HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ   作:グレン×グレン

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夜間の襲撃

 

 

 

 

 

「宮白さんの応援に来たんです。頑張ってるなら差し入れでも持ってこようかと思いまして」

 

 そういってアーシアちゃんが差し出してくるお茶を、俺は受け取った。

 

 なるほど、確かにイッセーらしい。

 

「そういうことですわ。お兄様が迷惑をかけていないか不安でしたので」

 

「うるさいぞレイヴェル。誇り高きフェニックス家の三男である俺が、そんなことをするわけがないだろう」

 

 憎まれ口をたたくレイヴェルにライザーは文句をつけるが、しかしその表情はお互いに笑顔だ。

 

「ふむ、そういえば深く挨拶をしていなかったな。アルサムだ」

 

「兵藤一誠です。イッセーて呼んでください」

 

 そういって、アルサムとイッセーは握手を交わす。

 

「……そういえば、新たな乳技を開発したと聞いたが本当か?」

 

「え? い、いや、何のことだか!!」

 

 ……そしていきなりアルサムの駆け引きに引っかかった。

 

 この馬鹿。もうちょっと駆け引きに聡くなってくれよ。

 

「……一応言っておこう。こちらも奥の手を一つ封印するので、できれば使わないでほしいのだが」

 

「………レイヴェル。俺は、どうしたらいい?」

 

 お前、そこは悩むところなのか?

 

「一応言っておくがイッセー。アルサムのところの新規メンバーはリオとコロナだ。……乳技使ったら〆るぞ」

 

「オマエどっちの味方だよ!!」

 

 イッセーには怒られるが、しかし十歳児に乳技使ったらさすがの俺も激おこだぞ。

 

「まったく。いろいろ頑張ってる宮白を応援しようかと思ったら、この親友ほんとひどいな」

 

「オマエも別ベクトルでひどいだろうが」

 

 そういい合いながら、俺とイッセーは笑みを浮かべる。

 

 まったく。お互いとんでもない親友を持ったもんだ。あきれるぜ。

 

「言っときますけど、俺は乳乳帝は使いますからね?」

 

「それはかまわんさ。こちらも覇剣は使わせてもらうしな」

 

 イッセーの言葉に、アルサムも平然と答える。

 

「勘違いしないでほしい。私は別に手を抜いてほしいといっているのではないのだ」

 

 そう。アルサムはそういうものではない。

 

「これは常識の問題だ。年端もない少女を辱めるようなことをしないでほしいというだけのことだよ」

 

「そ、そこまで俺は落ちぶれてないですよ!?」

 

 イッセーは心外だといわんばかりにアルサムに食って掛かる。

 

 だがなイッセーよ。お前反論できないだろう。

 

「おまえ、俺のところのイルとネルに洋服崩壊(ドレス・ブレイク)をしただろうが」

 

 半目でライザーからツッコミが飛んできた。

 

 確かに、自分の女を裸に剥かれたとなればライザーも思うところはあるだろう。

 

 だがライザー・フェニックス。お前も人のこと言えないだろう。

 

「ドラゴン恐怖症をリアスの裸見たさに克服したお前に言われたくねえよ!!」

 

「ああ!? リアスの裸が見れるなら押し切れるにきまってるだろうが!?」

 

 言うなり速攻でにらみ合う二人をスルーして、俺はアルサムに向き直る。

 

 そしてその後ろには疲労困憊の上級悪魔たちがいた。

 

「流石に、魔力がないとばててるやつらだらけだな」

 

「ふむ、最初からではこれでも重労働か。最初から厳しすぎるのは忌避感情を生む以上、もう少し加減するべきかもしれんな」

 

 なかなか困ったものだといわんばかりに、アルサムはうなる。

 

 だが、しかしこれは間違いなく身になるだろう。

 

 努力はかみ合えばきちんと結果を残す。ましてや才能を保有している上級悪魔ならなおさらだろう。

 

 彼らがきちんと努力を行って自分を高めることができれば、悪魔の未来はよりよくなるはずだ。

 

「そういえば、ゼクラム様に進言したのはお前だったな。礼を言おう」

 

「気にするな。俺は貴族の権威を維持する方法を考えたに過ぎない」

 

 説得も思った以上に楽に済んだからな。

 

 なにせ、似たようなことは下級悪魔でも行って成果が上がるということをテスト済みだ。

 

 俺はその成果を基にこう告げたに過ぎない。

 

