HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ   作:グレン×グレン

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とりあえず黒の剣巫へんは書き終えました。あとは順次投稿するだけです。


かっこいいこと言うとフラグが立つから気をつけろ

 

 レヴィアタンの内部は、生物というより有機的な宇宙船とでもいうような環境だった。

 

 そして、護衛用なのか無人兵器が山のようにいた。

 

 大火力でレヴィアタンの攻撃用の生態火薬を爆発させるわけにもいかない暁や、戦闘スタイルの都合上大量の敵をまとめて倒せない姫柊ちゃんに代わり、俺が一生懸命道を切り開いている。

 

「シルシまだか!?」

 

「あと100メートル!! そろそろ見えるわよ!!」

 

 よし、あとそろそろか!!

 

「暁、姫柊ちゃん!! 出くわしたらあとは作戦通りに動けよ!!」

 

「わかってる!!」

 

「はい!!」

 

 よし、いい返事だ!!

 

 そして、有象無象を薙ぎ払いながら、俺は目の前の白髪に怒声を浴びせる。

 

「……フォンフぅ!! 手前は、ヴィヴィと対して歳の変わらん子供相手によくもやってくれるな、ああ!?」

 

 さすがに俺もむかっ腹が立ってきたぜ。冗談抜きで殺意がわく。

 

 それを真っ向から受け止めて、フォンフ・キャスターは笑みを浮かべた。

 

「ハッ! オーフィスシンパになれば笑顔で赤ん坊すら従僕にできる男に言われたくないな、これが」

 

 痛いところをついてきやがるな、こいつは!!

 

「……あんたが久須木か、結瞳は返してもらうぜ」

 

 暁は全身から眷獣の雷撃を抑えきれてない状態で、真剣に久須木をにらむ。

 

 それに対して、久須木もまたランサーの影響で手にした槍を構えながら毅然とした態度で返す。

 

「そう怖い顔をしないでくれないかね? 私としても、幼子をこのような形で利用するのは心苦しいが、これも魔獣達の権利確保のためだ」

 

「ふざけんなよ。それで大勢の人間を殺そうとしておいて、何が魔獣の権利だ!!」

 

「権利とは時に血を流してでも勝ち取るものだよ。それは歴史が証明しているし、聖域条約もまたそうして手に入れたものだろう?」

 

 なるほど、確かに自分に酔っている節があるな。

 

 この手のタイプはよほどのことがないと考え方曲げないからな。ここで説得するのはあきらめた方がよさそうだ。

 

「第一、フォンフ・キャスターが協力してくれなければ、彼女は自分ごとレヴィアタンを海の底に沈めるつもりだったのだよ? それも、絃神島を粉砕するという過程をもってしてね」

 

 ……なんだと?

 

 けげんな表情を浮かべる俺たちに、フォンフ・キャスターは苦笑を浮かべながら両手を広げると解説に入る。

 

「なに、よくあるありきたりな自己犠牲だよこれが。……彼女は自分の代でリリスを終焉させようとして、久須木を利用する太史局に乗ったのさ」

 

 そういえば、正気に戻った江口結瞳は、自分の遺志で妃崎について行ったといってたな。

 

「筋書きはこうだ。あるところに、魔獣達に権利を与えるための戦いを望んでいた大金持ちと、突発的故に暴走がつきもののリリスによる悲劇を抑えたい夢魔と、ある目的のための手段として絃神島を破壊したいと考えている政府機関がいました。そんな時、政府機関は史上最強の魔獣であるレヴィアタンと、それを制御しうる史上最強の夢魔がセットで運用できる状況が生まれていることに気がついたのです。それも、必要なものを全部用意できる大金持ちまでついていました」

 

 ……ふむ。

 

「つまり、太史局は私の崇高な理想を利用して、この島を破壊しようとしたのだよ。それに比べれば、私のやっていることの方が大義があるだけまだ穏健だとは思わないかね?」

 

「いや、それはどうだろう?」

 

 いや、戦争を起こさないことは必ずしも犠牲者を生まないとはイコールではないとどっかのラノベで呼んだが、それはそれとしてこれはどうよ? 過激すぎね?

 

「……よくわからんが、結瞳の奴は、リリスの被害者を生まないために、レヴィアタンの中に自分を封印させようっていうことでいいんだな?」

 

 暁が、フォンフに確認するようにそう聞いた。

 

「ああ。太史局が本来予定していた通りなら、絃神島を破壊した後にレヴィアタンは眠りにつく。そしてその魔力障壁に邪魔されて、江口結瞳が死のうともリリスは障壁を出られないから、転生できないというわけだ」

 

 なるほど。小学生が考えたにしてはなかなか上出来な作戦だ。

 

 何らかの形でリリスの力を封印することで、リリスの影響で生まれる犠牲を阻止しようとしたってわけか。

 

 ……相当嫌な思いをしただろうに。いい子過ぎるだろう。

 

 俺がそう思ったその時、暁は一歩前に踏み出した。

 

「……結瞳。聞こえてないだろうが、言っておくことがある」

 

