汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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徹底的に兵器扱いされる虐待!
秋津洲の明日は……。










第二十一話 秋津洲と強さ

「演習終了ー! 全艦速やかに帰投せよ!」

 

 ある日の午後の、湾内演習場。

 今日も何の滞りもなく、演習は終了した。

 

 提督の決めた『演習』は、皆にとって当初は新鮮に見えたかも。

 本物の戦場でしか、自身を磨く場所が無かったから。

 こうやって模擬戦を出来るなんて、考えたことなかったのかも。

 

 でもそれはあくまで『皆にとって』。

 昔、一度だけしか出撃したことのない私には、関係なかった話かも。

 いつまでも弱い私には。

 

 それなのに……。

 

「秋津洲ちゃん大丈夫? 毎日大変だねぇ」

 

「伊勢さん……守ってくれて有難うございました」

 

「いやぁ、結局最後は負けちゃったけどね」

 

 悔しそうに笑う伊勢さん。

 本当に優しい先輩かも。

 

 私は水上機母艦、秋津洲。

 最近、何故か演習ばかりの日々を送ってるかも……。

 

 

 …………。

 

 

「はぁー……」

 

「秋津洲さん? お疲れ様です」

 

 夕食の席、溜息をついた私に話し掛けてくれたのは、同じ水母の瑞穂。

 優しくて私よりも強い、ちょっと憧れの娘かも。

 

「毎日演習なのでしょう? 沢山食べて精を付けませんと」

 

「肉体的っていうより、精神的に疲れてるかも~……」

 

 そう。

 毎日演習に組み込まれているといっても、半日だけ。

 肉体的にそこまで疲弊するわけではないかも。

 

 それよりも、精神面。

 他の強い娘達の中で、一人だけ弱い私。

 出撃することもなく、鎮守府のこやしだった私が。

 

 何故か毎日演習している。

 こんなの精神的にくるに決まってるかも!

 

「提督は何考えてんのか分からないかも~っ!」

 

「うーん、また『いつもの』だと思うんですけどね」

 

 そう、どうせ『虐待』とか言って!

 私を無理やり演習に参加させるぜぇ、とかそんなんかも!

 

 実際、戦闘経験は積めている。

 特に、攻撃を回避することに慣れてきてはいるかも。

 

 でも、結局出撃しないんじゃ無駄かも。

 ……提督は無駄な事はしない主義だと思っていたんだけどなぁ。

 

「大艇ちゃんを返してくれたのは、嬉しかったけど……」

 

「きっと提督にも何か考えがありますよ!」

 

 前の人は、私を一回だけ出撃させた後、散々引っ叩いてきた。

 なんでも『こんな役立たずだとは思わなかった』とか。

 

 その後大艇ちゃんだけ取り上げられて、私はずっと海に出なかったかも。

 取り上げられた大艇ちゃんも、結局使わなかったらしいけど。

 

 私は他の娘が必死で出撃を繰り返すのを、ずっと、ずっと見ていただけ。

 

 皆に申し訳がなくて、しょうがなかった。

 それでも皆優しくしてくれたのは、本当に嬉しかったかも。

 そうじゃなかったら、今頃……。

 

 今の提督は、私の大艇ちゃんを返してくれた。

 演習の時も、一緒に戦って(?)いるかも。

 

 大好きな大艇ちゃんと一緒にいられるのは良かった。

 でも、目的不明のプレッシャーが凄いかも。

 

 そろそろ提督に直接聞いてみようかな……。

 

「それでもちゃんと食べましょう。今日は焼きサバ定食ですよ」

 

「うん……滅茶苦茶美味しいかも……」

 

 やっぱりちゃんと動いた後のご飯は最高かも!

 取り敢えず今は目の前の幸せに集中したほうがいい。

 

 元気出して、明日も頑張るかも!

 

 

 …………。

 

 

「ぐえぇ……」

 

「大丈夫か、秋津洲」

 

 今日も今日とて演習だったかも。

 生存時間は伸びてきたとはいえ、やっぱり大破判定になる。

 

 提督はこんなこと続けて、何の意味があるっていうのかも!

 

 そんな私に話し掛けてくれたのは、日向さんだった。

 この人はなんか私をよく気にかけてくれるかも。

 

 なんでだろう?

