HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
「すごいノーヴェ! いつの間に瞬動術習得してたの?」
「今のすっごいねっ! 何々? どうやったのっ?」
「いや、アインハルトを指導するなら、習得しといた方がいいと思って……その……」
はしゃぎながら賞賛するヴィヴィオとトマリに、ノーヴェは少し照れながらしどろもどろになるがすぐに我に返る。
あのフォンフがこの程度で終わるわけがない。少なくともとどめはさせてないはずだ。
瞬動術を利用した見事な反撃に思わずテンションが上がっていたが、そんなことをしている場合ではなかった。
直ぐに全員が我に返って迎撃態勢を整える中、砲撃によって発生した煙が張れる。
……そこにいたフォンフ・ランサーは盾を持っていた。
そして、その盾はあまりに特殊だった。
基本は十字架。そしてその周りをプラズマと化した炎が流線形の形をとって楯となしている。
そして、その盾はザ・スマッシャーの一斉砲撃を難なく防ぐほどの楯だということだ。
その事実に全員がさらに警戒する中、しかしフォンフ・ランサーは肩をすくめると踵を返す。
「今日のところは退くとしよう」
「……どういうつもりだよ?」
ノーヴェはいつでも飛びかかれるようにしながら、そう尋ねる。
現状は未だフォンフの方が優勢だ。にもかかわらず撤退しようという。
ここで自分たちを殺せば、少なくとも兵夜に対する意趣返しにはなるだろう。にもかかわらずそれをしないとはどういうことか?
それに対して、フォンフは肩をすくめた。
「宮白兵夜なら増援を差し向けるだろう。それに、この都市は兵藤一誠とアルサム・カークリノラース・グラシャラボラスの会場とも近い。これ以上の戦闘は集中攻撃を受けるだろうからね」
その言葉とともに、フォンフは黒い霧に包まれる。
それが転移用の装備であることは全員が知っていた。ゆえにこの撤退が本気であることも理解する。
「まあ、結果としては好都合なこともあったのだよ。君たちがそれを理解するころには、手遅れだろうけどね」
その言葉とともに、フォンフ・ランサーは転移を完了させた。
「……ノーヴェ。あの人何がしたかったんだろう?」
ヴィヴィオの疑問ももっともだ。
だが、それを答えらえる者はいない。
「兵夜に対する嫌がらせ……ってのも妙な話だな。よくは知らないけど、話を聞く限りあいつはもっと慎重に動けるはずだ」
「だよね、そうだよね。オリジナルのフィフスも活動的だけど、いろいろ考えて動いてたっていうし」
ノーヴェも須澄もそれはわかる。全員それは聞いている。
だが、だからこそわからなかった。
あの男が、ただの嫌がらせでそんなことをするというのだろうか?
少なくとも兵夜から聞いたオリジナルのフォンフは、明確な勝算か何らかの下準備のために動く男だった。
……なにか、無性に嫌な予感を感じてしまう。
そんな不安な感覚が、全員の間で感じられた。
「今回は本当に申し訳なかった!」
とりあえず休息をとって次の日の朝、俺は速攻で謝りたおす。
いや、本当に申し訳ない。なんかマジでごめん。
念のための警戒のつもりが、マジで一番厄介なポジションに送り込んでしまった。
とりあえず、あのウッドフィールドは速攻で指名手配している。
とはいえ、今回完璧にフォンフ一派におちょくられた形だ。マジで面目ない。
ことオリジナルのフィフスを討ち取った俺がフォンフにおちょくられたというのは、間違いなく今後の心象にダメージが入る。
結果としてノーヴェたちが撃退した形になったのは感謝するほかない。何かしらお礼をしなければいけない立場だ。
「どんな形とはいえフォンフ・ランサーを追い返してくれた助かった。あとでお礼をさせてくれ」
「いや、いいっていいって。あんたにはエイエヌ事変でヴィヴィオやアインハルトが世話になってるしよ」
しかし、このメーデイアの危機を救ってくれた以上、何かしらのお礼はしておかないと―
「気にしないでください、兵夜さん」
ヴィヴィも視線を俺に合わせてそういってくる。
「友達を助けるのは当たり前のことじゃないですか」
………。
「みんな。俺は、自分の汚れっぷりが時々情けなくなる」
「いや、これは確かにきついな。大将みたいな汚れキャラには、この純粋さは時として猛毒だよな」
うん、わかってるなグランソード。それはそれとしてお前間に合っとけよ。
いや、ほんとお客様にご迷惑をかけて申しわけない。今後に備えて防衛戦力をより強化する所存であります。
まあ、今回は本当にただの嫌がらせっぽいんだがな。
「しかし、フォンフの推定戦力からしてみれば数が少なかったですの。フォンフなら魔獣の量産能力がありますし、もうちょっと本気で殺しにこれたのではありませんの?」
物騒だが、雪侶の意見ももっともだ。
あのフォンフが、こんな完璧な様子見で動くか?
