HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
そして、試合開始まであと少しという段階になって、実況が声を張り上げる。
『さあ、皆さんお待たせいたしました!! 今回もまた注目の一戦です!!』
わぁああああ! と歓声が上がる中、実況は負けじと大きな声を上げた。
『今回の一戦は、将来の魔王候補と噂される者同士の注目の試合!! 本選出場も夢ではない冥界の若き代表たち、ついにお互いに激突する!!』
そして、それぞれの入り口から出場者が姿を現した。
『まずは!! 異世界の大規模連盟フォード連盟を救済した立役者の一人!! 魔王剣ルレアベに選ばれしグラシャラボラス家の救世主!! アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス率いる魔王剣チーム!!』
そして姿を現すのは、十五人の選手たち。
アルサムを戦闘に、リオとコロナの姿も見えた。
「あ、リオとコロナ!!」
「やっぱり、すこしはしゃいでるな」
ヴィヴィとノーヴェが気づいた先には、少し場の空気にあてられているのか、視線があっちこっちに向いているリオの姿が。
コロナのほうは結構平然としているが、よく見ると視線が少しきょろきょろしている。
「DSAAの時はだいぶ落ち着いてたんだけどな、コロナは。やっぱり人数が違うか」
「あまねく異形たちが観戦するために金出してるからなぁ」
俺とノーヴェは、顔を見合わせると苦笑する。
みれば、フォード連盟の人たちもまだ緊張しているのか上がっている節がある。
まあ、この人数に注目されるのは結構きついだろう。注目の一戦だからなぁ。
しかし、それ以上に気になる点が一つあった。
「……大将、アルサムの奴、マジみたいだな」
「そうですのね。まさか、試合開始前からルレアベの分身を携帯させているとは思いませんでしたの」
グランソードと雪侶が言う通りだ。
今回、全メンバーの腰にはルレアベの分身が下げられている。
ルレアベの特殊能力の一つ。特殊能力を持たない分身の生成。
それは、特殊能力など一切ない。疑似宝具であるがゆえに、持っている真名開放も使えない。
だが、それでもそれが持っているというそれだけで最上級悪魔すら殺しうる能力を持っていることの証である。
さらに、リオとコロナ以外の全員が、ネックレスらしきものを装備している。
おそらくはデバイスだろう。何を考えているのかは知らないが、どうやら割と本気で戦闘準備を整えたらしい。
これは、かなりマジだろうな。
「……おまたせっ! ちょっと観光してたら遅くなっちゃったよっ!!」
「それで、それで試合はどうなの!?」
「落ち着きなさいよ。この時間ならまだ試合そのものは始まってないだろうから」
と、トマリと須澄をなだめながら、アップもまた席に着いた。
「デートは楽しかったか?」
「それはもう。観光名所にしてもいけそうな、いいところじゃない」
「本当にありがとうねっ! おかげでとっても楽しめたよっ」
俺の茶化し半分の質問に、アップもトマリの笑みを浮かべて返してくる。
ああ、余計な邪魔はせずに素直にデートさせたのだが、しかしここまで楽しんでもらえたのならそれはよかった。
「ホント、本当にありがとう兄さん。おかげでだいぶ楽しめたよ」
「別にいいだろ。大将は金持ってるんだからよ。第一領地なんだし弟招待したところで何か言われるもんでもねえよ」
「その通り。そういうわけだから、これからも楽しんでいっていいわよ、須澄くん」
心底嬉しそうにお礼を言う須澄に、俺より先にグランソードとシルシが返答する。
まあ、俺も同意見なわけだ。
平行世界の俺のせいで、いろいろと翻弄された三人だからこそ、せめてこういう時ぐらい幸せな時を過ごしてほしい。
悪行に加担したアップにはいろいろあるだろうが、たまにはいいだろう、たまには。
「感謝してくれるなら、イッセーの応援をしてくれるといいんだけどな」
「それは無理。絶対無理。だって変態なんでしょ?」
あまりにバッサリと須澄は断ち切った。
ああ、松田と元浜の同類だからなぁ。たぶん新技開発してるだろうし、警戒心が先に立つか。
まあ、これに関してはイッセーの自業自得なので今更か。アイツ、周りが受け入れてくれる人が多すぎるせいで治すの忘れてないだろうか?
