CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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人見と『コード:ブレイカー』たちとの過去話の第一弾です。
タイトルからわかる通り今回は刻との思い出です。
原作やアニメとは違った関わり方を目指しました。
伏線的なネタバレがある部分があるので注意必要かもしれません。
妄想全開でおかしい所があるかもしれませんが……どうぞ。

※H25 8/26 人見の台詞を一部修正





code:extra 3 在りし日の記憶 ~刻~

 それは、『コード:01』の称号を名乗る者が悪に堕ちる前の話────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、『コード:04』こと刻はすこぶるご機嫌だった。

 「そーなんですヨ~! オレ、嬉しいナ~! 先輩たちみたいな綺麗な人に共感してもらっテ!」

 「やだ、刻クン。お世辞が上手いんだから~」

 「ホント、ホント。そうやって今まで女の子を口説いてきたんでしょ。年下なのに悪い子だね」

 「嫌だナ~。オレってそんな悪い子に見えるんですカ?」

 ちょっと探せば見つかりそうな、どこにでもある喫茶店。そこのテラスで制服を着た女子生徒二人と仲好さげに話しているのは、彼女たちとは違う制服を着たオッドアイの少年……刻だ。なぜこのようになったのか。それは状況から判断できる通りの経緯だった。

 女子生徒二人が家に帰ろうと歩いていたところ、いきなり現れた刻に話しかけられた。そのまま彼の口車に乗せられ、こうして喫茶店で話し込んでいるというわけだ。傍から見たらただのナンパである。

 「そりゃ、見えるでしょ。中学生のくせに年上の私たちをナンパしてるんだから。ま、年上と言っても一つ学年が上ってだけだけどね」

 「最近の子ってみんなそんな感じなの? ……ちょっとおばさん臭い質問だけどさ」

 「大人の雰囲気が出てて素敵ですヨ、先輩。そーですネー。オレみたいに実行に移す奴はあんまりいないかナ~」

 会話からもわかる通り、彼女たちは刻から見て一つ上の先輩にあたる。違う制服……つまり違う学校なのでほとんど無関係のようなものだが。

 「ケド、実行に移さずに陰でこっそり妄想とかしてるムッツリ野郎がいるんですよネ。もう、そいつのムッツリ度がハンパなくテ! そいつ、オレたちの間では『エロ神』って呼ばれてるんですヨ~!」

 「やだ~!」

 「よ! 青春真っ盛りだね、エロ神クン!」

 この「エロ神」なる人物が誰の事なのか。わかっている人はわかっていると思うので詳しくは踏み込まない。ちなみに、後日談によるとエロ神の話が出たのとほぼ同時刻に、左手に手袋をした一人の少年が妙に苛立ちを覚えたという。

 「それにしても、刻クンの交友関係はユニークだね~。話聞いてるだけでも面白いもん。他には誰か面白い人いないの?」

 「そうですネ~。ムッツリなエロ神とは違ってすっげーオープンな奴がいますネ。人がいる前で堂々とエロ小説とか読みまくるんですヨ」

 「うわ……。オープンにも程があるでしょ、それ」

 これは言わずと知れたあの人のことである。どうやら、彼女たちと話しながら日ごろの憂さ晴らしを考えているようだった。

 「あと、すっげームカつく奴がいるんですよネ。そいつ、たいした力もねーくせに権力者に尻尾だけはバカみてーに振るような奴なんです。ホント、犬みてーなクソヤローなんすヨ……」

 「ああ、わかる。うちのクラスにもいるよ~。生徒には素っ気ないくせに先生とかとはすっごい親しい奴とか。ああいうのは、本当にムカつくよね」

 「そうなんすよネ~」

 ここまで来たなら、もはや何も言うまい。言えるのは、これまで彼が話してきた知り合いというのは同じバイトをする者たちであるということだけだ。彼の素性を知っている者から見れば、いつも通りの彼だった。特に疑問を浮かべるような行動ではなかった。

 しかし、今日の彼はいつもの彼とは少しだけ違っていた。

 「っていうか、オレの事だけじゃなくて先輩たちのことも話してくださいヨ! 先輩たちの知り合いには面白い人いないんですカ? 正直なところ、オレもそろそろネタ切れなんすヨ。後はせいぜい、すっごい天然ボケな不思議ちゃんがいることぐらいですかネ。先輩たちの知り合いに、そういう人はいないんですカ?」

