CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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この話、というかラストシーン……
ずっと書きたかった部分です
あのキャラの謎の力について、ついに明かされ始めます





code:86 大いなる遺志に集いし者、刃向かう者

 

 

 

 ──それは、彼女にとって幸せの記憶であり……今となっては永遠に蘇ることが無い悲しき記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねーねー、おねいちゃん(・・・・・・)。おうた、うたって」

 「……い、いやよ。はずかしいんだから、わがままいわないで」

 ピアノの椅子にこじんまりと座る幼い少女に、少女と同じ髪色をした少女よりもやや幼い少年が純粋な瞳を向けていた。しかし、少女は頬を赤く染めながら静かに首を振る。

 「やだー、うたってよー」

 「……だ、だめ」

 「やーだー!」

 それでもめげずに少女にお願いする少年だったが、変わらず少女は首を振った。すると、少年は腕をその場でぶんぶんと振って声を大きくする。

 「も、もう……。じゃあ、ちょっとだけ……ちっちゃい声で」

 これは聞くまで解放されない、と感じた少女はとうとう諦めたように少年の方に向き直る。そして少年を手招いて近くまで来させると顔の前にその小さな手を添えて、少年にだけ聞こえるような声量で歌い始める。

 その歌声は幼いながら心地よさを感じ、彼女の歌唱力の高さがうかがえる。

 「♪~♪~……え?」

 しかし、少女は自分の口から発せられる歌声が大きくなっていることに気付く。そしてよく見ると、静かに歌を聞いていたと思われていた少年の手にマイクが握られており、そのコードが繋がったラジカセから自分の歌が大音量で流れていることに気付いた。

 「こ、こら!」

 「あはははは!」

 顔をより真っ赤にして少年を叱る少女。しかし、少年は悪びれる様子も無く純粋な笑顔を浮かべる。

 そして、その笑顔のまま少女に抱きつく。

 「えへへへ……だって、みんなにきいてほしいんだもん。だいすきなおねいちゃん(・・・・・・)のすてきなおうた!」

 少女と同じ髪色と同じ位置にある泣きボクロ……それは、どこにでもあるような姉弟の日常の一コマであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、その日常は突如として失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あつい! あついよ! おねいちゃん(・・・・・・)!」

 

 

 

 

 

 「たすけて……!」

 

 

 

 

 

 ──たすけて! おねいちゃん(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両親と共に燃え盛る車の中に取り残された少年。すがるように伸びたその手は少女に届くことは無く、助けを求める叫びは夜の中に溶けていくように徐々に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、彼女……王子は愛する弟と永遠の別れを迎えた────そう、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「会いたかったよ、おねいちゃん(・・・・・・)

 『コード:ネーム』を名乗り現れた男……冴親の口からかつて何度も聞いた呼び名が発せられ、王子はただ目を見開く。確かに彼の髪色は王子と同じであり、同じ位置に泣きボクロも存在する。何より、王子と同じ『影』の異能を持つ者であるというのが、彼女との血縁関係を物語っていた。

 「お前が、私の……。い、今は……冴親……」

 弟が生きているということは『エンペラー』により知らされていた。しかし、まさかこうも早く目の前に現れるとは想像していなかった。ましてや、自らと同じ“エデン”に属する『コード:ネーム』の一人であるとは思いもしなかっただろう。

 「ようやく気付いたか。でも、これからは……」

 ──グイッ!

 「ぐあっ!」

 突然訪れた弟との再会に言葉を失う王子。すると、冴親はそんな王子を縛る『影』の鎖を乱暴に引き、王子を檻の端に叩きつける。

 「もう離さない。ずっとずっと一緒だ」

 そんな乱暴な行為とは裏腹に、冴親は柔和な声色で続ける。そして、そのまま愛でるかのごとく額を合わせるように顔を近づけていき……

 ──ゴォ!

 「お前の相手は……オレだ!」

  瞬間、大神が『青い炎』と化した左腕を二人の間に振りかざす。冴親は瞬時に身体を翻してその攻撃を避け、王子は檻に捕らわれていることもあり『青い炎』の影響を受けることは無かった。

 「燃え散れ!」

 大神はそのまま王子を護るように冴親と向き合い、『青い炎』による攻撃を続ける。そうして冴親と王子の距離が開いたところで、大神は勢いよく左手を突き出して『青い炎』を冴親に向けて放出させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……邪魔するな。終われ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドク、ン

 「な……!? なんだ……これ、は……!?」

 大神の『青い炎』を冴親に届くかと思われたその瞬間……冴親を中心とした円形の空間が変わった(・・・・)。草木は枯れ果てていき、上空を飛んでいた小鳥は力無く地面に落ちていった。

