汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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元帥からの秘密指令により、謎の施設へ向かう虐待提督と僕っ娘提督。

そこで彼らが目撃した物とは……?




このお話は前編、中編、後編、そして後日談の四部構成になります。



第三十四話 時雨と秘密の施設 前編

「ったくよぉ、何で俺がいかなきゃならねぇんだよ」

 

「元帥にも何か考えがあっての事だろう」

 

 僕は今、彼の鎮守府に来ている。

 それというのも、『とある用事』があったから。

 

「そもそも視察はお前の仕事じゃないのかよ」

 

「あのねぇ、僕が視察官になったのなんてあの時だけだよ?」

 

 彼と並び、鎮守府の外へ出る。

 今日の秘書艦の娘が残念そうにしていたけど、ごめんよ。

 

 一応今回の件は、秘密任務ということだから……。

 

「しかも詳しい内容聞いてねえとか、大丈夫かよ!?」

 

「う……確かに僕もそれは気になってた」

 

 元帥から送られた指令は、実に謎の多いものだった。

 彼と共に、指定された時刻に指定された場所へ。

 制服では無く、私服で行くようにと。

 

 怪しいというか、あまりに異常な任務。

 一体なにがあるというのだろうか。

 

「しかし、お前私服もそういう感じなんだな」

 

「別にいいだろ、趣味なんだ」

 

 白のシャツと、ジーンズ。

 こういう格好が好きなんだからしょうがない。

 

 僕としてはキミがまともな格好なのに驚いたけどね。

 『虐待』なんて書かれたTシャツでも着てくるのかと思ったよ。

 

 腕時計を見ながら、道を歩く。

 なんてことない、普通の道。

 

 その端に、車が一台止まっていた。

 そして脇に、一人の若い男性。

 

 僕と同じくらいの歳だろうか。

 

「……元帥の命令で来た者だけど」

 

「身分証明できる物の提示をお願いします」

 

 言われて、手元から書類を手渡す。

 元帥に言われて、予め用意しておいた。

 

「車に乗って下さい」

 

「オイ。どういう事か事情を言いなぁ」

 

「……車内へ」

 

 男に言われ、彼はぶすっとして車に乗り込む。

 秘密の事を、外では話せないということか。

 

 車が走り出す。

 

「で、詳しい事を教えてくれるんだろうなぁ?」

 

「……とある場所の、視察です」

 

 そんなことは分かっている。

 一体どんな施設に、何のために行くのかが知りたいのだ。

 

「説明になってねぇぞ! ふざけてんじゃあ……」

 

「申し訳ありません。私自身、そこまで内容を知らされていないのです」

 

 運転手の彼曰く。

 元帥からの命を受け、その場所まで僕たちを送る。

 ただそれだけしか言われていないらしい。

 

 それほどまで情報を秘匿する、その理由はなんだ……?

 

「へっ、なんだかきな臭くなってきたんじゃあねえか?」

 

「僕たちを指定した理由も気になるな」

 

 車は走り続け、郊外へ向かう。

 そして少しずつ人の生活圏から離れていき、山道へ入った。

 

「……どこへ向かっているんだ」

 

「オイオイ、この近くは俺の故郷だぜ?」

 

 彼の生まれが超田舎ということは知っていたが。

 まぁ偶然だろう。

 

 しかし、こんな山奥になにがあるっていうんだ。

 

「おー、なんか昔を思い出すぜ」

 

「……キミの子供時代なんて、想像できないな」

 

 窓の外を見る。

 深い森は若干秋めいており、少し物悲しい風景だ。

 

 しかし、今日は晴れていてよかったな……。

 

「オイ視察官。ありゃあ……」

 

「ん? ……なんだ?」

 

 車が向かう先には、立ち入り禁止の立て札が。

 しかしそれを無視して先へ進む。

 

 ……ますます、おかしい。

 

「クク、なんかワクワクしてきたぜぇ?」

 