 「不思議ちゃんか~。誰かいたっけ?」

 刻の急なフリを受け、女子生徒は必死に記憶を辿っていた。それでも浮かばなかったらしく、隣の女子生徒に尋ねる。

 「うちのクラスにはいなかった気がするけど。……あ」

 「どしたの? 誰かいた?」

 尋ねられたことで、顎に手を添えて考えていた女子生徒がハッとした。それを見て、彼女に尋ねた女子生徒は彼女に詰め寄った。

 「クラスは違うけどいるじゃん。我が校きっての不思議ちゃんが。えっと名前は確か……、

 

 

 

 

 

 

 藤原 寧々音さん」

 

 

 

 

 

 

 「……!」

 その名前が出た瞬間、刻の表情が変わった。見た目に変化はないが、確かに変わった。外見的なものではなく、内面的な何かが。

 「あー、いたね。確かにあの人は不思議ちゃんだ」

 寧々音の名前を出した女子生徒の意見に賛同するもう一人の女子生徒。二人とも知っているところを見ると、寧々音はかなりの有名人らしい。

 「……その人ってどんな人なんですカ?」

 刻から女子生徒たちに向けられた質問だったが、先ほどまでのようなチャラチャラとした雰囲気はなかった。むしろ、どこか真剣さを感じさせるようなものだった。

 「変わった人だよ。いつも裸足だし、女子なのに虫とか大好きだし。喋り方ものほほんとしてるしね」

 「けど、すっごく頭いいんだよね。テストでも常にトップクラスだもん。能ある鷹は爪を隠す……ってやつだね」

 刻の雰囲気に気づくことなく、女子生徒たちは刻の質問に平然と答えていた。

 「……オレの知り合いの不思議ちゃんはいつも怪我とかしてんですヨ。ボケーってしてっカラ。……藤原さんもそんな感じですカ?」

 「うーん……。あの人が怪我したとかって話は聞いたことないよ。周りが上手くサポートしてるみたいだし」

 「……そうですカ」

 そう言うと、刻は空を仰いだ。その表情は、どこか安心したようだった。

 そんな刻を見て、女子生徒はニヤリと笑った。

 「なに? 藤原さんが気になるの?」

 「違いますヨ~。先輩みたいな素敵な人が目の前にいるんだから他の人なんて目に入りませ~ん」

 両手をひらひらと振っておどけてみせる刻。すると、刻は「さてと」と言って立ち上がった。

 「残念ですケド、オレそろそろ帰らなきゃいけないんデス。今日は楽しかったデス!」

 「ああ、そうなんだ。まあ、私たちも楽しかったし。ね?」

 「うん。君のかっこいい顔に免じて許してあげよう」

 「光栄だナ~。じゃ、この喫茶店はオレがせめてものお礼ってことで奢るんデ。支払いは置いておきますカラ」

 刻は財布から千円札を二枚ほど出すとテーブルの上に置いた。彼らは飲み物くらいしか注文しなかったので、刻が出した金額は多すぎるくらいである。

 「そんな悪いよ。それに、これ多すぎでしょ」

 「いいんですっテ。余った分は先輩たちにあげるんデ。最後までかっこつけさせてくださいヨ。じゃ」

 そう言って刻は片手を振りながら喫茶店を出た。空を見ると、すでに夕陽によって赤く染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ~、楽しかった。んじゃ、今日もバイトに精を出すとしますカ」

 喫茶店から出た刻は伸びをしながら土手を歩いていた。バイトというのは、もちろん『コード:ブレイカー』としての仕事だ。先ほどまで喫茶店で話していた彼女たちからしてみれば、この刻が悪人を裁く存在などとは想像すらできないだろう。

 「とりあえずの目的は達成したシ。今日のバイトは張り切っちゃおうかナ~」

 片方の腕をぐるぐると回し、やる気を見せる刻。

 すると、背後から聞き慣れた声がした。

 

 

 

 

 

 「やる気があるのは何よりだけど、油断してたら危ないよ? 刻」

 

 

 

 

 

 「……人見サン!」

 刻はすぐに振り向き、背後にいた人物……人見に声をかけた。人見は「やあ」と言って片手をひらひらと振った。背後にいたのが人見だとわかると、刻はどっと安堵の息を漏らした。

