HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
俺は今、目の前にいる厄介な女を前にして、どうしたものかと真剣に頭を悩ませた。
他の班の連中を、あくまで派手な逃亡を許さないようなカバーに回らせ、自分一人で偽聖剣を相手にこの大立ち回り。
身体能力は莫大。肉体強度も最上級悪魔クラス。
加えて、纏っている外装が厄介だ。
まず間違いなく神滅具級の高位封印系神器の全身鎧型禁手に匹敵する出力。それによる補正が加わり、その戦闘能力は魔王クラスにすら匹敵する。
おそらくこの女がチームの中でも有数の実力者なのは想定できる。
想定できるが、これはヤバイ。
「イッセー、姫様!! これ、さすがにマジでやばい!!」
「でしょうね。……セラフォルー様やお姉さまでもてこずるわ。加えて、目の前の女は間違いなく苦戦必須」
「うっわぁ。なんでそんな強い奴がこんなところにいるんだよ」
俺にしろ姫様にしろイッセーにしろ、勘弁してほしいという感情が出てくるのは仕方がない。
基本的に火の粉を振り払ったりするのが俺たちの基本パターンだったからな。勘弁してほしいと思ったことは何度もある。
まったく。俺たちは不用意に世界に混乱を巻き起こすような真似をする気がないんだがな。
「言っとくけど、私はこの中で一番強いけど、仲間たちもなかなかできるわよ?」
「だろうな!!」
俺は女の言葉にうなづきながら、反撃を仕掛ける。
展開するのはイーヴィルバレトではなく、時空管理局に用立ててもらったデバイス。
この街中でどでかい破壊を生むわけにはいかない。できれば結界を張りたいところだが、それも難しい。
……相手がすでに阻害を行っているからだ。
どうやら、思った以上に時空管理局の技術も漏れているらしい。
こりゃフォンフの奴、管理局の連中にもコネクションをつなげてるな。
「お前らには聞きたいことが山ほどある。死なない程度に痛い目を見な!!」
「冗談! それに、私の本命は貴方じゃない!!」
いうが早いか、女は俺の攻撃をかわすと本命を狙う。
その本命は……イッセー!?
馬鹿かこいつ!? イッセー相手に女が挑むなど自殺行為だ。
衣服はもちろん拘束具すら破壊し、さらにはかけられている術式すら破るバージョンにまで至った
対象の胸の内を自由に聞き出し、頭おかしいアプローチゆえに対抗策をとるのも簡単ではない
この二つを保有する兵藤一誠という男は、女相手に無類の相性を発揮する。
そして、今回もそうした。
「広がれ、俺の夢空間!!」
その煩悩とともに乳語翻訳のフィールドが形成され―
「―黙ってなさい、変態!!」
―女の一喝とともに放たれたオーラがそれを消滅させた。
消滅させた。
消滅させた………
……え?
「嘘、でしょ?」
あり得ない光景に姫様も絶句する。
俺ももちろん驚いている。っていうか絶句した。
あ、あの女、まさか!?
「お、俺の乳語翻訳のフィールドを消滅させた!? そんな馬鹿な!?」
「寝ぼけるんじゃないわよ!!」
驚愕の隙をついて、女の膝蹴りがイッセーに襲い掛かる。
それをとっさにガードしたイッセーは、即座に洋服崩壊を発動する。
「こっちはどうだ!?」
「ぬるいわよ!!」
そしてこちらも不発。
馬鹿な!? あのイッセーの乳技を完全無効化だと!?
あ、透過抜きなら防げる奴もいるのか。
「そんな!? 透過もきちんと使ったのに!?」
あ、使ったのか。
……なおさらなぜだ!?
「な、なにしやがった!?」
「答える馬鹿がどこにいるのかしら!?」
クソ! ド正論!!
以前の連中は結構教えてくれたんだが、最近教えない連中が多いな、オイ。
っていうかこれってまさか―
「お前ら、以前テロリストの討伐作戦で横やり入れてきたやつの仲間だな?」
「悪いわね。あの時はアレのテストも兼ねた漁夫の利狙いなんだけど、お馬鹿さんが暴走したのよ」
こっちはさらりと答えるんだな。
いや、それだけじゃないな。
俺は反転して攻撃を叩き込みながらさらに詰問する。
「アルサムのブートキャンプに襲撃した連中も仲間か!?」
「……」
「沈黙は肯定とみなす!!」
回し蹴りを叩き込みながら、俺は警戒度をさらに跳ね上げる。
まずい。どうやら俺が思っていた以上に裏で動いている勢力がいるようだ。
「イッセー!! こいつらのうち一人はここでとらえる!!」
「おう!!」
乳技無効化の動揺から回復したイッセーとともに、俺は即座に挟み撃ちで取り押さえにかかる。
この女たちは危険だ。なんとしてもここで捕まえる。
むろん、合計六人の取り巻きも警戒に値するが、こちらに関しては俺達に手が出せない。
理由は単純。
「悪いけど、露払いぐらいはさせてもらうわ!!」
「この女、強い!!」
「グレモリーの次期当主は、眷属よりも弱いって話だったけど!?」
姫様が礼装を利用した未来視で牽制しているからだ。
流れ弾を当てないようにするため動きはとりずらいが、しかしそれも十分。
目立たないように路地裏で戦闘しているから、向こうも動きずらいのだ。
この状況なら、少人数の俺たちに利がある!!
