HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
「藍羽さん!! LYLを使って外側から干渉できませんの!?」
ブルーエリジウムで、雪侶は浅葱に支援ができないかどうか打診していた。
なにせ既にレヴィアタンはだいぶ距離を取っている上に、其の力の一端を見せつけていた。
今から下手に雪侶やシルシが近づいても、その圧倒的な戦闘能力で叩き潰されるのがオチだろう。フォンフも余計な要素を加えたがるとは思えない。
つまり、ビエカル達の足止めが成功してしまった以上、レヴィアタンの制御に干渉できなければ対処の余地がないのである。
とはいえ幻想兵装もフォンフも一筋縄ではいかない強敵。何もしないのはそれはそれでもどかしい。
「雪菜雪菜雪菜雪菜あと暁古城!! ああもう!! 何もできないのがこんなにもどかしいだなんて!!」
「とりあえず落ち着けよ」
「うん、そうそう。兄さん達ならそう簡単には殺されないって」
正気を失いかけている紗矢華をノーヴェと須澄がなだめている中、雪侶はどうしたものかと真剣に考えている。
世界最強の魔獣というだけあって、その戦闘能力は超獣鬼とすら渡り合えるだろう。下手な最上級悪魔なら眷属ごとたやすく殲滅されるだろう。
如何に兵夜と自分達眷属が優れていようと、其れでも若手なのだ。まともに接近すれば対空攻撃で返り討ちに遭う事は間違いない。
しかもその戦闘の余波でブルーエリジウムに大被害が発生する可能性もある。うかつな手出しは厳禁だった。
『……無理ね。完全にLYLの制御を外れている以上、LYLではどうしようもないわ』
『つまり、大将達に任せるしかないってわけか。……こっちは避難誘導と安全確保の念押しに回る。嬢ちゃん達は藍羽の姉ちゃんの護衛に専念しときな』
浅葱が完全に匙を投げ、グランソードも状況の悪化を懸念して行動を開始する中、どうしたものかと雪侶は頭を抱える。
なにせ、中で行動しているのは自分の兄である兵夜なのだ。
その能力の高さを一番理解しているのも雪侶なら、その致命的な問題点を一番理解しているのもまた雪侶だった。
あのうっかり男が、致命的な凡ミスをしていない可能性の方が低い。そして経験不足のシルシ達ではそれを指摘できる可能性が低い。
「グランソード。禍の団の一員として活動していた経験の多さに期待して聞きますのよ」
『おう、なんだ雪侶』
雪侶は、端的に聞くことにする。
「ここで私達が気を付けるべき、兄上がぶちかましそうなうっかりは何ですの?」
そう、自分達眷属が主の力となるのならば、今はせ参じることができない自分達がやるべきことは一つ。
発生するであろううっかりに対するカバー準備を整える。この一点であった。
「そういえば、今回はうっかりっていうようなうっかりしてないよねっ。お義兄さんっ」
「……エイエヌさまも時々ポカするし、確かに警戒してしかるべきね」
トマリとアップすらその辺りの理解ができているのは泣くべきか否か。
いや、アップは平行世界の兵夜たるエイエヌの側近だったのだ。こちらに関してはむしろ当然と判断するべきだろう。
そしてそんな妙な緊張感の中、グランソードは少しだけ通信越しで考えていたが、やがて声を出した。
『……こいつぁフォンフや久須木って奴にも当てはまるんだが―』
そして、グランソードは言葉を続ける。
『……そもそも世界最強って意味じゃあ同格だろうリリスとレヴィアタンで、一方的な完封がずっとできるのかが気になってきたな』
その瞬間、まさに的中した。
その数分程前、戦闘は大きく動いた。
放たれる久須木の攻撃が雪菜の体力を削りきらんとするまさにその瞬間。
まさにその一瞬の間隙をついて、反撃の楔が叩き込まれる。
「……意外と隙が無くて、仕掛けるのに苦労したわ」
「ぐああああああああああ!?」
突如姿を現したエストックが、攻撃態勢に入っていた久須木の腕を貫く。
