汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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次々と襲い来る魔の手に、むにむにコンビが!?


第三話 ほっぺとお布団

 皆でカレーを食べた後、司令官はタイミングを見計らって言いました。

 

「俺が準備したんだ、片付けはお前らがやるんだなぁ!」

 

 そう言い残すと、司令官は大広間から妖精さんを引き連れて出ていきました。

 綾波たちは、みんなで協力して食器を洗って、机を片付けてます。

 

「本当にお腹いっぱいだね」

 

「うん……アタシこんなに沢山食べたの初めてだよ」

 

 本当に、最高の食事でした。

 私は、あんなに美味しい食べ物がこの世にある事を初めて知りました。

 敷波も、膨れたお腹をさすって幸せそうです。

 

 司令官は、綾波達をお風呂に入れてくれました。

 この浴衣も、司令官が用意してくれたものでしょう。

 

 そして、あんなに美味しいカレーを作ってくれました。

 本当に、今までとは何もかもが違って、まるで別の鎮守府にいるみたいです。

 

「そういえば司令官はどこに行ったんでしょう?」

 

「さあね。妖精さんが協力してるから悪い人じゃなさそうだけどさ」

 

 敷波の言う通り、『妖精さん』は私達艦娘か、良い人にしか手を貸しません。

 前の司令官は酷い人だったので、元々ここにいた妖精さんは殆ど姿を消してしまいました。

 

 でも綾波は思います。

 新しい司令官は、妖精さんに関係なく、本当にいい人なんだって。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「オイお前らぁ! 片付けは終わったか!」

 

 ちょいと用事をすませて、俺は大広間に戻ってきた。

 机は綺麗に片付けられており、食器も全て洗ってある。

 ま、これくらいは当たり前のことなんだがな。

 

「はい司令官様! 全て終わりました!」

 

「おー……おいてめぇ、ちょっと聞きたいことがある」

 

 近くに居たアホみてえに髪の長い奴に言う。

 ……こいつ、ほっぺたモッチモチじゃねえか!

 

「は、はい! 綾波に答えられる事なら!」

 

「さっきから気になってたが、その『様』ってのはなんだぁ?」

 

 そう、さっきから艦娘ども、提督様だの司令官様だの。

 まるで意味が分かんねえ呼び方をしやがる。

 

 ……まさかこいつら、俺への当てつけか何かか!?

 俺に指導者の器は無いと、遠回しに言いたいのか!?

 

「え、あ、それは以前の司令官様が……」

 

「なるほどなぁ、やっぱりそうか!」

 

 俺の予想は的中した。

 こいつら、『お前は以前の司令官より格下なんだよ』って言いてえのか!

 まぁさっきからこいつらにしている『虐待』を考えれば、反抗心を持つのは納得だ。

 

 だがなぁ、兵器の癖に生意気なんだよぉ!

 

「命令だ……これ以降、俺の事を様付けで呼ぶことはゆるさねぇ!」

 

「えっ!? そ、それじゃあなんてお呼びすれば……」

 

「んなもん提督だの司令官だのでいいだろうが、そんなのも分かんねえのか!」

 

 ちっ、往生際の悪いやつらだ。

 だが、俺の命令に逆らう事は……。

 

「……っ! はいっ、司令官!」

 

 それでいいんだ、それで。

 しかしこいつ、俺の威圧に負けてあっさり変えやがったな。

 所詮は道具、所有者様に逆らう事は不可能ってことだな。

 まあいい、本題に入るとするか。

 

「さて、……そこのお前」

 

「うえっ!? な、なんです、か?」

 

 モチモチほっぺの隣に居た奴を指名する。

 

「お前ら……普段どこで寝てるんだぁ?」

 

「か、艦娘の寮があって……そこで、寝てます」

 

 ほう、こいつら専用の寮ねぇ。

 まぁ兵器庫と考えれば、当然存在するだろうな。

 

「そうか……という事は各部屋に分かれて寝てるってことだな」

 

「は、はい……姉妹艦とかで、4人部屋とか、色々あります……」

 

 へえ、一人一部屋ずつじゃねえとは、なかなか殊勝な心掛けだな。

 しかし、お前らへの虐待は容赦しねえけどなぁ!

 

「よし……いいかお前ら! 今日最後の命令だ!」

 

 俺の声に、艦娘どもの間に緊張感が走っている。

 ククク、怯えろ、竦め!

 

「今日はもう寝ろ! そして明日の朝7時にここに集合だ!」

 

「……え」

 

 こいつら、俺が命令するたびに文句ありげにしやがる。

 まだまだ俺の道具としての自覚が、足りてねぇようだな。

 

「残念だな、まだ夜の10時だってのになぁ!」

 

 こいつらどうせ夜遅くまでテレビ観たりゲームしたりやってたんだろう。

 しかし、俺が来たからには俺がルールだ!

 無理やり寝かしつけてやるぜ!