あいつ、こんな手抜きな戦法を取ってくるような奴じゃないんだが……。
「少し警戒をするべきだな。……アザゼルに頼んで手すきの戦力を動かしてもらうか」
もしかしたら、フォンフは俺たちの想像よりはるかに何かをしているのかもしれない。
今回の襲撃はそのための陽動が本命かもな。
「……これは、僕たちも覚悟決めないといけないかな」
と、須澄が何かの決意を決めた表情でそうぽつりとつぶやく。
その言葉に俺たちは不思議だったが、アップとトマリは笑みすら浮かべて頷いていた。
「好きにしなさい。私たちは貴方のものなんだから」
「そうそう。須澄君が決意したなら、一緒について行くよっ」
「……そういえば、前に魔王様に呼び出されたことがあったな。それ関係か?」
そういえばあれ何なんだ?
不思議に思って聞いてみるが、須澄は苦笑するとあるものを取り出した。
それは―
「
シルシがその目で一目で見抜くが、それはどういうことだ?
「うん、うんそうだよ、食客の駒って言うんだよ」
聞いたことがないな。新しく作ったやつか?
「なんでも、E×Eに対抗するために、眷属悪魔制度とは別の形で転生悪魔を用意するって話が出てるのよ」
「そして、なんと須澄くんはその第一陣の候補としてスカウトされてるんだよっ!」
補足説明ありがとう、アップにトマリ。
……ん?
「うちの、フォード連盟関係者が悪魔と関わるなら、寿命が長い人がいた方がやりやすくなるってことで何人か話が合ってね。僕はフォード連盟の政府とは関係がないから保留してたんだけどね」
そういって苦笑する須澄は、しかし頭を振ると決意に満ちた目をした。
「だけど、これからを考えると強くなれるチャンスは逃せないよ。アザゼル杯にしても、フォンフにしてもね」
………なるほど、な。
悪魔の駒は使用者の能力を上昇させる効果がある。それを使った強化を考えているんだろう。
「安易なドーピングはお勧めしないぞ? 強くなるなら自力で頑張った方がいいに決まっている」
「もちろん、もちろん僕も特訓するよ? だけど、それだけじゃない」
須澄は不敵な笑みを浮かべる。
「食客の駒の転生悪魔は、戦果次第で普通の転生悪魔のように上級に昇格できる予定なんだ。そしたら、僕も眷属悪魔が持てるんだ」
「それで? お前も俺のライバルになるのか?」
「……ううん。其れよりもやりたいことがある」
ああ、それは何だ?
「……独立して次のアザゼル杯に出て、僕は願いをかなえたい。できればでいいけど、やってみたいことがあるからね。……あ、それはまだ内緒だよ?」
そういうと、須澄は一瞬アップとトマリをみた。
ふむ。なるほど。
……そういうことか。
「そのためにも、今回のアザゼル杯は頑張るよ。経験は積んでおかないとね?」
「OK。そういうのも大歓迎だ。ただし、今回は俺のチームとして頑張ってくれよ?」
なるほど、俺の弟はいろいろ考えているらしい。
ちゃんと頑張れる弟をもって、俺も幸せもんだねぇ。
「サンクスだよフォンフシリーズ。おかげで勘違いしてくれたみたいだよ」
「気にしないでくれたまえウッドフィールド。俺としても、兵藤一誠を倒したい敵は多い方がいいからね」
「でも、これで必要なデータはとれたよ。それにグッドなものも見れたしね」
「はっはっは。どうせ知られても構わない代物だ。陽動もかねて一つぐらい見せた方がいいかと思ってね」
「イグザグトリィだよ! 確かに、これはなかなかいい衝撃的事実だよね。こちら側に対する怪しいところなんて気にならないよ!!」
「