「はぁ、僕はハラハラだけどね」

 

 こういう時、彼の豪胆さが羨ましい。

 だが、僕も気合いを入れる。

 

 元帥が任せた任務。

 おそらく艦娘に関係することだろう。

 

 もしかしたら、この先に軽視派のアジトとかがあるのかもしれない……。

 

 そして、暫く走った後。

 僕たちの前方に、白い建物が見えてきたのだった。

 

 

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「結構かかったなぁ」

 

 車から出てひとのびする。

 ったく、無口な運転手だったぜ。

 

 気の利いた面白小話でもしろっての!

 

「ここは、一体?」

 

「ふむ、山奥にこんなんがあるとはなぁ」

 

 驚愕の目をしている視察官。

 その先には、白い、大きな建物だ。

 

 あまりにもこの場に似つかわしくねえモン。

 確かに、こいつは異常事態だなぁ。

 

「元帥はココを視察しろといっているのかな」

 

「ま、だろーな。まだまだ分からん事が多すぎるが」

 

 この建物がなんなのか。

 まさかそれを調べる為ってわけじゃねえだろ。

 

 そもそも元帥はこの場所を知っていたってことだからな。

 謎だぜ。

 

 だが、謎に向かって突き進む事こそおもしれえ!

 それに、コイツとならなんだか、何でも乗り越えられる気がしてくるんだよなぁ。

 

 ま、いざとなったら妖精さんもいるしな!

 しかしこの場所、『秘密基地』が近いからなのか、妖精さんの残滓が多いな。

 クク、俺に有利なフィールドだぜ。

 

「取り敢えず近づいてみよう」

 

「おゥ」

 

 敷地内に入る。

 建物の周囲は芝生や花壇があり、清潔な感じだ。

 なかなか俺好みじゃあねえか!

 

 そして、建物のすぐそばまでやってきた。

 重厚な扉。

 

 なんかインターホンでもねえのか?

 

「あ、ベルがあるよ」

 

「いいねぇ、オサレで! 鳴らしまくってやるぜ!」

 

 まるで映画に出てきそうじゃあねえか。

 テンションを抑えつつ、ベルを鳴らす。

 

「……」

 

「……」

 

 おい、こういう時はよぉ。

 なんか使用人みたいなのが出てくるって相場が決まってんじゃねえのか?

 

 全然、誰もこねえじゃねえか!

 

「……どうしよ」

 

「どうするって、そりゃおまえ」

 

 ベル連打か、ドアを打ち破るかそれしかねえだろ。

 だが俺は礼儀を知る男、取り敢えず『待ち』の一手だぜ!

 

 ふーむ、それにしても。

 妖精さんたちの様子がちょっとおかしいな。

 

 なんだか普段見ないマジ顔してやがる。

 ……どうなってんだ?

 

 

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「来たか……」

 

 正面入り口のベルを聞き、管理室へ向かう。

 そして監視カメラの映像を確認した。

 

 そこに映っているのは、一人の男と女。

 女の方は、どこかで見た事があるような……。

 

 しかし。

 慎重に事を運ばなければならない。

 事を急いてはいけない。

 

「……自分自身の目で確かめる、か」

 

 管理室から出る。

 『あの人』も言っていた。

 決して油断せず、確実に行動しろと。

 

 まったく、その通りだ。

 

 廊下を進んで行く。

 彼らが『客人』か『そうでないか』。

 

「……あ」

 

「時雨、か」

 

 曲がり角で、時雨と出会う。

 

「誰か、来たの?」

 

「……作業員さ。問題ない」

 

 嘘をつく。

 彼女に言う必要は無い。

 ……いや、言うべきではない。

 

「そう、なんだ」

 

「ああ。部屋に戻っていなさい。『お薬』を忘れずに」

 

「……うん」

 

 時雨は素直にうなずき、歩いていった。

 随分と素直になったものだ。

 

 しかし……。

 

「行くか」

 

 時雨の事は置いておこう。

 まさかいきなり飛び出てはこないだろう。

 

 だが、一つだけ気掛かりなのは。

 扉の前にいる男の方だ。

 

 あの男、一体何者だ?