―下級悪魔風情で効果が発揮するのです。真に優良種たる上級悪魔が行えば、それ以上の成果が生まれるのは自明の理ではありませんか。

 

 そうなれば、ただでさえ王の駒の不正使用でいろいろと権力削減されている大王派は巻き返しのために乗っかるものが多発する。

 

 なにせこの発言。真に上級悪魔にふさわしいのなら成果が出なければおかしいといっているようなものなのだ。

 

 否でも成果が出るまで頑張らせるにきまっている。

 

 まあ、完全文系で体育会系に向いてない輩もいるから、その辺のフォローを用意する必要があるけどな。

 

 ああ、だからこのままいけば、貴族連中の復権も見えてくるんだがなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くそ!! なんなんだ一体!!」

 

 一人の貴族が、水を飲むのに使用していたコップを地面にたたきつけた。

 

 ガラスだったので勢い良く割れるが、しかしそれを気にするものはいない。

 

「なんで俺たち強大な魔力を保有する悪魔が、こんなこととしないといけないんだ!!」

 

「同感だ。我々の進化にこのような下賤なまねをする必要があるのか?」

 

 相当不満がたまっていたのか、その怒りに同調する者たちが何人もいる。

 

「というより、悪魔が魔力を使わずに強くなって、何の意味があるのだ? それは転生悪魔のやることだろう」

 

「同感だ。真なる悪魔の誇りたる、魔力の強化こそが必要ではないだろうか?」

 

「まさか、アルサム様は宮白兵夜と共謀して、我々を無意味に疲弊させてさらに力をそごうというのか?」

 

 疲れているあまり、さすがにそれはないだろうといえるような推測まで飛び出してくる始末。

 

 それは裏を返せば、彼らが鍛錬を積んでこなかったことの証明だろう。

 

 それほどまでに、彼らは自然に成長する力だけでやってこれたのだ。

 

 だが、それがこの場において裏目に出ている。

 

「いや、しかしあの魔王の首輪の策だぞ? 転生悪魔でありながら、いまだ我らの再起を手助けしてくれるのだ。ならば何の効果もないわけが……」

 

「だが奴はルシファー様の義弟ともいえる立場だぞ? あの八方美人を信用しきっていいものか!!」

 

「公共電波で魔王を正座させた男に限ってそれはないだろう。馬鹿か貴様は」

 

「何だと!?」

 

 ストレスが限界に達しているのか、いい加減喧嘩が勃発しかねない勢いになっていた。

 

 だが、腐っても上級悪魔同士の喧嘩である。そうなればいったいどれだけの被害が出てくるかわかったものではない。

 

「おい、落ち着け!!」

 

「そんなことをすればアルサム様から雷が落ちるぞ!!」

 

 慌てて止めに入るものもいるが、しかしそれ以上に喧嘩腰になっている者たちも数多い。

 

「……いいだろう。この鍛錬の成果が出たのかどうか、貴様で試してやる!!」

 

「文句ばかり言っている者たちに何ができる!! アルサム様に続かんとした私の方が成長していることを見せてやろうか!!」

 

 そして、其のままストレスが戦闘という形で爆発しようとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか騒がしいことになってるから、とりあえず様子を見に行くか。

 

 どっかのブートキャンプ並みにハードだからな。さすがに初めての本格的な特訓がこれでは精神的な限界を超える連中が出始めてもおかしくない。愚痴ぐらいは聞いてやらないと。

 

 だが、できることならこれで努力の価値を知ってほしい。

 

 努力は、決して無駄なモノなんかじゃない。

 

 そりゃぁ、かみ合わなければどれだけ努力をしても意味がない。それは仕方がないことだ。努力も万能ではない。

 

 だが、努力はかみ合えば成果を出してくれるものなんだ。かみ合いさえすれば、無駄になることだけは決してない。個人差はあるがきちんと対価を払ってくれる。

 

 だから、その価値を知ってほしいと本心から願う。

 

 上級悪魔は間違いなく存在そのものが才能を持っているんだ。身体能力は人間をはるかに上回っているし、魔力という明確なアドバンテージだってある。

 

 彼らが努力することの価値を知ってくれれば、きっと彼らはもっと成長することができるはずだ。

 

 そうなれば、今の転生悪魔に傾いている流れも取り戻すことだってできるはずなんだが―

 

 と、思っていたら廊下に人影があった。

 

「……アルサム?」

 

「ああ、宮白兵夜か」

 

