無限列車編でひたすら泣きました
『さあ! これで勝負はわからなくなった! 第6ラウンドまでは2790と3680と烏丸の圧倒的優位の点差となっていましたが、第7ラウンドでなんと夜原! 『縮小』と『移動』の二つの『対価』を選んだ状態で見事に180を取得! 倍率は30倍となるため、取得点はなんと驚異の5400! これで夜原の点数は8190となり、烏丸を大きく突き放しました!』
今回の仕事の目的であるターゲットに近づくために参加した地下で行われる賭けダーツにて、かつて自分にダーツを教えた男である烏丸との試合を繰り広げる優。烏丸の圧倒的な実力により、一時は絶望的な状況に置かれた優だったが、烏丸の一言により調子を取り戻した優は一気に逆転をしてみせた。
「…………」
だが、今の優の眼には油断の色なんて欠片も感じない。今、烏丸との点差は自分が確実に優位だが、それでも油断なんてしてしまえば一瞬で足元をすくわれる……彼が相手にしている烏丸という男は、そういう存在なのだ。
「……あーあ。こんなことになんだったら余計なこと言わなけりゃよかったぜ」
「その割には、後悔しているような顔はしてませんね」
「どーだかな……。実際のところ、オレはもう『目』も『痛み』も『縮小』も選び尽くしちまった。となると、残ってるのは『回転』一回と『移動』二回。選び方次第じゃ逆転は可能だろーが……ハッキリ言ってこれはオレでもリスクが高すぎる」
そう、すでにゲームも終盤のため選べる『対価』も残り少なくなっている。そして、烏丸にとって残された逆転の手は『回転』と『移動』を同時に選ぶことだが、この難易度は極めて高い。『回転』によってボードが高速で回転するだけでなく、『移動』によってそのボード台は動き、さらには投げる際に自分が乗っている台座も回ってしまう。自身も回転している状態でボードの回転を見極めるだけでなく、その見極めとダーツを投げるという行為を移動しているボード台が見えた一瞬でやらなくてはならない。なぜなら、ボード台の移動する向きと台座の回転の向きは逆のため、自身が向いている向きにボード台が現れるのはほんの一瞬のためだ。これを3投……とてもじゃないがリスクが高すぎる行為だった。
「……そんなこと言っておきながら、簡単に180を取ってしまいそうですけどね」
「ハッ、随分と高く評価してくれんだな」
「それはこの会場にいる全員が思ってることだと思いますけど」
優の言葉を受け、烏丸はふと盛り上がっている観客席へと目を向ける。彼らは次順である烏丸がどのような選択をし、そしてどんな神業的なプレイを見せてくれるのか……そんな期待をしている空気で溢れかえっていた。
「あいつらは自分が楽しめればいいだけだからな。好きなだけ騒いでりゃいい」
そう言って、烏丸は新たに取り出した煙草に火を点ける。優に逆転を許してしまった以上、残ったプレイでの選択を慎重に選ぼうとしているのだろう。
……そう、優が考えた時だった。
「……なあ、夜原優」
「はい?」
「オレと……賭けをしない?」
「……賭け?」
「ああ」
まるで予想していなかった烏丸のその言葉に、優の思考は一瞬フリーズした。しかし、当の烏丸は真剣そのものといった面持ちで言葉を続けた。
「なーに、簡単な賭けだ。この第7ラウンドでオレが選ぶ『対価』……それを
「な……!?」
完全に面食らった表情を浮かべる優。当然だ。烏丸は仮にも対戦相手である優に対して、自分が得る得点の鍵である『対価』を選ばせようというのだ。だが、先ほど烏丸が言ったように彼に残った『対価』は『回転』一回と『移動』二回。普通に考えれば、ここで『回転』を選ばせればたとえ残り二回パーフェクトを取ったとしても烏丸の逆転は完全に不可能となる。それこそ、優が最終ラウンドでアウトボードでもしない限り、だ。
「……ふざけないでください。そんなお情けのようなことをされて勝ったところで、オレは──」
「…………勘違いしてんじゃねーよ」
烏丸から提示された賭けとも言えないような内容の賭けに対し、わずかながら怒りを感じた優。だが、そんな優に対して烏丸は大きく煙を吐き出しながら、ポツリと呟いた。
「お情けなんかじゃねぇ……。これで正解を選べばお前は勝つ。だが、間違えれば……オレが勝つ。れっきとした賭けだ」
「ッ……?」
そこまで言われたが、優はやはり意味がわからなかった。だが、一つだけはわかる。
これは決してふざけていたり、動揺を誘っているわけでもない。烏丸の言う通り、選択を間違えれば自分は負ける……そんな危機感を思わず感じた。
「…………」
そこで、ようやく優は真剣にその賭けの内容について考える。だが、いくら考えたところで正解……自分が勝つための選択は一つしか思い浮かばなかった。
はたしてそれでいいのか……浮かんだ答えを口にしようとすれば湧いてくるその疑念に何度も躊躇しながら…………優は覚悟を決めた。
「……『回転』、です」
「…………そうか」
優の答えに対し、烏丸はそれだけ返して吸い終わった煙草を灰皿に捨てる。
そして彼は……『回転』一つだけを選んで第7ラウンドを開始した。
──カッ!
