汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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悪漢に連れ回されるという虐待……。

誰か彼女を救える人はいないのか!?


第二十三話 鈴谷とお出かけ

 

「……まだかな」

 

 風に揺れる前髪を触って、私は一人呟く。

 

 今日は少し雲が出ている。 

 普段より、少し涼しい。

 

 きっと、楽しい日になる。

 今日という日が待ち遠しくてしょうがなかったから。

 

 期待と高揚感で、胸がドキドキする。

 顔、赤くなっちゃってないかな。

 

 服装は、変じゃないよね。

 部屋を出る前に、散々確認したから、大丈夫。

 

 熊野達も、お墨付きをくれたし。

 

「あっ」

 

 遠くの方から、あの人が歩いてくる。

 今日は白い軍服ではなく、カジュアルな、どこにでもいそうな格好。

 

 ……普通にかっこいい。

 

 本当に、大丈夫かな。

 変な顔になってない?

 

 彼が近づいてくるほどに、私の鼓動は増々高くなる。

 自分ではどうすることもできない。

 

 だって、だって……。

 

「よぉ鈴谷。準備はいいかぁ?」

 

 今日は、提督と一緒に街へお出かけする日なんだもん。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ある日の、食堂でのこと。

 飯を食い終わって一服していた俺に、鈴谷が話し掛けてきた。

 

「街に出かけてみたいだぁ?」

 

「うん……ダメ、かな?」

 

 艦娘共には、書類さえ出せば何時でも街に行く事を許可している。

 しかし今まで一度も申請が来てなかったから、

どんだけ引きこもりが多いんだと思っていたが……。

 

 ていうか、こいつら今までずっと出かけたことなかったのか。 

 どんだけ居心地良かったんだよこの鎮守府は。

 

「いいじゃねえか。行ってこい……と言いたい所だが!」

 

 こいつらの世間知らずっぷりは、流石の俺にも目に余る!

 前任に甘やかされまくったせいか、何なのか。

 

 そう、例えば……。

 

「お前、その格好で行くつもりかぁ?」

 

「えと、何か変?」

 

 変だとかそういう問題じゃねえんだよなぁ。

 鈴谷はまだマシな方だが、それでもなぁ……。

 

「制服しか持ってねえだろ! それじゃあダメだ!」

 

「えーっ!? 別にいいじゃんコレでー!」

 

 いいわけねえだろ!

 仕事じゃないオフで、仕事着を使うなんて許されねえ!

 そもそもお前らの制服は艤装と同じ特殊装備。

 

 そんなことに使えるかぁ!

 

「よくねぇ。街に行きたいってんならまず私服を買え!」

 

「カタログでぇ? あんまいい感じの無いんですけどー」

 

 こいつ……。

 

 ……いや、待てよ。

 こりゃ虐待チャンスじゃねえか?

 

 ククク、来たぜ、ヌルリと!

 虐待の天啓が、俺の天才的な頭脳に降りてきなすったぜぇ!

 

「よぉし、なら鈴谷。服買ったら一緒に街行くか」

 

「えっ!? て、提督、と!?」

 

「あぁそうだ。なんだ、俺と一緒は嫌かぁ? クックック」

 

「あ、う、別に嫌じゃないし!」

 

 鈴谷よ、もう表情に出ちまってるぜ。

 折角一人でお出かけを楽しむはずだったのに、残念だったなぁ!

 上官に言われちゃ、拒否も出来まい?

 

 俺がついていく事自体、既に虐待になるが。

 それに加えて、色々辱めてやろうとするかぁ!!

 

「……そのかわり」

 

「あぁ?」

 

「そのかわり提督も私服だかんねっ! それじゃっ!!」

 

 ……行っちまった。

 あの野郎、俺に私服を来てこいだとぉ!?

 制服と寝間着の甚平しか持ってねえ俺に?

 

 ……クク、なるほど、やるじゃねえか。

 

 俺の私服センスを見て、馬鹿にしようって腹だな!

 鈴谷め、早速反撃に転じるとはなぁ!

 

 俺は受けた喧嘩は必ず買う主義。

 絶対に逃げたりなんかしねえんだよ!

 

 覚悟しとけや鈴谷ぁ!

 その日が待ち遠しくてしかたねえぜ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「い、いやぁ、何だか暑いねー! もう夏だからかなー!」

 

「あぁ? 今日は涼しい方だと思ったがな」

 

「そ、そう? ちょっと服が厚手だからかな!」

 

 うー、なんかいつもの調子がでない!

 提督と並んで街を歩いてるってだけなのに。

 

 変に意識しちゃう……!

