汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

27 / 44
遂に反旗を翻した艦娘。
恐るべき提督の牙城を打ち崩す事は出来るのか!


第二十七話 卯月とドッキリ

 

 

「これぴょん! これこそうーちゃんに必要な物だっぴょん!」

 

「……はい?」

 

 食堂のテレビを指差して、卯月が叫ぶ。 

 一体何だというのだろう。

 

「ドッキリだぴょん、ドッキリ!」

 

「ドッキリ番組……」

 

 テレビで放送しているのは、バラエティ番組だった。

 その内容は有名人がイタズラを仕掛けられ、それを隠し撮りされる。

 そして最後にネタバラシをされ、大げさにリアクションするというもの。

 

 たまにやっている、所謂『王道』というものらしい。

 駆逐艦の娘達は好きらしく、目をキラキラさせて見ている。

 

 ……弥生も、好きだけど。

 

「ドッキリがどうしたの」

 

「だからぁ、司令官にドッキリを仕掛けるぴょん!」

 

 はぁ。

 また卯月の突拍子のない思いつきが始まった。

 

 そもそもドッキリと言っても何をする気なのか。  

 そしてあの司令官が、そう簡単に引っかかるとも思えない。

 

 彼は変な所で抜けているが、大事な所ではしっかり者だ。

 ……なんか行けそうな気がしてきた。

 

「思いついたら即行動あるのみぴょん! うーちゃん明日秘書艦だし!」

 

「……やり過ぎないようにね」

 

 心配することなさそうだけど、一応。

 卯月はなんやかんやで一線は越えない様にしているから。

 

 ただ、言い様のない不安が少しだけあるけど……。

 

「よぉーし、絶対にドッキリ大成功させるぴょんっ!」

 

「今まで散々『虐待』してきたお返し、覚悟するぴょん!」

 

 虐待を返すとはこれいかに。

 

「さぁ! 『虐待』の時間だぴょん!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「今日はよろしくお願いしまぁ~す♪」

 

「おう」

 

 今日の秘書艦は卯月か。

 癖の強い艦娘共の中でも、屈指のアホっぽさがあるやつだ。

 

 まぁ意外に仕事は真面目にやるやつだが。

 

「俺は書類仕事してるから、ファイルの整理しててくれ」

 

「了解ぴょん!」

 

 まぁいい。

 

 さぁて、今日も元気にお仕事しますかねぇ!

 そして隙あらば虐待プランに思いを馳せる!

 

 提督として、実に健全な過ごし方だぜ。

 

 

 …………。

 

 

「さて……ん?」

 

「……っ! ぴょーんっ!」

 

 卯月の奴。

 書類を纏めて棚にしまおうとしているようだが。

 

 上段の方に手が届かないらしく、何回もその場で跳ねている。

 その度に赤い髪が揺れ、スカートがめくれている……。

 

 何やってんだあいつは。

 そこら辺の椅子でも踏み台にすりゃいい話じゃねえか。

 馬鹿なのか?

 

「オイ卯月」

 

「!! なぁに? 司令官!」

 

「届かないんならそこらに置いとけ」

 

 一つの事に固執して時間を無駄にするのは無駄なんだよなぁ。

 だったら諦めて次の仕事しろっての!

 

「……分かったぴょん」

 

 なんでテンション下がってんだ?

 そんなに自分の身長が低い事にショックなのか?

 

「司令官、この書類はどうするぴょ~ん?」

 

「あ? それは……」

 

 かと思ったら今度は身体をくねらせながら俺の方へ向かってきた。

 本当になんなんだこいつは。

 

「あ~ん、ペンを落としちゃったぴょ~ん♪」

 

「……」

 

 そしてワザとらしくペンを床に投げ、大げさな動作でそれを拾う。

 まーたパンツ丸見えになっていやがるし。

 

 ……本気でコイツの行動の意図が分からん!!

 一体何が目的なんだよ!?

 

 ……落ち着け俺。

 こいつが考えそうな事を推理するんだ。

 

 このアホウサギが思いつきそうな、アホな事……。

 

「あ~、暑いぴょんねぇ~……」

 

 胸元のリボンを外しながら、こっちをチラチラ見てくる卯月。

 

 …………はっ!?

 まさか、この野郎ッ!?

 

 

 『労働環境の改善』を言外に訴えてきているんじゃあないか!? 

