汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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秋シリーズ第一弾。
どんな勝負でも艦娘を負かしてやるという意志!

提督の虐待は平常運転であった……。





第三十三話 大和と食欲の秋

「第一回提督それ虐待やあらへんで、チキチキ、秋の大食い大会ー!」

 

「わー!」

 

「きゃー!」

 

「っしゃオラー!! すっぞコラー!」

 

 マイクを持った大淀の宣言に、艦娘達が沸き立つ。

 私も、熱い昂りを抑えられないのだがな。

 

 提督もいつも以上にハイテンションだ。

 彼はこういうイベント事が好きだからなぁ。

 

「艦娘シップにのっとって戦ってもらいます。出場者は所定の席へどうぞ!」

 

 ここは鎮守府運動場。

 観客席が設けられ、大勢の艦娘が楽しそうにしている。

 

 そして中央には、巨大なテーブルとイス。

 そして艦娘達と妖精さんによって用意された、鍋や皿の数々。

 

 私も颯爽と席へ向かう。

 

「あら武蔵、随分やる気ね」

 

「ああ。自信があるからな」

 

 そういって来た大和も、なかなか余裕そうな笑みを浮かべている。

 さすが私と同型、といったところか。

 

 まぁ、負けるつもりは無いがな!

 

 私が挑むファーストステージは『焼き芋』だ。

 秋らしいが、非常に難易度の高い大食いだ。

 

「いやー初っ端から危険なものが来ました。解説の明石さん、どう思われます?」

 

「喉を通りにくいですからねぇ。つまらせないように注意です!」

 

「なるほどぉ」

 

 そう、明石の言う通り、いかにスルスルと飲み込めるかが勝利の鍵だ。

 水は大量に用意されている。

 

 急がず、確実に胃に入れていく必要があるな……。

 

「さて、出場者が全員出そろったようです!」

 

「まずはこの大会の考案者、我らが提督だー!!」

 

「ククク、絶対勝つ!」

 

 提督。

 男だけあり相当食べられるだろう。

 それに、あいつはかなりの負けず嫌いだ。

 

「お次は赤城さん! 絶対強者、最有力候補!」

 

「素晴らしい大会ですね、ほんとうに」

 

 赤城。

 鎮守府一の大食艦。

 まさにラスボスの風格といったところか。

 

「続いて加賀さん! 赤城さんの影に隠れたヤベー奴!」

 

「頭にきました」

 

 加賀。

 赤城とほぼ同量は食える。

 彼女もそうとう危険だな……。

 

「そして大和さん! 大戦艦の実力はいかに!?」

 

「勝利の栄光を、掴んで見せましょう!」

 

 大和。

 兎に角消化が速いんだ、やつは。

 同型艦としても、負けられない。

 

「さらに武蔵さん! 大和さんとどちらが勝つのか見どころです!」

 

「ふっ、この武蔵の実力、思い知らせてやろう!」

 

 大和だけじゃない、全員に勝つ!

 勝って見せる!

 

「なんと浜風さん! 駆逐艦からのホープ!」

 

「食べられるだけ食べたいですね」

 

 浜風。

 駆逐艦とは思えない肉付きの持ち主。

 それに見合った食いっぷりがあるはずだ。

 

「おっと阿賀野さん! 最新鋭のパワーはどうなるか!?」

 

「能代ー! みんなー! 見ててー!」

 

 阿賀野。

 むちむちだ。

 

「おわぁ、ゴーヤさん! 潜水艦からの刺客参戦!」

 

「いっぱい食べるでち!」

 

 ゴーヤ。

 おかずじゃない。

 

「げぇ!? 足柄さん! カツ地獄の覇者!」

 

「勝利が私を呼んでるわー!」

 

 足柄。

 カツ。

 

 

 …………。

 

 

「第一回戦終了ー! 半数が脱落です!」

 

「いやー武蔵さんがダウンするとは、予想外でしたね」

 

 ば、ばか、な……。

 この武蔵が、やられる、だと?

 

 そんな、はずが……ぐはっ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 クックック!

 焼き芋は楽勝だったなぁ。

 俺の好物の一つだったしな!

 

 さて、これで残ったのは俺、大和、赤城、加賀、足柄。

 まさか足柄が残るとはな。

 

 さすが、餓えたウルフといったところか。

 俺の予想ではでっちが残ると思ってたんだが……。

 

 武蔵は意外にすぐ落ちたな。

 食いそうな見た目のくせに、クク、残念なやつだぜ。

 

 さて、セカンドステージは『パフェー』だ!

 デザートタイム、しかしこれも危険。

 

 冷たさ、甘さ、全てが牙をむく恐怖!

 芋で膨れた腹に、どれほど入るか……。

 

 ちなみに休憩時間で、余った芋は観客の艦娘が自由に食える。

 芋を食って屁でもこいてなぁ!

 

「ではセカンドステージ、レディー、ファイト―!」

 

「うおりゃあああ!」

 

 一斉にスプーンを持つ!

 そして口へ!

 次々、口へ運ぶ!

 

 やはり強敵は赤城。

 さっきから顔色一つ変えずに食い続ける!

 

 足柄は正直きつそうだ。

 あいつ、もう芋の時点で限界だったな!

 

 大和、加賀は淡々と食い続けている。

 俺と同じくらいか……。

 

 絶対に負けたくねえ!

 兵器共に俺の異常性を見せつけてやるんだ!

 

 俺の、真の恐怖を!

