汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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艦娘達を震え上がらせた、あの料理が帰ってくる。

しかも今回は残虐性がパワーアップしているらしい……。


第二十四話 足柄とカツカレー

「……ふむ」

 

 自由時間の艦娘共の過ごし方と言えば、だいたい決まっている。

 

 食堂でダベるか、談話室で漫画、ゲームか。

 部屋でダラダラする、それ以外は各々の趣味をやっていたり。

 

 つまり『休んで』いるわけだ。

 効率的なパフォーマンスには、休息が必要不可欠。

 そういうとこしっかり理解しているのは、兵器としていい傾向だ。

 

 しかし。

 

「足柄さーん、そろそろ演習の時間ですよー!」

 

「分かったわー!」

 

 鎮守府内、運動場。

 基礎体力訓練などに使われているこの場所で。

 

 最近良く目にする艦娘がいやがる。

 

 重巡足柄だ。

 

 あいつ、最近どうにも『休んでいない』。

 自由時間にも関わらず、運動場で走り込みを行っていたり。

 筋トレをしたり、武蔵あたりに近接試合を申し込んでいたりと。

 

 どうにも様子がおかしい。

 

 武蔵みてえなやつだって、休憩時間に身体を動かすのは稀だ。

 基本的に休む、それが普通だ。

 

 何も運動するなとは言わねえ。

 適度なスポーツはストレス解消にもなるからなぁ。

 

 だが、足柄のそれは明らかにおかしい。

 休憩時間の殆どを訓練時間にあてていやがる。

 これは……何かあるな……。

 

「大淀、何か分かるか?」

 

「あ……その、実は」

 

 ん?

 何故そこで言い淀む?

 何も知っていなかったら、知りませんで済む。 

 しかし、『何かを知っているから』こそ、その反応。

 

 つまり……!

 

「いや、わかったぜ。サンキュー大淀」

 

「え」

 

 クク、全てが繋がったぜぇ!

 何故足柄がああまで必死になって訓練をしているのか。

 

 休みを削ってまで、自分を追い込んでいるのかがなぁ!

 

 まったく、くだらねえ話だぜ。

 そんな事で、俺の兵器としての機能が損なわれちゃたまらねえ!

 

 というわけで……。

 

「虐待準備開始だ、妖精さん!」

 

 俺の道具としての自覚が足りないやつには!

 とびっきりの虐待を食らわせてやるぜぇ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「また負け……」

 

 今回の演習では、回避に問題があった。

 

 相手の挙動に注意しすぎて、逆に回避運動が鈍ってしまった。

 また、攻撃も冷静さを欠いてしまっていた気がする。

 

 こんなのではダメ。

 これでは実戦で通用しない。

 

「足柄? この後一緒に……」

 

「ごめんなさい妙高姉さん。ちょっと用事があるから」

 

 妙高姉さんのお誘いも、断ってしまう。

 きっと甘味か、一緒に遊ぶつもりだったのか……。

 ごめんなさい。

 

 でも、しょうがない。

 今の私は、そんな事をしている場合ではない。

 勝つために、訓練をしなければ!

 

 体力をつけるために、走り込みをしなくては。

 筋力をつけるために、トレーニングをしなくては。

 集中力をあげるために、明日は長門さんに付き合ってもらおう。

 

 強くならなくてはいけない。 

 負けてはならない。

 

 絶対に、私は勝利しなくてはいけない!

 

 

 …………。

 

 

 …………。

 

 

「また敗北か。ほら、顔を上げろ化け物」

 

「……っ!!」

 

 汚い手のひらで、思い切り顔をぶたれる。

 口の中が切れて、血の味が広がっていく。

 

 でも、ぎゅっと歯を食いしばる。

 そして、目の前の醜男を睨みつけた。

 

 私は、此処の艦娘の中でも反抗的な方だった。

 そのせいで暴力を受ける頻度は高かったけど、

誇り、プライドだけは失いたくなかったから。

 

 だから黙って耐えて、態度だけで精一杯反抗していた。

 

 そして、今日もいつも通り。

 私が敵艦載機の攻撃を避けきれず、大破して帰投。

 

 相手の航空戦力を読み違えたのはこの男だ。

 当然、回避できなかった私にも責任はある。

 

 でも、私はこいつを認めていない。

 だから、全力で反抗したのだ。

 

 しかし……。

 

「全く、化け物の癖に生意気が過ぎるな……」

 

「……だから何」

 

「貴様の姉妹にでも、『連帯責任』してやるか?」

 

「!?」

 

 それだけはダメだ。

 私のせいで姉妹が、皆が傷つけられるなんて!

 

 それだけは……!

 

「だ、ダメ! 姉さん達は関係ないでしょ!」

 

「そうかな? 姉妹の絆でも見せてくれるんじゃないか?」

 

「やめてよ! 殴るなら私を……!」

 

 那智や妙高姉さん、そして羽黒。 

 みんな良い子なのに。

 

 絶対に、私が守らないと!