 

「日向さん……演習が、キツいです……」

 

「まぁ、そうなるな」

 

 日に日に、演習は激化してるかも。

 それは私が艦隊旗艦になっているから。

 旗艦は一番狙われやすいから、当然かも。

 

 もう砲弾と魚雷から逃げまくる生活は嫌かも~!!

 

「……秋津洲は、瑞雲を信頼しているか?」

 

「日向さん、私大艇ちゃんと水戦しか積んでないかも」

 

「ははっ。そんな日もあるか。まぁいい」

 

 日向さん、何が言いたいんだろう?

 

「私は瑞雲を信じている。だから自信を持って戦えるんだ」

 

「……私は、自信が持てないかも」

 

「そうか。なら提督をよく見る事だな」

 

 提督を?

 確かに提督はいつも自信たっぷりかも。

 何か秘訣があるのかな……。

 

「私、提督の所に行ってきます!」

 

「ああ。ところで秋津洲。瑞雲についてなんだが」

 

 やっぱり提督とお話するしかないかも!

 そもそも私に一言も何も言わないなんておかしい!

 

 絶対に演習の理由を突き止めてやるかも!

 

 

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「というわけで、教えて欲しいかも!」

 

「そりゃもっともな疑問だな。ていうかもっと早く聞きに来ると思ってたぜ」

 

 演習結果を纏めていると、秋津洲が突入してきやがった。

 こいつ、聞きに来るのが遅すぎるぜ。

 

 疑問を持ったらすぐに聞きに来る!

 

 このまま質問に来なかったらどうしてくれようかと思ったぜ。

 

「……お前、大艇の扱いには慣れてきたか?」

 

「そりゃあ……大艇ちゃんは相棒だから」

 

「ククク、そいつはいい」

 

 秋津洲。

 他の水母と比べると、圧倒的にスペックは劣っている。

 しかし、こいつには『強み』がある。

 

 『二式大艇』と『回避性能』だ。

 

 回避性能ってのは、何もカタログスペックだけの話じゃあねえ。

 弱いからこそ、いい。

 

 俺はこいつらを虐待するのが好きだ。

 そしてそれと同じくらい、こいつらを兵器として磨きあげてぇ。

 

 自分の道具が強く、強くなっていく。

 そのことに俺は、喜びを感じるんだよなぁ!

 

 こいつは毎日演習をやらされて、さぞきつかっただろう。

 目的も言われず、延々と攻撃を受け続ける虐待!

 

 それもまた、虐待、だが……!

 

 この虐待は、俺を満足させるためだけではねぇ!

 こいつ自身が高みへ昇る為のモンでもあるんだよ!

 

 俺の道具を、進化させるなぁ!

 

「秋津洲、お前、今日が演習最終日な」

 

「ほんと!?」

 

「ああ。しかし、明日お前には出撃任務にあたってもらう」

 

 もう、こいつは花咲いた。

 俺の兵器としての、才能の花がなぁ!

 

「うぇ!? 無理! 絶対無理かもっ!!」

 

「ほう、なんでそう思う?」

 

「だって、私は弱くて……自信が無くて……」

 

 クク、くだらねえ言い訳だな。

 俺がニートと化したお前を見逃すわけねえだろう?

 

 弱いから、そんな言い訳は……!

 この演習で潰させてもらったぜ!

 

 そして、後は実践するのみ!

 

「俺は、自分に自信を持っている」

 

「なんで? なんでそんなに……」

 

「何故なら、俺は俺の道具を信じているからだ」

 

 俺は深海棲艦と戦えねえ。

 俺の手足となり直接やりあうのは、艦娘共だ。

 俺の、道具たちだ。

 

「共にある道具を信じてるから、自分に自信を持てるんだ」

 

「共にある、道具……」

 

「クックック、秋津洲。お前の大艇を、お前は信じているか?」

 

「あ、当たり前かも! 大艇ちゃんは相棒かも!」

 

 それなら、何の問題もねえなぁ。

 

「なら、俺と同じじゃあねえか」

 

「え? ……あ」

 

「てめえの道具を信じる、自分を信じろ!」

 

 自分の道具への信頼は。

 自分自身への信頼と化す!

 

「大艇ちゃんを……」

 

「さぁ、今日は休みな! 明日に備えてなぁ!!」

 

 行くが良い秋津洲!

 己の弱さを超えていけ!

