学校始まったり色々あったりで更新遅れてすみません……(泣)
今回はかなり妄想成分が詰まっています。
裏話的なものを勝手に考えた感じです。
また、平家先輩の変態さは皆無ですのであしからず。
時間軸としては原作番外編の「electric bird」の次の日です。
では、どうぞ。
それは、『コード:ブレイカー』に彼の同志と呼べる者がいた頃の話────
都市部から離れた場所に建てられた廃ビル。廃ビルというだけで不気味な雰囲気を感じられるが、太陽が落ちて夜となった今はその不気味さも一層増している。そのためか、昼夜を通して周囲の人通りは皆無と言っていいほどだった。
だから、そんな廃ビルの中の一室にいるその男は異常であると言える。
「…………」
男は黙って目の前にあるもの……壁を見ていた。いや、正確には壁に掛けられた大量の時計だ。だが、その時計のほとんどは止まっており本来の役割を果たしていない。その中で唯一、本来の役割を全うしている時計があった。ちょうど男の視線の先にある時計だ。その時計は時計として刻々と時を刻み続けていた。男がだまっているその部屋の中で、その時計が時を刻む音だけが唯一の音となっていた。時計の現在の時刻は午後の11時をすでに過ぎていた。
すると、男はゆっくりと右手を前に伸ばした。まるで、目の前にある時計を掴もうとしているかのように。しかし、男の手は時計には程遠い。
その瞬間、男の右手に『電力』が纏われた。
轟音と閃光の後、部屋は完全な沈黙によって支配された。先ほどまで唯一の音であった時計の時を刻む音すら聞こえない。男の目の前には、他の時計同様にその活動を停止した時計があった。時計には数か所の焼け焦げた跡があり、よく見ると煙が出ていた。時計は壊れていた。よって、その時計は「時計の“今”の時刻を刻んだ存在」となった。
それを男……人見は悲しげな目で見ていた。
「……『コード:06』。君が存在した証は、ここに刻まれているからね」
人見の頭の中には昨日の出来事が浮かんでいた。過去に“悪”の手から救い出し、今では自分たち『コード:ブレイカー』をサポートするエージェントとして共に行動する神田。彼女は人見の手から離れ、新たに一人の『コード:ブレイカー』を「主人」として献身的にサポートすることとなった。それは彼女が一人前となったことを表し、彼女のサポートを受けながら彼女を育ててきた人見にしてみれば嬉しいことだった。
しかし、その朗報の裏には悲しむべきことが存在していた。
神田が「主人」とするのは、新たな『コード:06』。つまり、人見が“今”の『コード:06』として共に行動してきた者がすでに存在しない……死んだということだ。彼は『コード:ブレイカー』だったが、それ以前に17歳という年若い少年だった。
「だから、安心して眠るといい……。たとえ逝き着く先は地獄だとしても……」
逝ってしまった彼を安心させるかのように微笑んだ。しかし、その笑みはとても悲しげな笑みだった。その時、それを指摘する声が人見の後ろから響いた。
「あなたがそのような顔をしていては、彼も安心できませんよ。エース」
「平家……」
「やはりこちらでしたか。あなたは『コード:ブレイカー』が亡くなると、いつもここに来るのでもしやと思ってきてみたのですが」
学ランのような服を着てどこか怪しい雰囲気を漂わせる男……平家 将臣が相変わらずの微笑を浮かべながら人見に歩み寄っていった。その手には大きめの封筒と「束縛の時間」というタイトルの本があったが、本に関しては気にしないことにする。
「参ったね。君には全てお見通しというわけか」
「あなたとは長年の付き合いというものがありますから。あなたの行動の予想なんて簡単ですよ」
微笑みを浮かべながら平家は人見の隣に立った。そして、先ほど止まった時計を人見と共に見た。
「『コード:ブレイカー』が死ぬ度に、あなたはこうして彼らが死んだ時間を刻む……。墓標代わりだと以前は言っていましたね」
「それは今でも変わらないよ。本来は許されないことだけどね」
トントンと指でこめかみを叩く人見。平家の言う通り、彼は墓標代わりとして『コード:ブレイカー』たちが死んだ時間を時計に刻む。しかし、『コード:ブレイカー』は『存在しない者』としてその存在の証を残すことなど許されない。それでも、人見は彼らの証を刻み続けてきた。このことを平家は知っていた。だから、この場所も知っていた。しかし、行為を知っている平家でもわからないことがあった。それは、時間の刻み方だった。
