汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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夏と言えば心霊。

ガチ虐待に戦く六駆であった……。


第二十五話 第六駆逐隊と幽霊

 

 

「幽霊だぁ?」

 

「絶対そうよ! だって私見たんだもの!」

 

 喧しく騒ぎ立てるのは、暁を筆頭とした第六駆逐隊のやつら。

 夕飯も済んで、今度談話室に置く漫画を考えていたっていうのに……。

 

「アレは絶対にお化けよ。間違いないわ!」

 

「長くて黒い髪だった、らしいのです!」

 

「服も真っ白で、ユラユラ揺れてた……そうだよ」

 

 何言ってだこいつら。

 夏だからって適当な作り話をしやがって。

 俺が本気で怖がるとでも思ってやがるのか?

 

「んなモン居るわけねぇだろ! ファンタジーやメルヘンじゃあねえんだぞ!」

 

「それを言ったら私達艦娘とか妖精さんはどうなのよ!」

 

「俺は自分で見たものしか信じねえ派なんだよなぁ」

 

 そもそも俺に幽霊とやらの話をしてどうしようってんだ。

 俺をビビらせて、影でせせら笑う気か?

 

 見た目はガキのくせに、随分陰湿な手を使ってくるじゃねえか。

 

「ウチって夜の見回りがいないでしょ?」

 

「あぁ。必要ねぇからな」

 

 昼間は監視カメラ。

 夜間はそれに加えて赤外線センサー、鳴子が鎮守府を囲っている。

 おまけに警備妖精さんが数体、鎮守府の周囲を巡回してくれているからなぁ。

 

 維持費とお菓子さえ用意すれば、見回りなんていらねえんだよ。

 

「だからお化けがいても誰も気づかなかったのよ!」

 

「じゃあいいじゃねえか。知らぬが仏だ」

 

「トイレ行く娘が怖がるでしょ!」

 

 しつけえなぁ。

 俺が怖がるまで続ける気かぁ?

 

 ……ならばしょうがないな。

 そっちから仕掛けてきたんだから、心置きなく『虐待』させてもらうぜぇ?

 

 プランは既に構築され始めている!

 

「分かった分かった。で、俺に何を求めてんだよ」

 

「今夜、一緒にお化けを捕まえましょう!」

 

「生憎だが夜更かしは許さねえぞ」

 

「じゃあ司令官が2時くらいに起こしに来てくれないか」

 

 中々攻めてくるじゃあねえか。

 この俺に目覚まし時計兼、妖怪バスターと化せ、とはな。

 

 いいぜぇ!

 今のうちに、せいぜい調子に乗っておきなぁ!

 

 史上最悪の恐怖が、今宵お前らを悲劇に導くぜ!!

 

「分かったよ。ホレ、散った散った」

 

「約束よ!」

 

 さぁて、今夜2時、か。

 それまで起きていられるか怪しいし、俺も目覚ましを用意しておくか。

 

 川内の件で、反省したぜぇ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「人数が多いとあんまり怖くないわね」

 

「何か悪いことしてるみたいなのです」

 

「とっとと見て寝るぞ。あぁ、クソ眠いぜ……」

 

 響だよ。

 現在時刻は夜中の2時丁度。

 

 私達は鎮守府寮棟の二階廊下にいる。

 こんな時間に皆で出歩くのは少し新鮮だ。

 

 司令官はどんどん前に進んでいく。

 怖くないのかな?

 

「クックック、お化けなんているのかねぇ」

 

「いるわよ……ほら、あの先の曲がり角で」

 

 廊下を真っすぐ進んで突き当り。

 丁度トイレと非常口が見える当たりの一角。

 

 昨晩、トイレに起きた暁がそこで幽霊を見たと言ったんだ。

 黒髪で白い服、ゆらゆら不気味に揺れていた……。

 

 夢でも見たんじゃないかな。

 

 でも面白そうだから乗る事にしたよ。

 電と雷は信じているみたいだし。

 

「ほんとに居たらどうするつもりだよ。掃除機なんて持ってねえぞ」

 

「お、お話して出ていってもらいましょ!」

 

「言葉が通じるのかしら?」

 

 なんとも気の抜けた話だ。

 司令官の言う通り、幽霊とお話なんてメルヘン過ぎる。

 

 そもそも何で此処に幽霊が出なくちゃならないんだ。

 誰かが死んだわけでもないし。

 

 ……艦娘は死んだら、霊になるのだろうか。

 それは、深海棲艦と呼ばれるものなのだろうか。

 

 ちょっと怖くなってきた。

 

「そこよ! そこの角で見たのよ!」

 

「黒髪の幽霊がねぇ……」

 

「司令官さん怖いのです! 怖いのです!」

 

「きょ、今日は居ないんじゃないの?」

 

 鎮守府廊下は灯りがなく真っ暗だ。

 懐中電灯だけで照らされ、闇がぼんやり映し出される。

 

 曲がり角から先は、まだ見えない。

 そこに何かが立っていても、気づくことは出来ない。

 

 お化けなんていないさ。

 そう思っていても、怖いものは怖い。

 

「ったく、おら、行くぜぇ」

 

 司令官を先頭に、皆で進んでいく。

 こ、怖くない怖くない……。

 

 暁の見間違いなんだ……。

 幽霊なんて居るわけが……。

 

「……ぁ」

 

「き、き……」

 

 曲がり角を曲がった先。

 すぐ近くに立っていたのは。

 

 長い黒髪を頬に貼り付け。

 白い服を身に纏った、長身の女が。

 不気味にユラユラと身体を左右に振りながら。

 

 こっちを見てうっすらと笑っていた……。

 

「きゃぁああああっ!!」

 

「出たあああああ!!」

 

「はにゃあーッ!?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 クックック!