 そして、同様にその円形の空間に足を踏み入れていた大神も謎の息苦しさと脱力感により思わず膝を突きそうになる。

 その様子は、まるでその円形の空間に存在するものの命が失われていく(・・・・・・・・)ようだった。

 「れ、零……! しっかり、しろ……! でない、と……オレも……」

 そして、それは『エンペラー』も影響を受けているようで彼の身体である日の玉も徐々に小さくなっていった。

 唐突に訪れた謎の現象だが、冴親を中心として起きていることから冴親が何かしたというのは確定している。

 しかし、彼の異能でもある『影』については王子も同じ異能であることから大神もある程度は理解をしている。だからこそ、大神は一つの結論へと辿り着いた。

 「これ、は……『影』じゃない……! まさか、お前……『捜シ者』と同じように、異能を二つ──」

 「見事な美しさだな、大神零。お前の命の終わっていく様は何よりも美しい。だが、お前のおかげで姉君と会えたのは事実」

 二つ目の異能……それが大神が出した結論だった。今までならば異能を二つ持つなどあり得ないと考えてしまうが、今となっては『捜シ者』という前例がいる。

 しかし、当の冴親は否定も肯定もせずに静かな表情で大神に近づいていく。そして、徐々に冷たくなっていく大神の頬にそっと手を添えた。

 「その礼に今回は……左腕だけで勘弁してやる」

 「っ!?」

 その瞬間、大神の左肩から鮮血が飛び散る。見ると、大神の左腕の接続部分が少しずつ身体から千切られようとしていた。

 突然のことに混乱するが、大神は瞬時に理解した。なぜなら、彼らの背後に伸びた『影』にはしっかりと写っていた。冴親の大神に添えた手とは逆の手が、大神の左腕に重なりそのまま左腕を引き千切ろうとしているのを。

 「ぐ、が……!」

 「いけない! 大神く──ぬわっ!」

 大神の危機に会長は桜を抱えながらも加勢しようと一瞬動きを止める。しかし、その一瞬を冴親の『影』は決して見逃さず、『影』が放った大岩が会長に直撃する。それにより、会長は大神の元へ駆けつけるのは不可能となる。

 「あ、ぐ……あああぁああぁああ!!」

 そうしている間にも、大神の左腕は音を立てて引き千切られていく。大神の苦痛な叫びが響く中……黒き者が空気を切り裂いた。

 ──ブォン!

 「やめろ、冴親! 零には手を出すな!」

 そこには、先ほどまで冴親の『影』の檻に捕らわれていた王子の姿があった。その姿は漆黒に染まっており、大きく振り抜いた『斬影』の鎌は通常時より大きな破壊力を生んでいた。

 それは、日和との闘いで見せた『女帝の矛と盾(エンプレス・パラドックス)』であった。全てを喰らうその性質を活かし、冴親の『影』を喰い尽して脱出したのだ。そして、今度は彼女が大神を護ろうと冴親の前に立ちはだかった。

 「お、王子……! お前は、引っ込んで──」

 「バカ言ってんじゃねぇ。引っ込むのはお前だ。その腕と身体で何ができる。いいから黙って見てろ。……お前は絶対にオレが護る」

 「王、子……」

 自分を護るために立つ王子に、大神は千切られかけた左肩を抑えながらも強気な言葉をかけようとするが王子はそれを一蹴する。その姿からは、『捜シ者』の遺志として大神を護るという彼女の言葉が確かなものであるという強い覚悟を感じるようだった。

 「あの檻を自力で破るとはな。その悪を護る……? 護るために?」

 しかし、そんな王子の姿に冴親はただ首を傾げる。“エデン”に属する者である彼にとって今の大神は裁く対象……つまりは“悪”。そんな存在を護ることなど理解できない……そう言いたげに。

 「……ずっと会いたかった。だが、『コード:ネーム』は『コード:ブレイカー』以上に存在を知られてはいけない身。だが、ずっと……ずっと見ていた。いつか会えると信じて。世界でたった一人の大好きな……おねいちゃん(・・・・・・)

 「そ、それは……」

 そして、冴親はそのまま王子に対して募らせていたであろう思いを静かにぶつける。かつては共に過ごした愛する存在。互いに生きており、同じ組織に所属している……しかし、そんな二人の距離は近いようでとてつもなく遠いものだったのだろう。

 そんな冴親の姿が、王子の脳内に残るかつての幼い彼の姿と重なり思わず表情が歪む。

 「それは、私だって同じだ冴親! だが、お前は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──なのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゴッ!

