汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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こんなに貧相な夕食を出すなんて!


第二話 睦月とカレーライス

 風呂から戻ってきた艦娘達が、不思議な顔で俺を見てやがる。

 ククク、何が起きているか、理解できていないんだろうな。

 本当に馬鹿な奴らだ。

 

「あ、あの、提督様……これ、何ですか?」

 

 手前の方にいたチビが、テーブルの上の鍋を指さした。

 大広間の卓上に、大量に置かれた鍋。

 こいつらにはこれが何かすら分からないらしい。

 

「それはこれからのお楽しみだぁ……おいお前ら!」

 

 俺の怒声に、艦娘どもは身を竦める。

 こいつらのこの反応、きっと今まで怒鳴られたことすらない温室育ちだったんだな。

 残念だったなぁ、もうそんな生温い生活は終わりなんだよ!

 

「これからお前らに、食事を与えてやる。感謝するんだな」

 

「えっ」

 

 そうだろうそうだろう?

 今まで当たり前に美味いもん食えてたのに、与えてやる、なんて言われりゃ、

誰だってそういう反応するだろうなぁ。

 

「て、提督様が、作って下さったんですか!?」

 

「あ? 当たり前だろうがそんなのよぉ!!」

 

 何言ってやがるんだこのチビは。

 俺以外の誰が料理するってんだ。

 こいつらはあれか、自分達の食いモンは自分達で料理したかったってか?

 甘いんだよ、考えがな!

 

「ククク……おい、良いモンが食えるとか思ってねぇだろうな?」

 

「え、でも凄くいい匂い……」

 

「あ? ……ハハハ! それは俺の飯の匂いだ!」

 

 いい匂いだと?

 

 こいつら、俺用の飯の事を言ってやがるな。

 残念だったな、こいつは俺専用なんだよ。

 

「それ、なんですか?」

 

「はぁ? 見たことねぇのか? こいつは『カップ麺』だぁ!」

 

 俺が取り出したのは、お湯を注いで3分、ホカホカのカップ麺だ。

 蓋を開けると、醤油のいい匂いが漂う。

 物欲しそうにこれを見つめる艦娘達。

 

「カップ麺……」

 

「残念だったな! お前らには一口もやらねぇ、これは全部俺のモンだ!」

 

 この至高にして究極の逸品は、俺専用だ。

 お前らには、お似合いの物を既に用意してあるんだよ。

 

「お前らのモンは、この鍋の中に入ってる……クク、驚くなよ?」

 

「え、このお鍋、全部私達のですか!?」

 

 何言ってんだこいつ。

 他に誰が食うんだよこんな量。

 数だけは無駄に多いてめえら以外いないだろうが。

 

「さぁて、お待ちかねの絶望タイムだ……妖精さん、頼むぜ!」

 

「えっ」

 

 俺の号令に、大量の妖精さんが湧き出てくる。

 こいつらは俺の崇高な虐待に理解を示す、素晴らしい協力者だ。

 艦娘達の浴衣の用意、そして『コレ』を作るのを手伝ってくれた。

 

 妖精さんたちはいっせいに鍋に取り付く。

 そして、同時に鍋の蓋を開けた。

 

「こ、これは……」

 

「そう、『カレーライス』だ。どうだ、うまそうだろ?」

 

 鍋の中に用意してあったのは、大量のカレールーと白飯だ。

 艦娘ども、完全に絶望しきった眼で鍋を覗いている。

 それだよ、その顔が見たかったんだよ俺は!

 

「こ、これが、あの、カレーライス……!?」

 

「ククク、そう思うのも無理はねぇなぁ」

 

 チビ助は、このカレーを見て驚きを隠せないようだな。

 そりゃそうだ、このカレーは、今までお前らが食ってきた物とはわけが違う。

 なぜなら……。

 

「野菜をたっぷり入れた、健康志向カレーだからなぁ!」

 

 こいつら、どうせ肉ばっか入ったカレーを食っていたんだろう。

 しかし、俺が来たからにはもうそんなカレーは食わせない。

 大量の野菜を使った、ヘルシーカレーなんだよ!

 

「す、すごい……」

 

 そうだろう、『すごいマズそう』だろう?

 しかし、悪夢はまだ終わってねえぜ?

 

「しかも、ただ野菜を多めに入れただけじゃねえ、駄目押し喰らえ!」

 

「……?」

 

 俺が持ってきたのは、地獄の炎の様に赤い『福神漬け』だ。

 お前らみたいな奴らには、この程度のトッピングで十分なんだよ!

 

「お、美味しそう……」

 

「はっ、冷める前にとっとと食いやがりな、兵器共」

 

 美味しそう、だと?

 心にも無い事を言いやがって、嫌味な奴だ。

 

 だが、まあいい。

 こいつらは俺の命令に逆らう事はできない。

 苦しみながらこのカレーを食うんだな!

