CODE:BREAKER －Another－

番外篇 code:extra 1 バレンタインデー

最初の番外篇です。
タイトルからもわかる通り原作の番外編となっています。
しかし、番外篇のネタが集まらないことに寂しさを感じる今日この頃です。
何でもいいので活動報告で行っているネタ募集にご協力をお願いします！

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　本日は２月１４日。バレンタインデーである。

　「桜きゅん！ 今日はバレンタインデー！ 桜きゅんは誰にチョコを渡すのかな？ ユキちゃん、楽しみ！」

　「ゴフッ……！ さ、桜チャンはパパにだけだからね……！」

　桜小路家では、娘である桜のチョコの行方を母であるユキは楽しそうに、父である剛徳は血を吐き泣きながら気にしていた。

　「うむ！ 行って参る！」

　桜は強い覚悟をその目に宿し、家を後にした。そして、いつものように大神と共に学校へと向かった。……大神を睨みながら。

　「……どうしたんですか？ いつも以上に怖い顔をして……」

　さすがの大神も桜の迫力に少し引いている。冬だというのに大神の顔には汗が流れた。

　桜がここまでの覚悟でやろうとしていることは二つあった。その一つが……

　「…………」

　学校に着くと、桜は大神の前で両手を広げていた。それはまるで、大神にチョコを渡すな、とジェスチャーで周囲に伝えているようだった。これが桜のやろうとしていたことの一つ。大神にチョコを渡させない、だ。

　これには理由がある。以前、大神がラブレターをもらった時に彼はそのラブレターを何の躊躇もなく捨てた。他人の気持ちを平気で踏みにじる大神の悪魔のような顔を知っていた桜は、チョコをもらっても大神はまた捨てると予想したのだ。つまり、この行動は大神にチョコを渡そうと考える者たちのためを思ってのことだった。

　だが、何も知らない他人から見ればその行動は誤解を生む。

　「やだ、桜ったら。ヤキモチ？」

　「桜って、意外と独占欲強いよね～」

　そう。ツボミとあおばと同じようなことを周囲の人たちは思った。桜のファンである男子たちも「そこまで大神のことを……！」と泣きまくっている。もちろん桜本人にそんな気は一切ない。

　「大神君。ちょっと寂しい？」

　「いえ。僕にチョコをくれる人なんていませんよ。モテませんから」

　あおばの言葉に大神は笑顔で返した。大神としてはもらったところで捨てるだけだから桜の行動は願ったり叶ったりだろう。

　しかし、大神のこの発言を聞いて周りの男子たちはかなりムカついていた。

　（ちくしょー！ 大神！ どうせお前はこの後、最高級のチョコレートを味わうんだろ！）

　この時、男子たちの頭の中に浮かんでいた光景はこんな光景である。

　「きょ、今日は……甘くてとろけるぞ……」

　「では、いただきます」

　自分の体にラッピング用のリボンを巻いた桜が大神によって食される、というものだ。男子たちはそれを勝手に想像して勝手に絶望していた。

　「えー！ チョコ貰ったの？」

　「見せて、見せて！」

　桜と大神が教室に入ると、女子たちのはしゃぐような声がした。声の方を見ると、クラスメイトであるタッキーこと武田(たけだ)、剣道部の沖田(おきた)、上杉が何個ものチョコを持って女子に囲まれていた。