 そして、俺の兵器として、深海棲艦共をぶっ潰してきなぁ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 提督は、私と同じだったかも。

 彼の言う『道具』は、私達。

 私の言う『道具』は、大艇ちゃん。

 

 信じているから、戦える。

 

「秋津洲ちゃん、敵艦隊と交戦開始します! 下がって!」

 

「大丈夫です。このまま前に出るかも……」

 

「秋津洲ちゃん!? 囮になる気!? 無茶だよ!」

 

 伊勢さんの叫び声が聞こえる。

 当たり前かも。

 

 当たったら、一撃で大破してしまうから。

 私は弱いから。

 

 だったら……。

 

 

 …………。

 

 

 大艇ちゃんは、少し特殊な偵察機かも。

 『普通の』偵察機は、得た情報を艦娘にそのまま伝えることが出来ない。

 発艦して、取得した情報を『音声』で送ってくる。

 そのため完璧な情報を、タイムラグ無く送る事は不可能なのだ。

 

 でも、大艇ちゃんは違う。

 

 大艇ちゃん自身が『見た』物を、直接私に『見せて』くれる。

 それも、リアルタイムで。

 

 今まで、面倒がなくてちょっと便利だとしか思っていなかったかも。

 でも、演習を得て、実戦に来て、分かった。

 この力が。

 

 私達の、強さが。

 

「読める……動きの『軌跡』が見えるかも……」

 

 上空に飛ばしている大艇ちゃんと、視界を共有する。

 俯瞰で見える、敵艦隊と私達。

 

 敵の砲撃が始まる。

 先頭にいる私に向かって。

 

 予知出来る。

 敵の弾が、何処に飛んで来るのか。

 どうやって動けば、当たらないのか。

 

 自分の周囲に水柱があがる。

 私には、当たっていないかも。

 

「あ、秋津洲ちゃん……!」

 

「ふっ、これが瑞雲搭載可能艦の成長性、か……」

 

 敵は必死で、私に攻撃を続ける。

 砲弾の雨あられ。

 

 でも、当たらない。

 ずっと、避けてきたから。

 ずっと、見えているから。

 

 ずっと、私は弱かったからッ!!

 

「未来の動きを予知しているかも! 私には絶対に当たらないッ!」

 

「秋津洲ちゃんが攻撃を引きつけている! 撃てーッ!」

 

「瑞雲を放って突撃!」

 

 これで皆、攻撃に集中出来るかも。

 でも、流石に相手も馬鹿じゃない。

 

 命中しない私から、攻撃目標を切り替える……。

 敵が放った艦爆機が、日向さんに迫って……。

 

「それも、『見えている』かも」

 

 機銃掃射と水戦により、迎撃に成功した。

 私はただの囮じゃあ、ない。

 

 敵艦隊の動きも。

 砲弾の軌道も。

 魚雷の軌跡も。

 艦載機の挙動も。

 

 全て、予知出来ているかもッ!!

 これが私と大艇ちゃんの『強さ』だ!

 

 

 …………。

 

 

「いやー秋津洲ちゃん凄かったよ! 演習のかいがあったねぇ!」

 

「全くだ。私の瑞雲も凄かったがな」

 

 帰投しながら、皆に褒められる。

 戦って勝って褒められるなんて、初めてかも。

 

「提督が、私を信じてくれたからかも」

 

「ふふっ、そうだねぇ」

 

 提督が私を信じるように。

 私も、大艇ちゃんを信じた。

 ただ、それだけの事だったかも。

 

 帰ったら、提督にお礼を言おう。

 信じてくれて、ありがとうって!

 

 

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【真・秋津洲流戦闘航海術報告書】

 

 二式大艇を用いた戦場状況把握により、圧倒的な回避性能と

敵艦載機迎撃能力を手に入れる戦術。

 

 敵航空戦力が多い場合、大艇を展開できず、能力を発動することが出来ない。

 

 序盤の囮役を終えた場合、後半は防空に専念するしかなく、敵艦隊に

直接ダメージを与える手段を持たない。

 

 よって、味方艦隊が航空優勢を取り、高攻撃力を持つ場合に、

極めて優秀な囮役と防空役を兼ねる事が出来る。

 

 

 追記……使い過ぎると目が疲れるかも。

 

 




次回、僕っ娘提督再来。


※原因不明のエラーが出ていましたが無事復活致しました。

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