HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
ブルーエリジウム。通称ブルエリ。
絃神島に新しくできたフロートの一つで、人工島であるがゆえに絃神島ではそう行くことのできない大規模レジャー施設である。
なんでも魔獣の研究などもしているらしい。ちょっと危ない気もするが、いいのだろうか?
しかし、半径600メートル足らずとはいえ、総合レジャー施設なのは伊達ではない。
プールはある、遊園地はある。さっきも言ったが魔獣を見ることができる博物館もある。ホテルもある。
そういうわけで、俺達は割と本気で色々と楽しもう……と、思ったんだよ。
「お前ら、何やってんだ?」
「矢瀬の奴に騙されたんだよ!! あの野郎、何がバカンスだ!!」
そう文句を垂れるのは暁だった。
なんでも、レジャーというのは名目で、本命はこっちだったらしい。
つまり労働力確保。……一言言おう、悪魔だ。
実際の悪魔に悪魔言われる機会なんてそうないし言ってやろうかと思ったが、しかしこれはあれだ。
毎度毎度絃神島を破壊せんばかりの勢いでやってくる殲教師やらテロリストやら犯罪組織やらと戦っておきながら、さらにこんな目にも合うのか。
一言言おう。不憫だ。
「……藍羽、飲み物と食い物で一番高いの十人前持ってきてくれ。釣りはチップでいい」
俺は接客担当をしている藍羽に、財布からお札を適当に出して強引に持たせる。
ここで俺が手伝うというのは逆に色々と言われるかもしれんし、ここは別の形で貢献する他ないだろう。
「万札が何枚も!? え、いいの?」
「大金持ちの俺からすればはした金だ。それで荒稼ぎしてボーナスでも貰ってこい」
「やだ、この人いい人すぎ……っ」
「……あれ、目から汗が……っ」
うん、これが終わったら待っていろ。
美味い物、奢ってやる。
「そういうわけで、すごく大変そうだった。あと姫柊ちゃんは暁の妹さんと仲良く遊んでるそうだ」
「そうか。暁の奴、不憫だな」
「古城くん、不憫すぎる……っ」
俺とグランソードと須澄は、俺が買ってきた昼飯を食いながら、塩味のきつさに悶えていた。
なんでだろう、これ、塩味が強い。
「ま、まあ。これも平和な証拠だよっ。そうじゃなければこんなイベントに参加することもできないんだもんっ」
「いえ、これは参加しているという発想でよろしいのですの?」
雪侶、折角トマリが珍しく良い事言ったんだから、余計な茶茶を入れない。
しかしまあ、暁達も災難だ。
……素直に報酬出すからバイトしてくれって言えばいいだろうに、その矢瀬とか言うのも。
「そういえば、その矢瀬ってのは一体どこに行ってるんだよ? もちろん手伝ってるんだろ?」
「そういえばそうだな。少なくとも屋台にはいなかったはずだが」
ノーヴェの言葉に俺は首を傾げる。
……まさか自分だけさぼりやがったか? 要領のいいやつだ。
「でも、その矢瀬さんって人はすごい人なんですか? ここ、そう簡単にチケットが手に入らないって聞きましたけど」
「そういえばそうね。その矢瀬って奴、そんな偉いの?」
「あぁ、確か魔族特区設立に関わった大財閥の関係者がそんな苗字だったはずだぜ?」
ヴィヴィとアップが首を傾げる中、グランソードはそう言って再び昼飯をつまむ。
そんなだべりまくりの中、俺はふと嫌な予感を感じた。
……この魔族特区設立に関わった、大財閥。
そんな連中が、果たして絃神島の要石のことを全く知らなかったというのか?