　「ま、日頃の根回しの成果ってやつ？」

　「こ、これは、部活の先輩たちが……」

　「……っス」

　その後ろでは、パソコン少年の島津(しまづ)とマエシュンこと前田(まえだ)が何やら言い争っていた。

　「わ、私は、チョコレート会社の戦略になど乗るつもりは……」

　「おいおい、島津！ 強がんなよ！ 手が震えてるぜー！」

　「マエシュン！ あなただって、母親と妹にしかもらってないくせに！」

　「イテテ！ 鼻掴むなよ！」

　「まったく見苦しいわね～」

　二人の会話を聞いていたあおばが前田に歩み寄った。そして、チョコが入った袋を差し出した。

　「勘違いしないでよね。幼馴染のよしみだゾっ」

　「あ、あおば……」

　一方の前田は、チョコの袋についているタグの「おっぱい型チョコ」というのと目の前のあおばの胸を何度も見て嬉しいような残念なようなよくわからない顔をしていた。

　すると、突然教室のドアが開いた。そこにいたのは、大量のチョコを袋に入れてサンタのように担ぐ刻だった。

　「ちーっす」

　「刻君。また勝手に入ってきたのか？」

　刻の訪問を桜は特に気にしていなかったが、周囲のクラスメイト（特に男子）が刻の持つチョコレートの量に驚いていた。

　刻は大神を見つけると、ニヤニヤしながら近づいていった。

　「あっれー？ さみしー！ 大神君、手ぶら～？ 意外とモテないんだね～」

　大神は刻を無視して自分の席に行こうとしたが、刻が後ろから肩に手をかけてきた。

　「カワイソ～。間違いなくチョコゲット数ナンバーワンのオレが分けてあげようか？」

　「……僕、甘い物苦手なんで。それに……」

　「ン？」

　大神が視線を動かしたので刻もそれを追った。その視線の先にあるのは桜の机……の上に大量に置いてあるチョコだった。

　「数なら今の所、桜小路さんの方が多いみたいですよ」

　「逆チョコかヨ！」

　「む？」

　「ダー！ クソ！」

　「何を怒ってるんですか？ 自称ナンバーワンの刻」

　「うるせー！！」

　朝のやり取りから時間が過ぎ、今は昼休みとなった。昼休みになっても輝望高校にいる刻を見ると、通っている閉成学院はチョコを貰うだけ貰っといてさぼったらしい。その刻に大神と桜を加えた三人は、校舎の外を歩きながらある場所に向かっていた。

　「桜チャンは女の子だから勝負の相手には入んネー！ 男同士だったら間違いなくオレがナンバーワンだっつーの！」

　「それで優の所に行って確認するんですか……」

　彼らは今、優の元に向かっている。これは刻が提案し、大神と桜はそれに付き合わされている形だった。

　「女嫌いのあいつなら、どーせ学校でも女の子を遠ざけてんだロ！ それが原因で女の子から嫌われて０個だナ！ アッハッハ！ ……てか、桜チャン。本当にこっちにいるワケ？」

　「うむ。間違いないのだ」

　刻が歩きながら桜に尋ねた。桜は絶対に自信があるかのように力強く頷いた。

　「夜原先輩のクラスメイトの方に聞いたら、夜原先輩は昼休みになったらいつもこの先のベンチにいるらしいのだ」

　「いつ聞いてきたんですか……」

　「さっきだ」

　桜の行動力に大神が呆れていると、校舎の角となっているところで刻が突然止まった。

　「いたゼ！ 優、発見！」

　「おお！ 本当なのだ！」

　校舎の角から顔を出してこっそり確認すると、確かに優がいた。ベンチに座って読書をしている。角から顔を半分出して確認している状況なので、周囲全部は見えないが今見える範囲にチョコらしきものはなかった。

　「おし！ やっぱりあいつは０個だナ！ んじゃあ、さっそく笑って……」

　「夜原君！」

　満面の笑みを浮かべて出ていこうとする刻。その時、一人の女子生徒が刻たちの横を通り過ぎ、優の前に立った。見たことない顔で、優を君付けしているあたりから同学年だろう。一方の優は少し視線を動かして相手を確認すると、再び本に視線を戻した。

　「あ、あの……。これ、昨日作ったの。受け取って……くれる？」

　そう言って、女子生徒は丁寧にラッピングされた箱を差し出した。

　「……ありがとう。必ず食べてお返しするから。そこに置いといて」

　「う、うん！」

　優の素っ気ない返答を聞いて、笑顔を浮かべた女子生徒は「そこ」に箱を置いた。刻たちから見ると校舎の角のせいで死角となっていた場所だったため、彼らは少し身を乗り出した。そして、「そこ」を見た瞬間、刻は絶句し、大神は「ざまあみろ」とでも言っているかのような笑顔を浮かべ、桜は目を輝かせていた。

　「な……！？」

　「フッ……」

　「おお！」

　「そこ」……優が座っているベンチの空きスペース。そこには大量のチョコが置かれていた。さらに、ベンチの下にははみ出すほどチョコが入った鞄が置かれていた。

　「あれ？ 桜じゃない。何してるの？」

　「おお、あおば」

　後ろから声をかけられた桜が振り向くと、親友のあおばがいた。

　「なになに？ 誰かいるの？」

　あおばが小走りで桜の横に立ち、桜たちが見ていた「それ」を見た。

　「ああ、夜原先輩ね。やっぱりいっぱいチョコ貰ってるね」

　「やっぱり、って……。あおば、夜原先輩はあんなにチョコを貰ってもおかしくないのか？」

　「知らないの、桜！？ 夜原先輩はね、困った人を見ると文句の一つも言わずに助けてくれるんだよ。重い教材を運んでいる時とか、何か落とした時とか。知り合いはもちろん、見知らぬ後輩でも手を貸すんだって」