 「王子!」

 突然、冴親の足が王子の顔を蹴り抜いた。

 思えば彼は、今まで王子に対しては『影』の檻に捕えるのみで攻撃という攻撃はしていない。それは王子が彼にとってようやく会えた姉であるためだろうが……冴親は唐突に王子に手を出した。一切……なんの容赦もなく。

 「こんな……こんな悪を護るなんてオレのおねいちゃん(・・・・・・)らしくない。弟のオレの手で躾……躾し直さなくては」

 「なっ……!」

 そう静かに告げる冴親の顔は……これまで見せた柔和な笑顔とは対照的に、暗く冷たい……侮蔑し見下ろすかのような表情だった。

 ──ドドドドッ!

 「ぐあっ!」

 「王子!」

 「さ、下がってろ……! っ!」

 そんな冴親の表情に戸惑う王子に対し、冴親は手から『影』を針状に伸ばし王子に攻撃を続ける。しかし、それでも王子は大神を護ろうと退こうとはしない。

 その姿を見て、冴親は徐々にその語気と攻撃の勢いを強めていく。

 「そいつは悪! そして、消すべき『脅威』! 生きていても誰の得にもならない、やっかいな存在! そいつが死んだって世界中の誰一人困らぬ存在しない悪!」

 冴親の攻撃はどんどん勢いを増していき、王子の護りを突破して大神にも少しずつ傷が増えていく。まさに圧倒的とも言える冴親との実力差に、二人はただ耐えるしかなかった。

 「……さあ、わかっただろう? そいつを護る無意味さが。命を懸けて護る価値なんて無い」

 「お、王子……! もういい……! そこを、どけ……!」

 まるで最後のチャンスとでも言わんばかりに、冴親は攻撃の手を止めて諭すように王子に声をかける。大神も、もう王子を巻き込めないと思ってか自分の前から下がらせようとする。

 「……護るさ」

 しかし、彼女は決して動こうとはしなかった。

 「世界がどうかは知らねぇ……たとえ最後の一人になろうと、オレはお前を護る。それが……『心友(とも)』ってヤツだろ?」

 「ッ……!」

 「それに、『渋谷荘』を建て直してもお前がいないと……誰も雨漏りを直せねぇだろ?」

 「王、子……」

 傷つきながらも、会いたいと願っていた弟と闘うことになっても……王子は決して揺らがなかった。『捜シ者』の遺志を継ぐ者として、何よりも大神の……一人の『心友(とも)』として。

 ──ギリッ

 しかし、その言葉が冴親の逆鱗に触れた。

 ──ズォ!

 「か、『影』が……! 同化して、動けな──!」

 突然、王子を囲むように地面から『影』が湧き上がる。同じ異能である『影』により、王子の動きは完全に止められ、冴親はゆっくりと王子の横を通り過ぎて大神の眼前に立つ。

 ──スッ

 「ッ──! やめ──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「悪は、終わった」

 静かに前に出した冴親の左手から強大な『影』が放出され、漆黒の闇が大神もろとも消し飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………う、嘘だ」

 王子が力無く呟くと同時に、自らを拘束していた『影』が消える。しかし、そうして自由になった彼女が最初にとった行動は……絶望により膝を突くことだった。

 「嘘だ……。零、そんな……」

 抉りとられた地面から土煙が上がり、大神の姿は確認できない。

 全ては、一瞬だった。結局、冴親がその気になれば大神を始末することはいつでも可能だった。そんな冴親との力の差と、護るべき者(大神)を護り切れなかったことに対する絶望が……まるで闇のように王子の心を侵食していく。

 「零……! オレは……! お前を護り切れずに──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──見てられないな」

 「──案ずるな、泪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、その絶望はピタリと止まった。土煙の中から聞こえる……かつて何度も近くで聞いたその声によって(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いや……我が同志よ。オレたちが来た以上、もう何も案ずる必要なし」

 「虹、次……!? ゆ、雪比奈!」

 土煙が晴れたそこには、大神を護るように君臨する二人の男……先の闘いでの宿敵『Re-CODE』の虹次と雪比奈が、冴親の攻撃を無力化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お前たち……なんで……」

