんのデータを見たいなんて仰ったのですか? 何か気になることでも?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、彼の異能についてね」
「『脳』……ですか?」
首を傾げた神田に、人見は「そう」と言ってデータを神田に返した。そして、その場で指を組んでその上に自分の顎を乗せた。
「データを見て確信したよ。彼の異能は非常に癖が強い。だが、彼はそれを見事に使いこなしているってことがね」
「『脳』は有効な相手が限られている分、その有効な相手に対する効果は絶大ですからね。……“エデン”は対異能者戦も対応できるようにと思っているようですが」
「対異能者戦……か」
神田の言葉に人見はスッと目を細めた。そして、彼の脳内にはある映像が浮かんだ。それは、優が『コード:ブレイカー』として特別に認められた日から数日経ったある日のこと。
『あの力』について優自身から話された時のことだ。
(データにも『あの力』のことは載っていない。となると、やはり『あの力』について知っているのは優と私だけ……か)
「人見さん……?」
急に黙ってしまった人見を心配して、神田は人見の肩を軽く揺すった。揺すられたことで人見は正気に戻り、笑顔で神田の方を見た。
「ああ、ゴメン。今日は助かったよ、神田」
「当然のことをしたまでです。あ、それと人見さん」
「なんだい?」
「もうすぐ優さんとの仕事の時間です。そろそろ向かわれた方がいいですよ」
「もうそんな時間か。ありがとう」
人見は神田に礼を言うと、その場から立ち上がった。すると、神田はクスクスと笑いながら人見に話しかけた。
「時計を持っていないからですよ。時間に縛られるのが嫌いと言わず、今後のためにも持っておいた方がいいですよ」
神田の言葉を聞くと、人見はその動きをピタリと止めた。人見は自分の時計を一つとして持たない。その理由は、彼自身と彼の同志しか知らない。もちろん神田の言う通り、時間に縛られるのが嫌いというのもある。だが、それ以上に大きい理由があった。
「……神田」
「はい」
「君にとって……時計とは何だい?」
「え?」
人見の急な問いかけに神田は目を丸くした。神田は頭の中で試行錯誤して答えをまとめると、自分の右腕にあるデジタル式の時計……幼い頃に人見から貰った時計にそっと手を添えた。
「時計自体は時間を教えてくれる便利なものだと思ってます。……
「神田……」
何年も前に自分があげた時計。それを未だに身に着けてくれている神田。彼女の思いを身に染み込ませながら、人見はドアノブに手をかけた。
「……ありがとう、神田。でも、私には
「人見さん……?」
人見はそれ以上語ることはなく、ゆっくりと部屋の外へ出てドアを閉めた。
「よし、ここで待つとしよう」
「わかりました」
夜となった森の中で、人見と優は一本の木の上で待機していた。森というのも山と状況は似ており、生い茂った木々の葉のせいで月光が差し込みにくい。そんな視界が悪い中、二人は前方に建っている木製の小屋を注意深く見ていた。
「今回のターゲットはあの小屋を本拠地として今まで何人もの人を殺害している。小屋は元々、森に迷った人のために建てられたものらしい。……今となっては森以上に恐怖を感じる場だろうけどね」
「そうですね……ん?」
「来たか……」
人見との会話の途中で優は下に気配を感じた。見てみると、ターゲットである男が辺りを注意深く見ながら歩いていた。よく見ると、口が縛られた袋を肩に担いでいる。
「何か持ってますね……」
「それなりに大きいな……。おそらく生活のための食料や水だろう」
人見の予想は的を得ていて、このように人里から離れた場所を本拠地にするには食料と水の補給が不可欠だ。定期的に大量にそれらを用意するというのは、このような犯罪者にとっては普通のことだ。
「行きますか?」
「いや、少し待とう。彼が小屋に入って十秒ほど経ったら行こう。油断させれば成功率は上がる」
「人見さんがいる時点で成功は確実だと思うんですけどね……」
「ハハ……」
ターゲットを前にしながら談笑する二人。しかし、その間もターゲットから目は離さない。辺りを注意深く何度も見渡す男。何度も辺りを確認しながら小屋の扉を開ける男。そして、男は小屋の中に入ろうとした。
