HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ   作:グレン×グレン

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エイエヌ事変の裏でやらかしていた事実が明らかになります。


……事件が解決すると後始末のことをうっかり忘れてしまうことがある

 

 絃神島の空港で、空港を軽く百は壊滅させれるであろう戦力の激突が行われているころ、姫柊雪菜は人生でも有数の危機を迎えていた。

 

 最大の問題は雪霞狼を保有していないことだ。

 

 真祖すら滅ぼす其の力は間違いなく人類が現状保有できる最強格の力だ。それを使うことができる雪菜も、実戦経験こそ少ないが間違いなく年齢不相応の戦闘能力を持った精鋭であることに嘘偽りはない。

 

 しかし、それでも雪菜は中学三年生。本来ならまだ見習いなのだ。

 

 その彼女がこれまでの激戦を潜り抜けられたのは、雪霞狼の力があったことが大きい。

 

 真祖すら殺しうる兵器というのは、それだけの力を保有しているのだ。

 

 その雪霞狼がない状況下で、高い実力を保有した魔導犯罪者を相手にするのは、雪菜の実力では難しいといってもいい。

 

 しかも相手の錬金術師天塚は物質変成により生命体を瞬時に金属へと変性させることができる。さらには理屈は不明だが、自身の体も液状にすることができる。

 

 これに対抗するには、こちらもそれ相応の装備が必要。まともに戦うにはやはり雪霞狼が必要だ。

 

 ……そして、この船上に天塚がいる可能性が非常に大きい。

 

 単純に言って窮地である。

 

 護身用に持ち込んでいたナイフだけでは心もとないが、攻魔師としての資格を持っているものとして黙ってみていることはできない。

 

 ゆえに、凪紗を適当にごまかして真っ先に雪菜はブリッジへと向かい―

 

「……おや、あの時の剣巫じゃないか」

 

 そこに、ぼろぼろの天塚と遭遇した。

 

「……死んでいなかったんですね」

 

「まあね。あそこにいたのは分身だよ。そして僕もね」

 

 そう言い放つ天塚は、しかしその負傷を隠しきれていなかった。

 

「民間の攻魔師もなめたもんじゃないね。何とか航行装置は破壊できたけど、通信設備は死守された―」

 

「逃がすかこの野郎!!」

 

 天塚の言葉をさえぎって、人影が姿を現す。

 

 一見すると人間だが、魔族登録証をつけているうえに、彼らの気配には覚えがあった。

 

 D×Dの悪魔、それもグランソードと同じ純血悪魔だ。

 

「……先輩、宮白さんに頭を下げましたね」

 

 一瞬で事情を理解して、雪菜はため息をつきたくなった。

 

 どうやら自分の監視対象は、天塚が生きていることをどこかで知っていたらしい。

 

 それで、兵夜が念のために用意してくれていたガモリーズセキュリティから人員を借りたのだろう。もともとそのための人材なのだから、それ位はするだろう。

 

 しかし暁古城に大して雪菜は腹を立てる。

 

 監視役である自分に話をせず、厳密に言えば外様である兵夜達のほうを頼るとはどういう了見だろう。

 

 しかも、こうしてガモリーズセキュリティの悪魔がいるということは、自分の護衛までされているということだ。それも自分に無断で。

 

 おそらくこれは兵夜が気をまわしたのだろう。二人そろって宿泊研修に専念してもらいたいとでも思っているのだろうが、文句の一つも言ってやらなければならないだろう。

 

 どんなときであろうと、監視役である自分が暁古城のことを気にしないわけがないのだ。蚊帳の外に置かれている方がむしろ不機嫌になる。

 

 戻ったらあとでしっかりとお説教ですね。と考えながら、雪菜はその悪魔と挟み撃ちにする形で、天塚と向き合う。

 

 隕鉄に術式付与したナイフなら、少しぐらいは天塚の物質変成にも耐えられるだろう。少なくとも足止めはできる。

 

 そして、抜けているところはあるが相手に合わせて戦う兵夜が用意した人材ならば、彼は天塚相手に相性がいい人物のはず。

 

 一瞬でも足止めをすれば、その時点で決着はつく。

 

 そう思った瞬間、天塚はにやりと笑った。

 

「いいのかな? いま、供物に使えそうなやつを見つけたけど」

 