 「泪だけではない。全ては『捜シ者』が遺志。『エンペラー』目覚めし時、我ら『Re-CODE』は大神零が元に集わんと」

 突然のことに混乱する大神だったが、虹次は全ては『捜シ者』の遺志であると語る。その顔には何の迷いもなく、『捜シ者』(心友)の言葉をただ護ろうとする男の姿があった。

 「いいか、大神零。死してもなお残る大いなる遺志によって、お前は護られている。……お前は独りではない」

 「『捜シ者』が……」

 「う、うう……そ、そうか……。そうだったんだね……」

 「零……みんな……。良かった……」

 『捜シ者』が遺した遺志に、桜も目を見開き、会長は嬉しさからか涙をなんとか堪えようとしていた。

 しかし、いくら『捜シ者』の遺志とはいえ……雪比奈に関しては大神に対して良い感情を持っているとは言えなかった。

 「『捜シ者』はお前のせいで死んだ。許すわけにはいかない。お前はオレが消え逝かす。こんなところで殺されるなんて許すわけがない」

 「雪比奈……」

 あくまで大神を殺すのは自分だ、と主張する雪比奈。大神との因縁がなくなったわけではないが、少なくともこの場においては虹次と同じく味方であると考えてもいいようだった。

 「……また醜い悪が集まったものだ。まあ、丁度いい。一まとめに……一まとめに終わらせて──」

 大神を仕留め損ね、さらには虹次と雪比奈という二人の『Re-CODE』の増援。普通ならば形勢逆転ともとれる状況だが、冴親は特に気にする様子も無くそのまま闘いを続けようとする。

 その……瞬間だった。

 ──ビキッ!!

 「がっ!? ぐ、ああぁああぁ!!」

 「なっ……!? あいつ、何か様子が……!」

 「さ、冴親!?」

 突然、冴親の全身の皮膚に痣のようなものが現れて苦しみ始めた。冴親の異常を知らせるかのように、彼の肩にとまっていたインコも「ギャア、ギャア」と大きな鳴き声を上げる。

 そして、そのまま冴親はぐらりと後ろへと倒れていき──

 ──ズサァ!

 「へ、平家先輩!?」

 倒れようとする冴親を支えたのは、光速で現われた平家であった。そして、彼はそのまま冴親を介抱し始める。

 「冴親様……これ以上はお身体に障ります。一度戻りましょう」

 「う、ぐ……!」

 冴親を抱き上げ、大神たちには背を向ける平家。そんな彼に対し、桜はなんとか声を振り絞った。

 「へ、平家先輩!!」

 「…………」

 「行かないで、ください……。せ、先輩はいつも正しくて強いから……どんなことがあっても“エデン”の言いなりになどなりませんよね……? 大神が悪だなんて……思いませんよね……?」

 「…………」

 「先輩!」

 桜の必死な言葉に、平家は何も答えず動かない。肯定とも、否定ともとれるその行為に桜は思わず声を荒げる。

 しかし、彼が放ったのは残酷な言葉であった。

 「……大神君、次に会った時は本気で殺す」

 「ッ──!!」

 今まで実際には見たことがない、平家の殺意が込められた言葉。桜は希望を打ち砕かれたように、言葉を失った。

 ──ザッ

 「先輩! 平家先ぱ──!」

 しかし、そのまま去ろうとする平家に説得を試みたのか、桜は彼を追いかけようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゴオッ!!

 その瞬間──大木が桜に向かって放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「危ねぇ!」

 「桜小路さん!!」

 突然のことに王子と大神は桜に声をかけるだけで精いっぱいであり、彼女を護ろうと動こうとはするが大木の速さは凄まじく、とてもじゃないが間に合いそうにない。桜も気付いてなんとか自身を護ろうと身構えるが、生身では大怪我は必至である。

 ──パァン!

 「虹次……!」

 その危機を救ったのは虹次だった。『空』により大木は跡形もなく粉々になって事なきを得たが……問題は、この大木を放ったのが誰か、ということである。

 「礼には及ばん。それより構えろ、泪。どうやら……現れたのは奴一人だけではないようだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……悪いが、平家さんと冴親様は追わせない」

 「や、夜原先輩!?」

 平家に続き大神たちの前に立ちはだかる(『コード:ブレイカー』)……そこに立つのは、『コード:07』の称号を持つ男──夜原優であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「優……!」

 「そんな……夜原先輩まで……」

 優の登場に、大神は傷だらけながらなんとか身構える。桜は、続け様にかつての仲間が立ちはだかる現実にただショックを受けていた。本来なら平家のように説得を試みようとしただろうが、先ほどの攻撃が何より明確な敵対の意思として表われていたため、それも無駄だと悟ってしまっていた。