その瞬間、『脳』の異能によって視力が強化された優には男の顔がしっかりと見えた。
バタンという音と共に扉を閉める男。それを見て、人見はスッと目を細める。
「よし。十秒経ったら突入しよう。いいかい? 絶対に油断せずに……優?」
人見は気づいた。優の様子が何やらおかしいことに。目は見開かれ、小屋の扉をただジッと見ていた。その時、優の頭の中では先ほどの男の顔が浮かんでいた。狂気染みた……歪んだ笑顔を。
(なぜだ……? なぜ、あいつは笑っていた……? 何かあるのか? 何か……)
瞬間、優の頭の中には男が持っていた袋が思い浮かんだ。それなりの大きさを持った袋。食料と水が入っているならば一週間は確実に過ごせるほどの量が入るほどだった。
人に例えるなら……子供がすっぽり入るような。
「──ッ!」
「優!?」
最悪の予想が浮かんだ瞬間、優は体に電撃が走ったような衝撃を覚えた。そして、人見の指示を待つことなく木から飛び降り、小屋に向かっていった。上で人見が叫んでいるが優は止まらない。
そして、優は小屋の扉を乱暴に開けた。
瞬間、優の視界に鮮血が映った。
「ああ……? なんだよ、人がせっかく楽しんでたのに……」
突然入ってきた優に驚くような素振りは見せず、ゆっくりと優の方を向く男。その手には、真新しい血に染まるナイフが握られていた。
「優! 一体何が……ッ!」
優の後ろから人見が走ってきた。そして、目の前の惨状を目の当たりにした。目の前にいるのは血に染まったナイフを持つターゲットである男。その足元には……体中に刺された跡をつけられた幼い子供がいた。
「まさか……あの袋の中に……」
「そうだよ……。本当は食い物と水を盗りに行ったのに、指名手配か何かでオレの顔を見てやがったのか、このガキが騒ぎ出してよ。うるせえから殺すことにしたんだ」
「そんな理由で……!」
怒りに震える人見。それに対して男はニヤリと笑い、言葉を続けた。
「もちろん理由はそれだけじゃないぜ? 最近ガキを殺すのはご無沙汰だったんだ。このガキもオレのストレス解消に協力できたんだからいいんじゃねーの? このガキは天国に行けてオレはスッキリだ! みんな幸せだろーが!」
「貴様! それ以上──!」
声を荒げる人見。しかし────
「ごはぁ!」
その言葉が向けられた男は人見の言葉の途中で消えた。
いや、消された。
「優……」
一瞬で男の目の前まで移動し、男を壁の向こうまで殴り飛ばした……優によって。
「ガ……ハ……」
優に殴り飛ばされたことで、男はすでに虫の息となっていた。しかし、優はゆっくりと男に近づいていく。その途中、殴り飛ばしたことで壊れた壁の残骸から、先が鋭く尖った木材を見つけて手にした。そのまま倒れた男の目の前まで移動した。
「ま、待ってく──」
そして、容赦なくその木材で男の顔を潰した。目玉は潰れ、耳は血を噴き出しながら男の顔から離れていった。頭蓋も割られ、脳と血が辺りにびちゃびちゃと飛び散っていく。
「──死ね」
ただ一言、そう呟いた。すると、優は残骸がある場所まで戻り同様の尖った木材を何個も持って男の近くまで移動した。そして、その木材を使って男の体を次々と潰していった。
血が、骨が、内臓が。先ほどまで一つの形として成り立っていた男の体は次々と無残な肉塊へと変わっていった。飛び散ることなく潰れた臓器から腐ったような異臭が放たれるが、優は一向にその行動を辞めようとはしなかった。
「優!」
優の異常な行動に、人見も血相を変えて彼に駆け寄った。その時、彼は気づいた。
優が……壊れてしまっていることに。
「死ね…………死ね……死ね……死ね、死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ」
まるで呪文のように「死ね」と繰り返す優。その姿はまさに、“狂気”そのものだった。
「やめろ!」
人見は優に止めようと彼の腕を掴んだ。しかし、それはあっ気なく破られた。
「ぐあ!」
優に勢いよく振り払われたことで人見は飛ばされた。後ろにあった木に背中が叩きつけられ、体中に激痛が走った。
(振り払われただけでこれほど……! なんて力だ……!)