 

「で、何処に行くつもりなんだぁ?」

 

「あ、うん、ぶっちゃけ何にも決めてないんだよねー、あはは……」

 

 ただなんとなく街に行きたいと思っただけで。

 こんなことになるなんて想像してなかったんだもん!

 

 そもそも街がどんなところか知らないし!

 

「フン、じゃあ今日は俺に従ってもらうしかねえなぁ!」

 

 ということは、提督のエスコート!?

 こんなの本当にデートみたいじゃん……。

 

 い、いい加減集中しないと。

 折角外に来たんだから、楽しまなくっちゃ!

 

「ほら、此処がメインストリートだぜ」

 

「わぁ……」

 

 人が少しずつ増えてきて、大きな通りに出た。

 大勢の人、喧騒。

 

 見たことのないお店が、軒を連ねている。

 

「凄いなぁ……」

 

 思わず感嘆の声が出ちゃった。

 鎮守府の近くに、こんな大きな街があったなんて。

 

 電車で20分くらいかかったけど。

 

「さて、早速目当ての店へ向かうぜ!」

 

「うん……どこ行くの?」

 

 提督は、結構趣味が多い。

 

 『虐待』から始まり、ジャンクフード、珈琲、お酒。

 カメラ、漫画、ゲーム……釣りや水泳なんかも好きらしい。

 

 実は甘いお菓子も好きという話が、最近鎮守府で噂になっているけど。

 

 兎に角、多趣味な人なんだ。

 そんな提督が、連れて行ってくれる場所……。

 

「クックック、とっても楽しい所だぜぇ?」

 

 あー、この表情は。

 何か企んでいる顔だなぁ。

 

 でもきっと、楽しいんだろう。

 提督と一緒なら、どこでも。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ちょ、マジ恥ずかしい……!」

 

「クク、次はこれに着替えるんだよ!」

 

 クックック。

 俺が鈴谷を連れてきたのは、『服屋』だ。

 

 こいつ、カタログにはいいのが無いって言ってやがったからなぁ。

 それを口実に連れ込むことに成功したぜ!

 

 そして、此処は既に虐待ゾーンと化している!

 

 新しい服がほしいという鈴谷に、俺が見繕ってやると言い、

無理やり着せ替え人形とさせるんだよ!

 

 自分が言った手前、所有者の俺からの提案を蹴ることも出来ず!

 ただただ俺の選んだ服を着せ替えられ続ける!

 

 これにより、唯でさえ俺がついてきたという精神的負担に加えて!

 俺の様な悪漢に全身を眺め尽くされるという恐怖!

 

 クク、鈴谷のやつめ、恥辱の余り顔を赤くして身をよじってやがる。

 もうお前は蜘蛛の糸に絡め取られた哀れな獲物……!

 

 後は俺に料理されるのみなんだよなぁ!

 

「て、提督ぅ。これ露出多くない……?」

 

「問題ない。似合ってるぞぉ? クックック!」

 

 鈴谷は、何というか今時の女子高生感がある性格をしている。

 兵器のくせに、艦娘共はそういう感性を個々に持っているからなぁ。

 

 ならばそれに合わせてやるよ……全力でな!

 

 よく知らんが最近の若い奴は軽装ブームらしい。

 腹とか肩とか太ももとか、兎に角露出が多い。

 

 季節も夏……鈴谷よ、開放的な姿を晒しな! 

 そして俺からのおぞましい視線に晒されていると勘違いして怯えろ!

 

「こ、これでいい! これでいいからもう終わりにしてー!」

 

 敗北宣言頂きましたぁッ!!

 俺の虐待、大成功ッ!!

 

 快っ感!!

 

 

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「美味しかったなぁ~、ラーメン」

 

 提督に服を買ってもらった後、ラーメン屋さんで昼食を摂った。

 提督が前から食べていて、気になったからだ。

 

 ちょっと油っぽかったけど、癖になる感じだった。

 ……アレばっかり食べてたら、ヤバそうだけど。

 

 そして今、アイスクリームを提督が買いに行ったので

一人公園のベンチに座って待っているところだ。

 

 『俺はそこまでだけど、お前が食べたいだろ!?』とか言っていた。

 ……やっぱり甘党の噂は本当なんじゃないだろうか。

 

 

 それにしても提督、私が自分で服を買うって言ったのに。

 『俺に恥をかかせる気かぁ?』って買ってくれた。

 

 服屋さんでは、すっごく恥ずかしかったけど、それでも楽しかった。

 提督に、色んな服を着た私を見られて……。

 

 一緒に出かけて、よかったな……。

 

「オイオイ、めっちゃ可愛い子いるじゃーん!」

 

「君、一人かい? 俺らと遊びに行かない?」

 

 え……?