 「……優君」

 「ここはオレに任せてください。それより、早く冴親様を」

 「……わかりました」

 一方、平家は優に最低限の言葉のみを交わして冴親と共にその姿を消す。そうしてただ一人残った優は眼前に揃う大神たちに鋭い視線を向けていた。

 「……どうやら本気らしいな」

 「だが、足止めとしては役不足だな」

 その様子から、優が平家と冴親を追わせないために残ったことを悟る虹次。しかし、雪比奈はつまらなそうに辛辣な言葉を告げる。

 「『コード:07』如きが手負いとはいえ『コード:ブレイカー』二人、そしてほぼ無傷の『Re-CODE』二人に勝てるとでも? 風牙にすらやっとの思いで勝ったお前にとっては荷が重いな」

 「…………」

 雪比奈の言う通り、状況を見れば圧倒的に優が不利であった。大神と王子の強さは元より、『捜シ者』との闘いにおいて『Re-CODE』の強さというものを優も体験している。

 しかし、虹次はそう思っていなかった。

 「油断するな、雪。あの眼……ただの時間稼ぎの者がする眼ではない。オレたち全員をここで仕留めようとしている……そんな眼だ」

 「……ああ、その通りだ。オレが残ったのはお前たちを足止めするためじゃない。大神を……いや、お前たちを…………斃すためだ」

 ──ゾクッ

 決意と殺意を口にした優の姿に、大神は悪寒を感じる。『Re-CODE』二人という味方、対して優は今、一番の武器とも言える斬空刀は手元には無い。それなのに……大神の中で悪寒は止まらなかった。

 「桜小路さん! 下がっ──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ブォン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なっ!?」

 桜に声をかけようとした瞬間、大神は彼らから遠く離れた位置まで優に掴まれた状態で移動させられていた。そのあまりの速さに、虹次たちも反応が遅れているようだった。

 (バカな……!? 今のスピード、明らかに『脳』で強化した時とは違う……! それ以上の……まるで──!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──悪いな、大神」

 そのまま攻撃される……そう感じ身構える大神。だが、優が次にした行動は予想だにしないものだった。

 ──トンッ

 静かに、大神の額に自らの額を合わせる優。そして、彼はポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──『鏡脳(きょうのう)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (な、なんだ……!? この、頭の中を見透かされているような感覚は……! 何をしているのかわからないが……マズイ!)

 額を合わせられた途端、言い知れぬ違和感を感じた大神は左腕に『青い炎』を灯して優を振り払おうとする。しかし、優は先ほどと同じ超スピードで大神の元からすでに離れていた。

 「大丈夫か!? 零!」

 「ッ……」

 優が離れたことで王子が駆け寄るが、大神はなんとも言えずにいた。攻撃を受けたわけではない。先ほどの行為はあくまで額を合わせただけであり、頭突きなどを受けたわけではなかった。

 その行為になんの意味があるのか考える大神に対し、優は離れた場所で自らの左腕(・・)をジッと見つめて、何かを確かめようとしていた。

 「…………問題はなし、か」

 「おい、零! 大丈夫なのか!」

 「……ダメージは、無い。いったい、今のは……いや、そんなのは後でいい」

 混乱し何も言わない大神を心配する王子だったが、大神は攻撃を受けたわけではないことを伝える。相変わらず何をされたか理解できないが、敵を前にしていつまでも考えているわけにもいかない。

 大神は、別の疑問を解消することにした。

 「優……お前、何をした? さっきのスピードは、いくら『脳』で身体能力を強化したお前でも出せるようなスピードじゃなかった。あんなスピード……遊騎の『()』でも使わないと出せるわけがない」

 「…………やっぱり、すぐ気付かれたか」

 不意打ちだったとはいえ、『Re-CODE』二人に反応を遅らせるほどのスピードは今までの優とは別次元のものだった。それこそ大神の言う通り遊騎と同じスピード(・・・・・・・・・)だった。

 「だが……関係ない。この力(・・・)について知られようと……ここで全員斃せば済む話だ」

 「ま、まさか優君……! 君は──!」

 この力(・・・)という優の言葉に、会長はハッとする。しかし、次の瞬間……彼らは信じられない光景を目にする。

 「覚悟決めろよ……大神」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「目には目を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「歯には歯を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「悪には……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゴォ!!

 瞬間、優の左腕(・・・・)が『青い炎(・・・)』へと変化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なっ!?」

 「や、夜原先輩の左手から……『青い炎(・・・)()!?」

 「どうして、優が『青い炎』を!?」

 目の前の光景に驚きを隠せない大神、桜、王子。しかし、優は変わらず鋭い視線を彼らに向ける。その眼は『青い炎』が如く冷たく、熱く……目の前に立ち並ぶ敵を捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「悪には…………悪を(・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、優VS大神連合軍(『Re-CODE』含む)
オリジナル部分となります
あの力もとい『鏡脳』についての細かい説明・全貌は次回明かされます



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