汚い艦娘を見つけたので虐待することにした 作:konpeitou
天龍型の二人が恐怖の餌食に……。
「提督強すぎんだろ! なんだそれ!」
「ククク、こいこいは運だけじゃあねえんだよ!」
ある夏の日の昼下がり。
食堂で絡んできた天龍を適当にイジメる為に俺が用意したのは
『花札』だった。
こいつ、最近事あるごとに俺に挑んできやがる。
まぁ大した事はないので、『虐待』の餌食にしてやってるがな!
先に25点取った方が勝つルールだが……。
こいつ余りに弱すぎる!
顔に手の内が出すぎなんだよなぁ。
揺さぶりにも弱く、致命的なまでにこのゲームに向いてねえ。
「さーて、約束の罰を受けてもらおうか!」
「くっ、俺も艦娘だ。二言はねえよ」
その潔さはよし!
しかしいい加減俺に挑むのをやめりゃあ良いのに。
毎回罰を受けてもなお、挑戦を止めない……。
無謀だが、ナイスガッツだぜ!
「よし、じゃあ今回の罰は」
「て、い、と、くぅ? 何してるんですかぁ~?」
背後から這い寄る、この気配。
こいつぁ……。
「龍田か。なぁに、いつもどおり天龍が負けたんでな」
「まぁた天龍ちゃん負けちゃったの~?」
「しょうがねえだろ! だって提督強いんだもん!」
龍田。
天龍の姉妹艦にして、この鎮守府でもかなりの上位に位置するやつだ。
俺の『虐待』に対する耐性がなぁ!
「龍田もやるかぁ? 敵討ち」
「……うーん、私は遠慮するわぁ。多分勝てないだろうし」
こいつは冷静に物事を見る。
だから負けると踏んだ戦いには絶対に入ってこないし。
俺の仕掛ける虐待にも表情を崩さない。
そういう意味では花札みてえな勝負事に強そうなんだけどなぁ。
しかし、ふむ……。
「そうか。じゃあ天龍よ。お前に罰を与えるぜぇ!」
「う……お手柔らかに頼むぜ」
龍田には、弱点があるっ!
そこを突き、今回は虐待を成功させてやるぜ!
「……今日の夜十時、俺の部屋に来い。以上」
「はぁ? 何するんだよ」
「……へぇ~」
食いつけ!
「まぁいいけどよ。寝間着来ていくからなー」
「おう。じゃあまた後でな」
席を立ち、食堂から出ようとする。
来い!
いいや、来るッ!!
「提督ぅ? 今晩お部屋で何するつもりですか~?」
「クク、そりゃあ、とっても楽しい事さ」
かかった!
そう、龍田の弱点は……。
天龍大好きのシスコンだってことだぁ!
天龍有るところにこいつ有り!
天龍を釣り餌に、龍田も引き込む!
コレが今回の『虐待作戦』だぜ!
「ふーん……あ、あのぉ、私も行っていいですかぁ?」
「いいぜぇ! 一緒に楽しもうじゃねえか」
やったぜ。
部屋に入れちまえばこっちのもんだ。
最強の恐怖で、身も心も凍てつかせてやるぜ!
「楽しみにしてますねぇ~」
ククク、天龍と一緒に居られるからってご機嫌だな。
覚悟しろよ。
今日で、お前は終わりだぜ龍田ァ!!
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『ヴぉ~……』
『きゃーッ!!』
背後から襲い掛かってきたゾンビに噛まれ、男の首から血が吹き出す。
主人公の甲高い絶叫が響き……。
「ククク、怖いか、天龍」
「あ? お、おう……」
夜の十時過ぎ。
提督の部屋に呼ばれた俺と龍田は、三人で映画を見ていた。
映画ってモンは食堂のテレビで何回か見た。
こういうホラー系のも。
そして今見ているこの映画のタイトルは確か……。
『レック・オブ・ザ・デッドZ~死霊の28日後ランド~』だったか。
……長いタイトルだな。
提督は『気分が出るぜぇ』とか言って、上映前に部屋の灯りを消した。
暗い部屋で、テレビの明るさを前に俺と龍田と提督で、並んで見ている。
しかしなぁ……。
『グぉぁ……』
『ジャックー!!』
提督は俺に対する『虐待』のつもりでこれを選んだんだろう。
でも、正直な話。
全く怖くねえ。
そもそも俺はあんまりこういうのは怖くねえんだよなぁ。
血も、作り物っぽいし。
痛がる演技もあまり上手くねえし。
深海棲艦共の血は、黒色だしなぁ……。
話自体は王道っぽくて、普通に楽しいんだけどな。
取り敢えず俺は、提督の思惑にのったフリをしておく。
まあ、だから今回の虐待が失敗だっていったら、そんなことは無いと思う。
何故なら……。
『ぐああああああッ!!』
「ひぅっ……」
龍田だ。
こいつ、こういう怖い系に弱いんだよなぁ。
あと血が出るやつ。
提督はこれを見越して、俺をダシに使ったのかもな。
「天龍ちゃ~ん……」
龍田、俺と提督の間に入って腕をホールドしてやがる。
ガチでビビってるじゃねえか。
これには提督も大喜びか?