『か、烏丸180……ですが、それでも得点は900点。夜原の点数には遠く及びません……』
──ざわざわ
「なんで、ここで『回転』を?」
「せめて『移動』も選べばまた逆転できたかもしれないのに……」
烏丸の選択に、司会と観客のどちらも動揺を隠せなかった。彼らから見ても、この烏丸の行動はどう考えても勝とうとしているようには思えなかった。
誰も口にこそは出さないが……「諦めたのか?」という思いが彼らの心の中には生まれていた。
そんな緊迫感の中……ついに勝負は最終ラウンドを迎えた。
(……おかしい)
そんな中……優は彼らとは全く別の感情が渦巻いていた。まるで、首元に見えない刃物をずっと添えられているような……そんな、不安定ではっきりしない危機感が彼を支配していた。
(なぜ、あの人はあの場面でオレに自分の『代償』を選ばせた……? いや、それよりもオレが選んだのは……正解だったのか?)
考えれば考えるほど、わらかなくなる。当の烏丸はまるで追いこまれたような様子は無く、また煙草をふかしている。あれは果たして、勝利を確信した余裕なのか、それとも勝ちを諦めただけなのか……。
(──違う)
(今、オレが考えるべきことはそこじゃない)
(オレは……勝つためにやるべきことをやるだけだ)
次々と浮かんでくる疑念に呑み込まれようとした……一歩手前だった。今、自分がするべきことを再確認する。そう、彼は『コード:ブレイカー』として仕事をこなすためにも……勝たなくてはならない。
なら、自分がすべきことは決まっている。
それは──
「最終ラウンド……『移動』と『回転』を選びます」
油断や躊躇などを一切せず、ただ勝ちに向かっていくことだけだった。
『さあ、ついに迎えた最終ラウンド! ここまででのお互いの得点は夜原8190に対し烏丸4580とその点差は圧倒的! だが、夜原は決して容赦はしない! ここで『移動』と『回転』の二つを選ぶことで烏丸との点差を絶対的なものにしようとしています!』
この『移動』と『回転』を同時に選んだ際の難易度の高さは先にも述べた通りだが、今の優にとってはそんな難易度なんて些細なことでしかなかった。いや、むしろ関係なかった。どんなに高い壁だろうと、自分は乗り越える必要がある。ならば、それに全力を尽くすのみだった。
──ゴゴゴゴ
ついに、『移動』と『回転』のギミックがそれぞれ動き始める。足場である台座が回転していることで安定しない視界。その視界の中に、一瞬だけ現れるボード台。高得点を得られる保証はない。だが、ここまで来て諦める気も毛頭ない。今の彼の中にあるのは、先ほど烏丸から告げられた言葉だった。
(──必ず、当てる。その意志の強さだけは…………今は負ける気は無い)
──ヒュ
その後、彼が3投全て投げ終えるまでそう時間はかからなかった。
──シ…………ン
会場は、静けさに包まれていた。
そこにいる人間たちは、ただただ一点に視線を注いでいた。
投げ終えたことで減速を始め、徐々にハッキリ視認できるようになってきたボード台。どこに何本……いったい何点を取ったのか…………ただ、そこだけに注目していた。
そして……ついに、判明する。
『…………ひゃ、180ゥゥゥゥゥ!! 夜原、驚異的な難易度を乗り越えて倍率50倍! 9000点を獲得してみせたぁぁぁぁぁ!!』
──オオオオオオ!!
