HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ   作:グレン×グレン

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はい、事態はそろそろ戦闘シーンに移行します!!


聖人登場!

 

 藍羽浅葱が目を覚ました時、色々と面倒なことが起きているということを痛感させられた。

 

 なにせ、起きた瞬間に目にした者が燃え盛っている港湾と古びた白骨の山だ。正直引いた。

 

 そして、なぜか自分よりも胸が大きく肌の色が濃い自分が目の前にいた。

 

「……なにこの人」

 

「グランソードの舎弟が説明してなかったか? 錬金術師ニーナ・アデラードが、賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)を確保したんで体を作ったんだよ」

 

 半目で兵夜が返答するなか、浅葱は近くにいた古城と顔を見合わせて、とりあえず一言告げた。

 

「「なんでその体?」」

 

「いきなり体格を変えると感覚が狂うからな。それに私本来の放漫なボディを再現するには血が足りぬ」

 

「……その胸部の肥大化はどういうつもりだ?」

 

 アルサムが一番言いたいことを代弁してくれたが、ニーナは自慢げににやりと笑う。

 

「妾用にアレンジしたのだ。かつての(ワシ)ほどではないが、中々のものだろう?」

 

「まあ確かに、藍羽より胸がでかいならすごいというか……まさか錬金術師の時代に豊胸手術が存在していたとかぬぉわぁ!?」

 

 兵夜がよけいなジョークを言って荷電粒子砲を掠めさせられるが、それはいい。

 

「それで? 状況はどうなってるのよ?」

 

「単純に言うと、質の悪い化け物が目を覚ました。しかも今は発見できてないと来ている」

 

 見慣れない男がそう答えるが、つまりそれは自分の役目ということだろう。

 

「わかったわよ。今から島の監視システムをハッキングして、怪しい化け物を片っ端から調べてあげるから―」

 

「―意味がないことはしなくていい」

 

 すぐにでも兵夜にパソコンを取り出してもらおうとした浅葱の耳に、聞き覚えのある舌足らずな声が飛んできた。

 

「「那月ちゃん!?」」

 

「担任教師をちゃんづけで呼ぶな」

 

 速攻で絶対零度の視線が返ってきたが、しかしすぐに那月は視線を兵夜達に向ける。

 

「そこの藍羽の顔をした偽乳がニーナ・アデラードだな? そしてその見慣れない餓鬼共はいったいなんだ、宮白兵夜」

 

「真祖にケンカ売れるような化け物共だ。ついさっき復活した神擬きを相手するにはうってつけの連中だ」

 

 サラリと答え、そしてすぐに兵夜が説明を続けようとする。

 

 だが、那月はすぐに首を振った。

 

「おおよその事情は意識が回復した叶瀬賢生とアルディギアの騎士団から把握している。天塚汞の正体と、お前の素性についてもだ、ニーナ・アデラード」

 

「分かっているなら話は早いな。それで意味がないとはどういうことだ?」

 

 兵夜が話を先に勧めようと催促する。

 

 相手は神を僭称する不死の荷電粒子砲。この絃神島を滅ぼすことも不可能ではない化け物だ。

 

 ましてや生粋の外道といっても過言ではない。この場にいる誰もがそれを野放しにする気などないのは明白である。

 

 ゆえに、すぐにでも居場所を調べなければならないのだ。

 

 そして、それについても薄々分かっている者は何人もいた。

 

 ……居場所を探す必要がないのは、既に居場所の検討がついているからだ。

 

「その件については、宮白兵夜には礼を言うぞ。貴様の使いっ走りのおかげで、フェリーの通信設備と貴重な腕利きの攻魔官の命は救われた」

 

 その言葉で、誰もが天塚の居場所を理解した。

 

 兵夜が行った行動でフェリーが関わるのは一つしかない。

 

 午前7時発の東京行き。彩海学園の宿泊研修性を乗せた定期便に、万が一の為の叶瀬夏音の護衛として送り込んだグランソードの舎弟がいるフェリーだ。

 

 ……つまり、船の上という海上の密室に天塚がいるということだ。

 

「嘘……でしょ!?」

 

