汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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悪質な環境で遂に風邪をひいてしまった大井。

しかし、提督はそんな彼女に更なる虐待を加える……!





第二十八話 大井と風邪

 

「いやぁゴメンね大井っち。一日業務でさ~」

 

「球磨と多摩は遠征クマ」

 

 姉さんたちが申し訳なさそうに言う。

 自分としては、全く問題無いのだけど。

 

 姉妹艦が全員出払って、風邪をひいた私が取り残されるだけ。

 子供じゃあるまいし、どうってことはない。

 

「それじゃあ行ってくるぞ」

 

「よく休んでおくにゃー」

 

 パタンと、扉が閉じられる。

 5人も居た部屋に、静寂。

 

 ……まさか私が風邪をひくなんて。

 艦娘は『こういうの』に強いはずなのに。

 

 運が無かったのだろうか。

 生活環境が悪かった以前は風邪なんてひく娘は居なかった。

 

 良環境が逆に風邪を呼び込むのだろうか?

 

「はぁ……まあしょうがないわよね」

 

 変な思考に落ちかけていた頭を切り替える。

 大人しく寝て、早く治してしまおう。

 

 皆に迷惑かけることになる。

 無論、提督にも……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「風邪だぁ!?」

 

「はい、幸いにも大井さんは今日休日ですけど」

 

 大淀の報告に、俺は思考を巡らせる。

 まさか兵器が風邪をひくとはなぁ……。

 

 俺の管理が甘かったか?

 

「同室の奴ら、今日は?」

 

「皆さん出払っているようです」

 

 つーことは、部屋に独りぼっち、か。 

 クク、寂しさで今頃震えているんだろうな。

 

 風邪ひくと心がさみしくなるものだからなぁ!

 

 ……いや、待てよ?

 クク、おいおい、良い事思いついたぜぇ?

 

「大淀ぉ。悪いがフルスピードだ」

 

「はい?」

 

 今日の分の仕事は、まだ半分ほど残っているが。

 ペース上げればあと2時間程度で終わる。

 

 俺の虐待のために、お仕事にはさっさと片付けられてもらおうか!

 

「ハイスピードワークだ! 止まるんじゃねえぞ!」

 

「は、はい!」

 

 幸いにも大淀は優秀な兵器。

 今日のオトモには最良だ!

 

 風邪っぴき大井。

 こんなチャンス滅多にねえ!

 

 かこつけて虐待。

 これぞまさに基本中の基本。

 

 待ってろよ大井!

 風邪で弱った精神に、最低最悪の虐待を喰らわせてやるからなぁ!

 

 

「……なんか最近私が秘書艦っていうのが多くないですか?」

 

「書類が多いんだよ! お前こういうの得意だからしょうがねえだろ」

 

「別にいいんですけど……嬉しいですし」

 

 大淀がなんか言ってるな。

 ま、俺は公平に秘書艦をさせる主義。

 

 書類が片付いたら大淀は当分秘書艦から外してやるぜ。

 嬉しいだろうな、俺から離れられて!

 

 クックック!

 

 

 …………。

 

 

 というわけで、お昼だ。

 仕事も無事終わり、午後からはフリー。

 

 座学は北上&木曾が担当しているから大丈夫だ。

 クク、お前らの姉妹、俺がおいしく頂いてやるぜぇ?

 

 とびっきりの虐待でッ!!

 

 はやる気持ちを抑えつつ、ワクワクドキドキで艦娘寮へ向かう。

 球磨型の部屋、もとい、惨劇の処刑場へ!

 

 ああ、ああ!

 お手元の虐待セットを早く使いたいぜ!

 

 可哀想な大井っちになぁ!

 

「大井、俺だ。入るぞ」

 

「て、提督!?」

 

 ドアをノックする。

 兵器相手でも、最低限のマナーは守らんとな!

 

 正しき礼儀から、正しき心は生まれるからな。

 

「はいドーン! 邪魔するぜぇー!」

 

「あ、ど、どうぞ?」

 

 部屋の中には布団と、そこに寝ている大井。

 浴衣姿の大井は、風邪ひきらしく顔を赤くしていた。

 ふむ……。

 

「あの、何の用ですか?」

 

「クク、そう睨むなよ。俺が直々に見舞いに来てやったんだぜ?」

 

 鬱陶しそうな顔してるなぁ。

 そりゃそうだ、風邪ひいてだるいってのに、俺が来ちまったんだ。

 

 さっさと帰れって思うだろう。

 残念、居座ります!

 

「お見舞い……」

 

「嬉しいだろ、寂しかったな」

 

 お前の孤独を埋めに来たぜ?

 最悪の化身がなぁ!

 

 大井の奴、嫌そうに目線を逸らしやがって。

 そんな反応されると、嬉しくなっちゃうぜぇ!

 

「別に……寂しくなんてなかったですから」

 

「そうかそうか。じゃ、まず昼飯とするか」

 

 そういって、俺は持ってきたミニ土鍋を置いた。

 そして蓋をゆっくり開ける。

 

「これって」

 

「クク、風邪にはおかゆ、決まってんだろ!」

 

 俺特性おかゆ!

 グズグズのトロトロ、消化に圧倒的に良い代物!

 

 こんな気色悪いモン、食いたくねえだろう。

 だが、確実に胃に収めてもらうぜ!