「……!」
司会の言葉を改めて聞き、会場の観客たちは大いに盛り上がる。さらに、当の優も小さくガッツポーズをとっていた。
これで、優の総得点は17190。もはや、彼の勝ちは絶対的なものとなった。
『さあ、圧倒的な総得点となった夜原! しかし、試合は彼が投げ終えるまで終わりません! 続いては烏丸の最終ラウンドです!』
司会のその言葉を聞き、優は烏丸の元へと向かう。だが、彼にしてみればなんとも言えない状況と言えるだろう。なにせ、これから自分がどうやろうとも逆転など不可能なのだから。
負けるとわかった状態。それでもやってくる自分の番。そんな状況で烏丸はただただ────
「…………え?」
……………………笑って、いた。
大きく、歯を見せながら……その口は、三日月の如く弧を描いていた。
だが、そこから感じるのは三日月のような神秘的なものではない。
ただ……言いようもない邪悪さを感じた。
「……やっちまったな、ガキ。しっかりとルールを聞いてねーとダメじゃねーか」
(……なんだ?)
「こうやってルールが決められている以上、そのルールをしっかり理解するのはプレイヤーとして当然のことだぜ?」
(一体、この人は……)
「前にオレの知り合いが言っていたが、オレたちが一流のプレイヤーなのはあくまでルールによって守られてこその一流だってな」
(何を、言って…………?)
──今回のゲームでは各ラウンド開始時に『目』、『痛み』、『縮小』、『回転』、『移動』の5つから最大二つまでを選んでいただきます!
──しかし、この制限ですがそれぞれ2回までしか選べません!
「制限……『代償』を最大二つまで選ぶ。
「ッ──!!」
今、理解した。
自分は…………
烏丸に残っている制限は『移動』が二回分…………『移動』一つにかかる得点への倍率は10倍。ならば、それを二つ選んだとしたら…………
「……理解したよーだな。アンタのいる“そこ”────
そこが、
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──
「…………完敗です」
「…………」
数時間後、司会や観客がいなくなった会場には優と烏丸の二人だけだ残っていた。
あの後、結局烏丸は『移動』二回を選び、見事に180点を射抜いてみせ、18000点というこのゲームにおける最高得点を叩き出して勝利してみせた。ちなみに、実際にプレイを行った際は『移動』のギミックのスピードが倍になっており、烏丸は投げ終えた後は回り過ぎて酔ってしまい、しばらくダウンしていた。
「特殊なルールに対する理解力も、純粋なダーツの腕も……オレは、あなたには敵わなかった」
「そりゃ、ガキとはくぐった修羅場の数が違うからな」
──ボッ
煙草に火を点けながら、優の言葉にそっけなく答える烏丸。吐き出した煙は天井へと昇っていくが、天井に届く前に空気に消えて見えなくなる。ほのかに煙草の臭いが優の鼻に届き始めたかと思ったその時……二人に近づく人物が一人。
「お二人とも、お疲れ様でした。今回の試合は最近では一番の盛り上がりでした」
「……絹守さんか」
「…………」
そこに現れたのは、この賭けダーツの胴元である講談組若頭、そして優の今回のターゲットでもある男……絹守一馬だった。
「お久しぶりですね。こうして会うのは君が幼い頃以来なんですが……覚えていますか?」
「……ええ。烏丸さんと一緒でお変わりないので」
「なんだ? 昔話するためにわざわざ来たってのか?」
「いえいえ、お話があるのは確かですが別の話ですよ」
しわの一つも無いスーツにきっちり整えられた髪。その丁寧な口調と穏やかな笑顔のまま淡々と話を続ける絹守。
だが、彼が次に発した一言に優と烏丸は思わず息を呑んだ。
「私がお話したいのは、彼の
「ッ!」
「……は?」
「…………気付いてたんですか?」
「これでも若頭ですからね。君たちの存在について耳にしたことはあります」
「……おいおい、急に出てきたと思ったら何の話だ? このガキがアンタを殺すとか……」
