汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

9 / 44
視察官到来はもうちょっと先です。

趣味にお金を使うなんて……!


第九話 鳳翔と居酒屋

 

 

「ククク、呼び出された理由は分かるか? 鳳翔よぉ」

 

「い、いえ……」

 

 私、軽空母鳳翔は、提督の執務室に一人呼び出されています。

 いえ、正確には妖精さんたちもいるのですが。

 

 以前と内装はあまり変わりませんが、提督と妖精さんのおかげで、

此処に入る事もあまり怖くはありませんでした。

 

 しかし、やっぱりこうして向き合うと、緊張してしまいますね。

 

「お前、俺が来る前は食事管理を任されていたんだってなぁ?」

 

「……はい」

 

 食事管理。

 以前は碌に与えられない食料を、どうやり繰りするかどうかばかり考えていました。

 どうにか皆に美味しいごはんを食べさせてあげたい、という想いで。

 

 ……あの人に蹴り飛ばされた時、心は萎えてしまいましたが。

 

 でも、提督が来てから変わりました。

 毎日三食、美味しい食事が頂ける。

 

「……ああそういえば、明日から俺が厨房に立つことはねぇ」

 

「え……」

 

 それは一体、と聞こうとした瞬間、提督は笑って立ちあがります。

 

「艦娘共のローテーション表を作った。これに従って厨房に入ってもらうぜ」

 

 提督の手には、私達の名前が書かれた表。

 恐らく、私達が交代して料理担当しろということなのでしょうけど……。

 

「し、しかし提督。料理が出来る娘は」

 

「クク、妖精さんの補助を付ける。それなら何の問題もねえよなぁ?」

 

 そうでした。

 彼には妖精さんが味方しているのでしたね。

 

 彼女達の力を借りれば、料理を覚えていくことも容易いでしょう。

 

 ほっと息を撫でおろす私に、提督が少し近づいてきます。

 

「そして、お前が厨房に立つ必要もねぇ」

 

「……ああ、はい。解りました」

 

 それは、そうですよね。

 みんなで協力すれば、もう私が食事管理を一任する必要はありません。

 

 提督と、妖精さん、皆がいるのですから。

 

 ……でも。

 私は……。

 

 私は料理をすることが……。

 

「お前には別の仕事をしてもらいたくてなぁ」

 

「別の、仕事ですか?」

 

 何を、提督は仰るつもりでしょうか。

 私にできることと言えば、空母の娘達の訓練、艦載機の熟練度……。

 

「ついてきな!」

 

「て、提督?」

 

 私の手を引いて歩きだす提督に、抵抗も出来ずついていきます。

 だ、男性の方に触れられるなんて……。

 

 提督の、大きくて暖かい手が、私を連れていく。

 歩く速度を私に合わせている事が、すぐに分かりました。

 

 ……この人なら。

 

 提督になら、私はついていけます。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 クックック、鳳翔の奴、絶望しているだろうなぁ。

 

 いきなり自分だけ呼び出され、更に追加の仕事を押し付けられようとしてるんだ。

 おまけに鎮守府を俺に連れられて歩かされる!

 

 耳まで赤くなって、怒り心頭ってかぁ!?

 

 速く歩く事はしねぇ、なるべくゆっくり行って周囲に晒してやるぜ。

 気分は市中引き回しの刑だ!

 

 いい気分だねぇ、虐待ってのはよぉ!

 

「あ、提督と鳳翔さんでち」

 

「おてて繋いで、仲良しさんなのね」

 

「鳳翔さん、顔真っ赤ですって!」

 

 ほぉら、侮蔑の声が聴こえるだろ?

 心無い艦娘どもに、傷付けられな鳳翔!

 

 

 外に出て、また少し歩く。

 鎮守府南棟の脇、ブルーシートに隠された区画に着いた。

 

 妖精さん印の、工事用シートだぜ!

 

「提督? あの、これは一体?」

 

「ククク、驚くなよ?」

 

 ま、無理な話だがな。

 自分がこれから入る牢獄を目にして、絶望しない囚人は居ない。

 

 妖精さんがシートに掴まり、いつでもお披露目は出来る状態だ。

 さぁ、俺の趣味、『虐待』と『酒』を融合させた恐怖の館!

 

 オープンだ!!

 

「こ、これは……」

 

「見た事ねぇか? これは『居酒屋』っていうんだぜ?」

 

 酒を飲み、つまみを食う。

 大人の、憩いの場だ。

 

 俺は居酒屋が好きなんだが、わざわざ街へ繰り出すのもめんどくせえ。

 なら鎮守府内に作って、更に艦娘に運営させちまえって寸法よ!

 

 艦娘は扱き使え、俺は楽しめる。

 最高の作戦だったなぁ。

 

 三日で建ててくれた妖精さんにはマジ感謝しかねぇな!

 

「ち、知識では知っていましたけど」

 

「それなら話は早えな。おい鳳翔!」

 

 さて、建物は完成した。

 酒も食材も、搬入完了だ。

 

 あとは、『店員』が必要だよなぁ?