 

 おまけに梅干しものっけてやった。

 恐るべきすっぱさに口をすぼめな!

 

「ほれ、あーんしてやろうか?」

 

「ひ、一人で食べられますっ!」

 

 俺からレンゲをひったくる大井。

 せめてもの抵抗か、虚しいもんだな。

 

 だが観念したらしく、大人しく粥を食べ始めた。

 よしよし、それでいい。

 

 しっかりふーふーしろよなぁ!

 

「……美味しいです」

 

「そりゃそうだろうな」

 

 分かりやすい嘘だ。

 そんなもん美味しいわけがねえ。

 

 相変わらずだな、ウチの艦娘どもは。

 

「すりおろしリンゴもあるぞ」

 

 本当はウサギちゃんカットのリンゴがよかっただろうがな。

 しかし、消化にいいすりおろしだ!

 

 すりまくってやるぜ!

 

 

 …………。

 

 

「苦い……」

 

「クックック! 良薬だからなぁ!」

 

 苦しみに顔を歪める大井。

 これぞ虐待の醍醐味よ!

 

 良薬は口に苦し。

 効き目だけは保障するぜ?

 

 ただし、味はとびきりヤベーがな!

 

「さ、寝ろ!」

 

「い、いきなりですね」

 

 飯食って薬飲んだら、あとは寝るしかねえからな。

 だが、俺の虐待はまだ終わっちゃいねえ。

 

 お休みを侵食する、これが俺の流儀!

 

「ひえぴたを貼ってやるぜ……!」

 

「ひやっ!?」

 

 クックック!

 キンキンに冷えた物をおでこに貼られちまったなぁ?

 こんな不快なこと、他にあるか。

 

 いや、ないよなぁ?

 

「さぁ! デコの不快感に苛まれながら眠りにつきな!!」

 

 とどめは、しっかり寝るまで横で見守っててやる事!

 さっさと一人になりたいだろうに、本当に残念だな。

 

 もがけ、苦しめ!

 

「あの、提督」

 

「なんだぁ?」

 

「……すいません、ご迷惑をおかけして」

 

 なんだこいつ、まーた嫌味か?

 そもそも風邪なんてしょうがねえ話だ。

 

 強いて言うなら俺の管理不行き届き。

 道具の状態を万全に保てなかっただけだからな。

 

「気にすんな。さっさと治しな」

 

「はい……」

 

 大井の奴、もう眠くなってきているようだな。

 今が一番熱もあって苦しいころだ。

 ふん、俺の虐待も相まって、すっかり衰弱しちまったようだぜ。

 

 大井。

 北上狂いで、俺に薄っぺらな態度をとる生意気な艦娘だ。

 敬語を使っているものの、その裏に隠れた本心は透けて見える。

 

 どうせ作戦が悪いのよ、とか思ってんだろ!

 そういうこと考えてるから虐待されんだよ!

 

「……クックック」

 

 しかし、それで何の問題もねえ。

 反抗的な艦娘だらけのこの鎮守府。

 

 こいつ程度、俺の兵器運用になんの支障もきたさねえ!

 

 さぁ、ここからが正念場だ。

 俺のパワーが持つか……いや。

 

 持たせてみせるぜ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ん……」

 

 熱にうなされる峠を越えたか、だいぶだるさが抜けている。

 暗い部屋、ひんやりとするおでこ……。

 

「提督……?」

 

 目を開けると、提督が私のお腹につっぷして寝落ちしていた。

 びっくりしたけど、声をなんとか抑える。

 

 おでこに当てられた濡れタオル。

 まだ冷たさを持っているソレ。

 

 ヒエピタはもう剥されているようだった。

 

 姉さんたちは、きっと別の部屋にいる。

 艦娘の風邪は、人間にうつるのだろうか?

 

「あ、妖精さん」

 

 伏している提督の背中に、妖精さんが立っている。

 うつる心配は無いから安心して、ということらしい。

 

 ……本当に、馬鹿な提督だ。

 私なんかの為に、ずっと看病して。

 

 どうせ、虐待だぜとかいうんだろうけど。

 

「……本当、変な人」

 

 寝ている彼の頭を撫でる。

 

 ……私は、私が嫌いだった。

 北上さんの事を好きだなんだと言っておきながら、守れなかった自分が。

 偉そうなこと言って、アイツに屈服してしまっていた自分が。

 

 でも、この人はこんな私を必要としてくれた。

 北上さんも、姉さんたちも。

 

 『艦娘』として、必要としてくれたのだ。

 

「絶対に裏切りませんから……提督も私を裏切らないで下さいね?」

 

「もし裏切ったら……」

 

 きっと、私は壊れてしまうだろう。

 それほどまでに、私はこの人に溺れているらしい。

 

「クク……虐待……」

 

「なによその寝言」

 

 アホみたいな寝言に、思わず吹いてしまう。

 要らない心配だったかも。

 

 この人は、私の提督だ。

 たぶん、おそらく、ずっと。

 

「おやすみなさい、提督……」

 

 初めて出会えた。

 私の、愛しい提督。

 

 




大井さんは風邪と虐待でおかしくなってるのでしょう。


後日、提督からのど飴を貰って小躍りする大井っちを目撃する北上さん。

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