絹守の言葉は、『コード:ブレイカー』について知っているという口ぶりだった。だが、烏丸は知らなかったようで絹守の言葉にただ混乱していた。
「といっても、あくまで都市伝説程度の噂でしたがね。法で裁けない“悪”を裁く『コード:ブレイカー』という闇の存在……。ですが、私にも不本意ながら“上”の人間に知っている人間がいましてね。本当は関わる気はなかったのですが、もしやと思って確認してみたんですよ。あなたがその『コード:ブレイカー』であり、私を殺す仕事を請け負っているということをね」
「……なるほど」
どうやら絹守は全てを知っているようだった。彼が言う“上”の人間というのが誰かは気になるが、今の優にとってそれを問いただすのは無意味なことだった。そもそも、絹守がそう簡単に口を割るはずもないのだから。
「…………よくわかんねーが、テメーは絹守さんを殺すためにこの賭けダーツに参加した、っつーことか」
「……そうです」
瞬間、烏丸の眼に警戒の色が一気に現れる。だが、間違ってはいけない。優は常人には無い異能を持っており、烏丸と絹守はあくまで常人。優が本気になれば、この二人など相手にすらならない。
「ですが、今となっては状況が変わりました。『コード:ブレイカー』という存在について知られた以上は……オレは烏丸さんも処分しなくてはならなくなりました」
「おいおい……絹守さん、アンタのせいでオレまで狙われちまってるようだぜ?」
「みたいですね」
「みたいですね、って他人事かよ!」
「……ですが、問題は無いと思いますよ」
「あ……?」
──ピリリリリ
ふと、優の携帯電話から着信音が鳴り響く。優は烏丸と絹守から視線を外すことなく、携帯を手に取り通話ボタンを押し耳に当てる。液晶に表示されたのは「非通知」の文字。それが表すのは……“エデン”からの連絡ということだった。
「……はい」
『『コード;07』、今回の仕事は中止だ』
「……は?」
携帯越しに聞こえてきた“エデン”のエージェントの言葉に、優は思わず目を見開いた。こんなことは初めてのことだったからだ。どういうことかと問い詰めるより先に、エージェントは続けた。
『総理直々の決定だ。とある人物から総理へと話があり、結果として中止となった』
「……そんなことで中止なんてことがあるんですか?」
『それだけ“
──ブツッ
「…………」
「……どうやら、この仕事は中止になったようですね」
優が発する言葉から、電話の内容を察した絹守は変わらぬ笑顔で口にした。それに対し、烏丸はわけがわからず首を傾げている。
そして、優は耳に当てた携帯を再びしまうと……大きく息をついた。
「……こうなった以上、引き下がるしかありませんね」
「……ったく、わけわかんねーな。とにかく、絹守さんを殺すのはヤメってことでいいのか?」
「ええ」
おそらくだが、絹守が言う“上”の人間とエージェントが言っていた総理に話をしたという人物は同一人物。総理にそんなことを決定させるとは、その人物が何者なのか気になるところであるが……聞いたところで、絹守もエージェントも答えるはずはないと優は感じていた。
「では、失礼します。……言っておきますが、『コード:ブレイカー』については決して他言はしない方がいいですよ。不用意に喋れば、何があろうとあなた方を消さなくてはならなくなると思います」
「もちろんですよ。ねぇ、烏丸君」
「生憎、そんな怪しい話をベラベラ喋る気はねーよ」
二人の返答を聞いたところで、優は彼らに背を向ける。そして、そのまま会場の出口へと向かっていった。そんな優に対して、烏丸と絹守は追おうとはせずにその背中を見つめていた。
「──おい」
だが、そんな優に声をかけたのは烏丸だった。いつの間にか煙草は灰皿へと置かれており、両手をポケットに入れていた。
しかし、優は歩みを止める様子は無く出口への距離を縮めていく。
それでも、烏丸は構わずに言葉を続けた。
「……オレが“迷路の悪魔”なんて呼ばれてるのは、対戦相手と二度と会うことがねーからだ。中にゃ例外もいるんだが…………テメーだったら、また会っても悪くねーかもな」
──ビュオ!!
──ドガァン!!