 暁は、まっすぐ江口結瞳を見る。

 

「すこし前に、お前のような奴を失ったよ。そいつもお前と同じただの女の子だったのに、第四真祖の眷獣の器なんていうわけのわからないものを押し付けられて、自分を犠牲にして世界を救いやがった。……ふざけた話だよな」

 

 件の、第四真祖になったときの話だろうか。

 

 たしか記憶の復帰を試みて、想定外のトラブルが発生したとか聞いていたが。

 

「わけのわかんねえもん押し付けられたのは自分達だってのに、そいつらは自分より他人のこと優先しちまうんだ。……俺はもう、そんなもんはごめんだ」

 

 静かに、しかし確実に何かが揺れる。

 

 第四真祖の振動を司る眷獣が、何かしらの同調を見せているのか。

 

「ああ、これは俺の自己満足だ。同じことを繰り返させないことで、俺が自分を満足させたいだけだ。……だが、少なくともはっきり言えることがある」

 

 まっすぐに、暁は怒りの視線を向けた。

 

 それはフォンフ・キャスターにも久須木にも向けられていない。

 

 まっすぐに、まっすぐに怒りの視線を、暁は江口結瞳に向けていた。

 

「……アヴローラも、お前も!! まだ死んでもいいってぐらい幸せになってねえくせに勝手に死のうとしてんじゃねえぞ!!」

 

 渾身の、怒声だった。

 

「姫柊の当て馬だか、世界最強の魔獣だか、魔獣の権利確保だか何だろうと知ったことか!! 其のためにお前みたいな子供を巻き込もうっていうなら、全部まとめて俺が叩き潰す!!」

 

 そこまで言い切ってから、暁は視線をフォンフと久須木に向ける。

 

「覚悟はいいかお前ら。結瞳はこれから誰が何と言おうと幸せな一生を過ごさせる。その邪魔をするっていうなら―」

 

 フォンフと久須木が戦闘態勢を取るのを全く気にせず、暁ははっきりと宣言した。

 

「ここから先は、俺の戦争(ケンカ)だ!!」

 

 ………暁。

 

「お前、それもう告白といって過言じゃないぞ? もう少し考えてしゃべれ」

 

「お前も空気読めよ!?」

 

 いや、そこより先に告白を否定しろ。

 

「江口結瞳をよく見ろ。感動のあまりあの状態ですら涙流してるぞ? 堕ちたぞ完璧に」

 

「……先輩。先輩は本当にやらしい人ですね。ヴィヴィオちゃんたちとそう変わらない年齢の子にまでそんな嫌らしいことを言うなんて」

 

 俺と姫柊ちゃんは同時にため息をついた。

 

 本当に、こいつはバカなんだから。

 

「第一リリスの継承はどうするんだ? なに、お前どうにかできるの?」

 

「うぐっ!! そ、そこはほら、那月ちゃんの力を借りて……」

 

「先輩、南宮先生も仕事があるので、なんでもかんでも頼むのは失礼だと思います。あとそれでどうにかできるならもっと穏便な方法をとっていると思います」

 

 ボロが出すぎてるぞ、ボロが。

 

 はあ。仕方がない。

 

「……聖遺物を使えば幽世の聖杯(セフィロト・グラール)の制御はできる。こんど曹操と帝釈天を何とか買収するか。輪廻転生系の神々とも要交渉だな」

 

「宮白!! すまん、恩に着る!!」

 

 俺も人がいいな、ホント。

 

 あと誰がタダだといった。アザゼル杯では酷使するから覚悟しろ。

 

 まあいい。うまくリリスの力のみを取り出して封印することができれば、大規模な精神干渉礼装として運用することも可能だろう。そういう方向で前向きにいこう。わぁい、初の人造神滅具が作れそうだぞ!!」

 

「宮白さん、力のみから口に出てます」

 

「やっぱりお前、邪悪だな」

 

 うるっさいなこの夫婦は!!

 

「まったくもう。先輩は小学生相手にも嫌らしいし、宮白さんは宮白さんで邪悪です。困った年上です」

 

 姫柊ちゃんはため息をつくと、しかし苦笑に変えて雪霞狼を構える。

 

「そもそも、これは私達の聖戦(ケンカ)です。一人で勝手に先走らないでください、先輩!!」

 

 ……こいつら結婚しろ。

 

「まあ、フォンフ関していえばもともと俺ん所の大戦(ケンカ)だからな。その分の責任はきちんととっとかないと」

 

 そういうわけだ。

 

「覚悟してもらおうか、久須木会長。あんたの身柄は半殺しの上で拘束させてもらう。カマセ用に戦闘能力を付加されたことを後悔して悶絶するといい!!」

 

 魔獣保護と権利獲得はご立派だが、度の越えた愛護活動はノーサンキューだ。

 

 そして―

 

「フォンフシリーズの好きにさせる気もない。……ここでつぶす」

 

「面白い。やってみろ、これが」

 

 その瞬間、戦闘の火ぶたが切って落とされた。


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