「凪紗……姫柊!?」

 

 血の気の引いた顔で二人が海の方を見る中、那月はやれやれとため息をついた。

 

「いかに物体の組成を自由に操る錬金術師といえど、結界で接触を阻害されれば対応しきれん。天塚の分身は航行設備を破壊するに留まった。……とはいえ、都市警備隊は反乱対策でまともな航空兵器を持てなくてな。私の転移は移動時間をゼロにするだけだから距離が遠すぎると転移できん」

 

「いかんな。”賢者”(ワイズマン)を生み出す時に使われたのは、大量の貴金属と生贄となる霊能力者。復活直後の奴が力を取り戻す為に、それと同じものを欲してもおかしくない」

 

 那月が更に緊急度を上げ、更にニーナが確証すら与えてくる。

 

 あの船には、代々霊媒として高い適性を持つ夏音と、剣巫である雪菜がいる。贄としては十分だろう。

 

 しかも、単純な物理衝撃の通用しない天塚を雪菜が倒すには、雪霞狼が必要と言ってもいい。

 

 一言言おう、詰んでいる。

 

 古城と浅葱の視界が暗くなり始め、そして強力な光によってすぐに明るくなった。

 

「先行する。お前達は暁古城とニーナ・アデラードを抱えて追いかけろ。……早くしないと、俺がサンドバッグをたたき飽きてから封印してしまうぞ?」

 

『まあ俺達だけでも大丈夫だろう。人間風情が作り出した紛い物の神如き、明星の白龍皇の敵ではないことを証明してやるさ』

 

 そう挑発的な言葉と共に、白銀の鎧を纏ったヴァーリが一瞬で水平線の向こうへと飛んでいく。

 

 あの速度なら短時間で到達するだろう。そして、天塚程度では一瞬で蹴散らされるのが落ちでもある。

 

 問題は”賢者”(ワイズマン)だが、あの荷電粒子砲の威力が最高なら、かなり余裕を持てるだろう。

 

 更に向上心の強い天才であるヴァーリは聖杯対策での封印術式にもある程度心当たりがあり、それに使う宝玉も自前でいくらでも用意できる。無力化は比較的容易だろう。

 

「……これで敵にフォンフがいなければ問題はないか」

 

「とはいえ、イレギュラーは警戒した方がいい。待っていろ。今ラージホークを用意する」

 

 アルサムも兵夜もフォンフを警戒して次の行動に移ろうとするが、それを那月が手で制す。

 

「必要ない。民間からモノ好きがすぐに使える航空機を手配してくれた。暁ぐらいしか耐えられそうにないから探していたが、更に三人も増えたのなら問題あるまい」

 

 ……その言葉に、割と本気で嫌な予感を感じながら、全員まとめて転移に巻き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで俺達は転移に巻き込まれたが、しかしなんというか凄い物を見た。

 

 ラージホークより大きいかもしれない、巨大な飛行艇。

 

 防水型の気嚢で構成された巨大な飛行艇が、巨大浮遊式構造物(メガフロート)で出来た空港に鎮座している。

 

 っていうかこれ、明らかに飛行戦艦というか飛行巡洋艦というか。どう考えても戦闘用なんだがなんでこんなところにあるんだよ。

 

 そんなことを一瞬で思う中、暁は飛行艇に刻まれている紋章を見て目を剥いた。

 

「この船、アルディギアの船か!!」

 

『その通り。我らがアルディギア王国の誇る装甲飛行船「べズヴィルド」です』

 

 飛行船に吊り下げられているモニターから、フォリりんが映し出される。

 

 流石一国の女王、マジで頼りになる。

 

「……初対面の私が聞くのもあれだが、これで追撃するのか?」

 

『いえ。べズヴィルドの航行速度はそれ相応のものですが、今は時間が惜しいです。もっと早い物を用意しています。……あれをご覧ください』

 

 アルサムに応えるフォリりんの言葉と共に、べズヴィルドの格納庫が開かれる。

 

 ……そこにあったのは、なんか弾道ミサイルっぽい飛行機だった。

 

「「ミサイルじゃねえか!!」」

 

