CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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新年あけましておめでとうございます
スパロボ30ばかりやってしまいます
バルバトスにセブン強すぎ……





code:84 『影』は迫る

 ──王子殿が毎朝ピカピカにする玄関

 

 

 

 

 

 ──夜原先輩のエプロンがかけられた台所

 

 

 

 

 

 ──遊騎君がラクガキをした壁

 

 

 

 

 

 ──平家先輩が決まって寄りかかる柱

 

 

 

 

 

 ──刻君がお気に入りの洗面所の鏡

 

 

 

 

 

 ──大神が直した雨漏りの後

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──みんな、みんな…………無くなってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として告げられた刻と遊騎の敵対という現実をなんとか否定したくて、彼らと共に過ごした『渋谷荘』へと走った桜。しかし、そこで待っていたのは明らかに人の手によって破壊され尽くした『渋谷荘』という、追い打ちをかけるような惨状だった。

 「え、えっと……み、皆だって好きでこんなことしたわけじゃないよ! きっとのっぴきならない事情があって……!」

 「ハッ、どーだかな~? 所詮は『コード:ブレイカー』なんて飼い犬は“エデン(飼い主)”の言うことなら喜んで聞く奴r──」

 「そんなこと言っちゃダメだって~!!」

 「イテテ! 何すんだ、この珍種が!」

 なんとか桜を慰めようと言葉をかける会長だったが、『エンペラー』はそんなことお構いなしにその慰めを無駄にするような言葉を口にする。そんな『エンペラー』の言葉を止めようと会長はビシビシと叩き始めたが……当の桜はというと、そんな彼らのやり取りに耳を傾ける余裕など欠片もなかった。

 「……なんなのだ。こんなことをしてまで大神を狙うなんて……“エデン”の言いなりにならねばならぬ理由なんて……」

 『渋谷荘』が壊された悲しみ、仲間だったはずの大神を狙う理不尽に対する怒り……様々な感情でわなわなと身体を震わせる桜。

 しかし、まさにその渦中の中心とも言える人物である彼は……フッと不敵な笑みを浮かべた。

 「……どうだっていい。かかってくる奴は全員ぶっ殺すだけだ」

 「お、大神……」

 「さぁ、行きましょう。とりあえず、遊騎の『音』でも探し当てにくい場所で態勢を整えましょう」

 そんな彼の態度に、桜は流れていた涙も思わず止まり顔を上げる。そうして見えたのは、いつもと変わらぬ足取りで『渋谷荘』を後にしようとする大神の後ろ姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──キィィィン

 一方、遊騎と刻は時雨と行動を共にして大神の捜索を続けていた。『音』の異能を持つ遊騎が耳を澄ますことで大神たちの足取りを掴もうとするが、先ほどから成果と呼べるようなものはなかった。

 「大神零一人すら見つけられんとは、『音』の異能もヤキがまわったか」

 「あいつだってバカじゃねー。遊騎の『音』での探索のかわし方なんてまず一番に考えて手を打つだろーゼ。こうなったらそう簡単には見つかるわけがネー」

 そんな遊騎に対し、呆れたような口調で話す時雨。だが、それは決して遊騎が悪いわけではない。

 刻の言う通り、大神は『音』による捜索を警戒して動き始めていた。同じ『コード:ブレイカー』として『音』の異能を間近で見てきた彼にとって、対策も立てやすいのだろう。

 「どうだか……大神零に情でもわいて見つからぬフリでもしているんじゃないか? まったく、懲りない奴だ。貴様のその下らん情が人を死に至らしめる。……真理のようにな」

 「──!」

 しかし、それでも時雨は遊騎が手を抜いているとでも言いたげに言葉を続ける。彼らにとってターゲットである大神が上手と認めたくないのか、ただ遊騎を認めようとしていないのか……そのどちらであるかはわからないが。