 

「じゃあ、土下座しろよ」

 

「……」

 

「土下座だよ土下座。さっさとしろ。妹でも呼ぶぞ」

 

「っ! わ、わかり、ました……」

 

 屈辱だ。

 人質を取られ、いいようにされる。

 でも……。

 

「似合ってるぞ化け物」

 

「くっ……」

 

「じゃ、そのまま誠心誠意謝罪しな」

 

 私のプライドなんて。

 私の誇りなんて。

 そんなもの必要ない。

 

 守らなければいけない。

 

「生意気な態度で、すいませんでした……」

 

「もう二度と、反抗しません……」

 

「だから、許してください!」

 

 この日から、私はあいつに反抗するのを止めた。

 そして、絶対に勝ちたいという思いが強くなった。

 

 あんな屈辱はもう嫌だ。

 妹を害されるのも。

 

 だから勝つ。

 勝利だけが。

 

 勝利だけが、私の誇りだったのに……。

 

 

 …………。

 

 

 …………。

 

 

「足柄、もう夕食の時間よ」

 

「妙高姉さん……」

 

 もう日も沈みかけてきた頃、姉さんが声をかけてくれた。

 練習場には他の娘もいなく、私達だけ。

 

 私は黙って、姉さんについて食堂へ行く。

 

 もう、あいつはいなくなった。

 今の提督は馬鹿だけどとてもいい人で、優しい。

 

 だからこんなに勝利に固執する必要はないのかもしれない。

 だけど、どうしても望んでしまう。

 

 負けが続くと思い出すのだ。

 あの屈辱の日々を。

 

 ……私は過去から逃げる為に、自分を追い込んでいるのかもしれない。

 

「さぁ足柄、食堂についたわ」

 

 何故か妙高姉さんが、私を先に行かせようとする。

 疑問を抱きつつ、私はゆっくりと食堂のドアに手をかけた。

 

 立て付けが良くなったドアが開かれる。

 大広間の明かりが、目に眩しくて。

 そして、嗅いだことがある、とてもいい匂いが私の鼻に飛び込んできた。

 

「来たな足柄……『虐待』の時間だぜぇ?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「提督? これって……」

 

「クク、そう、今日の晩飯は『カツカレー』だぁ!」

 

 驚いていやがるな足柄ぁ。

 そりゃそうだろうな。

 

 今の自分が、一番求めていない物を出されたんだからなぁ!

 

 大淀のあの感じ、そして艦娘の感性。

 それから導き出される答えは、実に単純でくだらねえものだった。

 

 こいつ、ダイエットしてやがったなぁ!

 

 兵器の癖に生意気すぎなんだよなぁ。

 唯でさえ戦場に立つってのに、ダイエットて。

 

 どんだけ余裕かましてんだよこいつはよォ!!

 

「妙高達と作ったんだ、食べてくれるよなぁ?」

 

「ね、姉さんたちが!?」

 

 ああ、いい絶望顔だな。 

 信じていた姉妹から、裏切られたんだ。

 

 そりゃそんな顔にもなるだろうな!

 

 しかし、妙高達から提案された時はビビったぜ。

 足柄のダイエットを理由に虐待メニューを考えてたら、いきなり。

 

『カツカレーがいいのでは?』

 

 なんて言ってきやがった。

 クク、恐ろしいやつだと、心底思ったよ。

 

 まさか妹を貶める為の策を俺に授けるとはな!

 

「提督……皆……!」

 

「足柄、一杯食べな。当然、みんな一緒になぁ!!」

 

 そう!

 全艦娘、今日はカツカレーだ!

 

 足柄のせいで、皆が脂っこいモンを腹いっぱい食べなきゃいけなくなるんだ。

 

 『連帯責任』にしてやったぜぇ!

 

「さぁ、全員揃って『いただきます』だ!」

 

「いただきまーす!」

 

 クックック!

 

 足柄め、涙目になってまで食べてやがる!

 そんなに嫌かぁ! 残念だったなぁ!

 

 おかわりもあるぞ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「今日も大勝利! 当然の結果よね!」

 

 私は、誇りを取り戻した。

 屈辱の過去に怯えることもない。

 ただ今の為に、戦って勝つ事が出来るようになった。

 

 それも、提督のおかげ。

 彼と一緒なら、暁の水平線に勝利を刻める!

 

 だから!

 

「今日の当番は私よ! そして当然晩御飯はー……」

 

「またカツカレークマ!? もういいクマ!」

 

「アナタはもっと料理にレパートリーを持ちなさい!」

 

 誰も私を遮ることはできないわ!

 だって私は重巡足柄。

 

 『誇り』ある勝利を、提督へ捧げるんだもの!

 

「チーズカツカレーよー!!」

 

「カロリーが!」

 

 




健康カレーに慣れた胃袋が悲鳴をあげる……!


『足柄のげんカツぎ定食』がメニューに追加されました。

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