『失礼ですね、古城に兵夜。これは試作型の無人偵察機です。偵察用の機材を取り除いて、人を格納できるようにしています』

 

「そこはせめて、搭乗と言って欲しかったな」

 

 俺と暁のツッコミに面白そうに返してきたフォリりんの言葉に、アルサムは何かに耐える表情で目を瞑る。

 

 ま、まあ似たような経験はあるし、どうにかなるだろう。

 

「と、とにかく行くぞ。マッハ3ぐらいなら俺はかろうじて耐えられる。経験したから大丈夫……時間かかると吐くけど」

 

「お前、どんな修羅場を潜ってきたんだ?」

 

 仕方がないんだ。艦隊戦のど真ん中を強行突入するには、それぐらいしないとまずい。

 

 まあともかく、俺は咳払いでごまかすと気合を入れ直して乗り込もうとする。

 

「とにかく急ぐぞ。ヴァーリはバトルジャンキーだからな。つい興が乗ってフェリーに沈没級のダメージが出る可能性が少なからずある。そうなれば金銭的賠償で俺が痛い」

 

「あの、もう”賢者”とか言うのがそのヴァーリって人に倒されることが前提になってるのはどうなの?」

 

 藍羽、お前はヴァーリの恐ろしさを知らないからそんなことが言えるんだ。

 

「……アイツが本気を出せば、エイエヌすら一対一(サシ)で殺せるかもしれない。歴代でも最強クラスの神殺しの持ち主がまがい物ごときにやられるとでも?」

 

「少なくとも、足止めはきちんとしてくれるだろう。はっきり言って飛行船で行っても間に合うのではないか?」

 

 俺やアルサムも、万が一の危険は考慮しているが割とおっとりできる。

 

 それほどまでに、ヴァーリ・ルシファーは強いのだ。

 

 とはいえやはり念の為だし、漫才せずにさっさと行くか。

 

「……お待ち、第四真祖」

 

 と、その声に俺達が振り向けば、そこには猫と煌坂の姿が。

 

 あれが暁の言っていたニャンコ先生か。そして煌坂の姿をしているのは使い魔……いや、あれは。

 

「まさかあんたがメイド服を着る羽目になるとはな」

 

「……切るわよ、宮白兵夜」

 

 今のは別にセクハラでも何でもないだろうに。

 

「お前、本物か!!」

 

「本物で悪いか!!」

 

 暁との間で漫才が始まりそうだったが、しかしそんなことをしている場合でもない。

 

 まあヴァーリもそろそろ着いている頃だろうし大丈夫だろうが、さてさてどうしたもんか。

 

「まあいい。藍羽、念の為フェリーの位置情報を確認してくれ。万が一にでもずれてたらややこしい」

 

「分かったわよ。すぐに終わらせるわ」

 

 ああ、そしてすぐに決着を付けよう。

 

 これが終わったらヴァトラーとヴァーリの模擬戦があるのだ。精々神殺しを成し遂げた話を聞かせて悔しがらせてやろう。

 

 そしてすぐに暁も戻ってくる。

 

 その手には雪霞狼の姿もあり、これはどうやら確実に勝てそうだ。

 

 待っているがいいクソ野郎ども。

 

 毎回毎回ここに来た時にトラブル続きで腹立ってるんだ。八つ当たりはしない主義だが、今回のトラブル分はしっかり請求させてもらう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして振り向いた瞬間、爆発が三連続で響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 直撃したのは試作型航空機と南宮那月とニーナ・アデラード。

 

 ぶっちゃけ南宮那月の方は本体が別の場所にあるので不安はない。ここはいい。ニーナもコアは外れているようだからこっちも即座に死ぬことはないだろう。

 

 だが、頼みの綱の試作型航空機が破壊されたのはマジでやばい。

 

 そして、それをなしたものの正体もすぐに分かっている。

 

 なにせこの攻撃、少し前に洗礼を受けたばかりなのだから―

 

「何をしやがる、フォンフ・アーチャー!!」

 

 振り返りざまに光魔力の槍をぶっ放すが、しかしそれはすぐに撃ち落とされる。

 