 そうして冷たい言葉をかける時雨と、言い返そうとはしない遊騎。だが、時雨が最後に口にした真理という名前を聞いた瞬間、遊騎は大きく目を見開いて時雨の胸倉を掴んだ。

 「取り消せや、時雨! 真理は……真理は生きとる! 死んどらん!」

 「アレ(・・)で生きているだと……? よく言えるな。いいか、真理は死んだんだよ。お前が……お前が真理を殺したんだ!」

 「ッ……!」

 珍しく感情を露わにする遊騎だったが、時雨は臆することなく真正面から言い返す。そして、「真理はお前が殺した」という言葉を受けたことで、遊騎は思わず唇を噛みしめ……

 「遊騎!」

 そのまま時雨に背を向け、その場から走り去っていった。刻の声に止まることもせず、遊騎の姿はすぐに見えなくなった。

 そんな遊騎を見て、胸元のネクタイを直しながら時雨はため息をつく。

 「ふん。裏切るのか、腰抜けが」

 「……裏切らねーヨ」

 相変わらずの態度を続ける時雨だったが、刻は新しく咥えた煙草に火を点けながらそれを否定する。

 「アイツは“エデン”に反発はしているが、一度だって仕事を放棄したことはない。……なんでそこまですんのかは、アンタの方が知ってんじゃネーの? 時雨クン」

 「…………」

 かつて、桜も聞いたことがある。遊騎は“エデン”を嫌っている。それでも“エデン”に従う理由……それこそが遊騎にとっての『コード:ブレイカー』になった理由なのだろう。

 そして、おそらくその理由については古くからの知り合いである時雨の方がよくわかって──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そんなことはどうでも……どうでもいい」

 「ッ──!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に聞こえた無機質な声。思わず声が聞こえた方向へと体の向きを変えつつ距離をとる刻。

 しかし、そうして見えた景色に刻は思わず息を呑む。

 (こ、これは──!?)

 そこに立っていたのは、工事現場で春人に対し不意打ちとも呼べる攻撃をしたフードを被った男。しかし、異常なのは彼の周りだった。

 彼を中心として円系に、足元に生える草が見る見るうちに萎れていき、その範囲に生えていた木々も枯れ果てていく。さらに、上空からボトボトと力無く落ちてきたのは……鳥。見るからに息絶えており、萎れた草の上にはフードの男以外の生気が失われているようだった。例外としては、フードの男の肩に乗っているインコのみは生きているようだった。

 (コイツ……一瞬で周りの動植物の命を奪った……? 一体、何の異能を……)

 「邪魔しないでいただけませんか? まだ、この犬を殺すつもりはないので」

 警戒心を高める刻に対し、時雨は特に気にする様子も無くフードの男を見る。そして、彼はフードの男の正体を告げた。

 「週末ヲ告ゲシ者……『コード:クローザー』冴親(さえちか)さん」

 名を呼ばれたことで、男……冴親は被っていたフードを脱ぎ捨てる。そうして露わになった姿は、男性にしては珍しく腰まで伸びた長髪、刻と同じ閉成学院高校の制服を着た柔和な笑みを浮かべた端正な顔立ちの美少年だった。

 「躾のなっていない駄犬……駄犬は殺してしまおうか、時雨君。ああ、でもその美しい金銀妖眼を失うのは惜しい……惜しいな」

 だが、その柔和な笑みを浮かべる口から放たれた言葉は物騒極まりない言葉。見た目だけでは判断できないが、間違いなく彼も『コード:ネーム』の一員ということなのだろう。

 「そ、その制服ってオレの高校の……」

 「黙れ。『コード:ブレイカー』は大人しくオレたち『コード:ネーム』の言うことを聞いていればいいんだ」

 「なに!?」

 冴親の登場に動揺する刻に対し、時雨は高圧的な態度を続ける。いや、正確には先ほどよりも高圧的な感じは強い。何より、時雨が刻を見る目が明らかに見下している眼であるからだ。

 そんな時雨の態度に、思わず刻も時雨を睨みつける。

 「格が違うんだよ。罪を犯した者しか裁けないお前たちとは違って、オレたち『コード:ネーム』は必要とあらば何者であろうと殺せる自由を“エデン”から許されているのだから」

 「アァ!? 何言ってやがル!」

 「ふん、まだわからんか。オレたちは“悪”を裁くのではない。“正義”か“悪”かはオレたちが決めるんだ。『コード:ネーム』四人は貴様ら『コード:ブレイカー』の遥か上の強さ・権利・自由を持つ存在。人の生死さえもこの手に握る至高の存在だとよく覚えておけ」

