HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
展開されるのは魔力による障壁。だが、その出力が桁違いだった。
まず間違いなくレーティングゲームのトップランカー。それも魔力に長けた者でなければ出せないようなほどの頑健な魔力障壁が、全ての攻撃を防いでいた。
「え、これは……」
「理解したな。そう、貴殿はまだ弱い」
そして、その悪魔を庇える位置に、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラスが飛んでいた。
「だが、貴殿はまだ強くなれる。それだけの資質を持っている」
そういたわるように、アルサムは告げる。
「だが、それも輝く前に砕けてしまえば……ただの塵屑へと消えるのだ」
そう告げ、そしてアルサムは銃撃を放った集団に視線を向ける。
「そうはいかん。そうはさせん。それは認めん」
そこにあるのは、正真正銘の殺意。
「彼らは磨くことでより輝き、貴族に相応しい存在へと近づける。それを選ばんのは勝手だろうが、しかし機会を与えられる前に死なせるわけにはいかんのだ」
そして、切っ先をまっすぐに突き付けた。
「……何が目的かは知らんが、若い芽を摘むというのならば覚悟するがいい」
その怒りは、浴びせられるわけではない悪魔達が恐怖するほどのものだった。
そして、それを受けてなお、賊達は平然としていた。
恐怖を感じていないわけではない。それを飲み込んで冷静さを保っているのだ。
「……相当の修羅場をくぐっているようだな。禍の団の残党か何かだろうが、吐いてもらうぞ!!」
そして、アルサムは一気に剣を構えて突撃し―
「……伏せろ!!」
―かけ、とっさに庇っていた悪魔を地面に叩き付けた。
そしてそれと同時進行でルレアベをあらぬ方向へと構える。
次の瞬間、大出力の白い輝きがアルサムに直撃した。
それも、一つではなく三つ。
一つはルレアベで防げたが、しかしまだ二つが残っている。
もう一つは魔力障壁で防いだが、しかし一つが残っている。
そして、その一つが直撃した。
「あ、アルサムさまぁ!!」
悲鳴を上げ、直撃を受けたアルサムに駆け寄ろうとした悪魔がいた。
そして、焼け焦げたアルサムは即座に彼に突進する。
「うかつだ!!」
そしてアルサムが体当たりで弾き飛ばした瞬間、四方八方から攻撃が降り注ぐ。
現れた化け物と兵士達が、隙を逃さず突出した者達に攻撃を放ったのだ。
少人数のはぐれ悪魔の討伐程度しか経験のない貴族達では察知ができず、しかし幾度となく質の高い戦闘経験を積んでいたアルサムはその戦法を察知していた。
しかし、上級悪魔すら殺しうる火力を受けた直後では、対応に遅れが生じていた。
「チィッ!」
とっさに迎撃するも、全弾防ぐことはかなわず何発も突き刺さる。
さらに、先ほどの砲撃を放った存在がその巨体をあらわにした。
「あ、あれは禍の団の!?」
「巨大兵器だと!?」
かつて、禍の団は大型兵器をいくつも開発していた。
その中に、あの乳乳帝と呼ばれる前の赤龍帝と、神喰いの神魔と呼ばれる前の魔王の首輪を相手にして無事だった機体も存在する。
その名を、エドワードン。
あのキャスターが作り上げた、科学と神秘の融合した兵器である。
「……厳密に言えば、この世界で手に入る技術だけで作った劣化コピーだがな」
「黙っていろ。情報を漏らす必要はない」
ぽつりと呟いて嗜められたその声を、アルサムは決して聞き逃さなかった。
「なるほど、高位の
「アルサム様!? う、動いてはいけません!!」
慌てて悪魔の一人が介抱しようとするが、しかしアルサムはその手を跳ね除ける。
「そんなことをしている場合ではない。……呆けるな、今が好機だ!」
アルサムは立ち上がると、ルレアベを構えてその切っ先を突き付ける。
「先程の砲撃から逆算して、敵の主力はこれで打ち止めだ! すぐに囲いを突破して距離を取れ。それまで時間を稼ぐ」
「駄目ですアルサム様!! そのお怪我では―」
「戯けが! ここは戦場だぞ!!」
押しとどめようとする悪魔を一喝すると同時に、アルサムはルレアベを振るい放たれる攻撃を弾き飛ばす。
「覚えておくがいい。これが本当の意味で命のかかった戦場というものだ」
言うが早いか、アルサムは小規模な魔力砲撃を乱れ撃ちながら、エドワードン相手に戦闘を試みる。
連携を取りながら少しずつ削っていく戦法に移行したエドワードンを相手に、負傷しながらもアルサムは一歩も引かなかった。
「だが、この経験をもって生き残ることができれば、お前達は必ず成長する」
そう、それこそが経験を積むということ。
失敗を知り、それに対する術を理解する。これだけは、ただ生きていくだけでは手に入らない力の一つだ。
それを経験した彼らは、必ず一歩先を行くことだろう。
それは、きっと冥界の悪魔達をより良くする。
