汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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前回の、大本営でのやり取りです。
提督、艦娘視点無し。

元帥まで脅迫する怖いもの知らず……!


第八話 大本営と正義

「随分と急だな。この私に面会などと」

 

「クックック、まぁいいじゃないですかぁ」

 

 私の目の前に座る男。

 その目つき、尊大な態度、そして大量の妖精。

 

 一度見たら忘れない。

 

「……なんだ。あまり時間は取れんぞ」

 

「あの鎮守府の事ですよ。分かってるでしょぉ?」

 

 こいつを送り込んだ、『例の鎮守府』。

 

 艦娘軽視派であったあの男を見抜けなかったのは、大本営の責任だ。

 三年間もの間、悪行を止めることが出来なかった。

 

 艦娘軽視派。

 『艦娘は人間に危害を加えられない』という性質から、

艦娘に人権など必要無く、好きに扱えばいいという者。

 

 嘆かわしい事に、そういった人間がある程度いるというのが、この国の現状だ。

 それは、我が大本営にも。

 

 あの男は、艦娘に支払われるはずだった給料を全額横領した。

 それは全てあいつの私腹を肥やす事にのみ使われていたという。

 

 鎮守府運営に、一切貢献はしていない。

 それでもあの海域が維持出来ていたのは、艦娘にそれだけの労働を強いていたということか。

 

 ……あそこは、比較的規模の大きい鎮守府だ。

 どれだけの艦娘が苦しんできたか、想像するだけでも恐ろしい。

 

「……給料の話か」

 

「ええそうですよぉ。クックック」

 

 当然だろうな。

 支払われるはずの金が、正しき者に与えられていなかったのだ。

 あいつが起こした罪はあいつだけのものであって、艦娘らに罪は無い。

 

 横領されていたから、で、これまでの金を払わないのもおかしな話だ。

 

 しかし、この男は……。

 

「いやねぇ、分かってるんですよぉ。そちらさんが大変だってことは」

 

「む?」

 

「ククッ、前任と艦娘が結託して、鎮守府の有り金全部使っちまったんですよねぇ?」

 

 ……。

 

「いやあ、甘やかし過ぎた弊害でしたねぇ」

 

「そんな管理体制のなってない鎮守府があったなんて……」

 

「世間に知られたら、どうなりますかねぇ? クックック」

 

 ……はぁ。

 全く、こいつは何も変わっていない。

 

 『勘違い提督』め。

 

「そいつは困るな。何が望みだ?」

 

「望みぃ? そんなもん決まってますよぉ」

 

 この男、『艦娘は道具』と言っていたのを初めて聞いた時はどうしようかと思ったが。

 色々聞くと、思考、行動に問題は無いらしく。

 寧ろ、艦娘に味方するタイプの人間であることがわかった。

 

 こいつ自身は、艦娘に虐待する、などと言っているが。

 どうにもその行動全てが、艦娘にとっていい方向へ向かっていく。

 

 これはこの男の周囲にいる妖精さんの影響なのでは、という研究結果が出ているらしいが。

 

 まあつまり、こいつは大本営でも話題の『善性提督』なのだ。 

 

「これまでの三年間分の給料、頂きましょうか!」

 

 何故、そういう事になるのか。

 艦娘らが給料を今までしっかりと貰っていたという認識で、何故また貰おうとするのか。

 虐待とは……。

 

「何故だね? 貴様は……」

 

「そりゃあ勿論、『虐待』のためですよ」

 

 彼の弁は。

 

 今まで散々贅沢をしていた艦娘に、少ない金での辛さを味わわせたい。

 貰ってなかったと嘘をついたのに、三分の一しか貰えないという絶望を見せたい。

 更には嘘がバレていて、いつ罰せられるのかという恐怖も与えたい。

 

 とのことであった。

 

 こいつ、アホだ。

 本物の、ドアホだ。

 

 元々、艦娘達のこれまでの給金はすぐにでも支払う予定であった。

 鎮守府の再稼働が確認されたため、今週中にでも。

 だが、この男がこういうのであれば……。

 

 こんな事言ってるが、どうせ艦娘にプラスに働くだろう。

 ならば、その勘違いに付き合ってやるか。

 

「……ちっ、しょうがない、くれてやる」

 

「クックック! それでは指定の口座に、よろしくお願いしますよぉ」

 

 これでいい。

 元々艦娘達に渡るはずだった金だ。

 前任のような悲劇は、起きないはずだ。

 

 ……妖精さんがめっちゃいい笑顔でこっち見てる。

 

「それでは。失礼しましたァ」

 

 男は終始不敵な笑みを崩さず、退室していった。

 

 ……大本営とて、一枚岩ではない。

 様々な思惑を持つ者が、しのぎを削っている。

 権力争い、思想の違いから生まれるいざこざ。

 

 深海棲艦という共通敵を持っても、人類の争いは収まらないか。

 

 願わくば、あの男が傷ついた艦娘達の『希望』になればいいのだがな……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 艦娘は、兵器じゃない。

 あんな可愛らしい女の子達が、兵器な訳ない。

 

 提督の中には、艦娘を人間扱いしないとんでもないやつがいるらしい。

 しかも、大本営はそれをみすみす見逃している。

 

 海軍は正義の執行者じゃなかったのか!?