 「…………」

 かつて『捜シ者』もその一人として君臨していた『コード:ネーム』。並外れた者たちではないことは予想していた刻だったが、まるで自分たちが神であるかのように話す時雨の言葉に、刻が抱いた感情はシンプルなものだった。

 ……気に入らない、と。

 「とにかく、お前は引き続き大神を捜すことに専念……専念することだ。遊騎()の代わりの駒も用意している」

 ──パチン

 そう言った冴親が指を鳴らすと、近くに生えていた木の陰から何者かが飛び出してきた。だが、それは刻にとってよく知った顔だった。

 「テメェ……優!」

 「…………」

 優の登場に驚いた様子を見せる刻だったが、当の優は刻には目もくれずに冴親の方を見る。

 「冴親様、一帯の気配は探りましたが大神はいません」

 「ふん、最初からそんなことで見つかるとは思っていない。気配など探る暇があれば、その無駄に鍛えた身体を使って捜しまわれ」

 「……わかりました、時雨様」

 「ッ……!」

 深々と時雨に頭を下げる優を見て、思わず刻はわなわなと拳を震わせる。いくら『コード:ブレイカー』の上に立つ存在だとしても、こんなにも下手に立って大人しくしている優を見て、刻は明らかに苛立ちを感じていた。

 「では、失礼します。……行くぞ、刻」

 「アァ!? オレは別にテメェとなんて──!」

 「そういう指示だ。いいから行くぞ」

 「…………チッ!」

 刻は一際大きい舌打ちをすると、冴親たちに背を向けて歩き始めた。続くように、優も一礼してからその後を追う。そんな彼らの背中を見て、時雨はつまらなそうに鼻を鳴らし、冴親は現れてから一度も崩さないその柔和な笑みを浮かべ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「とにかく、まずは大神がどう動くかを考えることからだな。アイツのことだから、まずは索敵に有利な遊騎の『音』を避けるために……」

 「…………」

 「……おい、刻。聞いているか?」

 「っせぇんだヨ! さっきから見てりゃペコペコしやがっテ……! よくもまあ、そんな風に尻尾振れるもんだゼ! やっぱテメェはどこまでも犬野郎ってことかヨ!」

 先の『捜シ者』との闘い……正確にはその闘いに備えた修業にて、少しとはいえ優を認めようとしていた刻。だが、彼が見たのはその認めようとした男がみっともなく気に入らない存在に黙って従う姿。とてもじゃないが……その気分はいいわけがない。

 「……そう文句を言うな。『コード:ネーム』なんて存在があったことはオレも知らなかった。時雨……様が言う通り、彼らはオレたちより上の強さと権利を持っている。反発したところで、良い結果が待っているわけじゃない」

 「だからってテメーみたいにペコペコすんのはゴメンだ! オレは性根まで犬野郎のテメーとは違うんだヨ!!」

 「…………」

 「犬野郎」と罵る刻に対し、優は何も反論はしなかった。それは自分でも認めているからかはわからないが、刻のように激昂しようとはしなかった。

 ただ、何かを覚悟したかのような……静かな、強い眼をしていた。

 「……なあ、刻」

 「アァ? うっせーな、大神を捜すのはテメーがやれヨ。オレは足で稼ぐなんて汗臭いやり方に付き合う気は──」

 「違う。お前に一つだけ話と……頼みがある」

 「……頼み?」

 「ああ」

 「実は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「真理……何も心配せーへんでええんやで。“エデン”に任せとけば全部大丈夫や。“エデン”はな、すごいんやで。オレに電話も家だってくれてようしてくれるし、何より“エデン”の医療は五十年先いっとるっちゅう最先端や。真理も……きっと良うなる」

 都内のとある大病院。人員も規模も他の病院より一歩上をいく大きな施設の中の、限られた人間しか立ち入れない特殊な治療室を……遊騎はガラス越しに見ていた。いや、中にいる患者に話しかけていた。