 

「お前、ここの店長になれ。お前の店だ」

 

「…………え?」

 

 クク、嫌だろうな。

 こんな面倒な事、わざわざやりたい奴はいねえ。

 

 しかし、言い逃れはできねえぜ?

 俺の命令、しかも以前から食事に関わっていたという実績!

 

 お前がやるしかないんだよ鳳翔。

 

「私が……このお店を……」

 

「そうだ。光栄だろ? クックック」

 

 呆然となり、店を仰ぎ見る鳳翔。

 さぁ、逃げ道を塞ぐ駄目押しと行こうじゃねえか!

 

「看板も、用意してるんだぜ?」

 

「ぁ……」

 

 妖精さんたちが持ってきたのは、木製の看板に、暖簾。

 『居酒屋鳳翔』と書かれた、俺直筆の代物だ。

 

 これでもう逃しはしねぇ。

 自分の名前まで書かれちまったら、どうしようもねえからなぁ!

 

「あ、うぅ……!」

 

「おいおい、何泣いてんだぁ?」

 

 こいつ、絶望のあまり泣き出しやがった。

 大人びていても、所詮は艦娘。

 

 俺の虐待に耐えきれなかったんだな。

 

「あ、ありがとう、ございます! 私、頑張ります……!」

 

「!? お、おう」

 

 な、なにぃ!?

 こいつ、泣きながらも俺に礼をしやがっただと!?

 

 虐待に心折られながらも、俺への反抗を意地でもしてきやがった!

 流石鳳翔、『空母の母』としての精神力ってやつか……。

 

 おもしれえ、見込みのあるやつを店主にしたみたいだなぁ!

 

「さ、内装でも見るか。来な!」

 

「はい!」

 

 妖精さんは俺の作ったチラシを持って食堂に飛んでくれたみたいだな。

 これで今日から、居酒屋鳳翔開店、という情報が行き渡るだろう。

 

 艦娘どもにも、お情けで俺のおこぼれをくれてやるぜ!

 酒は燃料、兵器にも燃料、ってな!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「クックック、繁盛してんなぁ、鳳翔」

 

「あ、提督。いらっしゃいませ」

 

 妖精さんのお手伝いもあって、その日の夜には開店することが出来ました。

 私の、私が店主のお店……。

 

「冷。つまみは任せるぜ」

 

「はい。少々お待ちください」

 

 カウンター席に座った提督。

 私に、新たな役割を与えて下さった、提督。

 

「提督、中々やるじゃん? 最高だよぉ~」

 

「ちょっと隼鷹! すいません提督!」

 

「クク、気にするな気にするな」

 

 かなり酔った隼鷹さんが、提督に絡んでいきます。

 以前だったら、考えられない光景です。

 

「よく飲みな兵器ども。燃料補給は大事だからなぁ」

 

「アイアイサー! ひっく、うへへ……」

 

 提督は、かなりお酒が好きなようです。

 用意された物も、全て上等な酒ばかり。

 

 私も、腕によりをかけておつまみを作ります!

 

「はい提督。お冷と、白子のポン酢和えです」

 

「クックック、いいねぇ」

 

 くっ、と日本酒を煽る提督。

 ……提督。

 

「あーん? 鳳翔さんも飲んでんのぉ? 顔赤いよ~」

 

「え!? あ、何でもありませんよ!」

 

 い、いやだ、私ったら。

 提督に見惚れていたなんて、絶対に言えません!

 

「ふぅー、しかしあれだな兵器共。気を付けろよ」

 

「ふぇ~? にゃにをきをちゅけるんでしゅか~?」

 

 ポーラさん……。

 大分お酒が回ってしまっているみたいです。

 

「酒の飲み過ぎは毒だからなぁ。俺の道具なら自己管理をしろって話だ」

 

「ぽーらはぁ、自己かんりきっちりですぅ~」

 

 ぽ、ポーラさん……!

 いくら提督が優しい方だからって、そんなに寄りかかったりしては!

 

「お、ま、えに言ってるんだろが! ええ!?」

 

「ひひゃ~、ほへんははい、ほへんははい~!」

 

 提督がポーラさんのほっぺを引っ張ります。

 後ろのザラさんは一人笑いをこらえるのに必死のようです。

 

 隼鷹さんはもう大爆笑してますけど。

 

「ぷぷっ、提督、そのへんに……」

 

「あひゃひゃひゃ!」

 

「悪いのはこの口か!? おらぁ!!」

 

 提督も、みんなも、楽しそう。

 私のお店で、皆が笑ってくれている。

 

 これからも、私は、ここに立っていられる。

 

 笑顔に囲まれて、生きていける。

 

(提督……本当に……)

 

 本当にありがとうございます。

 そして、不束者ですが。

 

 どうか、これからも末永く……。

 

 




鎮守府内に居酒屋なんて聞いたことがない!

そして遂に艦娘に直接暴力を振るう提督!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。