 一体、何故あれほど……。

 

 何故あれほどに、全身に妖精をくっつけているのだ? 

 

 

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「おっと、人の気配がするぜぇ」

 

「よく分かるね」

 

 しかし、彼の言う通り、誰かがドアの前に来たらしい。

 鍵を開ける音がして、ゆっくりとドアが開かれた。

 

 そこに居たのは。

 

「……一体、何の用だね?」

 

 一人の、男性。

 歳は四十代だろうか。

 痩せ気味で、普通の男。

 

 この人、どこかで見たような……。

 

「俺たちは視察で来たモンだ。元帥の命令でなぁ!」

 

「これが、証明書類になります」

 

 懐から紙を渡す。

 男性は、それをじっと眺めている。

 

 この人は一体何者なんだろうか。

 白衣を着ているから、医者か、研究者か。

 

 なんにせよ、まだ警戒しておいた方がいいな。

 

「……状況は理解した」

 

「おゥ。では早速視察といきましょうかねぇ」

 

 男性が扉を開け、中へ誘う。

 ……ていうか、遠慮ないなぁ。

 

「客間へ案内しよう」

 

「あ、はい」

 

 中は清潔な空間だった。

 長い廊下、優しい灯りのライト。

 

 ますます、こんな山奥にある意味が分からない……。

 

 ……無言で、廊下を歩いていく。

 

「あの、僕たちが提督である事の確認は出来ましたか?」

 

 なんとなく、本当になんとなく。

 無言を嫌って、口から出た言葉。

 

 自分たちは本当に提督だと、誇示したかったのかもしれない。

 ほぼ、無意識に近い発言。

 

 これが、どうにも不味かったらしい。

 

 

 ガチャン!!

 

「何っ!?」

 

「あぁ?」

 

 何かが割れる音がして、思わずそちらを振り向く。

 そこに居たのは、一人の少女。

 

 あれは……駆逐艦時雨?

 なんでこんなところに?

 

「なっ、時雨!」

 

「あ、あ、『先生』……その人達……だれ?」

 

「問題ない! 向こうへ行ってなさい!」

 

 時雨の足元には割れたグラス。

 彼女は顔を白くして、震えている。

 

 そして、白衣の男の動揺が凄まじい。

 

「今、て、『提督』って……!」

 

「くっ、丁度『時間』が不味かったかっ!」

 

 白衣の男が走り出す。

 時雨の元へ。

 

「落ち着きなさい時雨! 私の目を見るんだ!」

 

「い、嫌……いやだ……!」

 

 男が時雨の腕を掴む。

 涙を流し、首を振る時雨。

 

 これは、一体何が起こっているんだ!?

 

「おいおい、何事だぁ?」

 

「と、取り敢えず止めなくちゃ!」

 

 呆けてる場合じゃない!

 事情は良く解らないが、時雨が嫌がっている。

 

 あの男、彼女に何をしたんだ!?

 

 白衣の男へ向かって走る。

 取り敢えず時雨から離さないと!

 

「ちょっと、落ち着いて下さいよ!」

 

 男が時雨を掴んでいる、その腕を抑えようとした。

 その時だった。

 

 

 

「先生に触るなぁっ!!!」

 

 

 

 時雨の、絶叫。

 空間が、凍り付く。

 

 

 ……僕は、今日と言う日を決して忘れないだろう。

 決して、目を背けてはならない。

 

 本当の悪。

 本当の被害者。

 

 そして、本当の悲劇を、目の当たりにしたのだから。

 

 




時雨に何が起きたのか。
先生、と呼ばれる男は何者なのか。
この施設の正体は何なのか。


次回、解明回。





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