汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

18 / 44
夏といえばホラー映画。

天龍型の二人が恐怖の餌食に……。




第十八話 龍田とホラー映画

 

「提督強すぎんだろ! なんだそれ!」

 

「ククク、こいこいは運だけじゃあねえんだよ!」

 

 ある夏の日の昼下がり。

 

 食堂で絡んできた天龍を適当にイジメる為に俺が用意したのは 

『花札』だった。

 

 こいつ、最近事あるごとに俺に挑んできやがる。

 まぁ大した事はないので、『虐待』の餌食にしてやってるがな!

 

 先に25点取った方が勝つルールだが……。

 

 こいつ余りに弱すぎる!

 

 顔に手の内が出すぎなんだよなぁ。

 揺さぶりにも弱く、致命的なまでにこのゲームに向いてねえ。

 

「さーて、約束の罰を受けてもらおうか!」

 

「くっ、俺も艦娘だ。二言はねえよ」

 

 その潔さはよし!

 しかしいい加減俺に挑むのをやめりゃあ良いのに。

 毎回罰を受けてもなお、挑戦を止めない……。

 

 無謀だが、ナイスガッツだぜ!

 

「よし、じゃあ今回の罰は」

 

「て、い、と、くぅ? 何してるんですかぁ~?」

 

 背後から這い寄る、この気配。

 こいつぁ……。

 

「龍田か。なぁに、いつもどおり天龍が負けたんでな」

 

「まぁた天龍ちゃん負けちゃったの~?」

 

「しょうがねえだろ! だって提督強いんだもん!」

 

 龍田。

 天龍の姉妹艦にして、この鎮守府でもかなりの上位に位置するやつだ。

 

 俺の『虐待』に対する耐性がなぁ!

 

「龍田もやるかぁ? 敵討ち」

 

「……うーん、私は遠慮するわぁ。多分勝てないだろうし」

 

 こいつは冷静に物事を見る。

 だから負けると踏んだ戦いには絶対に入ってこないし。

 俺の仕掛ける虐待にも表情を崩さない。

 

 そういう意味では花札みてえな勝負事に強そうなんだけどなぁ。

 

 しかし、ふむ……。

 

「そうか。じゃあ天龍よ。お前に罰を与えるぜぇ!」

 

「う……お手柔らかに頼むぜ」

 

 龍田には、弱点があるっ!

 そこを突き、今回は虐待を成功させてやるぜ!

 

「……今日の夜十時、俺の部屋に来い。以上」

 

「はぁ? 何するんだよ」

 

「……へぇ~」

 

 食いつけ!

 

「まぁいいけどよ。寝間着来ていくからなー」

 

「おう。じゃあまた後でな」

 

 席を立ち、食堂から出ようとする。

 来い!

 いいや、来るッ!!

 

「提督ぅ? 今晩お部屋で何するつもりですか~?」

 

「クク、そりゃあ、とっても楽しい事さ」

 

 かかった!

 そう、龍田の弱点は……。

 

 天龍大好きのシスコンだってことだぁ!

 天龍有るところにこいつ有り!

 

 天龍を釣り餌に、龍田も引き込む!

 コレが今回の『虐待作戦』だぜ!

 

「ふーん……あ、あのぉ、私も行っていいですかぁ?」

 

「いいぜぇ! 一緒に楽しもうじゃねえか」

 

 やったぜ。

 部屋に入れちまえばこっちのもんだ。

 最強の恐怖で、身も心も凍てつかせてやるぜ!

 

「楽しみにしてますねぇ~」

 

 ククク、天龍と一緒に居られるからってご機嫌だな。

 覚悟しろよ。

 

 今日で、お前は終わりだぜ龍田ァ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『ヴぉ~……』

 

『きゃーッ!!』

 

 背後から襲い掛かってきたゾンビに噛まれ、男の首から血が吹き出す。

 主人公の甲高い絶叫が響き……。

 

「ククク、怖いか、天龍」

 

「あ? お、おう……」

 

 夜の十時過ぎ。

 提督の部屋に呼ばれた俺と龍田は、三人で映画を見ていた。

 

 映画ってモンは食堂のテレビで何回か見た。 

 こういうホラー系のも。

 

 そして今見ているこの映画のタイトルは確か……。

 

『レック・オブ・ザ・デッドZ~死霊の28日後ランド~』だったか。

 

 ……長いタイトルだな。

 

 提督は『気分が出るぜぇ』とか言って、上映前に部屋の灯りを消した。

 暗い部屋で、テレビの明るさを前に俺と龍田と提督で、並んで見ている。

 

 しかしなぁ……。

 

『グぉぁ……』

 

『ジャックー!!』

 

 提督は俺に対する『虐待』のつもりでこれを選んだんだろう。

 でも、正直な話。

 

 全く怖くねえ。

 

 そもそも俺はあんまりこういうのは怖くねえんだよなぁ。

 血も、作り物っぽいし。

 痛がる演技もあまり上手くねえし。

 

 深海棲艦共の血は、黒色だしなぁ……。

 

 話自体は王道っぽくて、普通に楽しいんだけどな。

 取り敢えず俺は、提督の思惑にのったフリをしておく。

 

 まあ、だから今回の虐待が失敗だっていったら、そんなことは無いと思う。

 何故なら……。

 

『ぐああああああッ!!』

 

「ひぅっ……」

 

 龍田だ。

 こいつ、こういう怖い系に弱いんだよなぁ。

 あと血が出るやつ。

 

 提督はこれを見越して、俺をダシに使ったのかもな。

 

「天龍ちゃ~ん……」

 

 龍田、俺と提督の間に入って腕をホールドしてやがる。

 ガチでビビってるじゃねえか。

 

 これには提督も大喜びか?