まあ、それは置いといて。
『冥界の未来を担うであろう、若き英雄たちの対峙!! この時点で手に汗握ってしまいます!!』
実況が割とテンション高めで実況する中、イッセーもアルサムも静かに視線を交わす。
そして、すぐに今回のルールが発表される。
『出ました!! 今回のルールは……スプレッド・フィールドです!!』
ほう、スプレッド・フィールドか。
スプレッド・フィールド。基本ルールは2時間の
ルールは王の敗北またはチームの全滅、もしくは制限時間終了時の残った駒価値分のポイントで勝敗が決するタイプだが、最大の特徴がある。
それは、チームメンバーを大きく分散することだ。
試合開始と同時に、全参戦メンバーはフィールド上にランダムに転送される。そして、通信に関しても妨害されてしまうため、ある程度近づかないと通信ができない。場合によっては目と鼻の先に敵がいるということもある状況だ。
そんな状況でのチーム戦の戦いなので、純サポートタイプは苦戦を強いられる。今回の場合、アーシアちゃんが危険だ。
また、通信をつなげるのが困難である都合上戦略的な動きを取りにくい。そのため軍師タイプは本領を発揮する前にリタイアする場合もある。
個人の戦闘能力と、運が試されるがこの試合だ。
「……アーシアの嬢ちゃん、やばくねえか?」
「ヤバイな。この試合、どちらのチームが先にアーシアちゃんを見つけるかがカギとなるといってもいい」
グランソードの懸念に俺も同意する。
言っては何だが、アーシアちゃんは純粋なサポートタイプだ。個人戦闘能力は低い。
それを補うために使い魔を持っているが、しかしレーティングゲームは使い魔の使用に制限が入るのが基本。ファーブニルはごく短い時間しか使用できないだろう。ほかの邪龍たちも、一対一で勝てるのは駒価値1のフォード連盟の者たちぐらいだろう。
しかし、レーティングゲームにおいてアーシアちゃんの回復力は驚異的。あの回復力を超える回復系統は、時空管理局などを含めてもそうないだろう。
この試合、先にアーシアちゃんを発見した方が……試合の流れを傾けるな。
それを察して全員が押し黙る中、画面の中でアルサムは一歩前に出た。
『兵藤一誠、折り入って告げることがある』
『へ?』
イッセーがきょとんとする中、アルサムはまっすぐにイッセーを見つめる。
『この試合。私はどこに転送されたとしてもフィールド中央部にむかって進撃する』
そう、アルサムははっきりといった。
そして、ルレアベを引き抜き掲げると、さらに続ける。
『そこで、一対一の勝負を申し込む』
その言葉に、会場中がどよめきに包まれる。
『あ、アルサム選手、まさかの一騎打ち宣言です!! これはすごいことになってきたぁああああ!!! どうでしょうか、解説の青野選手』
……ちなみに、今回の解説には小雪がバイトで参加している。
アイツ、俺と似て人がいいな。断っても罰は当たらんだろうに。
『……個人的には前の試合で言ったことがある手前、断れと言いたいところ何だけどな。……ファックだがこれは試合だし、まあ別にいいんじゃねえか?』
『とのことです! さあ、我らがおっぱいドラゴンはどう返答する!?』
さて、小雪からの許可は下りたようなもんだ。それでどうする?