 「……今な、『狩り』しとんのや。『青い炎狩り』……悪い奴、斃すんや。そしたらな、“エデン”はまた最新の治療を世界の誰よりも先に真理に試してくれるんや」

 ギュ、と拳を握る遊騎。遊騎の言葉は、半分は真実であるがもう半分は嘘。少なくとも、遊騎自身はそう感じていた。『狩り』の対象である大神は遊騎にとって、共に過ごした者。悪い奴などとは……言えるはずもない存在。

 だが、本当のことなど言えなかった。たとえガラスの向こうにいる彼に聞こえていないとしても、そんな存在を追っているなどとは。

 「……時雨も待っとる。『真理が良うなったらまた三人で遊びたい』って言うとった。……アイツらしいやろ? だから、真理……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──はよう目ぇ、覚ましてや…………

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いや~、それにしても考えたね大神君。地下や室内ではなく、あえて屋外を拠点に選ぶなんてね」

 「ちょうどよく、その悪趣味なデザインのテントが無事でしたからね。有効活用するだけです」

 「いかにも、近くを流れる川の音で遊騎君の『音』の探索から逃れられる。それにこんな自然だらけじゃ刻君の『磁力』に作用するものもほとんどないしね」

 その頃、大神たちは勢いよく流れる川の近くに『にゃんまる』がデザインされたテントを広げていた。周囲にある物といえば砂利や生い茂る木々くらいといった、まさに自然に囲まれた空間。どうやら優の予想通り、遊騎の『音』による探索から逃れるための策を講じたようだった。

 「それより、さっきも言いましたが水はろ過機を作ったので必ず火を通してください。あと、枯れ木以外には火を点けず、ガス缶を使う時は……」

 「うんうん、サバイバル生活をしている君は輝いているね」

 台風の時にも見せたサバイバル技術を最大限に駆使できる状況だからか、大神は何やら小さな木材を削る作業をしながら注意事項をどこか生き生きとした様子で語っていた。

 しかし、忘れてはならない。今の彼らはあくまで……追われる存在なのだ。

 「……でも、どうせキャンプをするなら皆で来たかったね」

 「…………」

 先の『捜シ者』との闘いにおいて、大神たちは桜を『渋谷荘』から遠ざけるためにキャンプという嘘をついた。だが、彼らがやっているのはキャンプといえなくもない。

 その目的は、かつての仲間の追撃から逃れるためというのが皮肉なものだが。

 「──逃げるのだ」

 「……桜小路さん?」

 ポツリと、弱々しく呟いた桜の言葉に、大神は作業を止めて桜の方を見る。そこには破壊された『渋谷荘』を見た時の悲しみに塗れた様子は無く、なんとか大神を説得しようとする桜の姿があった。

 「逃げるのだ、大神! そうすれば皆と殺し合う必要など無い! ……もちろん、お前が悪くないことはわかっている。だが、皆と闘うことになるくらいなら勇気ある逃亡を──」

 「オレは逃げません。……絶対に」

 「……なぜだ!」

 しかし、大神はそんな桜の説得を間髪入れずに否定する。そして、そのまま桜に背を向けて中断していた作業を再開する。そんな大神を見て、桜は思わず語気を強める。

 「そうまでして、なぜ皆と闘おうとする! 喧嘩の売り買いじゃないんだぞ!? 誰かが……死ぬかもしれないんだぞ!?」

 「誰かが死ぬ可能性があるのは今までも同じです。それに、所詮は喧嘩の売り買いですよ。命懸けの喧嘩ってわけです。面白いじゃないですか。“エデン”の方から喧嘩を売ってくれたおかげで、オレは自由になりましたし」

 「ッ──! 大神!」

 遊騎と刻……共に『渋谷荘』で苦楽を共にした仲間との命懸けの闘いを「面白い」と話す大神に、桜はとうとう我慢の限界を迎え大神の肩を掴む。

 「いい加減にしろ! 命懸けの喧嘩などと……! お前は本気で皆を──!」

 ──ガシッ!