 

 そう考えれば辻褄が合う。

 『もっとバリアフリーな高さの棚にしろ』

 『こんなんじゃ仕事もやってられねえ、ペン捨ててやる』

 『暑いんだよクーラーもっと効かせろよな!』

 

 そういう意味合いがあったんだな、さっきからの行動にはッ!!

 

 卯月め、舐め腐った真似してくれるねぇ!!

 まだ俺という男の怖さを認識できていねえようだな。

 

 書類仕事中は虐待お休み時間だとしてたんだが、今日は特別だ。

 とびっきりの恐怖で、お前のアホ面を崩壊させてやるよォ!!

 

「クックック、そうか、そんなに暑いか……」

 

「うゆ~、こんなに暑いと服脱ぎたくなっちゃうぴょん!」

 

 無駄だぜ卯月。

 お前のくさい芝居、俺には通用しねえ!

 

 そして、逆にそれを利用してやるぜ。

 自分の軽率な行動を恨むんだな!

 

「じゃあ脱いじまえばいいんじゃあないか」

 

「ぴょっ!?」

 

 クク! 焦ってやがる!

 いきなり室内で服を脱げだなんて、言われると思ってなかったようだな。

 

 こんな変態クソ野郎と同じ部屋に二人きりだという、恐怖に沈め!

 

「あ、う、気のせいだったかもしれないぴょん!」

 

「クク、いやいや今日は暑いからな。ほら、俺も脱ぐし」

 

 そういいながら制服のボタンを外す。

 別に暑くなんてないが、演技してやるぜぇ?

 

 制服の下は黒のシャツ一枚だ。

 さぁて卯月、てめえはどうする?

 

「……卯月は負けないぴょん!!」

 

「ナニィっ!?」

 

 こいつッ!?

 制服の上を脱ぎ去り、サラシ姿になりやがった!

 ていうかこいつもサラシ勢かよ、なんでだ!

 

 しかし、これは意外な展開だぜ。

 まさかそれほどの覚悟を持っていたとはな。

 

 アホの思いつきではなかったってことか……。

 

「ぬ、脱いでもまだまだ暑いぴょんね、司令官!」

 

「そうだな卯月! クックック!」

 

 俺も負けねえぞオラ!

 こうなりゃ意地と意地の張り合いだぜ!

 

「失礼します提督、こちらの指示書に……」

 

「あ?」

 

「ぴょん?」

 

 …………大淀、だと?

 何故このタイミングでコイツがやってくる?

 そもそもノックしたか?

 

 

 いや、答えは一つ。

 こんな都合よくこいつが来るってことは。

 

 この現場を撮影し、俺を揺するためだ!

 

 傍から見れば俺は幼気な少女を脱がして喜ぶ大男。

 人権家の糞どもには格好のネタ!

 

 こいつ、大本営は役に立たないと踏んで、俺を社会的に抹殺しようとしているのか!?

 民間団体という抜け穴を使う気か!?

 

 させるか!

 

「大淀ァ! カメラをよこせぇ!!」

 

「いきなりなんですか!? ていうかなんて格好してるんですか!」

 

「大淀さんこれは違うっぴょん! 事情があるんだぴょん!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「結局その日は一日中失敗の連続だったぴょん」

 

「……だよね」

 

 弥生がまったく意外そうな顔もせずに言ってくる。

 失敗したのは自分なんだけどムカつくぴょん!

 

 第一のドッキリ、『お色気うーちゃんに司令官もメロメロ!?』は

失敗に終わったぴょん。

 

 大淀さんをなんとか誤魔化した後、さらなるドッキリを仕掛けたんだけど……。

 

 第二のドッキリ、ブーブークッション作戦も。

 第三のドッキリ、心霊ゾクゾク作戦も。

 

 なにもかも無力化されてしまったぴょん。

 

 司令官はお化け嫌いって噂だったのに!

 

「もう諦めた方がいいよ」

 

「嫌っぴょん! 絶対反虐待してやるんだぴょん!」

 

 司令官に一泡吹かせてやりたいぴょん。

 こればっかりは譲れないものがあるんだぴょん!

 

「ほォ……反虐待ねぇ。面白えこと考えてるじゃねえか」

 

「でしょぉ? うーちゃんの天才的頭脳の賜物ぴょん!」

 

「あっ」

 

 ん?

 弥生の顔がなんだか形容し難い感じになってるぴょん。

 一体なにをを見て……。

 

「!? し、司令官……」

 

「流石俺の道具、虐待精神が培われてきたみてえだなァ」

 

「あ、あはは、そう、そうだぴょん! 司令官の真似っ子を……」

 

 完全に油断したぴょん!