 そこにいたのは、三人のフォンフ。

 

 一人は色黒になっているフォンフ。想像通りのフォンフ・アーチャー。

 

 一人はちょび髭をはやしたフォンフ。おそらく須澄達と交戦したフォンフ・ランサー。

 

 そして最後の相手だが、これが一番やばかった。

 

 その両手には、まったく同じ剣を二つ持っていた。

 

 一段目にやばいのは、それが聖剣だということ。

 

 二つ目にやばいのは、それが超強力だということ。

 

 三つ目にやばいのは、それが二本あることがイレギュラーだということ。

 

「……デュランダル!?」

 

「ああそうだぜ? 俺がフォンフ・セイバーだ」

 

 そう自慢げに告げるフォンフ・セイバーは、二振りのデュランダルを構えると俺達を睨み付ける。

 

「でぇ? 俺は誰を斬ればいいんだよ、フォンフ・アーチャー」

 

「誰でもいい。必要なのは、カルナを動かさせないようにするやつらを足止めすることだ」

 

 フォンフ・セイバーの質問にそっけなく答えるフォンフ・アーチャーの言葉で、俺は全てを理解した。

 

 ああ、こいつらの目的は賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)ではない。

 

 こいつらの目的は―

 

「貴様ら、目的は姫柊ちゃんか!!」

 

「姫柊が目的? どういうことだ!?」

 

「ゆ、雪菜が欲しいですって!? だったらなおさら邪魔しないでよ!!」

 

 疑問符を浮かべる暁と、何か勘違いしている煌坂。

 

 うん、それ違う。

 

『紗矢華。たぶん、貴女は勘違いをしています』

 

「……え、でも雪菜はすっごく可愛いし良い子だし!?」

 

「そっちじゃない。姫柊ちゃんが持っている()()の方だ」

 

 フォリりんのツッコミに動揺を隠せていない煌坂に、俺は説明をする。

 

「インド神話の英雄、カルナとアルジュナはライバル関係だ。だが、最終決戦でカルナはあらゆる邪魔が入り、アルジュナはそれをつくのを躊躇するが、しかし同胞であるクリシュナに諭されて結局はまともに戦えないカルナを射殺した」

 

 そう、俺はウィキ程度の知識しかないが、そんな感じだ。

 

 その後、アルジュナは晩年を一人で過ごしたという。

 

 ………高潔な英雄として有名なアルジュナを、フォンフとここまで高水準の融合を行わせる渇望。

 

 召喚に応じる英霊は、基本的に聖杯に願望があって召喚される。

 

 聖杯がない召喚で来る以上、それは聖杯を使わなくても叶えらえる可能性がある願い。……いや、違う。

 

 フィフスと密度の濃い付き合いの俺だからこそ分かる。

 

 あのフォンフ、かなり塗り替えられている。

 

「……姫柊ちゃんにカルナの力を使わせる、もとい慣れさせることが目的だな、アルジュナ」

 

「……その通りだ」

 

 透明さすらにじませる声で、フォンフ・アーチャーは答えた。

 

「俺は、このチャンスだけを望んで憑霊に応じた。フォンフという巨悪に対抗する存在が召喚されるのなら、あの男は必ずフォンフの敵となるだろう。……そして、それは事実だった」

 

 遠い目で、フォンフ・アーチャーは語る。

 

 それは、叶うはずのない念願が叶った事を感じる者の目。感情の名は間違いなく歓喜だ。

 

 だが、その表情はどこか陰りを宿していた。

 

「だが、この依代は強大過ぎる。その拳と肉体で、私やカルナすら屠りかねないほどに」

 

 それが陰りの原因か。

 

 神すら殺す神滅具。その瞬間的価値暴走レベルの禁手で生まれた獣鬼の一体を宿し、フィフスの能力を高水準で受け継いだフォンフシリーズ。それもサーヴァントを宿すのなら高性能のものだろう。

 

 念願を叶えるのならば、カルナにもまたそれ相応の依代が求められる。

 