イッセーの乳技をこれ以上ないほど完封したこの女はできれば捕まえる!!
「ああもう!! さすがに今の装備で二対一はキツイ!!」
「だったらここで捕まえる!!」
場合によっては義足の開放も覚悟する。
とにかく、ここで奴を捕まえて。
「―熱くなりすぎだ」
「―兵夜、後ろ!!」
―なんだと?
急に後ろから気配が出たと思った次の瞬間、俺は攻撃を叩き込まれた。
姫様が声を飛ばしてくれたこともあり、すぐに受け身を取って地面に着地するが、その攻撃を放った指揮官らしい中年は、即座に打撃を放ってイッセーを弾き飛ばす。
こいつ、体術が優れているってレベルじゃない。ゲン・コーメイと渡り合えるかもしれないレベルで完成されているぞ!!
「―いってぇな!! あんたらいったい何なんだよ!!」
「言う義理はないな」
そうさらりとイッセーの追及をスルーした男は、視線を部下に投げかける。
「全員落ち着け。これ以上の戦闘には意味がない。……撤退するぞ」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
即座にスイッチを切り替えたかのように返答した連中はわき目も降らずに空を飛ぶ。
「追撃したければするがいい。しかし、その時はこちらも目立つ真似をさせてもらうがな」
「……この、野郎!!」
今この場で派手に空中戦をおこなえば、人類社会に異形の姿を知らしめることになる。
さすがにそれはまだ早い。つまりこれ以上は動けない。
それに、あのオッサンは別格だ。
……挑むなら、こちらもグレモリー眷属総動員で挑まなければ、あの連中と戦ったら死人が出る。
ソーナ会長改めソーナ先輩とのレーティングゲームと同じだ。
神クラスにも匹敵する大火力を保有する俺達グレモリー眷属は、周囲を破壊しすぎてしまう上に目立ちすぎる。
市民もいる市街戦において、俺たちはめっぽう不利だった。
この戦い、事実上の完敗だ。
とりあえず、俺たちはこの街の異形たちの集会場みたいなところでいったん待機していた。
万が一にもいきなりUターンして攻撃してくる可能性を考慮して、重要人物を集めて護衛する目的のようだ。
しかし、一人として捕まえることなく逃げられたのは痛いな、これは。
「悔しいけど逃がすほかないわね。これ以上の戦闘はリスクが大きいわ」
「くっそぉ!! 俺の技がここまで完封されるなんて初めてだ!!」
姫様もイッセーも悔しそうだ。
当然だろう。敵の情報はほぼ獲得されてないうえに、これまで勝利の決め手になってきたこともあるイッセーの乳技まで完封されたのだ。
それも、女を入れないという消極的な対策ではない。
レイナーレのように、かけられても対応できるような妥協案でもない。
出させたうえでそれを完全に無力化する。そんな圧倒的な完封で上回れた。
これ、冗談抜きで脅威だな。
「宮白、宮白!! なんで無効化できたのか理屈で説明できないか?」
「お前の乳技に理屈もクソもないだろうが」
むちゃくちゃ言わないでくれ、イッセー。
お前の乳技自体が理屈とか考えるのが面倒になる代物なんだぞ? そんな技を対処療法ではなく完封する理屈何て俺にわかるか。
だが、これは思った以上にややこしいことになってきた。
ここ最近頻発している、フォンフの関係者と思しき謎の事件。
アルサムの起こした上級悪魔子息の特訓を襲撃した兵士集団。
犯罪組織をつぶす時に、もろとも潰さんとしたあの男。
教会の反乱者を逃亡させた思わしき謎のメイス使い。
そして、この街で暗殺未遂事件を起こした実力者集団。
間違いない。こいつらは全部つながっている。しかもおそらく純地球関係者だ。
「姫様。あとでサーゼクス様に連絡をお願いします。……この
「貴方が言うならその可能性は大きいわね。……ええ、これはきっと、忙しくなると思うわ」
「ロキみたいな神様もいっぱいいるってことか。ホント、俺たちは大変だよなぁ」
姫様もイッセーも、異形社会の想定以上の脅威に警戒心を強めていく。
どうやらこのアザゼル杯、平穏無事に終わるかどうかすら怪しくなってきたな。
ついに登場する完璧な乳技封じ。
まあ、種がばれればすぐにわかる方法なのですが。たぶん皆様納得してくれること請け合いだというぐらいシンプルな方法です。