 

「ごああああああ!」

 

「提督ここでラッシュ! 顔がやばい事になってます!」

 

「カッコいいですよねぇ」

 

 見た目何てどうでもいい!

 勝つ!

 

「も、もう無理……勝利の栄光がぁ……」

 

「足柄さんダウンー! 満腹狼、ここに堕つ!」

 

 足柄がしんだ!

 他のやつらもペースをあげてきてやがる!

 

「ゆ、譲れません……!」

 

「おいしいですね~」

 

 赤城と加賀は別に食うのが速いわけじゃあない。

 量を食えるだけだ!

 

 ということは……。

 

「やっぱりお前が一番の敵だな、大和ぉ!!」

 

「提督相手でも、決して負けませんよ!」

 

 戦艦大和よ!

 お前こそこの俺の相手にふさわしい!

 

 ともに決戦のバトルフィールドへ行くぜ!

 決着はつける!

 

 ……うぷっ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 戦艦大和。

 推してまいります!

 

「ラストステージは『カレーライス』だぁー!!」

 

「散々食べた後にこれはキツイですよぉ!?」

 

 確かに、とても辛いです。

 お腹も既に一杯。

 

 でも、勝ちたい!

 

「うばああああああ!」

 

「提督……」

 

 提督から、闘志は消えていません。

 流石、私達の提督です!

 

 だから、私も諦めない!

 

 カレーライスは思い出の味。

 初めて『美味しい』を味わった、優しさの味。

 

 大好きな提督の味。

 だから、まだ食べられます!

 

「や、大和さんも凄い!」

 

「これは大変な事になってきましたよ」

 

「なるほどぉ」

 

 皆さんの声援が聴こえます。

 どちらも負けるな、という声。

 

 本当に、大和は幸せ者です。

 

「提督、楽しいですね!」

 

「そうだな大和! これぞ闘争だぁ!」

 

 苦しいけど、楽しい!

 提督と一緒に、意地を張り合うのも。

 みんなと一緒に、笑顔でいられることも!

 

 

 …………。

 

 

「ク、クク、クハッ!?」

 

「うう、も、げん、かい、です……」

 

 提督が机に突っ伏す音が聴こえます。

 でも、私も限界。

 

 同じように突っ伏してしまいました。

 

「両者ダウン! カウントスタートです!」

 

「先に一口でも食べたほうが勝者です!」

 

 声が遠くに……。

 もう、手が動かない……。

 

 カチャ。

 

 !?

 提督が、スプーンを持った!?

 な、なんで!?

 

「て、提督がー! 動いているぞー!」

 

「意識がもうないはずじゃあ!?」

 

「こ、これはもう無意識! 半分気絶しながら戦っている!!」

 

「虐待だ、虐待スピリッツだ!」

 

「虐待への想いが、彼の手を動かしてるんだ!」

 

「うわー! 提督ー!」

 

「なるほどぉ」

 

 ふっ、完敗ですよ。

 大戦艦をも超える、その気高き精神。

 

 もういっそのこと、晴れがましいですね……。

 

「いったー! 口に入れたー!」

 

「決着ゥー! 勝者、提督!」

 

 私は意識を手放しました。

 でも、不思議と悔しくはありませんでした。

 

 あるのは、満足感と爽やかさだけでした……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「準優勝の大和さんには、『秘書艦三日連続券』が送られます!」

 

「晴れがましいです!」

 

 なんかやってやがるなぁ。

 秘書艦連続って、罰ゲームじゃねえのか?

 

 いやがらせ受けてんのか、大和よぉ?

 

「しかし、俺が優勝したってことは、全艦娘どもにお仕置きできるってことだよなぁ」

 

「え、なんですかそれは」

 

「つーわけで虐待だぁ! お前ら全員、食い終わるまで帰れません!」

 

 カレーもまだまだ残ってんだよ!

 このまま屋外パーティだ!

 

 しっかり食えよ!

 福神漬けも無しだぜ! クックック!

 

「俺は休む! お前らだけで食いねぇ!」

 

「パーティっぽーい!」

 

「紅茶持ってくるデース!」

 

 クク、調子乗りやがって。

 食い過ぎで太っちまいな!

 

 しかし、久々に無理しちまったぜ。

 妖精さん、胃腸薬頼む……!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 とある山奥の、とある建物にて。

 一人の男が、何者かと電話をしていた。

 

「そうですか……分かりました……」

 

「いえ、問題ありません。はい、……はい」

 

「ええ、難しい所です。努力はしておりますが……」

 

 

「『使える様に』なるには、時間がかかるかと」

 

「はい。ゆっくりいかせてもらいます。はっ、それでは……」

 

 男は受話器を置く。

 そして、椅子の背もたれにグッと体重をかけた。

 

「……」

 

 男の目の前には、複数のモニター。

 監視カメラからの映像を、送ってきている。

 

 その内の一つに映るのは。

  

 安らかな表情を浮かべて横たわる、時雨の姿だった。

 

 

 ……雨が、弱まってきた。

 

 




もう当分の間カレーはいいと思う艦娘達であった。
でも赤城さんはカレーを欲していた、いつも通りに。


次回、時雨。










※この小説の世界観自体は、結構艦娘に厳しいです。
 第一話や川内、足柄回にそれが表れていると思います。

 虐待提督の所の艦娘達は、強い心を持っていました。
 そして、おバカで優しい提督に恵まれました。

 でも、『そうじゃなかった』艦娘もいるのです。

 どうか、それだけは覚えておいてください。
 

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