 

「み、みんな、早く食べよ!」

 

「お皿お皿! スプーンは!?」

 

「ちゃんと並ぶっぽーい!」

 

 ククク、こいつら、並んで他の奴らに押し付けてまで食いたくないようだな。

 だが残念、お前ら全員が腹いっぱいになる量を、既に作ってあるんだ。

 どうあがいても食ってもらうぜ、こいつをなぁ!

 

 俺の計画通り、艦娘全員にカレーが行き渡ったみたいだな。

 他のおかずなんて無い、カレーだけの食事。

 こんなひもじい生活、送った事ねえだろうなぁ。

 艦娘どもの中には絶望し過ぎて目に涙を浮かべてるやつがいる。

 

 これだ、この顔を見る為に、俺は『虐待』をしているんだ。

 

 さぁ、前座は終わりだ。 

 おまえらの、もっと悲痛に歪む顔を見せてくれ。 

 俺は、悲劇の引き金になるであろう命令を、大広間に響き渡らせた。

 

「さぁ、全員そろって『いただきます』だ!」

 

 

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 睦月、夢でも見ているのかな……。

 

 私達の目の前にあるのは、暖かくて、そして美味しそうな料理。

 今まで本の中でしか見たことがなかった、『カレーライス』。

 それが今、私の手の中にあるんだ。

 

 吹雪ちゃん達、みんなが、嬉しそうな顔をしている。

 今まで冷たくて、少なくて、美味しくない物しかもらえなかった。

 こんな物が並ぶなんて、今までじゃ考えられなかった。

 

 中には嬉し過ぎて泣きそうになってる娘もいる。

 そうだよね、だって、睦月も泣いちゃいそうだもん。

 こんなに美味しそうなご飯、見た事なかったから。

 

「さぁ、全員そろって『いただきます』だ!」

 

 提督が、大きな声でそう言った。

 それを聞いて、私達は声を揃えていただきますをする。

 こんなに、希望に満ちた食事は、この鎮守府で初めてだった。

 

 みんな、堰を切ったようにカレーを食べる。

 睦月も、スプーンを握りしめて、逸る気持ちを抑えて、カレーを口に運んだ。

 

 …………。

 涙が、止まらなかった。

 提督が言っていた、お野菜たっぷりのカレー。

 甘くて、美味しくて、ちょっぴり辛くて。

 福神漬けと一緒に食べると、もっと美味しくなって。

 

 そして、とっても優しい味がした。

 まるで、これを作ってくれた人の優しさが、溶けだしたみたいに。

 

「ククク、どうだ、美味いか?」

 

 ふと後ろを見ると、提督が笑いながら私に尋ねてきた。

 私は涙をぬぐって、満面の笑みで提督に応える。

 

「はい! 凄く……すごく美味しいです!」

 

「だろうなぁ……腹いっぱい食うんだぜ?」

 

 おかわりもあるぞ、と、提督は鍋を見せる。

 こんなにも、この人は私達に優しさをくれる。

 

「て、提督さん……これ!」

 

「あ? ああ、今まで気づいていなかったのか?」

 

 夕立ちゃんが、提督に見せた物。

 それはカレーの中に入っているお肉だった。

 今までまともに食べさせて貰えなかった、美味しいお肉。

 

「生憎お前らにビーフを食わせる気はねえ。経費削減の『チキンカレー』なんだよぉ!」

 

 提督は心の底から、満足そうに笑っている。

 ……夕立ちゃんはポカーンとして、そのあと笑いながら鶏肉を頬張っていた。

 

「ヘ、ヘイ提督。飲み物取ってきてもいいカナ……?」

 

「あぁ!? 何寝ぼけた事言ってやがる!」

 

 恐る恐る手をあげた金剛さんに、提督はツカツカと歩み寄っていく。

 そして、その手にいつの間にか持っていたコップを机に置いた。

 

「どうせお前らジュースでも取ってくる算段だったんだろうが……残念だったな!」

 

 妖精さんたちが、大量のコップとウォーターピッチャーを持ってくる。

 その中の入っているのは。

 

「お前らには麦茶で十分だ! これだけ飲んでりゃいいんだよ!」

 

 提督は楽しくて仕方ないという風に、声を高らかにあげた。

 ……金剛さんはニコニコしながらお茶を飲んでいた。

 

 睦月、提督の事が少し分かった気がします。

 提督は、私達の事を兵器、道具だって言うけど。

 でも、こんなに優しくしてくれる。

 私達が求めてしょうがなかった事を、こんなに与えてくれる。

 

 きっとこの人は、私達に酷い事はしない。

 提督は、私達を助けに来てくれたんだ。

 

 私は、彼の優しさを口いっぱいに詰め込みながら思いました。

 提督の事を、信じようって。

 




美味しくも無い食事でお腹一杯に…!

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