「……っ!」

 

 瞬間、雪菜の脳裏に浮かんだのは夏音の姿。

 

 その焦りをついて天塚が仕掛けようとするが、しかしそれより早く動くものがいた。

 

「こっちはいい!! そいつ分裂するからカバーしきれねえ!!」

 

 一瞬で結界が雪菜と天塚の間に張られ、天塚の接近を阻害する。

 

「しつこいんだよ!!」

 

「そういうわけにはいかねえなぁ!! ……ほら、こっちは良いから先に行け!!」

 

「……はい!!」

 

 判断は一瞬。

 

 仮にも荒事担当の人物よりも、特殊技能を持っているとはいえ民間人の保護を優先するのは攻魔師として当然。

 

 何より、そんな言い訳がある状況下で友人を優先しない程自分は冷徹非情にはできていない。

 

 背中を押してくれた悪魔に感謝しながら、雪菜は急いで走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして空港においても戦闘は継続……していなかった。

 

 天塚を追撃しようとしていた古城や兵夜と、天塚を雪菜の当て馬にしたいフォンフ達の激突は、一人の人物の出現で一時中断していた。

 

「久しぶりだ少年。そして、君が第四真祖か」

 

「え、えっと……。爺さん、誰だ?」

 

 見たことがない人物なので当然といえば当然の反応を古城はするが、しかしそれは人によっては激怒案件だ。

 

 幸い、この場には激怒するような人物がいなかったのでよかったが、下手をするとややこしいことになっていた。

 

 それに対してほっとしながら、兵夜は暁に視線を向ける。

 

「暁、こちらの方は俺たちの世界での宗教的準指導者クラス、司祭枢機卿を務めていたヴァスコ・ストラーダ猊下だ」

 

「枢機卿……っていうとすごいお偉いさんじゃねえかよ!! しかも爺さんなんだろ!?」

 

 ある程度来歴を飲み込めたが、ゆえに暁は慌てざるを得ない。

 

 そんな結構重要そうな人物にもしものことがあれば一大事だ。少なくとも間違いなく揉める。

 

 確かにガタイは老人には全く見えないぐらい頑丈そうだが、しかしそんなデスクワークのような人物がフォンフ数体がいる戦場に出てきて無事で済むとも思えない。

 

 だが、そんな暁の心中を察したのか、兵夜は静かに首を振った。

 

「安心していい。……この人、超強い」

 

「え、そうなのか?」

 

「その通りだ。悪魔祓いから枢機卿の地位に上り詰めた数少ない人物。こと聖剣デュランダルの扱いにおいては、初代の使い手である聖騎士ローランに並ぶとも超えたともいわれる存在だ」

 

 兵夜の単純極まりない説明に唖然とする古城に、アルサムがさらに説明する。

 

「悪魔からは真の悪魔とも教会の暴力装置とも言われた逸材。現時点においても人間という種族においては最強候補だろう。低く見積もっても人間内ならば上位一けた台に入る古強者。まさかこのような場でお目にかかれる機会があろうとは」

 

 賞賛だらけのその言葉に、古城もすぐに味方として頼りになると判断する。

 

 実際、数こそ少ないとはいえ相当のつわものたちとやり合う羽目になっている古城もまた、彼がただものでないことは勘付いていた。

 

 ましてや今回は非常事態。冗談抜きで猫の手を借りたかった。それが猫どころか獅子ならなおさらだ。

 

 事実、三人のフォンフはみな一様に警戒の色を強めている。

 

「まずいな、できれば時間を稼ぎたいところだが……」

 

「ああ、彼の恐ろしさはよく知っている」

 

 フォンフ・アーチャーもフォンフ・ランサーも警戒心が強くなりすぎて先手を打てない。

 

 それこそが、バチカンのイーヴィルキラーと恐れられた伝説の存在であるヴァスコ・ストラーダの存在。その抑止力。

 

 だが、そこに一つだけ例外が存在する。

 

「……面白い。なら俺がもらうぜ、これが」

 

 フォンフ・セイバーがデュランダルのうち片方を消し、一振りのデュランダルを構えて静かににらみつける。

 

 その視線を真っ向から受け止め、ヴァスコ・ストラーダもまたデュランダルのレプリカを正眼に構える。

 