 瞬間……肩に伸びていた桜の手首を大神の手が掴む。そのまま桜の手を肩から離し、大神は桜の方を真正面から見る。

 「殺しますよ……絶対にブッ殺す。オレがそのつもりだってことくらい、あいつらはわかっている。……あいつらなら(・・)

 それは、言うなれば信頼。共に死線をくぐり、共に生きてきた彼らの間だからこそ生まれるもの。だからこそ、大神は逃げない。刻たちも大神を逃がさない。

 初めから彼らの間に……逃走などという選択肢は存在していなかった。

 (なんて……決意だ)

 だが、彼らとの間に信頼を感じていたのは桜も同じだった。だから……認められなかった。

 「……ダメ、だ」

 震えながら、言葉を絞り出す桜。大神も刻たちも、止まることは無いと今の大神とのやり取りだけで桜は理解した。だが、納得までできるわけがなかった。大神にとっても桜にとっても、仲間である刻たちと闘うことなど……そうすぐに納得できるわけがない。

 (止められないのか……? もう、戻ることはできないというのか……?)

 しかし、発した言葉とは裏腹に頭の中には弱気な言葉が次々に浮かぶ。今の桜の中には、ただ「ダメ」と繰り返すしか言葉が浮かばなかった。

 「ダメなのだ、そんなの……。ぜ、絶対に……」

 彼らを止める言葉も、術も……何も浮かばない。もう本当に……戻れないのだという非情な現実が桜の頭の中を侵食していった。

 (昨日まで当たり前にあった、あの日常には……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……でも、ただブッ殺すのは面白くない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って大神は、桜の手に何かを置いた。

 そこには、桜の掌に収まるほど小さな……『渋谷荘』があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これ、は……小さな……『渋谷荘』?」

 「ええ。でも、一人じゃそれ(・・)が精一杯です。だからブッ殺す前にあいつら全員を馬車馬のように働かせて『渋谷荘』を建て直させます。……もちろん、もう雨漏りなんてしない立派なヤツを、ね」

 「お、大神……! お前、最初から……!」

 大神の言葉に、桜は思わず目を見開く。大神の言葉はつまり、刻たちと闘うことになっても殺しはしないということ。さらには彼らが破壊した『渋谷荘』も元に戻してみせる……彼らと、一緒に。

 「さんざんオレのことを笑ったあいつらを召し使いのようにこき使ってやるのも悪くない」

 「お、大神君! じゃあついに『渋谷荘』マンション化計画の時が……!」

 「てめぇは黙ってろ」

 そんな大神の言葉に便乗するかのように、どこから取り出したのかお手製の『渋谷荘』マンション化計画の計画書を持ってそわそわとする会長。せっかくの雰囲気をぶち壊す発言に、大神は冷ややかな言葉を返す。

 そんな彼らのもとに……一本の()が放られた。

 ──ヒュン

 「ぬおっ!? 『渋谷荘』が!?」

 その糸は桜の手にあった『渋谷荘』に引っかかると、そのまま桜の手から『渋谷荘』を奪う。まるで……釣り(・・)でもしているかのように。

 ──パシッ

 「……へぇ? 相変わらずうまいもんだな、零」

 「王子殿!」

 突如として放られた糸が戻った場所には、自身のバイクに背を預ける形で立つ王子の姿があった。釣りを趣味とする彼女にとって、その程度はお手の物ということだろう。

 王子の登場にパッと表情を明るくする桜。しかし……

 ──ス

 「お、おい……大神? 王子殿に限ってそんなことは……」

 そんな桜を制するように、大神は桜の前に立つ。そんな大神に困ったような表情をする桜だったが……すぐに思い知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──バシャ!

 「──え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ままごとはもう終わったんだよ」

 大神が作った『渋谷荘』を、何の躊躇いもなく近くの川に投げ捨てる王子。そう、彼女も……『05』のナンバーを持つれっきとした『コード:ブレイカー』なのだ。

 「さぁ……覚悟決めな、零」

 王子の足元から、『影』が溢れ出す。『影』は大神たちを絶望に染めるかのように、彼らへと伸びていった。

 

 

 

 

 




活動報告にも書かせていただきましたが挿絵投稿始めました
code:0から順に掲載予定です
画力は底辺中の底辺ということを承知の上でご覧ください
液タブで描いたイラストに血痕を塗りたくるのが楽しくて病んでるのかなと勝手に不安になってます



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