痛みによって狭まった視界の中、未だに男の死体を潰し続ける優が映った。その彼の姿を見て、人見は覚悟を決めた。
次の瞬間、彼らがいた場所に雷が落ち轟音が響いた。
「迷惑をかけて……申し訳ありません」
「いや、構わないよ」
都内でも有名な病院の個室。そこには患者用の服を着てベッドに座る優と頭部に包帯を巻いた人見が立っていた。あの時、人見は『電力』によって優の脳に衝撃を与えて気絶させた。そうすることでした、彼を止めることができなかったからだ。その結果、脳に異常ないか調べるため一時的に入院となったのだ。人見はというと頭部と背中に少し傷を負った程度だった。見ただけではわからないが、実は背中にも包帯を巻いているのだ。
「体に異常はないかい? 検査で問題なかったから大丈夫だとは思うけど……」
「特に問題はありません……。人見さんは……?」
「私は大丈夫だよ」
にっこりと微笑む人見。しかし、優の表情は暗いままだった。当然だ。自分の暴走のせいで人見に怪我を負わせてしまったのだから。
そんな優を見て、人見は近くにあった椅子に腰かけた。そして、優の事を真っ直ぐと見た。
「ところで、優。聞いてもいいかな? ……どうして、ああなってしまったのか」
その瞬間、優の体は固まった。しかし、人見は言葉を続ける。
「今度こそ話してもらうよ。君がこうなったのは……これで
人見の言葉に周囲の空気が凍りついた。実は、優がこのように暴走するのは今回が初めてではない。人見は過去に三回、優の暴走を見ている。幸いにも、優が暴走した時は人見と一緒に仕事をしていた時ばかりで、このことを知るのは優と人見しかいない。
「はっきり言って、ここまで来たら放っておくわけにはいかない。いずれ君は私以外の『コード:ブレイカー』とも仕事をするようになるだろう。だが、今の君と彼らを組ませる気なんて私は無い。あまりにも危険すぎる。彼らにとっても、君にとっても。ここで理由をはっきりさせる必要がある」
「…………」
俯いて何も話そうとしない優。人見はため息をつくと、少し声を穏やかにして話しかけた。
「話したくないなら頷いてくれるだけでいい。私の中で予想は出来ているんだ。それならいいかい?」
「…………」
優はゆっくりと頷いた。すると、人見はゆっくりと自分の予想を話し始めた。
「君が暴走した状況には共通していることがある。それは、『コード:ブレイカー』の仕事中であるということと、私と共にいること。……そして最も重要なのが」
人見はスッと目を細め、その声も鋭さを増した。そのまま、彼の口はゆっくりと続けた。
「ターゲットが愉快犯であるということ────」
「…………」
人見の言葉に優は黙ったままだった。ただ黙って、彼の予想を聞いていた。人見もそれをわかっているのか、言葉を続ける。
「それに君が暴走している時の
「…………」
人見が言葉を放つたび、部屋の気温が少しずつ下がっていくようだった。優はそれをひしひしと感じているのか、ベッドのシーツをギュッと握った。
そして、人見は自分の予想の核心部分を言い放った。
「あれは復讐する者の
「──はい」
ぼそりと力無く人見の言葉に頷く優。すると、優はゆっくりと人見の方を見た。
「申し訳ありませんが、これ以上は人見さんでも話したくないんです。……ここからは、オレが『コード:ブレイカー』になった理由にも関わってきますし」
「……そうか」
二人の間を沈黙が支配した。すると、人見は両手をポケットに入れて急に立ち上がった。
「……仕事ですか?」
「ああ。でも、これは私一人でやる仕事だから君はゆっくりと休むといい」
そう言うと、人見はポケットから手を出して優の頭を優しく撫でた。全てを包み込むように大きな手から伝わる暖かな体温を感じ、優は少し安心した。
「自分の目的を達成しようというのは素晴らしいことだ。だけどね、その過程で暴走しては元も子も無いよ。……『彼女』だって悲しむだろうしね」
「…………」
「じゃあね」
人見は手を振りながら病室を後にした。余談だが、この日から優が暴走したという話は人見の耳に入ることは無かった。
死ぬわけにはいかない。彼は以前、エージェントにそう言った。その言葉に偽りは無く、彼は死ぬわけにはいかない。まだ彼には育てなければいけない仲間がいる。共に戦えると信じている仲間がいる。失いたくない仲間がいる。護らなければならない仲間がいる。
だから、彼には
「目には目を」
時間を知る必要はない。
「歯には歯を」
なぜなら……
「──悪には厳正の閃電を」
仲間と過ごした時間は消えることなく彼らの中に刻まれ続けるのだから────
以上、夜原先輩と人見の過去話でした。
夜原先輩の暴走は本編でもいずれ出すつもりです。(Σ(゚Д゚)マジデ!?)
最後の人見の描写に関しては人見との過去話を書くと決めた時点で考えてました。
「最後は人見の言葉だな」って。
だから真のトリは人見さんなんです。
人見を書いてて改めて思いました。カッコイイナーって。
人見の存在は永遠です!
辛くなったら彼の生き様を思い出しながら今後を頑張ります!
次回からの新篇も波乱の展開で大神が狙うあの人がついに登場!
原作でもかなりの盛り上がりを見せた「捜シ者」篇です!
次回の投稿は遅くなりますが、エネルギー溜めて頑張って書きます!
では、また次回になったらお会いしましょう!