 

「も、もう寝てもいいの!? あっ、しまっ……」

 

「ああ!? てめえ……」

 

 このモチモチほっぺ2号、また嫌味を言いやがった。

 もう寝てもいいのか、だと? 分かりやすい皮肉を……。

 いや、落ち着け俺。

 

「ご、ごめんなさい! つい口調が……!」

 

「ふん、好きにすればいいだろう」

 

 俺は心が広いからな。

 兵器共の嫌味の一つや二つ、受け流せなくてどうする。

 

「ほ、ほんとに……? け、敬語とか、いいの?」

 

「は? 何で敬語の話が出てくるんだ?」

 

 敬語、だと?

 これはあれか、ワザとらしく敬語使って、俺を馬鹿にしてもいいのか、ってことか。

 しかも俺自身にその許可を求めるとは。

 

 こいつ、中々の反抗心持ってるじゃねえか。

 おもしれえ、こういうやつがいなくっちゃ、張り合いがねえからなあ!

 

「ああ、構わねえさ、お前の好きにしな」

 

「は、はい……じゃなかった、うん! 司令官!」

 

 ……敬語使ってねぇじゃねえか。

 まあ、こいつの嬉しそうな顔を見るに、これから反抗してくるんだろう。

 楽しみに待っててやるぜぇ?

 

「さて、俺の命令が解ったらさっさと戻って寝ろ! 歯もしっかり磨けよ!」

 

 こいつら、あれだけカレーを食ったからな。

 俺は口の臭いのが嫌いなんだよ。

 

「う、うん! お休み司令官!」

 

「あ、あの、おやすみなさい司令官!」

 

 ダブルモチモチほっぺどもが、俺にお休みを言って去っていく。

 こいつら、見た感じ姉妹艦か?

 あのほっぺだけは、評価してやらんでもないな。

 

 こいつらに限らず、全艦娘どもが俺に『お休みなさい』を言って行った。

 こいつら、最低限のマナーは知っているようだな。

 寝る前におやすみなさい、これは基本だからなぁ!

 

 しかし、安心できるのも今のうちだぜ?

 お前らは部屋に入った瞬間、心が折られることになるんだからな。

 

 俺の『虐待』は、お前らから片時も離れねえのさ。

 

「さあ、虐待開始だぜ妖精さん!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「司令官、すごく優しかったね!」

 

「う、うん……ま、良い奴なのかも、な」

 

 さっき司令官に敬語を使わなかった時は、やってしまったと思った。

 前の奴みたいに、怒鳴られて殴られるのかと思った。

 

 でも、司令官は怒らなかった。

 それどころか、あたしの好きにしていいって言ってくれた。

 自分を肯定されたみたいで、本当に嬉しかった。

 

「わ、私……こんなに早く寝られるの初めてだな」

 

「磯波……」

 

 同じ部屋の磯波の言葉は、あたしの、いや、全艦娘の言葉でもある。

 今まで、あたし達はこんな早くに寝かせて貰えなかった。

 

 夜遅くまで出撃、遠征、訓練。

 睡眠時間も4時間くらいしかなかった。

 

 でも、司令官は明日の朝7時に集合って言ってた。

 これから寝ても、8時間くらいは寝られる。

 こんなにたくさん眠ることが出来るなんて。

 

「でも、8時間も眠る事が出来るかな……」

 

「うん、あんな所じゃあ、ね」

 

 あたしら艦娘の部屋には、何もない。

 家具なんて買わせてもらえるわけがない。

 せいぜい服を入れておく箪笥と、汚い布きれだけ。

 

 毎晩、固い床にそのまま寝転がって、ボロの布を被って寝てた。

 夏はいいけど、冬は寒かったな。

 

 それでも、あたしは自分達の部屋が好きだった。

 部屋で仲間と話している時は、あの地獄を少しでも忘れられたから。

 

 ボロボロになった、汚い廊下を歩いて、自分たちの部屋まで来た。

 あの司令官がいるなら、今までの辛い思い出を忘れていくことが出来るかな。

 

「し、敷波……これは……!?」

 

「? どうしたのさ綾波……えっ!?」

 

 綾波の声で我に返ったあたしは、自分の部屋を見た。

 そこにあったのは、いつもの寂しい部屋。

 

 でも、一つだけ違うところがあった。

 

「これって、お布団?」

 

「毛布と、枕もあるよ!」

 

 部屋に置かれていたのは、人数分の敷布団に掛け布団、毛布と枕だった。

 シーツ、タオルケットまである。

 

「こ、これって!」

 

「すごい、柔らかい! ふかふか!」

 

 あたし達は初めて見る上等な寝具に、興奮しっぱなしだった。

 こんなに良い物があれば、ぐっすり眠られるだろう。

 

「……司令官」

 

 アタシは毛布をぎゅっと抱きしめた。

 本当に柔らかくて、暖かくて、心地よい。

 

 司令官、これを用意してくれてたんだ。

 あたしから寮の話を聞いて、妖精さんにお願いして。

 あたし達の為に……。

 

「ありがとう、司令官」

 

 今まで、あたしは部屋の外が嫌いだった。

 そして、部屋の外にいるあいつが大嫌いだった。

 

 でも、今日からは違う。

 この部屋だけじゃない、外も、鎮守府も、そして司令官も。

 

 あたしは、好きになることが出来ると思うんだ。

 




一日中虐待され、泥の様に眠ってしまいました。

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