汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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趣味と称した虐待に苛まれた曙は……。




第二十話 曙とフィッシング

 

「クックック、お前に出来るのかぁ?」

 

「バカにすんなクソ提督! こ、これぐらい……」

 

 曙よ。

 気持ちが悪いだろう?

 ヌルヌルしていて、テラテラ光っていて……。

 

 そんなグロテスクなモン、触りたくねえだろうなぁ。

 だが、これを乗り越えられなくちゃぁ話にならねえ。

 

 まだまだ、第一関門なんだからなぁ?

 

「キツいか? なら俺が代わってやってもいいぜぇ?」

 

「絶対嫌! あたしがやるって言ったんだから最後までやる!」

 

 クク、流石といったところか。

 反骨心高めな艦娘の中でも、霞、満潮あたりと並んで強い奴だ。

 

 こうやって煽れば、分かりやすく動いてくれるねぇ!

 

「うぐぐ……気持ち悪いぃ……!」

 

 確かに初見だと、相当にやばいビジュアルをしていると言える。

 特に女の感性を持つこいつらには、なぁ?

 

 だが、お前が言い出した事なんだ。

 絶対に最後まで逃さねえからなぁ!!

 

 苦しみ抜くんだよ、俺の精神安定の為に!

 

「か、噛んだ!? コイツ噛むの!?」

 

「ああ、頭に気をつけな」

 

 いい感じに洗礼を受けていやがるぜ。

 ま、少しずつ慣れてきてはいるか……?

 

「…………やった! 出来たわよほら!」

 

「よぉし、上出来じゃねえか!」

 

 初めてにしちゃあ、上手く出来てるな。

 こいつの根性が成し得た結果か。

 

 俺の虐待を受けてなお、立ち上がる精神力。

 『やりがい』があるってもんだ。

 

 さて、ようやくスタートラインだ。

 『コレ』の本領は、まだまだこれからだぜぇ!?

 

「えへへ……って、頭撫でんなっ! このクソ提督!」

 

「分かった分かった。取り敢えず手拭きな」

 

 怒る曙に、ウエットティッシュを渡す。

 粘液で手が汚れているからなぁ。

 

「うん……ほんと、気持ちわるかったわ……」

 

「それが魚にはご馳走なのさ」

 

 曙がやっていたのは『餌を針に付ける』ことだ。

 餌はイソメだ。

 

 俺もガキの頃は嫌ってた生き餌だな。

 しかし、よく釣れるんだこれが。

 

 というわけで。

 今日は曙と海に釣りに来ている。

 

 釣りは俺の趣味。

 そして、これに虐待を加えて……。

 

 今日もハッピーライフと洒落込もうじゃねえか!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ねぇクソ提督」

 

「んだよ」

 

「全然釣れないんだけど」

 

「まだ投げて三分も経ってねえだろ」

 

 今日、秘書艦だった私は、クソ提督と釣りをしていた。

 書類仕事が終わって、午後の遠征部隊が帰ってくるまで暇だから、

釣りでもしてくるって言い出した。

 

 私は休んでいていいとか言ってきたから、無理やりついてきた。

 それに、前々から釣りに興味があったし。

 

「け、結構動かした方がいいの!?」

 

「少し誘うくらいだな。あんまりやると地球を釣っちまうぜ?」

 

 鎮守府は海に面しているから、敷地内で海釣りが出来る。

 堤防に腰をおろして、適当に投げる『ぶっこみ釣り』というらしい。

 

 ……思ったより暇なものなのね、釣りって。

 

「よく竿を見とけよ。忍耐力が必要だぜ?」

 

「クッ、絶対にクソ提督より先に釣り上げるんだから!」

 

 クソ提督は、悪いやつじゃない。

 艦隊運用、それに私達への待遇。

 『良い提督』なんだと思う。

 

 でも、口が悪いし、態度も悪い!