　「そうなのか？」

　「うん。で、手伝った後は見返りも何も求めずに去っていく。その優しさとクールさで女子から人気あるんだよ。紅葉も渡すって言ってたし」

　「紅葉が？」

　クラスメイトである紅葉の名が出たので桜は少し驚いた。あおばは思い出すかのように人差し指を顎に添えた。

　「なんか少し前に先生に頼まれて資料を運んだんだって。で、その時に転んで廊下で資料をばら撒いちゃったらしいの。みんなが無視して通り過ぎていく中、夜原先輩だけは手を貸してくれたからその時のお礼だって。だから本命かどうかはわかんないかな」

　「そうなのか……」

　「あ、ヤバ！ 私、ツボミに呼ばれてるんだった！ じゃーね、桜！」

　あおばは手を振りながら校舎に戻っていった。それとほぼ同時に、刻が優の元にすごい形相で向かっていった。

　「おい、優！ 『コード：０７』で女嫌いのお前がなんでそんなにチョコ貰ってんだヨ！ 納得できねぇ！」

　「オレはお前がここにいることが納得できないがな。学校サボるな」

　軽く興奮状態の刻に対して、優は相変わらず読書しながら話している。これはただ単にめんどくさいからだ。

　「刻君。あおばの話を聞いていただろう。きっとみんな先輩に助けてもらったお礼なのだ。な、大神」

　「さあ、どうでもいいです」

　刻に続いて桜と大神も優の元に来た。そして、桜は笑顔を浮かべながら言った。

　「それにしても先輩！ あおばから聞きました！ 先輩はとても優しい方なのですね！ 見ず知らずの者を見返りを求めることなく助ける！ 素晴らしいです！」

　「別に。大したことじゃないだろ」

　「ところで、優。こんなに大量のチョコ、食べられるんですか？」

　大神に聞かれて、優はやっと本から目を放して大神を見た。

　「ああ。『束脳・反転』で胃の消化機能を強化すればいくらでも食えるからな」

　「ああ、なるほど」

　「異能の無駄遣いしてんじゃネー！！」

　「まーくん、まーくん。今日バレンタインデーなの～」

　時を同じくして校舎内の廊下。平家がいつものように廊下でのティータイムを楽しんでいると、寧々音がチョコが何個も入った少し大きめの箱を差し出してきた。

　「これはどうも、藤原さん。では一つ」

　平家が笑顔で礼を言い、チョコの一つを取った。すると、そのチョコを何故か寧々音が食べた。平家がそのままの体勢で止まっていると、寧々音が平家の指をくわえたまま言った。

　「甘くておいしーの」

　子どものように純粋にチョコを味わった寧々音を見て、平家は優しげな笑みを浮かべた。

　すると、一人の人物が彼らの元に走ってきた。

　「ねーちゃん！ そいつに近づくな！」

　刻だった。平家の性格をよく知っているため、姉である寧々音に変なことを吹き込まないか心配で来たようだ。

　「そいつは変態──な！？」

　しかし、刻は言葉の途中で何かに体を縛られた。それは、平家の光るムチだった。

　「悪い子です……」

　「ヒエエエエ！！」

　平家は立ち上がり、どこからか「ある物」を取り出した。

　「そんな悪い子には、私特製のマイチョコを差し上げましょう。きっとステキな気持ちになれますよ」

　「やめろー！！」

　平家が取り出したのは女性型のチョコ。それだけでも異常だが、リボンによって平家ご自慢の束縛がなされているため、さらに異常な雰囲気を出している。どれくらい異常かというと、それを見た男子生徒が「何か毒的なものが入っている」と思うほどだ。

　「きゃああああ！」

　家庭科室に女性の声が響いた。そこにいたのはドジで有名な神田だった。

　「痛ぁ……。んも～！ また失敗しちゃった～！」

　神田の体にはいたるところに液状のチョコレートが付着していた。おそらくチョコを作っていたら転んだのだろう。いつもならなんてことはない光景なのだが、チョコが胸やら足にも付いているので男子生徒から見ると少々刺激的な光景となっていた。

　「でも、諦めません……。マイ・マスター、『コード：ブレイカー』の皆さん、クラスのみんな……。お世話になった皆さんに、絶対に今日中にチョコを渡すんです！ ……って、キャア！」

　声を張り上げて神田は立ち上がり、床にこぼれたチョコに足を滑らせてまた転んだ。マイ・マスター、『コード：ブレイカー』といった知られてはいけない部分は小声で言っていたため周りの生徒に聞こえなかったから問題はなかったが、ここまで来ると神田の体を心配してしまう。