戦闘技術を疑似的に叩き込まれたとはいえ戦闘経験があるわけではない久須木は、必然的に激痛に対する耐性が薄い。
腕を貫かれたというショックとともに走る激痛が、久須木の動きを完璧に止める。
そして、その一瞬の隙を見逃さない程度には、雪菜は戦闘を潜り抜けていた。
「揺らぎよ!!」
渾身の攻撃が久須木の鳩尾に叩き込まれ、久須木は悲鳴すら上げることができずに意識を喪失する。
如何に久須木が戦闘技術を叩き込まれようと、彼は所詮経営者に過ぎない。
それまで戦闘経験を持っていない久須木に、完璧な形で戦闘を行わせる事は不可能だ。
伏兵という戦闘の基本と、痛みに耐える修羅場や試練を潜り抜ける事によって育まれる地力。
この差が、決定的な差となった。
「シルシ・ポイニクス!? いつの間に幻術で潜んでやがった!!」
「よし!! 何とかなったか!!」
狼狽するフォンフに攻撃こそかわされながら、しかし兵夜は勝利を確信する。
戦闘のどさくさに紛れて、伏兵を仕込ませておくのはそんなに珍しいことではない。幻術自体もシルシができるのは基礎レベルだ。
それがどこまで読まれているかが問題だったが、しかしフォンフはどうやらそこまで警戒していなかったようだ。
「残念だったなフォンフ。パラケを宿した所為で経験則が薄まったんじゃないか?」
「んの……野郎!!」
兵夜は勝利を確信する。
如何にフォンフが圧倒的な戦闘能力を保有していようと、四人がかりなら無理やり突破することは不可能ではない。
少なくとも結瞳を開放するぐらいなら何とかなる。
「暁!! 無理やり突破しろ!! 残りはフォンフの足止めだ!!」
「もちろん! 本妻としていいとこ見せるわよ!!」
「先輩、今です!!」
オリジナルとの付き合いの深い俺がメインで動き、先読みできるシルシと姫柊ちゃんでカバーに回る。
ごく僅かな時間足止めするならば十分すぎる。
そして、多少の牽制射撃なら暁は強引に突破できる。
「結瞳ぇえええええええええ!!!」
その手に握るのは、一瞬の隙をついて渡しておいた試作型の中和剤。
肝心のランサーがいないので試しようがなかったのが不安だが、まあ最悪の場合は暁の血の従者にするという手がある。
できればそれは最後に取っておきたいのでこれで成功してくれると嬉しいんだが……。
「チッ!! あわよくばレヴィアタンをかすめ取りたかったんだが……っ!!」
フォンフの野郎、そっちが本命か!!
久須木と俺達の共倒れと、そのついでの戦力確保が本命か!!
だが、肝心の
「……ぁ」
その瞬間だった。
暁が中和剤を投入する一瞬前。
しかし、その変化は俺達に質の悪い展開を想定させるのに十分すぎた。
「……ぁあああああああああっ!?」
突如、江口結瞳がもだえ苦しむ。
「結瞳!? フォンフ、お前何を!?」
「……いや、これは違うぞ! 俺も想定外だこれが!!」
フォンフの仕込みじゃない?
ってことは……あ。
「まずい!! 暁、これはランサーの宝具の解除とかじゃないからとりあえず中和剤を叩き込め!!」
しまった。またうっかりを!!
「フォンフ。どうやら俺達はお互いに奴を舐めていたらしいな」
「奴って誰だよ? ……ん?」
俺の言葉にフォンフは首を傾げるが、しかしすぐに気が付いたようだ。
気が付けば、俺達の周りには防衛装置が大量に表れて取り囲んでいた。
それはまるで、病原菌を排除する白血球のような感じだった。
……そう、これは最悪の事態だ。
俺達は史上最強の肩書に惑わされて、夢魔という種族が基本的に弱いということを忘れていた。
レヴィアタンが、リリスの制御を自力で振り切りやがった!!
古城の要望もあり、一応の対応策投入。
そりゃあんな危険なものの対策は必要ですからね。幻想兵装で持ってくる可能性は考慮されておりました。
まあ、そんなもの使うまでもなくレヴィアタンは自力で復活したのですが。