「……なるほど、確かに、三大勢力の和平は耐えられない英雄も多いでしょうな」

 

「わかっているなら言わなくていい。そも、俺達を超えれぬようで後代を名乗る資格はないと知れ」

 

 その会話と同時に、一瞬で距離を詰めた二人はデュランダルをぶつけ合い―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―瞬間、滑走路に真横に断絶が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりすぎ! やりすぎです猊下!!」

 

 あまりの展開に、俺は思わず突っ込んだ。

 

 ちなみに越智の攻撃を死に物狂いで回避しながら出るため悲鳴を上げたいレベルだ。

 

 だが、しかしこれは後でこっちの出費になりかねない。っていうか折半はしないとまずいだろう。

 

 すいませんもうちょっと加減してもらえませんか!?

 

「これはすまない。フォンフ・セイバーが憑霊させているものが私の想定通りなら、当然手を抜くことなどできぬし許されぬのでな。レプリカでは手を抜かれていてちょうどいい塩梅なのだ」

 

 そう言い放つ猊下は、しかしまったくもって油断をしていなかった。

 

 それどころか、むしろ全力で警戒心を強めているといってもいいだろう。

 

 どういうことだ? 猊下が知っている相手?

 

「どういうことだよ爺さん!! そいつの正体知ってるのか!?」

 

 魔獣達を殴り飛ばしながら、古城が訪ねるのも当然だろう。

 

 なにせ英霊とはあくまであちら側の存在。必然的にこちら側のものが詳細を知るわけがないのだ。

 

 それも、デュランダルをコピーするような存在などいったいどこにいるというのだ。

 

 疑問符を浮かべる俺だったが、しかし猊下は何を言っているのかわからないふうに首をかしげる。

 

「固定観念にとらわれてはいかんぞ、宮白兵夜よ。現実にそこにデュランダルを使いこなしている以上、答えなど明白だろうに」

 

 め、明白?

 

「歴史に名を遺す存在で、デュランダルの使い手といえるようなものなど一人しかいないであろう? ならば答えなど明白」

 

 そう続け、猊下はデュランダルの切っ先をフォンフ・セイバーに突き付けた。

 

「すでにこちら側の英霊まで呼べるようになっていたか。フォンフ・セイバーよ、我らが聖騎士ローランをテロに加担させた罪、重大だと知るがよい」

 

 ………………

 

 あ、そういうこと。

 

 あの野郎、俺たちが幻想兵装の技術を流用しようとしている最中に、すでに応用発展に成功していたと。

 

 確かに、根源に近いものがこの世界にもあると仮定するならば、必然的に英霊の座に近いものがあってもおかしくないわな。

 

 いや、しかしデュランダル二刀流はどう説明すると?

 

 そこまで考えて、俺はあることに気が付いた。

 

 そういえばエイエヌ事変の時は、決着がついた直後に次元震が発生しかけたのですぐに赤龍帝たちは戻っていったんだった。

 

 つまり、それは―

 

「お前ら、どさくさに紛れて落し物回収してたな!?」

 

「今まで気づいていなかったのかね?」

 

 心底あきれた視線をフォンフ・ランサーに向けられてしまった。

 

 くそう! いろいろと恨みつらみ混じった攻撃を喰らっている中でこれはキツイ!!

 

 な、なんという致命的なミスを!! これは明らかにこちらの不手際だ!!

 

 おれ、最上級悪魔になるどころか降格処分を受けるんじゃないだろうか!

 




本日もとい数か月前のうっかり:だれも従僕の持っている剣のことに気が回らなかった。

従僕が塵になったことと直後に大騒ぎが起きたことにより、誰もがうっかりデュランダルや魔剣群などのことを度忘れしていたという痛恨のミス。一人忘れてなかったフォンフが全部回収しています。









そして、フォンフ・セイバーはD×D世界のローラン。

異教徒相手に侵攻を広めるために戦っていたのに、異教徒通り越して悪魔と和平を結んだことで発生している不満を突かれた形となります。んなふざけたことするなら、まず俺を宿したこいつを倒してみんか、ワレェ!! ってな感じで。

ちなみにフォンフ・セイバーは手を抜いています。っていうかフォンフ・アーチャーの暴走に付き合わされている形なので、ぶっちゃけやる気出てません。

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