「しかし、一つ聞いてもよろしいですか?」
「なんだい?」
「なぜわざわざ異能を使うのですか? 微量とはいえ、その積み重ねが大事な局面でのロストに繋がるかもしれませんよ」
平家の疑問は尤もだった。人見が時計を止めた時、彼は自らの異能である『電力』を放出した。彼が放出した『電力』は時計に向かっていき、時計に広がっていく。そして、『電力』の電圧で時計の中の機器が狂い、その時計は止まってしまうというわけだ。しかし、時計を止めるだけなら手動でも簡単にできる。むしろ、彼のやり方は手間がかかりすぎているし何より人見自身に負担がかかる。効率を考えれば良い方法とは言えなかった。だからこそ、彼はその疑問を口にした。すると、人見は手をズボンのポケットに入れて天井を見上げた。
「……贐、だよ」
「贐……ですか?」
「彼らは異能を使って悪人を裁いてきた。それこそ、昨日の『コード:06』のようにロストして死んでいった者も多くいる。だから、私はそんな彼らに自らの異能を捧げてるんだよ。この程度、彼らが今まで悪人を裁くために使ってきた異能に比べればちょっとしたものだしね」
「……あなたらしいですね」
優しすぎる。微笑みながら、平家は言葉にせずに自らの胸の中で人見の性格をそう表した。この人見という男は、昔からそうだった。自分の事よりも他人。『コード:ブレイカー』にとって“死”は自己責任だが、彼は死んでいった『コード:ブレイカー』たちのことを思い、こうして自らの異能を捧げている。それは自らの寿命を縮める行為に近いものだというのに。
「……そうだ。平家、私に何か用事があるんじゃなかったのかい?」
「ああ、そうでした。こちらを」
人見に言われて、彼を訪れた理由を思い出した平家は手にしていた大き目の封筒を人見に差し出した。人見が中を見てみると、そこには何十枚という量の紙が入ったファイルが入っていた。紙の内容を見てみると、顔写真と具体的な情報が載っていた。それは、裁くべき“悪”のデータだった。
「昨日あなたに言われた通り、危険な人物を中心にリストアップしました。思ったよりも多くなりましたが、よろしいですか?」
「行動が早いね、平家。ありがとう。これで『コード:ブレイカー』たちが死ぬ可能性は低くなる」
「言っておきますが、あなたとて死ぬ可能性はあります。ですから気を付けてください。あなたが死んでは元も子もありませんから」
釘を刺す平家。彼自身、人見がそう簡単に死ぬことは無いとわかっているが、注意して損はないというものだ。例えば、敵の前でロストしてしまえばいくら人見でも危険が高まる。早い話、世の中何が起こるかわからない。
しかし、そんな心配をしている平家に対して人見は微笑んでいた。そして、再び自分のこめかみを指でトントンと叩いた。
「心配いらないよ、平家。私は死なない。……まだ死ぬわけにはいかないからね」
微笑みながらも、その目には強い意志が灯っていた。その言葉だけで、彼の覚悟が伝わってきた。彼は死なない。平家は改めてそう確信し、フッと微笑んだ。
「そうですね。無用な心配でした」
「心配してくれるのは嬉しいけどね」
ハハ、と声にして笑う人見。その後、二人は黙って目の前の墓標を見ていた。すると突然、平家がポツリと呟いた。
「……祈りを」
「え?」
「彼らのために、祈ってもよろしいですか? 私の異能を捧げては彼らの墓標が壊れてしまいますから、せめて祈るだけでもしたいのです」
「平家……」
人見は目を見開いて驚きを示した。祈るということは、目の前の時計を『コード:ブレイカー』の墓標として認めたということ。ジャッジとして『コード:ブレイカー』が守るべきことには人一倍厳しい平家だったが、そんな彼が本来なら許されない『コード:ブレイカー』の墓標の存在を認めた。人見は平家のことを真っ直ぐ見た。平家は微笑みを浮かべながらそれに応えた。二人の間に無言の空間が流れた。そして数秒後、それは静かに破られた。
「……ありがとう。頼むよ、平家」
「では……」
目を瞑り、軽く頭を下げる平家。日本で言う黙祷の形だ。人見は『コード:ブレイカー』たちのために祈る平家を見て、何やら真剣な顔をしていた。数秒後、平家はスッと目を開けて人見の方を見た。
「ありがとうございます。これで彼らが浮かばれるといいのですが」
「君に祈られたならきっと浮かばれるさ。私自身が浮かばれた気分だ」