「……あれも作戦の内か?」
「さて、どうでしょうか。イッセーにぃなら受け入れてお不思議ではありませんですが、やはり乳技封じですの?」
ノーヴェと雪侶が首をかしげる中、イッセーも同様だった。
ちょっとよくわからないといった顔で、イッセーは首をかしげる。
『それ、もしかして俺がリオちゃんとコロナちゃんにおっぱい技使うかもしれないから?』
『それもある。だが、ほかにもある』
アルサムは否定せずに、しかしさらに続ける。
『魔王を目指すものとして、乗り越えねばならないものがある』
アルサムは、まっすぐにルレアベの切っ先をイッセーに突き付ける。
それは、正真正銘の宣戦布告。
『悪魔の統率者である魔王……その新たなる領域へと至るのならば、ルレアベというハンデがあるうえでならばどのような悪魔が相手あろうと渡り合えねばならないだろう』
確かに、そうだ。
二足三足の草鞋を履くことが当然ともいえる悪魔業界。必然的に悪魔の統率者として前線に出てくるときもある。
ゆえに、魔王にいたるものは戦闘能力も必須項目。魔王……そしてその後継たる九大罪王になるというのならば、悪魔の中でも最高峰の力を持たねばならない。
そして、イッセーもまた九大罪王候補。そしてその戦闘能力は必然的に悪魔全体で見ても最強候補だろう。
そのイッセーと並び立つ九大罪王になるのなら、イッセーが背中を預けられるぐらいの戦闘能力がなければならない。
その決意を胸に秘め、アルサムは真正面から声を上げる。
『たかだかレーティングゲームの地平で、ごくわずかな仲間の乳しか借りれない赤龍帝。……そんな不完全な乳乳帝と真正面から渡り合えずして、魔王の後継の末席に連なるなど笑止千万。これは……必要事項だ』
その言葉に、会場中がどよめきに包まれる。
ああ、そうだろう。
アルサムは今こう言ったのだ。
自分が魔王の後継になると、そう堂々と告げたのだから。
『はっ! ファックなまでに大口たたいたじゃねーか。兵夜が見込んだだけあって、すげーこと言うな』
唖然とする実況に代わって、小雪は面白そうに声を出す。
そして、小雪はまっすぐにアルサムを見据えた。
『それで? それは何かに誓えるのか?』
『……無論だ』
アルサムはそういうと、ルレアベを地面に突き立て、声を張り上げる。
『我が始祖たる初代グラシャラボラス。ルレアベに捧げられし初代四大魔王。そして今の悪魔をけん引する現四大魔王。そして……』
一瞬だけアルサムは言葉を切り、そしてなぜかカメラの一つに視線を向けた。
それは偶然にも、今俺たちが見ているテレビカメラだった。
『この試合を見ている、兵藤一誠の盟友にして私の後援者、宮白兵夜に誓おう』
「………っ」
い、いやいやいやいや。
俺、そういうのに使われるような人格者じゃないですけど!?
「これは、イッセーの奴も断れねえな」
「だよね、そうだよね」
グランソードも須澄も、何で納得してんの!?
『……こりゃ、さすがに断れなんて言えねーな』
小雪も納得!?
あ、あれぇ? あれぇ?
なんか俺がちんぷんかんぷん状態になっている中、イッセーは苦笑するとレイヴェルちゃんに振り向いた。
『悪ぃレイヴェル。これ、断れねえわ』
その言葉に、レイヴェルはしかし静かに首を振った。
『いいえ。どちらにせよ、魔王剣を保有するアルサム様に対抗するにはこちらもビナー様かイッセー様でなければなりません。存分に戦いなさってください』
そういってほほ笑むレイヴェルに、イッセーは静かにうなづいた。
『こ、これは面白いことになってまいりましたぁああああ!!! 今回のスプレッド・フィールド、同時進行でアルサム選手とイッセー選手の一騎打ちだぁあああああ!!!』
その実況の言葉とともに、大音量で歓声が鳴り響く。
オイオイオイオイ。これ、さすがにとんでもないことになってねえか、オイ!!
祐斗Side
僕、木場祐斗は主であるリアス姉さんたちとともに、イッセーくんとアルサム様の試合を観戦しに来ていた。
珍しいことにクロウ・クルワッハも来ている。
普段は全く試合に興味を示さないのに、彼は今回だけはあえて一緒に来ていた。
それほどまでに、イッセーくんの試合に興味があるということだろうか?