 いつの間にか食堂に司令官が入ってきていたなんて……。

 

 こ、こうなったら!

 

「じ、実は司令官に反旗を翻す算段だったぴょん!」

 

「はァ?」

 

「今まで虐待ばっかりでうんざりぴょん! これが私の意志ぴょん!」

 

 どうだ!

 これぞ最後のドッキリ、『部下が反逆! どうする提督?』ぴょん!

 

 これなら……。

 

「…………そうか」

 

「し、司令官?」

 

 なんだか司令官が今まで見たこと無い顔してるぴょん。

 いつものお馬鹿な笑顔じゃない。

 

 冷たい、表情。

 

「残念だな卯月。俺の道具として初の『不良品』だったか」

 

「あ、え、司令官? なに、言ってるの?」

 

「お? 俺の言っている意味が分からねえか?」

 

 司令官は、私の傍にツカツカと歩み寄ってくると。

 恐ろしい視線で見下ろしながら、言った。

 

 

「卯月。もうてめえは『お終い』だ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 クックック!

 卯月、いい顔してるぜ!

 

 あの謎行動の理由、やっと分かった。

 まさか反虐待なんてオサレな事考えてやがるとはな!

 

 だから、俺もドッキリ虐待で仕返ししてやったぜ!

 

 『お終い』という曖昧な言葉を用いることで不安感を煽り!

 何時も以上に凶悪な演技をすることで絶望度大幅アップ!

 

 これでこいつは『もしかしたら解体されるかも』なんて勘違いするってわけだ!

 

 ま、俺は自分の艦娘を絶対に解体はしねえがな!

 壊れるまでこき使い続けてやるからなァ!

 

 さ、卯月よ。

 恐怖に怯えた顔を俺に見せておくれ!

 いつまでもうつむいてないでさァ!

 

「ぴ……」

 

「ぴ?」

 

「うぴゃあああああああああん!!」

 

「!?」

 

 なん、だと?

 こいつ、マジ泣きじゃねえか!?

 

 これは演技では無いッ!

 大マジに、ガチ泣きしてやがる!!

 

「ごべんなざいいいいいいいいいいいい!!」

 

「オイ待て! 落ち着け!」

 

 クソ、まさか俺の顔がそこまで醜悪だったとは!

 食堂中の艦娘共が注目していやがる……。

 

 これじゃあ『卑怯な手段を使って無理やり泣かせた』みてえじゃねえか!

 兵器共から馬鹿にされちまう!

 

「泣くんじゃねえ! くそ、どうすりゃいいんだ!?」

 

「司令官、頑張ってね……」

 

「弥生ィ!」

 

 逃げやがったアイツ!

 オレ一人で始末をつけろってか!

 

「妖精さん! なんとか力を貸してくれ!」

 

「うぴゃああああん! がいだいじないでぴょおおおおん!!」

 

「するわけねえだろ! 妖精さーん!」

 

 妖精さんもアタフタしていてどうにもならねえ。

 俺と妖精さんズに不可能があるってのか……!?

 

 こんな、こんな事が……。

 

 いや!

 俺は天下無双の虐待提督!

 こんな駆逐艦一隻にしてやられてたまるかってんだ!

 

「卯月ィッ!!」

 

「ぴょんっ!?」

 

 思い切り卯月を抱きしめる。

 俺の取った行動、それは『今を上回る恐怖でコイツを黙らせる』だ!

 むしろ気絶しろ、ショックで!

 

「俺はお前を絶対に手放さねぇ。これはドッキリじゃねえぜ」

 

「……し、れいかん……」

 

 どうだ、失神しそうだろ!

 こんな男に抱きしめられ、おぞましい事を言われて!

 

 さっさと意識を吹っ飛ばせ!

 

「ほんとに、解体しないぴょん?」

 

「絶対だ。永遠にお前は俺の物だ」

 

 ハイ、決まった!

 精神汚染で気絶不可避!

 

 これで事態も収集できるだろう。

 なんか卯月も大人しくなったし。

 

 やれやれ、一件落着だ。

 俺の恐ろしさを卯月のみならず、他の艦娘にも知らしめられただろう。

 しかし、この俺をここまで追い込むとは……。

 

 駆逐艦卯月、恐るべし。

 アホウサギじゃあなかったってわけだなァ。

 

 




ガチで泣かせるなんて、ほんまもんの虐待じゃないか……。


卯月は次の日からケロッとしてました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。