 「びっくりさせないでくださいヨ……。てか、こんなとこで何してんすカ?」

 「んー? ここは私の昼寝スポットの一つ、とだけ言っておこうか。……ふわぁ」

 口を大きく開けてあくびをする人見。そんな彼を見て、刻は呆れたような顔になった。

 「またいつもの昼寝ですカ。『コード:01』のあんたがそんなんでいいんすかネェ……」

 「そんな顔しないでくれよ。よかったら君もどうだい?」

 「オレ、これからバイトなんすヨ。知ってるクセに。……さっきだって、人のこと油断してるとか言ってたじゃないすカ」

 油断してると言われたことが気に入らなかったのか、声音を低くする刻。その目もスッと細くなっていた。しかし、そんな刻を前にしていても人見はまったく動じていなかった。

 「注意したまでさ。私たちの仕事はいつ何が起こるかわからない。ちょっとした気持ちの緩みが死に繋がることだってあるんだ。……それで死んだ『コード:ブレイカー』だっているからね」

 「そりゃ、どーも。ケド、オレは油断なんかしていないですカラ」

 「まあ、君は冷静だからね。仕事になれば気持ちが緩むことはないと信じてるよ」

 真正面から褒められたことが照れ臭かったのか、刻は頬をかいてそっぽを向いた。よく見ると、その頬は少し赤みがかっていた。人見はそれを口に出さなかったが、静かに微笑んだ。

 すると、人見はもう沈みかけている夕陽を見て呟くように言った。

 「……今日も陽が沈むね」

 「そーですネ。ま、オレたちのバイトは夜にやるんだからそんな気にする必要はないじゃないですカ」

 「そうだね……」

 人見の隣で、刻も一緒に沈んでいく夕陽を見た。すると、人見が急にポツリと呟いた。

 「お姉さんの様子はどうだった?」

 「ッ!」

 人見の突然の問いに、刻は目を見開いて固まった。

 数秒の沈黙の後、刻はニヤリと笑いながら人見の方を向いた。

 「……ここで昼寝してたんじゃなかったっケ? 人見サン」

 「ここは私の昼寝スポットの一つって言っただけさ。それに、私はここで昼寝してたなんて一言も言ってないよ」

 ニッコリと笑う人見。それを見て、刻はため息をつきながら頭をかいた。

 「ハア……。あんたには敵わねーワ」

 「それは光栄だね」

 刻は頭をかくのをやめると、人見の方ではなく夕陽を真っ直ぐ見た。夕陽の赤い陽のせいか、刻の目が遠くを見るように細くなった。

 「人から聞いただけなんで詳しくはわからないケド、元気みたいデス。ちゃんと学校にも行ってるみたいだシ」

 「そっか。それはよかったね。しかし、君のやり方には感心したよ。お姉さんの様子を知るために本人ではなく彼女と同じ学校の同級生に近づく。そして、話の腰を折らずに自然な形で君が最も知りたい話題に誘導したんだからね」

 「オレを誰だと思ってんすカ? それくらい余裕ですヨ」

 グッと親指を立てて自分を指差す刻。それを見て、人見は思わず吹き出した。

 「ハハ。頼もしいね」

 「そりゃ、どーも……」

 「「…………」」

 二人の間に再び沈黙が流れた。すると、刻がポツリと呟き沈黙を破った。

 「人見サン……。聞きたいことがあるんですケド」

 「……何かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 「あんたも……平家と同じで知ってるんじゃないんすカ? あの日……寧々音(ねーちゃん)に何があったのか」

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 「…………」

 二人の間に重い沈黙が流れた。刻は真剣な眼差しで人見を見て、人見は黙ったまま夕陽の方を見ていた。人見の顔の角度や夕陽の影響で、人見がどのような表情をしているのかは見えなかった。

 しばらくすると、人見が口を開いた。

 「私も平家も、彼女のかつての同志だったからね。……知っているよ」

 「ッ! じゃあ……!」

 身を乗り出す刻。すると、人見は刻の方を向いて刻の頭に自分の手を置いた。

 「刻。私がその答えを言うのは簡単だ。でも、物事には知るタイミングっていうものがある。時間に縛られることが嫌いな私が言っても説得力はないかもしれないが、今はまだその時じゃない」