 

「ク、ク、結構怖えなぁ……!」

 

 提督……。

 アンタもだいぶビビってんじゃねえか。

 

 まぁこの人は怖がる事自体を楽しむって感じなんだろうな。

 何事にも全力でかかる、提督らしいぜ。

 

 ということは、この空間で怖がってないのは俺だけか。

 なんか新鮮な気分だ。

 

『やっと、終わったんだね……』

 

『ええ、私達、生き残ったのよ!』

 

 そうこうしているうちに、映画もラストシーンだ。

 こういう話の展開的に、最後はやっぱり……。

 

『コイツ、まだ、ぎゃああああ!!』

 

『マイケルっ!? きゃぁぁあ!!』

 

 はぁ、バッドエンディングパターンか。

 キスシーンか、全滅か。

 

 今回は全滅だったみたいだな。

 

「おぉ……中々いい映画だったなぁ!」

 

「あんまり大した事なかったわねぇ~」

 

 お二人さん、汗がやばいぜ?

 

 ……さて。

 龍田には弱点が結構ある。

 姉の俺だから気付けるものが。

 

 こういう怖い、グロい系。

 駆逐艦達チビ助。

 潜水艦。

 

 そして……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「じゃあ俺部屋に戻るわ」

 

「あ、あら、じゃあ私も~……」

 

「クックック、おい龍田、ちょっと待ちな!」

 

 映画を見終え、退室しようとした龍田を俺は呼び止めた。

 逃げようたってそうはいかないんだよなぁ!

 

「え、えぇ~?」

 

「俺は先に戻ってるわ。おやすみ提督」

 

「おやすみ! さぁて、龍田ァ!」

 

 こいつが結構怖がっていたのは分かってんだよ!

 天龍と一緒になってビクついてたなぁ。

 

 つまり、今の龍田は精神的に弱っている!

 ということは……。

 

「こいこい……ちょっと付き合ってくれねえか?」

 

「私、弱いですからぁ……」

 

「罰とか無し、普通にやるだけだ」

 

 一度、龍田とやってみてえ!

 そして思いっきり負かしてやりたいのさ!

 

 弱っている今がチャンスだ。

 俺の虐待で、怯えさせるなぁ!

 

「……ならいいですよ~」

 

「っしゃぁ! 行くぜぇ!」

 

 乗った!

 龍田、お前は終わりだぜ。

 たとえどれだけ揺るがない精神力が持ち味だとしても。

 

 俺が勝って、虐待成功のグッドエンドを迎えてやるぜ!

 

 

 …………。

 

 

 こいつ、おかしいぞ。

 いつもの感情の読めない笑顔はどこいった?

 

 目線は定まってねえし、顔は赤えし。

 ずっとモジモジして落ち着きがねえ。

 

「おい龍田。お前の番だぞ?」

 

「え!? あ、はい……」

 

 うーむ。

 これすらも俺を欺く巧妙な演技か?

 

 弱い弱いというやつに限って強いものだが。

 こいつ、俺の想像以上か?

 

 龍田の表情をじっくりと観察していく……。

 あ、こいつまた目を逸しやがった!

 

 普段と違いすぎてよく分からん!

 

「ええい! こいこいだぁ!」

 

「ほ、欲しがりやさんですね~……」

 

 猪鹿蝶に加えてカス、赤丹も出来かけてんだ。

 悪くはねぇ!

 

 あとは龍田次第だが。

 こいつ、ドンドン顔が赤くなっていってやがる。

 どういう心境なんだ!?

 

「行くぜ龍田! 勝負!」

 

「……」

 

 龍田の手は……!?

 

「三光で、あがり~♪」

 

「くそっ!」

 

 負けか。

 この俺が勝負で負けるとはな。

 だがホラー映画虐待は成功していたようだし、まあいいぜ。

 

 しかし龍田のやつ、全然落ち着きなかったな。

 逆にそのせいで負けちまったが。

 

 恐怖で動揺していたのか。

 真相は分からねえ、だが……。

 

 次は、必ず俺が勝つ!

 今度はクッソ甘い恋愛映画でも見せてやるよぉ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「天龍ちゃん……」

 

「お、どうだった?」

 

「どうだったじゃないわよ~すっごく恥ずかしかったんだから~!」

 

 部屋に戻ってくるや否や、赤面して布団に倒れ込む龍田。

 

「二人っきりで面突き合わせてなんて、私……」

 

「フフフ、怖かったか? なんてな」

 

「もう! わざと提督と二人きりにさせたでしょ!」

 

 そう、龍田の弱点の一つ。

 それは……。

 

「まぁいいじゃねえか。提督と遊べて」

 

「……それはそうだけどぉ」

 

 提督の事が好きってことだ。

 それはもう初恋の乙女の如く。

 

「勝ったんだろ? じゃあ再戦挑まれるんじゃないか」

 

「絶対顔赤くしてるのバレちゃうわよぉ……」

 

 バレてるだろうけど、提督はアホだからなぁ。

 どうせ的はずれな事考えてると思うぜ。

 

「今度は天龍ちゃんも一緒にいて!」

 

「ったく、しょうがねえなぁ」

 

 昔っから、お前は強いとこだけ見せようと肩肘張ってる奴だったよ。 

 でも、結局俺が姉ちゃんなんだ。

 

 妹の為に、頑張らないとな!

 

 ……多分、その恋が実る事は無いと思うけど。

 お姉ちゃんは、お前を見守っているぜ! うん!

 

 




二重の意味で精神を乱される龍田であった。


花札といえば、『夏の戦争』。

そして今回出てきた映画のタイトル、その元ネタは六つです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。