「幸いにも、彼女には素質がある。かつての私がいた神代でも、彼女ほどの女傑となる資質を持つものはいそうはなかっただろう」

 

 想像以上にべた褒めである。流石に驚いた。

 

 しかし、それは決して好意的に受け取っていいものではない。

 

 フォンフ・アーチャー(アルジュナ)の目的は、フェアな条件による姫柊雪菜(カルナ)との決戦。それはこの会話でよく分かった。

 

 だが、なんという不幸なことか、授かりの英雄とすら呼ばれたアルジュナは、今回の憑霊の時点で圧倒的なアドバンテージを保有していた。

 

 魔獣創造によって生み出された、文字通り最高レベルの肉体と、異形社会でも最高峰の格闘戦闘技術。その二つを保有しているフォンフは、その時点で生半可な英霊なら返り討ちにできる圧倒的な戦闘能力を保有する。結局、俺こと宮白兵夜は、一対一ではまともに勝ったことなどありえなかった。アースガルズのロキとオリュンポスのハーデスを半殺しにした、神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)と呼ばれる俺がである。

 

 それに対して、いかに優秀な成績を残したとはいえ中学三年生の少女がどこまで対抗できるかなど、考えるまでもない。あの子は確かに俺達の世界(D×D)でも歳と不釣り合いに優秀だが、それでも歳と不釣り合いなレベルの範囲内だ。

 

 もし今の状態でフォンフ・アーチャー(アルジュナ)姫柊雪菜(カルナ)が激突すればどうなるか。

 

 ……一対一ではどうなるかなど言うまでもない。フォンフ・アーチャーの懸念はそこにある。

 

 アルジュナが授かったフォンフ・アーチャーという肉体。その圧倒的なアドバンテージに対抗できる存在。カルナを宿す姫柊ちゃんにアルジュナが求めているのはまさにそれだ。

 

 そう、ゆえに―

 

”賢者”(まがい物の神)如き倒してくれなければ困るのだ。余計な茶茶など必要ないとは思わないか?」

 

 そう、フォンフ・アーチャーは理解を求めた。

 

 目を見れば分かる。これはマジだ。

 

 フォンフ・ランサーとフォンフ・セイバーはそのおもりだ。フォンフ・アーチャーだけ先行させて俺達に倒されても困るということで、護衛の為についてくる羽目になったに違いない。

 

 な、ななななんということだ。

 

「……ふざけんな!! お前のそんな勝手な都合に、姫柊を巻き込むんじゃねえ!!」

 

 当然暁はブチギレる。

 

 いや、俺も同感だ。流石に勝手が過ぎるだろう。

 

 いかにフォンフが混ざっているとはいえ、まさかこれが一つの神話における屈指の英雄であるアルジュナだとは思わなかった。

 

 英雄も、所詮は人々の勝手な幻想によって彩られた存在だということか。一皮むいて本質を見れば、意外と人間臭いというかなんというか。

 

「……なるほど、死後も縛る苦痛とは、こうも非道を行うことを許すほどに苦しいものなのか。……後悔ない人生を送れと人は言うが真実だな」

 

 アルサムもまた、呆れ半分で頭を振りながらルレアベを抜く。

 

 怒ればいいのか呆れればいいのか分からないといった表情だが、まあ今は全力で戦闘準備をしなければならないということだ。

 

 なにせ、相手はあのフォンフ三人。

 

 天龍クラスの覇を持ちいらねば圧倒することなどできない存在。それが戦闘向けの英霊を宿した状態で三人。

 

 宿しているのはまず間違いなく正真正銘のサーヴァント。それも、三騎士クラス。

 

 断言しよう。間違いなく強敵だと。

 

 ゆえに、俺は一気に前に出ようとしたその瞬間―

 

「―あなたの相手は私よ」

 

 後ろから迫りくる越智を相手に、義足で迎撃した。

 

 そのまま衝撃で十メートルはずれるが、しかし何とかギリギリで防げた。

 

「……越智だったか。悪いが、今は欠片も余裕がない」

 

「それが? そういう正論を受け入れられるのなら、こっちは最初っから復讐なんてする気はないのよ!!」

 