 虐待は成功だ!

 

 六駆共の叫び声が響く!

 あんま煩くして他のやつ起こすんじゃねえぞ! ククッ!

 

 涙目で腰を抜かしているこいつらを置いて、俺は『幽霊』に近づいた。

 そいつは俯きながらさめざめと泣いている。

 

「よっ、お疲れだなぁ扶桑」

 

「うう……駆逐の娘にこんなに怖がられる私って……」

 

 そう、こいつらの俺をビビらせよう作戦を逆手に取り!

 役者を使って本物の『幽霊』を作ってやろうという作戦だったのさ!

 

 扶桑は黒髪だし、寝間着も白いパジャマだ。

 特別な装飾をせずとも、こいつなら適役だった。

 

 明日の午前中の演習任務を繰り下げにし、更に

間宮特性羊羹券二枚をくれてやることで出演させたぜ。

 

 ちなみに六駆共も明日の午前の予定を繰り下げた。

 

 俺の虐待を受けた、せめてもの慰めになぁ!

 それに、眠いと満足な働きができねえからな!

 

「扶桑さん!?」

 

「ごめんなさい! ちょっと怖すぎて」

 

「司令官さん酷いのです! ほんとに怖かったんですからね!」

 

「質が悪いよ、司令官……」

 

 クックック、こいつらと扶桑を同時に虐待する妙案だったな。

 そして響よ、俺の質が悪いのは前からだぜ。

 

「結局幽霊なんていねえんだよ。こんなもんだ」

 

「うーん、そうなのかしら。結局」

 

「暁ちゃんが見たのも艦娘の誰かだったのでしょうか?」

 

 まだその設定続いてたのか。

 それに結構立ち直りが早いな。

 

 ちっ、流石俺の艦娘。

 精神的にタフなやつらだぜ。

 

「提督……あの、私、お役に立てました?」

 

「ああ、俺の道具として最上の働きだったぜ」

 

「……ありがとうございます。お休みなさい」

 

 扶桑、中々良い役者だった。

 正直揺れてる所はマジでブルっちまったぜ。

 

「ふぅ、私達も寝ましょうか」

 

「結構楽しかったわね!」

 

「肝試し? みたいだったのです!」

 

「お休み司令官。Доброй ночи(ドーブライ ノーチ)」

 

「あー、お休みだ」

 

 艦娘共と別れ、寮棟を出る。

 夜風が肌に気持ちいいぜぇ!

 

 虐待も成功したし、気分がいい。

 今日は枕を高くして眠ることができそうだねぇ!

 

 本館一階の、俺の部屋を目指す。

 扉を開け、暗い廊下を進んでいき……。

 

「…………あぁ?」

 

 廊下の向こうの、階段前。

 少し空いたスペースに、何かが『居る』。

 

 暗くて見えづらいが、確かに何者かが立っているッ!?

 

 オイオイ、冗談だろ?

 しかしこの時間に、寮棟以外にいる艦娘なんて存在しねぇ。

 

 ……。

 

 俺の部屋は、廊下の先。

 ちょうど『アレ』が居る近く。

 

 ってことは、近づかなきゃ部屋に戻れねぇってことで。

 

「クソ! 怖くねぇぞ! 舐めんじゃねえ!!」

 

 俺が! この俺が!

 こんなもんにビビるわけねえだろうが!

 

 どうせあれだろ、また艦娘の誰かが悪戯してるってオチだろ!?

 ク、ククッ、許さねえからな、夜更かししやがって!

 

 ……ん?

 

「な、なんだと!?」

 

 向こうに立っていた何かが、こっちに向かってきている!

 一歩一歩、俺との距離を詰め始めているッ!?

 

 こ、ここは戦略的撤退……。

 ……いいや!!

 

「図に乗るなよ! 『妖精さん』ッ!!」

 

 俺は妖精さんに号令をかける。

 その瞬間、数体程度しか居なかった妖精さんが無数に出現した。

 

 その数、およそ数百体。

 妖精さんが放つ淡い光が、数を増した事で強くなる。

 

「俺の鎮守府で好き勝手やってんじゃあねえぞ! 来るなら来い!」

 

 俺自身は、ただの虐待大好き人間だ。

 しかし妖精さんと協力すれば、この程度の怪奇、どうということはねぇ!

 

 どんどん接近してくる『やつ』。

 妖精さん達の光で、そいつの姿が見え始め……。

 

「……ウゥゥ」

 

 長い黒髪。

 白い着物。

 

 ユラユラと身体を揺らしながら。

 口からは涎を流し。

 

 その眼は何かを求める様にギラギラと鈍く輝く。

 

 こ、こいつは……っ!!

 

「赤城じゃねぇか!!」

 

「んぁ!? あれ? なんで私こんなところに!?」

 

 ……結論。

 腹が減ったのと夢遊病が合わさって、無意識に食堂を目指していたらしい。

 はぁ……。

 

「ごめんなさいー! そしておやすみなさいませ提督ー!」

 

「加賀に身体でも縛ってもらえよな!」

 

 赤城のやつめ、ビビらせ……。

 

 いや、全然ビビってねえし!

 あれだから、妖精さんはその、暗かったから!

 

 ……はぁ。

 

 折角いい気分で寝れそうだったのに、ケチがついちまった。

 最後の最後まで、幽霊の影は消えていなかったってことか。

 

 幽霊の、正体見たり空母赤城。

 俺もまだまだ、虐待マスターには程遠いぜ。

 

 これからもガンガン虐待して、精進しなくっちゃあなぁ!

 

 




綿ロープを持った加賀さんが目撃されたそうな。


次回、季節の終わり。

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