「でも、珍しいこともあるものね。そんなにイッセーの試合が興味あるの?」
「赤龍帝の試合がではない。今代の赤龍帝と魔王剣の担い手の激突に興味がある」
あのクロウ・クルワッハがそういうほどのものか、アルサム様は。
いや、確かに彼の言う通りだ。
宮白君が次期魔王に推す人物だ。彼ほど冥界の政治に精通している若手悪魔はいないし、それだけの人物だということなのだろう。
エイエヌ事変においても敵に与していたコカビエルの首級を上げるという活躍をし、さらにその後政権奪取を果たしたレジスタンスと懇意にしていたことでフォード連盟との交流へとつなげた大戦果を挙げた人物。
その際、禍の団の誘いにのって聖杯戦争に参戦したことは問題だけど、しかしそれを補って余りあるほどに成果を上げている。
本人の戦闘能力もすでに最上級悪魔クラスとも戦えるとも言われ、魔王剣を含めれば魔王クラスだろう。
なにせ、量産型の絶霧などを装備したあのコカビエルを倒したのだ。ルレアベの力あってのこととはいえ、それはもはや畏怖の念を感じるほかない。
戦闘データを見たヴァーリも「あの状態のコカビエルなら楽しめそうだった」といっていたのだ。戦闘能力の高さはもはや評価する以外にないだろう。
「でも、勝つのはイッセー先輩ですよね!!」
「あらあら。ギャスパーはイッセー君のことが本当に大好きね」
と、ギャスパーくんがヴァレリーさんにほほえましく見られている中、試合がついに始まった。
スプレッド・フィールドはその特性上、完全ランダムに全参加者が転送される。
この試合の流れを決めるのはおそらくアーシアさんだ。
彼女は直接戦闘能力は非常に低い。反面その回復能力は異能技術が流通している今においても最高峰の回復能力だ。
彼女をどちらのチームが先に発見するかで、勝負の流れは大きく変わる。それだけは間違いない。
「さて、アルサムはどう動くのかしら?」
興味深そうにリアス姉さんが画面に目を向けた。
―その時、フィールドの上空で閃光が放たれる。
『おぉっとぉ! 試合開始からわずかな時間で、いきなり謎の発光現象だ!』
『ばか、ただの発光弾だ。……しかし誰がこんなファックなまねしやがった?』
青野さんが実況に痛烈な言葉をかけて、しかしすぐに首をかしげる。
ちなみにいうと、この実況と解説の言葉、フィールドにいる選手たちには聞こえないようになっている。
味方との合流なども考慮する必要のあるルールだからだ。実況と解説の言葉で、その場所を把握されてしまう可能性もあるための公平性に配慮した対策だよ。
『リスク度外視で味方を集合させるための作戦か? ……危険度は高いが、合流されてから各個撃破されるわけにもいかんか』
『おそらくゼノヴィア殿なら向かうはず。待っていてくだされ、このボーヴァもお供しますぞ!!』
『潔い相手ね! いいわ、このミカエル様のAであるこの私が相手をしてあげる!!』
オフェンス側のゼノヴィア、ボーヴァ、イリナの三人がすぐにその光の下へと向かう。
どうやら信号弾はイッセー君たちの作戦ではないようだ。
そして、少しの間考えていたレイヴェルさんやロスヴァイセさんも同じように動き始めた。
『まずいです。おそらく何人かは間違いなくあの光の下に来るはずですわ』
『危険度は高いですが、逆にこちら側も何人も集まるはず。……毒を喰らわば皿までです!!』
二人は警戒していたけど、しかしほかのメンバーが動くことも考えて、あえて火中へと飛び込んでいく。
だが、僕たちがこれがもうひとひねり加えられた作戦であることに気づいたのは、すぐだった。
「これは……っ!」
「あらあら。そう来ますのね?」
「……ほぅ」
リアスねえさんも朱乃さんもクロウ・クルワッハも反応を見せる中、僕たちの見ている映像には信号弾を放った男の姿が映し出される。
ま、まさか彼がなぜこんなことを!?
Side Out
戦闘能力も考慮される悪魔の長を目指すものとして、不完全なイッセーぐらいは相手できないとまずい。アルサムはそう考えました。
そして開幕速攻の発光信号。普通に考えれば、敵にも位置がもろバレなのでうかつにできない方法です。
果たして誰がそんなことをしたのやら―