 

 特に僕が最近気になっているのは、『例の提督』だ。

 艦娘を道具扱いする事を公言しているようなやつ。

 

 それを大本営の廊下で言うんだから、信じられない!

 

 今まで何回か、大本営の施設内で見た事がある。

 あれだけの妖精さんに囲まれているから、とても目立つんだ。

 

 ……なんで妖精さんはあんなやつなんかに!

 

「それでは。失礼しましたァ」

 

「あっ!」

 

 そんな悪い意味で気になる張本人が、僕の目の前に現れた。

 あいつ、まさか元帥を脅迫したりしてたんじゃないだろうな。

 

(くっ……もう我慢しないぞ!)

 

 言ってやる。

 今までなんとか我慢してきたけど、もう限界だ!

 

 あの男に、何か一言言ってやらなきゃ気がすまない。

 

 よ、よーし……。

 

「お、おいっ!」

 

「あー?」

 

 うっ、め、眼が怖い!

 なんて鋭い目つきをしているんだ。

 まるで不良のような、凶悪な眼だ!

 

 周囲の妖精さんとのギャップが凄すぎて、なんか余計に怖い!

 

「う……あ、あの……」

 

「……?」

 

 お、恐れるな僕っ!

 こんな酷い奴に負けるな!

 艦娘は道具なんかじゃない、そう言うんだ!

 

「なんでもねーなら行くぜぇ」

 

「あっ」

 

 ま、待て!

 お前みたいなやつが、提督になってちゃダメなんだ!

 僕が、僕が艦娘を救わないと……!

 

「ふむ、おい」

 

「あ、げ、元帥……!」

 

 いつの間にか背後に立っていた元帥に、僕は急いで敬礼した。

 あいつは……行ってしまったか。

 

「貴様、此処で何をしている?」

 

「は、はっ! 先程元帥と話されていた様なので」

 

 何か文句を言ってやろう、だなんて、とても言えない。

 元帥殿はまっすぐに僕の顔を見ると、溜息をついた。

 

「……少し話をしよう。来たまえ」

 

 話?

 元帥から直接お話なんて。

 

 しかし断る理由もない。

 僕は対話室に連れられていった。

 

 

 ……。

 

 

「艦娘とは何か、貴様は知っているかね」

 

「それは勿論です」

 

 軍学校で散々教えられた基礎中の基礎の知識だ。

 

 艦娘とは、かつて船舶として海上にあった物に、『魂』が宿った姿。

 それは一様に少女の形を取り、人間とまるで変わらない。

 船だったころの記憶は、個体差あれどほぼ持っていない。

 

「そう、その通りだ」

 

「ええ。だから艦娘は人間と同じなんですよ」

 

 艦娘は人間と同等だ。

 だって感情もあって、自我もあるんだから。

 だから、人間と同じように接するべきなんだ。

 

「……彼女らは、人間ではない」

 

「なんですって?」

 

 元帥は今、なんとおっしゃった?

 

「『人』ではなく、『道具』でもない」

 

「どちらでもなく、どちらでもある。故に『艦娘』なのだ」

 

「それは……」

 

 確かに、艦娘は人間と違う特徴を持っている。

 どんなに深海棲艦からダメージを受けても、本人はあまり傷つかない。

 衣服と艤装がもつ限り、彼女たちは死なない。

 

 また、人間に危害を加えられないという性質がある。

 そう、まるでロボットのように……。

 

「そもそも艦娘がどうやって生まれるか、よく考えろ」

 

「……」

 

 艦娘は、『建造』により生まれる。

 

 深海棲艦を倒した際に、稀に出現する『船の魂』。

 それを建造妖精が『何かする』ことで艦娘は生まれるのだ。

 

 でも……。

 

「それでも……僕は納得いきません!」

 

「はぁ、どうせ『あいつ』の件だろうな」

 

 元帥にはお見通しのようだ。

 こればかりは、僕の感情の問題なんだ。

 

「……まだ詳しい日程は決まっていないが」

 

「?」

 

「近々『例の鎮守府』に視察を出そうと考えていてな」

 

 例の鎮守府。

 くそったれな前任によって傷ついた、艦娘達のいる所。 

 

 そして、あの男が現在、提督として居る所。

 

「……行きたいか?」

 

「お願いしますっ! 行かせてくださいっ!」

 

 自分の目で見て、確かめたい。

 あいつの、悪行を。

 あいつに傷つけられている、艦娘を。

 

 全て、暴いてやりたい!

 

「分かった……話は終わりだ」

 

「はっ! 失礼しますっ!」

 

 僕は高鳴る鼓動を抑えて、退室した。

 身体が、震える。

 

 これは武者震いだ。

 艦娘を助ける為の戦いに、震えているんだ!

 

 待っていろ悪の提督。

 僕が絶対、お前を引きずり下ろしてやる!

 

 




ついに正義の味方登場。
悪の提督に正義の鉄槌が!

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