「そうですか。それは何よりです」
再び微笑みを浮かべる平家。すると、人見は真剣な表情で平家のことを見た。
「……平家」
「なんですか?」
「昨日に続いて悪いが……頼みがある」
「……なんでしょう?」
いつになく真剣な物言いに、平家の顔から微笑みが消えた。そして、平家も真剣な表情となって人見のことを見た。その平家を見て、人見は真剣な表情を崩すことなく「頼み」を口にした。
「もし私が死んだら……その時は、私の意志を継いで『コード:ブレイカー』たちが存在した証を刻み続けてほしい」
「エース……!」
平家は目を見開いた。『コード:01』として、いつも『コード:ブレイカー』たちを先導してきた人見のいつになく弱気な発言に。当の人見は、口にしたことで耐えられなくなったのか、平家から視線を外した。
「さっきあんなことを言った手前、情けなく聞こえるかもしれない。でも、私だっていずれ死ぬ。そうしたら、『コード:ブレイカー』たちの存在した証を刻む者がいなくなる。……だが、彼らのために祈りを捧げてくれた君を見て、君ならば頼めると……そう思ったんだ」
「…………」
人見をジッと見る平家と平家から視線を外して俯く人見。二人の間に重い沈黙が流れた。先ほどよりも長い時間が経った後、平家が覚悟を決めたかのようにその口を開いた。
「……わかりました。私にお任せください。……人見」
そっと胸に手を当て、彼の称号ではなく名前を呼ぶ平家。彼は人見の言葉を、「エース」の言葉としてではなく、一人の「人見」という人間の言葉として平家は彼の言葉を受け入れた。
「…………」
平家はただ一人、目を瞑ってかつて今立っている場所と同じ場所でかつての同志と交わした言葉の数々を思い出していた。平家はそっと目を開け、かつて墓標が存在していた壁を見た。
「人見との戦いで大神君が燃え散らしたというのはわかっていましたが、相変わらず無茶をしますね。大神君らしいと言えばらしいですが」
平家の言う通り、人見が用意した墓標は人見と大神たちとの戦いの過程で大神の『青い炎』によって燃え散らされた。彼は「“悪”を裁く自分たち『コード:ブレイカー』も“悪”同然。救われる必要はない」と言って墓標を燃え散らした。そのため、今となっては死んでいった『コード:ブレイカー』たちの存在を刻むものは一つとして残っていない。
「こうなった以上、あなたとの約束を守り続けることは立場上できませんね」
そう言って、平家は腕にしていた腕時計を外した。そして、かつて墓標が存在していた壁の前にそっと置いた。時計を見ると、ある時間でピタリと止まっていた。
「最初で最後になりますが、約束を果たさせてもらいます。ただ、あの時の言葉にあなた自身のことは含まれていないでしょう。あなたは何より時間に縛られることを嫌っていましたから」
そこに刻まれたのは死の時間。彼の同志が消えた時間。人見という存在が、『コード:ブレイカー』たちの中に刻まれた時間。
「勝手を許してください。……そして、安らかに眠ってください。…………人見」
以上、人見と平家の過去でした。
本編で時計のことはまったく触れなかったので、ここで触れさせてもらいました。
平家が時計の事や人見のビルの場所を知っていたのは妄想です。アニメでも辿り着けてましたし。
あの人なら知っていてもわざとはぐらかすに決まっている! という勝手な妄想でした。
時計が止まったのは人見の『電力』を浴びてオーバーヒートして止まった感じです。機械にあまり詳しくないので細かいツッコミは勘弁してください……。
この話を書く上で「electric bird」を単行本で何度も読み返したのですが、どうにもチャート式性格診断が気になってしょうがない。なので、久しぶりにやってみました!
単行本を買ってすぐにやった時は桜タイプでしたので「また桜かな」と思ってやってみたらこれまた意外! なんと大神タイプになりました!
嬉しいですが私としては平家タイプになりないな……。
チャートをやっていて「誰タイプの人が読んでくれているんだろうな」と思ってました。
単行本を持っていない方はぜひ5巻を買ってやってみてください。
……本編が少し短い文、後書きがかなり長くなってしまいました。
次回で番外篇は一旦お休みです。
トリを飾るのは我らが夜原先輩です!
え? 主人公の大神ですか? 彼は原作とアニメでお腹一杯です。(オイ)
それでは、次回の更新でまたお会いしましょう。