 私が言えることじゃないかもしれないけど……。

 

 だから何となく、反抗している。

 クソ提督もそれで楽しげだし。

 

 私は、これでいいのだと思う。

 

「十分くらいしたら一回あげるんだ。それを続ける」

 

「本当にこんなので釣れるの?」

 

 あのキモいのを、魚が食べるのは分かるけど。

 針とか、糸とかは見えないのかな。

 

 ……ぼーっと、海を眺める。

 クソ提督と並んで、ずっと。

 

 雲が太陽を隠してくれているから、ちょっと涼しい。

 クーラーボックスから、お茶を出す。

 

「クソ提督、何がいい?」

 

「俺もお茶がいいなぁ」

 

「ん」

 

 二人で黙って、竿を垂らす。

 静かな時間だ。

 

 時刻は夕方。

 今日もまた、一日が過ぎていく。

 

 ……なんだか、心が静かだ。

 こういうのも、釣りの醍醐味なのかもしれない。

 

「おっ……来たぜ!」

 

「嘘!?」

 

 やっぱり経験の差には勝てないの!?

 ただ、余り引いてる風ではないから、大物ではないのだろうけど。

 

 それでも、初めて間近で『釣り』を見て、ワクワクしてくる。

 

「よっ…………カサゴか!」

 

 司令が釣り上げたのは、15センチほどの魚だ。

 茶色の体色に、トゲトゲしい見た目。

 

 確か美味しい魚だって言ってた……。

 

「こいつはいいな。今日の俺の晩飯だぁ」

 

「あ、あたしだって……!」

 

 一番魚は取られてしまった。

 だけど、私の方が大物を釣ってやる!

 

「クク、焦りが竿に出てるぜ曙さんよぉ?」

 

「うっさい! 出てないし!」

 

 

 …………。

 

 

 そろそろ遠征の皆が帰ってくる。

 クソ提督はあの後、また何匹かカサゴを釣り上げていた。

 

 私はずっと、弱ってきたイソメを交換する作業。

 もう慣れてきたわ、流石に。

 

「……釣れないのかな」

 

「クク、諦めんのかぁ? らしくねぇ」

 

「だって初めてなんだから……しょうがないわよ」

 

 弱気になっている自分がいる。

 いくらなんでも一匹も釣れなくちゃ、楽しいとは思えない。

 

 慣れれば、釣れなくてもいいと思えるんだろうけど。

 

 釣りの本にも書いてあったけど、こんなものかもしれない。

 今日釣れなくとも、また今度やればいい。

 

 そんな感情が支配し始めた……。

 

「……確かにお前は初心者だ。だからって釣れねえ理由はねえぜ?」

 

「……クソ提督」

 

「威勢はどうした? 俺より大物釣るんだろ?」

 

「だったら最後まで気合いれろ、諦めてんじゃねえぞ曙ォ!!」

 

 クソ提督の言葉に、私はハッとなった。

 そうだ、勝つんだ!

 

 まだ終わってない!

 こんな所で諦めるなんて、私じゃない!

 

 竿を持つ手に力が篭もる。

 

「当たり前じゃない! 絶対勝つわよ、クソ提督っ!」

 

「クックック! いい目をしてやがるぜ!」

 

「最後の餌替えよ! ……あれ?」

 

 竿が重い。

 簡単に巻けていたリールが、動かない。

 

 そして、グンッとしなる竿の先端!

 

「き、きたぁっ!?」

 

「合わせろ曙!!」

 

 思い切り竿を引っ張る。

 凄い力!

 

「デけえぞこいつは! カサゴじゃねえな!」

 

「うぐぐ……駆逐艦舐めんなっ!」

 

 艦娘の力を持ってさえすれば、こんなの簡単よ!

 後はテクニックだけ!

 

 いけっ!