「ク、ク、結構怖えなぁ……!」
提督……。
アンタもだいぶビビってんじゃねえか。
まぁこの人は怖がる事自体を楽しむって感じなんだろうな。
何事にも全力でかかる、提督らしいぜ。
ということは、この空間で怖がってないのは俺だけか。
なんか新鮮な気分だ。
『やっと、終わったんだね……』
『ええ、私達、生き残ったのよ!』
そうこうしているうちに、映画もラストシーンだ。
こういう話の展開的に、最後はやっぱり……。
『コイツ、まだ、ぎゃああああ!!』
『マイケルっ!? きゃぁぁあ!!』
はぁ、バッドエンディングパターンか。
キスシーンか、全滅か。
今回は全滅だったみたいだな。
「おぉ……中々いい映画だったなぁ!」
「あんまり大した事なかったわねぇ~」
お二人さん、汗がやばいぜ?
……さて。
龍田には弱点が結構ある。
姉の俺だから気付けるものが。
こういう怖い、グロい系。
駆逐艦達チビ助。
潜水艦。
そして……。
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「じゃあ俺部屋に戻るわ」
「あ、あら、じゃあ私も~……」
「クックック、おい龍田、ちょっと待ちな!」
映画を見終え、退室しようとした龍田を俺は呼び止めた。
逃げようたってそうはいかないんだよなぁ!
「え、えぇ~?」
「俺は先に戻ってるわ。おやすみ提督」
「おやすみ! さぁて、龍田ァ!」
こいつが結構怖がっていたのは分かってんだよ!
天龍と一緒になってビクついてたなぁ。
つまり、今の龍田は精神的に弱っている!
ということは……。
「こいこい……ちょっと付き合ってくれねえか?」
「私、弱いですからぁ……」
「罰とか無し、普通にやるだけだ」
一度、龍田とやってみてえ!
そして思いっきり負かしてやりたいのさ!
弱っている今がチャンスだ。
俺の虐待で、怯えさせるなぁ!
「……ならいいですよ~」
「っしゃぁ! 行くぜぇ!」
乗った!
龍田、お前は終わりだぜ。
たとえどれだけ揺るがない精神力が持ち味だとしても。
俺が勝って、虐待成功のグッドエンドを迎えてやるぜ!
…………。
こいつ、おかしいぞ。
いつもの感情の読めない笑顔はどこいった?
目線は定まってねえし、顔は赤えし。
ずっとモジモジして落ち着きがねえ。
「おい龍田。お前の番だぞ?」
「え!? あ、はい……」
うーむ。
これすらも俺を欺く巧妙な演技か?
弱い弱いというやつに限って強いものだが。
こいつ、俺の想像以上か?
龍田の表情をじっくりと観察していく……。
あ、こいつまた目を逸しやがった!
普段と違いすぎてよく分からん!
「ええい! こいこいだぁ!」
「ほ、欲しがりやさんですね~……」
猪鹿蝶に加えてカス、赤丹も出来かけてんだ。
悪くはねぇ!
あとは龍田次第だが。
こいつ、ドンドン顔が赤くなっていってやがる。
どういう心境なんだ!?
「行くぜ龍田! 勝負!」
「……」
龍田の手は……!?
「三光で、あがり~♪」
「くそっ!」
負けか。
この俺が勝負で負けるとはな。
だがホラー映画虐待は成功していたようだし、まあいいぜ。
しかし龍田のやつ、全然落ち着きなかったな。
逆にそのせいで負けちまったが。
恐怖で動揺していたのか。
真相は分からねえ、だが……。
次は、必ず俺が勝つ!
今度はクッソ甘い恋愛映画でも見せてやるよぉ!!
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「天龍ちゃん……」
「お、どうだった?」
「どうだったじゃないわよ~すっごく恥ずかしかったんだから~!」
部屋に戻ってくるや否や、赤面して布団に倒れ込む龍田。
「二人っきりで面突き合わせてなんて、私……」
「フフフ、怖かったか? なんてな」
「もう! わざと提督と二人きりにさせたでしょ!」
そう、龍田の弱点の一つ。
それは……。
「まぁいいじゃねえか。提督と遊べて」
「……それはそうだけどぉ」
提督の事が好きってことだ。
それはもう初恋の乙女の如く。
「勝ったんだろ? じゃあ再戦挑まれるんじゃないか」
「絶対顔赤くしてるのバレちゃうわよぉ……」
バレてるだろうけど、提督はアホだからなぁ。
どうせ的はずれな事考えてると思うぜ。
「今度は天龍ちゃんも一緒にいて!」
「ったく、しょうがねえなぁ」
昔っから、お前は強いとこだけ見せようと肩肘張ってる奴だったよ。
でも、結局俺が姉ちゃんなんだ。
妹の為に、頑張らないとな!
……多分、その恋が実る事は無いと思うけど。
お姉ちゃんは、お前を見守っているぜ! うん!
二重の意味で精神を乱される龍田であった。
花札といえば、『夏の戦争』。
そして今回出てきた映画のタイトル、その元ネタは六つです。