「なっ──!?」
「ッ──!」
瞬間、優が振り向いたと同時に放った何かが烏丸と絹守の横を一瞬で過ぎ去り、彼らのはるか後方にある今回の試合で使われたダーツ台が轟音を立てて崩れる。
見ると、そのダーツ台の中央には3本のダーツが深々と突き刺さっており、ダーツ台全体に亀裂を走らせていた。
「──オレも、同じ気持ちです。ですが……きっと無理でしょう。“悪魔”と“
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──
「……『コード:07』には仕事の中止が伝わったようだ。絹守一馬と烏丸徨は無事だそうだよ」
「そう、それはよかったわ」
「だが、こんなことはもうやめてほしいね。仮にも法で裁けない“悪”を裁く存在である我々がこのような交渉に応じるなど、あってはならないことなのだから」
「わかってるわ、こんな我儘はもうしない。それに、条件のこれから一生あなた方に情報を提供するというのも破る気は無いから安心してちょうだい」
「なら、いいけどねぇ」
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「……それが、先輩と先生殿の勝負の結末というわけですか」
「そうだ」
そうして時は現在……優から話された烏丸との試合について聞き終えた桜たちだったが、桜を除いた『コード:ブレイカー』たちはどこか納得がいかない様子だった。
「一つだけわからないんですが……優、どうして一回外したんですか?」
「む……? 大神、聞いていなかったのか? それは厳しい制限があったからで……」
「違いますよ、桜小路さん。優の異能である『脳』を使えば、動体視力なども強化できます。ですからいくら的が回ろうが動こうが、優にとっては問題ないはずなんです」
大神たちが感じた疑問……それは、優が最初に『回転』を選んだ時に180を取れなかったこと。確かに『脳』を使えば常人を越えた身体能力を得ることができ、銃弾を銃弾で撃つことができる優にとってただ回るだけの的を外すことなど考えづらかった。
しかし、その答えは優があっさりと白状した。
「……当たり前だ。オレはあの人との試合の時……一度だって
そう、優は烏丸との試合において……異能は使っていなかった。使ったのは最後……烏丸たちに別れを告げる際に放った一投だけであった。
「ハア? お前、結果的には中止になったとはいえ勝たなきゃ仕事になんねー状況で異能を使わなかったとか……バカじゃねーノ?」
「……オレにはなんとなくわかるわ、
「そうだな、オレもだ」
勝たなくては仕事がこなせないという状況で異能を使わず、それで苦戦したという優に対し刻はわけがわからないという顔をするが、遊騎と王子はどこか納得したような表情をしていた。見ると、言葉にはしていないが大神もなんとなく予想がついているようだった。
「……バカでいいさ。ただ、あの人には純粋な自分の実力で勝負してみたかった……それだけだ」
「……そーかヨ」
「おお……さすが夜原先輩! 正々堂々真剣勝負とは男らしいのだ!」
かつて自分の師であった男との勝負にかける思いを語った優に、刻もそれ以上は何も言わなかった。また、桜も桜で感銘を受けたようで尊敬の眼差しを優へと向けていた。
「よーし! 私も夜原先輩のような腕前を目指すのだ! 先輩! ぜひご指導を!」
「悪いが、それは断る」
「えー!? なぜですか、夜原先輩~!」
「桜チャ~ン、ダーツだったらオレが教えてやるって~。構え方とか、丁寧に教えちゃうヨ?」
「優に負けてるくせに偉そうに言ってんじゃねぇよ」
「せやな、負けてたわ」
「刻! テメー、オレの前で下心見せるたぁいい度胸だな!」
わいわいと騒ぎ始める『渋谷荘』の住人たち。大きな闘いが終わり、また新たな闘いが始まる間のほんの一瞬…………それでも、彼らが過ごしたかけがえのない一コマだった。
──人生なんてのは面倒な迷路のようなものだ
──どこかに向かおうとすれば、何度でも壁が目の前に立ち塞がる
──そこが行き止まりであるかのように
──だが、そこで諦めればそこは本当に行き止まりとなる
──大事なのは、何度行き止まりが目の前に現れようとも
──進み続ける意思の強さが、いずれ出口へと自身を導く
原作の序盤の方に出てきたエロ刑事さんすら『コード:ブレイカー』の存在についてはやんわりと知っているので、絹守さんだって情報は仕入れているという体です
ちなみにルールの穴については正直、自分も「う~ん?」って感じです
原作のようなハッとするような仕掛けが思い浮かぶような頭をしていないので……