 

 いつの間にか、ベンチの近くに男の人が二人来ていた。

 若くて軽薄そうな見た目と喋り方。

 

 これって……。

 

「あの、すみません。一緒に居る人がいるんで……」

 

「おほっ、可愛い声! いいねぇ」

 

「あー彼氏持ち? まぁいいじゃん、ちょっとくらいさ!」

 

 何なんだ、この人達。

 普通一人じゃないって分かったら諦めない!?

 

 変な人に絡まれちゃったな……。

 

「あの、だからっ!」

 

「ハイハイ、分かったから向こう行こうねー」

 

「続きは車の中で話そうぜ?」

 

 ちょ、ちょっと!

 金髪のヒョロヒョロしたほうが、急に腕を掴んできた!

 

 マジでいい加減に……!

 

「や、やだっ! 離してよっ!」

 

「うるせえなぁ、大丈夫だって」

 

「一緒に、『楽しいこと』しようってだけだよ?」

 

 い、嫌っ……。

 掴まれた腕が、振りほどけない。

 艦娘は、人間に危害を加えることが出来ない……。

 

 たとえ、どんな相手でも……!

 

「やぁっ! 提督っ! 助けてっ!!」

 

「何言ってんだ? おい、早く来いよ!」

 

「面倒くさ、口塞ぐか?」

 

 大して筋肉もついてない腕の癖に、ガッチリと鈴谷を捕まえて話さない。

 気持ち悪いっ!

 キモいっ!

 

 提督……っ!!

 

「…………おい」

 

「あぁ!? んだよてめえ! 邪魔すん、じゃ……」

 

 男たちの動きが、ピタリと止まった。

 彼らの目の先に居るのは……。

 

「提督!」

 

「おいこらクソ野郎共。てめえらどの面下げて俺のモンに手出してんだ?」

 

「お、おおっ!?」

 

 こいつらがビビるのも、無理はないと思う。

 提督の見た目は、初めて会った時、私達でも怖かったから。

 

 まぁあの時は色々精神的に参っていたからかもだけど。

 

 身長は180センチ以上。

 全身が鍛えられた筋肉で引き締まっていて。

 顔はコワモテ、目つきは連続怪奇殺人犯みたい。

 

 ただ、私達には全身にとまっている妖精さんが見えてるけど。

 

「ななな、なんだよてめえ!」

 

「そいつの所有者だ」

 

「所有者ってなんだよ! そういうプレイか!?」

 

 そりゃそうだ。

 

「いいから、その手をさっさと離せ。な?」

 

「ひぃっ……!」

 

 提督がひと睨みしただけで、男は私を解放した。

 離された私は提督の傍に駆け寄る。

 

「提督、ありが……ちょっ!?」

 

「おいクソ野郎共。よぉく覚えとけ!!」

 

 提督に肩を抱かれて引き寄せられた!?

 な、なんで!?

 

「こいつは俺だけの物だ。お前らが勝手に触ってんじゃあねえぞ!」

 

「わ、分かった! お、俺らが悪かった!」

 

「ならとっとと失せな。お前ら『虐待』する価値すらねえぜ」

 

 男達は猛ダッシュで公園から去っていった。

 よかったぁ……。

 

「ったく、オイ鈴谷。どこも傷とかついてねえだろうな」

 

「あ……うん、大丈夫……」

 

 心臓が、バクバク言ってる。

 安心したからとかじゃない。

 

 提督が近い。

 提督の腕が私の身体を……。

 

「ならよし。ほらよ」

 

「あっ」

 

 提督は私を離すと、妖精さんに預けてたアイスを手渡してくれた。

 ……。

 

「あー、甘いのは苦手なんだがなぁ! しょうがねえなぁ!」

 

「……美味しい」

 

 アイスは甘くとろけるようなバニラ味。

 間宮さんのとは違った美味しさ。

 

「提督、あのさ、ありがと」

 

「ああ、感謝して食えよ」

 

 提督のことだから、『助けた』とさえ思っていないだろう。

 自分の道具に手を出されて、だから怒った。

 それだけ。

 

 でも。

 私はそれでも、凄く嬉しかった。

 

 男達から助けてくれて。

 提督の物だと言ってくれて。

 

「にひっ♪ 提督、アイス一口頂戴っ!」

 

「はぁっ!? 絶対やらねえ! てめえのがあるだろが!」

 

「苦手なんでしょー? ひーとくちっ♪ ひーとくちっ♪」

 

 提督といると楽しい。

 かっこよくて、優しくて、馬鹿で、可愛いこの人が。

 

 私は大好きなのだから。

 

 




一般人の前で物扱いされる哀れな鈴谷。


その日は一日中、他の艦娘から質問攻めに遭ったそうな。

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