 

「クク! ビキナーズラックってことかぁ!?」

 

「うおりゃぁーっ!!」

 

 海面から飛び出たのは、その黒い体躯をはためかせて煌めく。

 大きな、クロダイだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 夜、居酒屋鳳翔にて。

 

「はい提督。カサゴの煮付けに、クロダイのお刺身です」

 

「おう」

 

 自分で釣った魚を自分で食う。

 こんな贅沢他にあるかって話だぜ!

 

 ま、いきなり渡された鳳翔はたまったもんじゃねえだろうがな。

 棘も多い魚だ、さぞ危ない思いをしただろう!

 

 でも手には怪我してねえみたいだな、ならよし!

 

 しかし、今日の釣り兼虐待はよかった。

 気持ち悪い思いをさせ。

 暑い中延々と精神を摩耗させていく。

 

 それも俺みたいなやつと二人きりでなぁ!

 自分からついてくると言い出した手前、逃げるわけにも行かず!

 

 なんとか気合でもったようだが、そうとう疲れただろうな。

 

「クク、最高だな……ん?」

 

 このクロダイの刺し身……。

 切り方が雑、というか切り身の大きさが歪だ。

 

 鳳翔がこんなミスをするとは思えない。

 ってことは……。

 

「ふふっ、曙ちゃんが作ったんですよ」

 

「ちょっと鳳翔さん!?」

 

 厨房の方から曙が飛び出した。

 ……なるほどなぁ!

 

「ほー、曙がねぇ」

 

「っ! 何よ! 気に入らないなら捨てれば!?」

 

「あぁ!?」

 

 何言ってやがるんだこいつは!

 折角頂いた命を、無駄にするわけねえだろうが!

 

 食べ物粗末にすんな!

 

「……ま、捨てないわよね。クソ提督なら」

 

 む、待てよ、そういうことか?

 俺を煽って、これを食べさせるように仕向け。

 

 実は中に骨とか鱗とか残しまくりって話か!?

 本当は上手く作れるのに、俺への嫌がらせを!?

 

 ククク、流石曙だ。

 だが、俺にそんな小細工は通用しねえ。

 

 絶対に美味しくいただいてやるぜぇ!!

 

「ったりめえだ! いただきますっ!!」

 

「うん……」

 

 うめえ!

 若干の臭みは新鮮さの証!

 ほどよい弾力と深い味わいが、口の中で弾けやがるぜ!

 

 そして空かさず冷酒をあおる!

 爽快感が喉を駆け抜けるねぇ!

 

「……クソ提督」

 

「なんだぁ? お前も食うか?」

 

「うん……って、そうじゃなくて!」

 

 ギュッと握りこぶしでも作って、なんだ?

 ……って、おい、よく見たら!

 

 こいつ、手が絆創膏だらけじゃねえか!!

 

「きょ、今日は……その、ありが」

 

「曙ォ!! 手ぇ見せてみろ!」

 

「えっ?」

 

 こいつ、なんでこうなった!?

 イソメでかぶれたか!?

 

 それとも竿の握りすぎか!?

 

 俺の兵器の損傷は、俺が見逃すわけにはいかねぇ!

 

「おいお前、これなんだよ」

 

「え!? いや、これはなんでもなくて」

 

「ちゃんと消毒とかしたんだろうなぁ!」

 

 ただ絆創膏を貼るだけじゃ効果が薄い。

 洗って消毒もしねえと!

 

「おら、もっとよく見せろ!」

 

「ちょっと、止めてよ! 離せー!」

 

「うふふ♪」

 

 ク、こんな時まで反抗しやがって!

 俺に触れられるのは死んでもごめんってか!?

 

 んなこと言っとる場合か!?

 

「だから大人しくしてやがれっての!」

 

「だからやめてって言ってるでしょ! このクソ提督ーッ!!」

 

 




両手を傷だらけにしてまで反逆を!

二人で釣りをしている姿は、さながら休日の親子の様だったと、
目撃した艦娘は述べていた。

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