いや、くだんの矢瀬は知らなくてもおかしくないだろう。どうも傍流らしいし、そこまで深入りしている可能性は低い。
しかし、傍流であるからこそ使いっパシリとして使われている可能性もある。
それに、先日何かしら暁にトラブルがまたしても発生した時に、暁はそもそも絃神島に来る前から何かしらあったらしい。
なんでも、あいつが絃神島に来る理由の事件が、時差の都合でどう考えてもあり得なかったとか。
……これは推測だが、おそらく獅子王機関はその時から暁周りで動いていた可能性も考慮するべきだ。
深入りして動かれてはこちらがやばいのであえてそれ以上は踏み込まなかったが、これはもしかするとかなりやばいかもしれないな。
少なくとも、本命の監視役は別にいると考えるべきだ。
しかも、それを知らされていない姫柊ちゃんが勘付けば余計なトラブルになることは必須。おそらくは姫柊ちゃんが勘付けないような特殊能力関係で監視を行っているとみるべきだ。
……下手に動いて勘付かれると後が怖いな。俺達はあくまで外様だから、獅子王機関を敵に回すとこっちで動けなくなる。
とりあえず、ガモリーズセキュリティの人員を増やすことで対応しよう。最近はごたごたが多いから、そういった方面での需要もあるので動きやすい。
「「……なあ」」
と、そこでノーヴェとグランソードが同時に小声で俺に声をかける。
ふむ、言いたいことはよくわかる。
「実を言おう。……俺もなぜぽっと出の新興企業であるガモリーズセキュリティに、たまたま暁と姫柊ちゃんを覗いた神喰いの神魔チームが全員集合できるだけの招待チケットが出てきたのか不思議だった」
「済まねえノーヴェ。まぁた大将のうっかりだ」
「あんたも大変だな、グランソード」
うん、ゴメンなさい。
これ、間違いなく荒事に巻き込まれるタイプだ。
おのれ獅子王機関!! 引き出される利権はこれまでの比じゃないと思え!!
その日の夜、暁古城はどうしたものかとなんとなく考える。
煌坂紗矢華が連れ出した
今のんきにバーベキューを食べている場合じゃないかもしれない。
しかも、自分は浅葱に指摘されるまで、獅子王機関に対する考え方が甘かったことに気が付いた。
獅子王機関はあくまで国家の治安を守る組織なのであって、正義の味方ではない。あくまでお役所なのだ。
国の運営は大義は必要でも正義が必要であるとは限らない。歴史の中で悪行を繰り広げた国家など腐るほど存在している。
加えていえば、こういう組織が国益の為に非道な行為を働くことも珍しくないはずだ。
その認識の改めが、たまたま来ていた兵夜達に助けを求めることも躊躇させていた。
彼らは異世界の出身だ。兵夜は悪魔の王である魔王に仕えるというのが立場的なものだし、ヴィヴィオ達がいる時空管理局は、次元航行手段を持たない世界に対しては基本干渉しない方針を取っている。
個人としては間違いなく信用できるし、ヴィヴィオやアインハルト達は信頼もできるが、しかし何でもかんでも任せられるわけではないのだ。
そこを考えると、獅子王機関がブルエリから連れ出した理由がはっきりしない限り任せるわけにはいかないだろう。
そして目下の問題は。
「俺、一口も食ってないぞ」
バーベキューを焼いていたのは自分なのに、肉をろくに食べれてないことである。
特売の安肉とはいえ、バーベキューで肉をろくに食べれてないのは残念という他ない。
というより、野菜すら殆どない。あの重労働の末に夕食抜きとか普通に死ねる。
「ちくしょー。焼いたの俺だぞ。肉くれよ、肉」
「……予想は的中ってわけか」
と、そんな言葉とともにパック入りの肉が突き出された。
それも、矢瀬が持ってきた半額のシールのついた安物などでは断じてない。
完膚なきまでの国産。それも和牛とかつくような高級肉が何パックも詰められていた。
それに驚愕しながら視線を向けると、そこには見知った赤髪の少女の姿があった。
「の、ノーヴェ……」
「
そう言って笑みを浮かべるノーヴェが天使に見えた。
ついでにその肉を用意したであろう兵夜が神に見えた。いや、確かに兵夜は神様なのだが。
「嘘、ここで高級肉!? 流石に腹七分目なんだけど」
「まだ食えるのかよ!?」
浅葱の声に思わずツッコミが飛ぶ。