 「…………」

 刻は何も言えなかった。言えるはずがなかった。刻に言い聞かせる彼の……人見の顔は、ひどく悲しそうだったからだ。

 「でもね。君はいつか必ず真実を知る。その時、君だったら正しい選択……行動をしてくれると、私は信じてるよ」

 言いながら刻の頭を優しく撫でる人見。彼の言葉が終わってしばらくすると、刻は人見の手を振り払った。

 「オレ、もう子どもじゃねーんだから撫でるのはやめてくださいヨ。どうせ撫でられるなら、女の子の方がいいシ。じゃ、オレはバイトに行くんデ」

 「……気を付けて」

 「だから、子どもじゃねーってば」

 そう言うと、刻は人見に背を向け歩き出した。その刻の背中を、人見は黙って見続けた。

 すると、刻が急にぴたりと立ち止った。そして、そのまま振り向くと人見に向かって銃を模した手を向けた。

 「オレ、決めたわ。あの日のこと、あんたや平家に頭下げて聞くのはもうやめる。その代わり、いつか必ず力づくで聞き出す。それまで何があったか忘れないでヨ。人見サン」

 バンと手で銃を撃つ動作をする刻。その後、彼は再び振り向いて歩き出した。片手をひらひらと振りながら。

 刻の姿が小石くらいになった頃、人見はポツリと呟いた。

 「それでいいよ、刻。全ては君自身の手で掴み取るんだ。君が私から力づくで真実を聞き出せるかどうか……君が私を斃せるかどうか。楽しみにしてるよ」

 そう言って、人見は刻とは真逆の方に振り向いた。すると……

 「おっと」

 「わぷ」

 後ろにいた誰かとぶつかってしまった。相手の体重が軽かったのか、人見はよろけることなく無事だった。しかし、相手は後ろに倒れそうになっていた。

 「危ない!」

 人見は瞬時に手を伸ばし、相手の腕を掴んで支えた。そのおかげで、相手は倒れることはなかった。

 相手が無事だったことに人見は安堵の息を漏らし、優しく相手を引っ張ってその体勢を整えさせた。そして、改めて相手を見た。

 「ふう……。すまない、私の不注意だった。怪我は無い────」

 人見の言葉はそこで途切れた。なぜなら、自分の目の前に立っている人物は彼がよく知る人物だったからだ。

 人見と比べたらあまりにも小柄で華奢な体、ただでさえ若々しい見た目をさらに若く見せるような眼鏡をかけた幼い顔、どこかふんわりとした印象を与える雰囲気。それは、先ほどまで人見と刻の話題の中心であった人物。刻と同じ金髪で、彼と同じ髪型をした少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ありがとうなのー」

 ────藤原 寧々音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ッ……!」

 彼女の姿を見たまま固まる人見。神の悪戯としか言いようがないこの状況に、彼も戸惑っているのだ。

 「ぶつかっちゃってごめんなさいなのー。大丈夫だった?」

 そんな人見に対して、寧々音は普段通りのゆっくりとした口調で人見に話しかけていた。それもそのはずだった。

 なぜなら、今の彼女はまだ知らない彼女なのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 「……私は大丈夫だよ。君は大丈夫だったかい?」

 人見は優しく微笑み、寧々音の頭に優しく手を置いた。そのまましゃがみこみ、彼女より目線を低くした。

 「寧々音も大丈夫なの。おにーさんが助けてくれたから」

 「……なら、よかった」

 人見は微笑んだ。すると、その顔を見て寧々音が首を傾げた。

 「……おにーさん?」

 「なんだい?」

 「どーして、そんな悲しそうなお顔してるの?」

 微笑んだ人見の顔。口元は確かに笑っていた。しかし、その目はひどく悲しそうだった。

 すると、寧々音は人見の頭に自分の手をポンと置いた。

 「いい子、いい子なのー」

 「ッ……!」

 そのまま人見は俯いた。それはまるで、彼女を見ていられなくなったかのようだった。その後、寧々音は人見の頭を撫で続け、人見は俯いたままだった。

 しばらくすると、人見は顔を上げて寧々音を見た。

 「……ありがとう。君は優しいね」

 その時、彼の目からは悲しみはまったく感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「バイバイなのー」

 ぶんぶんと手を振る寧々音。人見は微笑みながらそれに応えて手を振った。そして、寧々音は人見に背を向けてゆったりと歩き出した。それを見て、人見も彼女に背を向けた。

 「さようなら、寧々音。……かつて、共に戦った私の同志(とも)

 人見はそのまま歩き続けた。

 その後、彼が振り返ることはなかった。




人見と刻、ちょっとでしたけど寧々音との過去話でした。
人見と刻が寧々音のことを話すということがなかったので思い切って話させちゃいました。
寧々音を出す気は最初無かったのですが、「ここまで来たなら会わせちゃえ」と思って出しました。
今回の話で寧々音の正体に気づいた方、いらっしゃると思います。
ただ、原作でも人見戦の後にそれっぽい描写はあったのでセーフなのかな? とは思いますが……どうなんでしょうね?
それでは、次回も人見との過去話です。相手は束縛が大好きなあの人です。



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