　その光景を見ていた桜と大神。すると、桜は何かを思い出したかのように手をポンと叩いた。そして、大神の方を見た。

　「そうだ。大神」

　「何ですか」

　「はい、これ。お前にだ」

　「……え？」

　桜が差し出したのはリボンでラッピングされている袋。そして、巻物だった。桜が大神にそれらを渡すのを見て、桜のファンたちは再び絶望する。

　大神はその二つを受け取ると、袋の方を開けた。そこにはデフォルメ化したかのような桜の顔が中心にデザインされた丸型のチョコが入っていた。

　「これは、桜小路さんの顔ですか？」

　「そうだ。母上の手作りだ。母上から渡すよう頼まれてな」

　（自分の顔入り手作りチョコ……！ 羨ましすぎる……！）

　桜のファンたちは母の手作りという部分を聞きのがしているようで、大量の涙を流していた。次に、大神は巻物を広げた。その内容を見ると、大神はほくそ笑むような微妙な笑みを浮かべた。

　「これは……」

　「父上からの手紙だぞ」

　剛徳からの手紙である巻物には「殺」と大きく書かれていた。しかし、その内容を知っているのは大神だけで周りの生徒から見ればそれは桜から大神に宛ててのものにしか見えなかった。

　（巻物につづる大神への思い……！ 深い！ 深すぎる！）

　もはや桜のファンたちは大多数が撃沈していた。そんなことを知るよしもなく、桜は大神に一応の注意をする。

　「いいか。絶対に食べるんだぞ。捨てるなよ」

　「わかってますよ。後でちゃんと食べます」

　「……そうはいかん」

　「え？」

　大神がチョコを袋にしまおうとしたその時。桜が大神の手からチョコを奪い取り、もう片方の手で大神の顔を掴んだ。

　「今ここで食べるのだ。ほら、遠慮せずに口を開けろ」

　「ちょ、待ってくださ……うわっ！」

　顔を掴んだまま大神の口にチョコを押し付けようとする桜。その結果、大神を押すような形になり、バランスを崩した大神は倒れた。

　「痛……。って、ちょっと！」

　痛みに耐える大神だったが、次の瞬間には桜が大神に馬乗りしてきた。

　「さあ、もう逃げられないぞ。ほら、大神。遠慮するな。あーんしろ、あーんを」

　逃げ場がなくなった大神。だが、大神はわからなかった。桜がここまでして自分にチョコを食べさせようとする理由が。桜のチョコ押し付けをかわした大神は、桜から目を逸らして尋ねた。

　「なんでそんなに今、僕に食べさせたいんですか……！」

　すると、桜はチョコを押し付けるのをやめた。そして、ポツリと言った。

　「物が残るのは嫌なのだろう？」

　「え？ ……ッ！」

　桜の言葉に大神はハッとした。それは、１－Ｂのクラスメイトたちが大神の歓迎会をした日のことだった。歓迎会の後、屋上でクラスメイトの名簿を燃やそうとした大神が言ったある言葉。

　「物は嫌いです。人が死んでも物は残るから。だから先に片付けておきたいんですよ」

　桜はこれを憶えていた。だから、このような行動に出たのだ。

　「今、食べてしまえばバレンタインもまた、忘れられぬ良い思い出になるだろう」

　桜は満面の笑みを浮かべた。実は、これが桜が今日やろうとしたことの二つ目だった。桜の意図を理解した大神は微笑んだ。

　「まったく……。あなたって人は」

　お互い笑顔で見つめ合った。そして、また戦いが始まった。

　「ほら大神！ 早く口を開けろ！」

　「自分で食べますから！ 早くそこをどいてください！」

　周囲から見れば、それはただの痴話喧嘩にしか見えなかった。この日、桜のファンたちの目から涙が止まることはなかったという。

　平家がティータイムをしていた廊下。そこにはいつの間にか神田と優が合流して寧々音と共にティータイムに参加していた。今回のお茶菓子は平家のマイチョコだ。

　「あら、これおいしい」

　「最高級のカカオ豆を使用しておりますので」

　「お～」

　「さすがです、平家さん」

　ちなみに、今回のバレンタインで一番多くチョコを貰ったのは誰かと言うと……。

　「ワフッ」

　「お前かヨ！」

　『子犬』だった。

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『子犬』はみんなのアイドルです。
ちなみに、チョコの多さをランキングにするとこんな感じです。
１位　『子犬』
２位　優
３位　桜
４位　刻
５位　平家（箱の中に何個も入ってるから）
６位　大神
ですかね。
主人公なのに最下位という大神さんでした。

CODE:NOTEは番外編なのでお休みします。本編になったら復活です。