藍羽浅葱。出るところが出ているとはいえ全体的に細身の体系であるのにも関わらず、彼女は健啖家なのであった。
しかし、食べる食べないは別にしてもこの来客に関して色々と驚きの感情が出てくるのは当たり前ではある。
「おい古城? この美人は一体誰だよ? しかも……」
そういう矢瀬の視線の先には、ノーヴェに連れられてきたヴィヴィオとアインハルト。
その視線は、明らかに邪推だった。
「お前、やっぱりロリコ―」
「違うわ!!」
渾身のツッコミだった。
「だ、誰が美人だよ……」
「ノーヴェ、悪いが今はそこ以外にツッコミ入れてくれ……」
古城は心底そうもらすが、しかしこれはまた幸運だと思い涙すら浮かべそうになる。
「うわっ! すっごい美人さんに可愛い子が二人も!? 古城くん、一体どういうこと!?」
当然凪紗も食いついてくるが、果たしてどう説明したらいいものか。
そう古城が一瞬躊躇している間に、ノーヴェがさらりと会話を進めてくる。
「ほら、夏休みが終わった直後に起きた事件があるだろ? その時この子達があんたのお兄さんと一緒に巻き込まれてさ」
なるほど、そういうカバーストーリーがもう既に作られているということかと、古城はすぐに納得して、あえて何も言わずに黙っておくことにする。
おそらく考えたのは兵夜だろう。その辺り得意そうなイメージがある。
「それで、職場の上司が同じく巻き込まれてたから面倒見てたんだよ。あ、アタシはこういうんだ」
そう言ってノーヴェが差し出した名刺は、かなり高級そうだった。
PSCガモリーズセキュリティ実働班。ノーヴェ・ナカジマ
カバーストーリーに本気を出しすぎたと古城は思った。
「……藍羽先輩。これ、かなり高級な名刺な気がするのですが」
「ま、まあお金持ちだしいいんじゃない?」
と、ギリギリ凪紗達に聞こえない音量で雪菜と浅葱が相談するが、気持ちはよくわかる。
金持ちはある程度金を使うべきだとかなんとか言っていた気がするが、ここですることはないだろうと思った。
「あ、古城くんたちが変なところに迷い込んだっていうあの事件ですか? この子達も巻き込まれてたんだ。大変だったねぇ。古城くんは色々駄目なところが多いから迷惑掛けられたでしょ? この前何て私のとっといたアイス勝手に食べたんだもん。信じられる? 期間限定で売ってるコンビニも限られてるんだよ? ホントダメダメだよね?」
「いえ、そんなことはありません」
速やかに兄をディスる凪紗に古城が文句を言うよりも早く、アインハルトは首を振った。
「……暁さんがいなければ、私はずっと迷っていたと思います。大事な、恩人です」
「え? そうなの? いや、古城くん駄目なところいっぱいあるけどかっこいいところも確かにあるけど……」
あまりにストレートにそんなことを言われて、凪紗が戸惑っていた。
ちなみに古城も戸惑っていた。
確かに迷走していたアインハルトに説教したのは認めるが、しかしそこまで言われるようなことはしていない。
おそらく兵夜やシルシでも似たようなことは言えただろう。たまたまだと思う。
思うのだが、なぜか雪菜と浅葱の視線が痛い。
「先輩?」
「古城?」
「いや待て。俺、そのことに関して怒られることはしてないよな?」
普通に良い事したはずなのに、なぜか責められる理不尽を感じていた。
そんな中、結芽が古城の服を軽く引っ張った。
「……古城さん」
「な、なんだ?」
小学生に助けられるのは情けないが、それはともかくとしてとにかくとっかかりがほしい。
そう思い視線を向けると、そこには憐憫の視線が合った。
「大丈夫です。年の離れた夫婦は何人もいます」
「そういうことじゃねえよ!?」
渾身のツッコミが出たと思う。
この後肉を焼くことを考えると、どんどん体力が削れて言っている気がする。
しかもそのうえで、いつの間にやらヴィヴィオの視線が古城を貫いていた。
「……それで、今度は何があったんですか?」
この子は子供のはずなのに本当にすごい。
どうやら、結局今回も兵夜に頼ることになるらしい。
カバーストーリーに本気を出す男、宮白兵夜。
それはともかくとして、いったん一区切りすることもあって、黒の剣巫編は割と派手に行きます。
具体的には、七式をさらに出したりフォンフシリーズの新メンバーを出したり、フォンフ直属の部下を複数だしたりする予定です。