「ゆえに生き延びろ! 私も必ず追いつく!!」
「させるな! 一人残らず始末しろ!!」
即座に賊達が狙いを上級悪魔達に向けるが、しかしアルサムはエドワードンを相手にしながら砲撃を行い狙いをつけさせない。
「急げ!! お前達の成長こそ、冥界の未来を担うのだと知るがいい!!」
「いや、お前の存在も冥界の未来には必要だ」
その瞬間、行動していた怪物達が一斉に崩れ落ちた。
同時に、森の向こうで爆発が起きた。
「……エクソシストが全滅!?」
「チッ! ついに来たか!!」
破壊された方向に視線を向ければ、そこには赤い龍の鎧と青い剣の鎧が存在した。
「おいおい、そんなボロボロじゃあイッセー倒すのは不可能だぞ? さっさと終わらせて傷をいやしとけ」
「大丈夫ですか? 俺達が来たからには、もう安心していいですよ!」
そこにあるのは、冥界の未来を救った二人の英雄。
否。
世界の命運をかけた戦いに勝利した、二人の英雄が立っていた。
「来たか、宮白兵夜に兵藤一誠……っ!!」
そして、賊たちの視線が一斉に鋭くなる。
それは、明確な憎悪といえる感情だった。
「……流石に、この状況では勝てんか」
しかし、彼らの行動は明らかにそれとは真逆のものだった。
「総員撤収! 引くぞ!」
『『『『『ハッ!!』』』』』
その言葉とともに、一斉に彼らはグレネードを投げつける
投げつけられたグレネードは、一斉に煙を噴き上げると視界を隠す。
「煙幕とは古典的な手段を使ってくるな」
「宮白! 言ってる場合かよ!?」
冷静極まりない兵夜のセリフに、兵藤一誠は文句を言う。
何故なら、ここで敵を取り逃がすのは危険だということは誰もが理解していたからだ。
だがしかし、兵夜はどこまでも冷静だった。
「安心しろイッセー。既に米国にも事情は通っている。即興で作り直したにしては包囲網は優秀だ」
兵夜は既にこの戦闘に対する警戒網を厳重にしていた。
既に米国との間の誤解は解け、それを利用して警戒網を厳重にしている。
むろん、上級悪魔と渡り合う謎の勢力に対して沿岸警備隊の武装で対抗できるとは考えていない。
だが、相手の逃走方向さえ把握することができるのなら、追撃は大幅に楽になる。
一気に狭まった包囲網から逃げられる可能性もあるが、それはそれだ。
重要なのは貴族の子息達の無事の確保。最低でも最優先するべきことは行えた。
「別棟の方のライザーは?」
「大丈夫だ。そっちには眷属を送っている」
アルサムにそう答えながら、兵夜は怪物を送り込んできた者達の方向に視線を向ける。
襲撃を仕掛けてきたのは、いわゆる歩兵戦闘車と呼ばれる類だった。
大口径の機関砲などで武装し、歩兵を輸送する装甲車。
通常の装甲車との最大の違いは、より戦闘に特化しているといったところだ。
今回投入されたのは、迫撃砲を搭載したモデルだった。
それによる遠距離支援砲撃を中心とするモデルだが、問題はそこではない。
問題は、あれが神器と同等の能力を保有しているという点だ。
「十体前後の魔獣を生成し、それをある程度操作する戦闘装甲車両。大型化した人造神器といったところか」
そんなもの、相当の技術力がなければ生産できない。
開発したのはおそらく禍の団の残党だろうが、これはかなり厄介な部類だろう。
状況が状況ゆえに破壊するしかなかったが、しかし分散していた為何両か取り逃がしたと思われる。
これで実戦データが採られてしまった。今後はより改良発展したものが用意される可能性がある。
ようやく禍の団との戦いも終わり、ある程度は治安も回復した。本来なら、あとはどの勢力も戦力回復に努めたい時期なのだ。
頼みの綱はフォード連盟と時空管理局。しかしどちらもそれぞれ問題を抱えており、当初の想定よりも協力度合いは低くならざるおえない。
これは、かなり問題が発生していると考えるべきだろう。
「アルサム。悪いが計画は中止だ。……努力とは大変なものだという事実だけを教える結果になっただろうが、今は安全を確保することが優先だろう」
「だろうな。まったく、私の計画はどれも上手くいかないのか」
「現実なんてそんなもんだ。それともこれで諦めるのか?」
兵夜は揶揄するが、しかしアルサムは首を振る。
「まさか。トライ&エラーは物事の常識。この失敗をバネに、今度こそ私の成功方法を人に伝えて見せるとも」
そう挑戦的な笑みすら浮かべるアルサムに、兵夜もまた笑みを浮かべた。
「ああ、それでこそだ」
人類側、即座に撤退。
流石に赤龍帝と神魔、さらに魔王剣の三人を同時に相手する気はありませんでした。
ちなみに、あのエドワードンは第三次世界大戦及び五の動乱のどさくさに手に入れたエドワードンの劣化コピーです。キャスターがいないため魔術的な部分の手が足りてないのが現状なので、一対一の近距離戦になったら一蹴されます。即座に撤退したのも、三対三の状況に持ち込まれたら勝ち目がないからです。