 放たれる連続攻撃を裁きながら、俺はとにかく情報を収集する。

 

 年齢は二十代前半。性別はどう見ても女。髪は黒のショートで目は釣り目気味の黒。

 

 ボクシングというよりかは拳闘というべき戦闘スタイル。加えて小刻みに動きを入れてくる辺り、機動力でかく乱するスタイル。

 

 そして展開されているのは外骨格。おそらくは幻想兵装だが、英霊にはかなりバリエーションがるのでこれだけでは想定は不可能。

 

 そして、何より警戒するべきは―

 

「―ッ!」

 

 交わした拳から生えてきた骨の刃を、俺は魔力を収束させて防ぐ。

 

 そう、この外骨格の形状があまりにも自由に変化できるということだ。

 

 これではギリギリの回避は逆に危険。やるとするならば大きくかわさなければならないな。

 

 これは、まずい。

 

「宮白!!」

 

「下がれ暁!! ……奴に気を向けている余裕はないぞ!!」

 

 とっさに前に出ようとする暁の肩をアルサムが掴む。

 

 当然だ。既にフォンフシリーズは全員が魔獣を生み出している。

 

 ……このままだと、確実にやばいことになるな。

 

 べズヴィルドからも騎士団やら魔導兵器が出てくるが、しかしそれでもこれはキツイ。

 

 せめてもう一人、それもサーヴァントクラスの戦力がいてくれれば……!!

 

「よそ見は厳禁よ!!」

 

 っと!! これはまずいか―

 

「それはこちらのセリフだ」

 

 ―その瞬間、分厚い筋肉の塊が割って入った。

 

 外骨格を纏った越智の拳は凶器としてもトップクラス。生中な聖剣など歯牙にもかけない。

 

 それを、あろうことか素手で受け止めている存在がいた。

 

「……なんだ、あの爺さん!!」

 

「……よもや、彼がこの場に出てくるとは!!」

 

 暁とアルサムが、それぞれ意味の違う驚愕の声を出す。

 

 そして、何よりもフォンフ達が警戒心を強めていた。

 

 特に警戒の色が濃いのが、フォンフ・セイバー。

 

 敵意の色をより濃くしながら、静かに腰を落とすとデュランダルを構える。

 

「チッ! いずれ斬るつもりだったがここで来るか!!」

 

 その言葉と共に駆け出す中、その人物が悠然と振り返る。

 

 御年80を超えた人間でありながらも、おそらくこの場で最強格であろうその人物。

 

 威厳とカリスマを垂れ流し、全員の視線を釘付けにするそのお方は、一振りの剣をあらわにした。

 

 それは、教会が開発したレプリカのデュランダル。

 

 だが、彼が使えば生中な使い手が使う真のデュランダルすら凌駕する。

 

「無事であったな、宮白兵夜よ。この老骨、微力ながらはせ参じた」

 

 その頼りになりまくる言葉と共に、元司祭枢機卿、ヴァスコ・ストラーダ猊下がデュランダルを迎撃した。

 




フォンフ・アーチャー「嘘、俺の宿敵……新米すぎ?」

おそらく誰にとっても予想の斜め上を飛んでいったであろうフォンフの行動。ぶっちゃけセイバーもランサーもアーチャーに振り回された形です。

アルジュナの無念に強く引きずられているフォンフ・アーチャーにとって、カルナとの決着は全人類貧乳化よりも優先されるべき事柄。しかし最悪なことにここでも授かりが足を引っ張る。

世界的に見ても超優秀な人型兵器であるフォンフ・シリーズを依代としてしまったアルジュナと、間違いなく優秀とはいえ実戦経験も少ない見習いの雪菜とでは素体の戦闘能力に天と地の開きがあります。フォンフ・シリーズは素体が豪獣鬼であることを考えればムリゲー一歩手前でしょう。

そんな時に現れた”賢者”。死ににくさはともかく火力ならフォンフ・シリーズを大幅に下回っています。

……よし、当て馬にしよう!! 少なくともカルナに慣れてもらおう!! と、考えたのがフォンフ・アーチャーです。









バカって言っていいのよ?

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