 そこにいたアルサムは、どこか疲れた感じがした。

 

 なんか、意外だな。

 

「どうしたよ。お前は基本裏打ちされた自身に満ちている男だろうが」

 

 才能は間違いなくウチの姫様以上。さらにサイラオーグでも認めるほどの過酷な特訓を積み、親が教育の重要性を比較的理解していることもあり、環境だってよかった。

 

 人を成長させる三つの要素を持っているのだ。こいつがすごい奴になるのは確定といっても過言ではない。

 

 そして、それをもってしてノブレス・オブリージュを果たさんという強い意志を持つ。

 

 王侯貴族は奉仕対象なのだから、奉仕したいと思わせる存在でなければならない。なんであれ民に選ばれた存在であるのならば、それを証明することが義務。

 

 一理ある考え方だし、少なくともアルサムはそうであろうとして成果を出している。

 

 今回の件だってアルサムや俺が動けば成果は出ると思われてのことでもあるんだし、もっと自信に満ちていてもいいと思うんだが。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、少し思うところがあってな」

 

 そういうアルサムは、窓の外から空を見上げる。

 

「私は、私の王道を全うすることこそが私に仕える者たち対する礼儀だと考えている。そこは微塵も揺らいではいない」

 

 だが、とアルサムは続ける。

 

「皆が、私のように努力を成果につなげられるわけではない。そして、低い成果のものはそれを誇れるとは限らないだろう」

 

 その目に映るのは、いったい何なのだろうか。

 

「私は自分の道を誇っているし、なにより誇らしい存在であるのならそうであるべく自分を磨く必要があると思っている。それに関して異論はない」

 

 そうはっきりと言い切るが、しかし同時に少しだけ迷いがあった。

 

 ……実際、すでに何人かが離脱している。

 

 努力に意味を見出せない。

 

 つらく苦しいことをしたくない。

 

 自然に成長するだけでちょっとした軍事部隊を壊滅させれるほどの力を手にできるから、貴族の悪魔は努力に価値を見出さない。

 

 戦力が必要ならば、権力を使って集めればいいと思っている。そんなことをしてもしなくても、自分は自分に見合った強さが手に入ると思っている。

 

 むろん、努力を積んだものに敗北すれば、努力というものにある程度の意味を見出せるかもしれない。

 

 だが、それはゼファードルのような奴を産むこともある諸刃の剣だ。

 

 いまだに、ゼファードル・グラシャラボラスは家にこもりっきりだという。

 

 魔力をかけらたりとも持たない、悪魔として欠陥品のサイラオーグ・バアルにやられたことが奴の心を完膚なきまでに砕いてしまった。

 

 過酷な訓練や鍛錬は、人の心に負担をかける。

 

 正しいことは痛いのだ。悪いことは楽なのだ。

 

 ……カツ

 

 今までぬるま湯しか知らなかったものが、果たしていきなり熱湯に叩き込まれて心が折れずにいられるだろうか?

 

 つまり、簡単にまとめるならば―

 

「オマエ、今更これが過酷すぎることに気が付いたのか?」

 

 てっきり覚悟の上かと思ったぞ。

 

「……貴族の産まれた者として、己を崇拝されるに足るものとすることは義務だと思う。ゆえにそれができぬものは落伍すればいいとも思う。だが、できる可能性があるものをむやみやたらに振り落とすのは危険ではないかと思い直してしまってな」

 

 ……カツ……カツ

 

「まあ、確かにいきなりハードすぎたとは思うがな。だが、最初にハードすぎることを経験させて、次で少しハードルを下げると感覚がマヒして簡単だと思い込んでやってしまうというやり方もある。心が折れてなければやりようはあるだろう」

 

「それは詐欺の手法な気がするのだが、まあ、確かにな」

 

 俺としては素直にフォローしたつもりなのだが、なんでそんな結論になる。

 

 だが、少しだけだがアルサムはいつもの調子を取り戻したようだ。

 

 ああ、それは何よりだ。

 

 そういうわけで―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「取り込み中だ。失せろ」」

 

 俺とアルサムは背後に迫った化け物を得物で一刀両断した。




イッセーは素直に応援でした。ですが、これによりトラブルに巻き込まれることが確定しました。









努力慣れしていないところにいきなりブートキャンプで、ストレスがむちゃくちゃ給っている上級悪魔。アルサムも、いきなりこれはやりすぎたと反省しております。

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