HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ   作:グレン×グレン

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撃退できても禍根は残り……

 

 

 

 

 吹っ飛ばされたフォンフは、其のまま壁を突き破る。

 

 連続して音が響き渡ったから、おそらく何枚も壁を突き破ったんだろう。それぐらいの威力は叩き出した。

 

「……やったか?」

 

 回復したのか、アルサムが俺の隣に立って構えながら訪ねる。

 

 とはいえ、その質問は答えるまでもないことではある。

 

「たぶんまだ動ける。奴の素体は業獣鬼だろうしな」

 

 蒼穹剣抜きでは、冥府へ誘い死の一撃であったとしても殺し切れるとは思えない。それほどまでに獣鬼というのは恐ろしい存在なのだ。

 

 なにせ、シャルバ・ベルゼブブが冥界を滅ぼす為に放ち、実際冥界を恐怖に叩き込んだ奥の手だ。

 

 個人で対抗するような相手ではない。マジで神レベルでもてこずる存在だ。

 

「全員警戒を怠るな。たぶんまだ来るぞ!」

 

 正直結構疲れてるが、しかしそんなことを気にしている暇はない。

 

 さあ、かかってくるがいい。

 

 そして一分が経ち、二分が経つ。

 

 そ、そろそろ来るかと思うんだが―

 

「うぉおおおおおおおお!!!」

 

 そして、右側から大声が響いた。

 

「回り込んだか!」

 

 アルサムが即座にルレアベを向けるが、しかしあれは違う。

 

「いや、この声は―」

 

「―宮白、無事か!!」

 

 と、そこに現れたのは赤を中心として桃色のカラーの赤龍帝の鎧。

 

「イッセー! 来てくれたのか!」

 

「全然連絡が着かねえから飛んできたんだよ! 後でいろんな人に謝らないと」

 

 そんなことを言いながら、イッセーは周りを見渡した。

 

 かなり破壊されている一帯と、ボロボロの女の子達を見て、大体納得したようだ。

 

「……こんな可愛い女子達をボロボロにするとは、許せねえ! 俺がぶっ飛ばしてやる!!」

 

「気持ちはわかるが相手はフォンフだ。落ち着け」

 

 お前じゃ不利だ。だから深呼吸しような。

 

「イッセー速いぞ! 青野から一人で戦うなと怒られたばかりだろう!!」

 

「い、イッセーさん待ってください!」

 

 と、さらにゼノヴィアとアーシアちゃんも駆けつけてきた。

 

「まったくもう。時空管理局の方々を引き離してどうするんですか、イッセーくん!」

 

 と、ロスヴァイセさんまで到着した。

 

 おお、兵藤一誠眷属勢ぞろい。

 

「助かるが気をつけろ。今回のフォンフは、人間の要素持ちに特攻がはいるぞ」

 

「え、マジで!? リアスを呼んだ方がいいのかよ!?」

 

 アルサムの説明にイッセーは少しビビルが、しかしすぐに頭を振るとまっすぐにフォンフがいる方向を見つめる。

 

「だけど逃げるわけにはいかねえよな! 普通の人達がこんなになるまで頑張ってるのに、俺達がビビってるわけにはいかねえだろ!」

 

「へっ! あんたカッコいいじゃねえか」

 

「そりゃもう。変人中心とはいえもててるわけじゃないんだよ」

 

 はっはっは。わかってるなハリー。そうさこいつは格好いいのだ。

 

「まあ、基本女の敵なんだが」

 

「お前持ち上げといて落とすのやめろよ!!」

 

 だってお前覗き魔じゃん。

 

 とはいえ、少しわかったことがある。

 

「どうやら、フォンフは逃げたようだ」

 

 ああ、これは確実に逃げたな。

 

「なんでわかるんだよ」

 

「だってここにイッセーがいるんだぞ? しかも乳乳帝で」

 

『乳乳帝?』

 

 結構な人数が聞き返してきたが、とりあえず説明は後で。

 

「フォンフなら確実に暴走する。少なくともリアクションが返ってくるはずだ」

 

 それがないということは。

 

「吹っ飛ばされたのを良い事に、逃げたなアイツ」

 

 どうやら、思った以上にフォンフも慎重らしい。

 

 そう思った瞬間だった。

 

「悪いな。俺はフォンフ・シリーズでも冷静な方なんだ、これが」

 

 その言葉と共に、灼熱の息吹が放たれる。

 

 それは間違いなく上級悪魔クラス。否、それ以上の攻撃だ。

 

 だが、ここにいるのは実力だけなら神クラスの天龍を超える者。

 

『Divid!』

 

 一瞬で展開された白龍皇(ディバイディング)の妖精達(ワイバーン・フェアリー)の半減によって炎が弱体化する。

 

 しかし、その一瞬があれば十分といわんばかりに、フォンフ・バーサーカーは魔力を開放させた。

 

祖は惨劇の終焉に値せず(ナチュラルボーン・キラーズ)

 

 その言葉と共に、フォンフ・バーサーカーが分身した。

 

「オリジナルに比べれば劣化も激しいが」

 

「できれば殺せる足止めとか便利だろう?」

 

「そういうわけであとは任せるぜ、これが」

 

 三人に分身したフォンフ・バーサーカーのうち、ダメージが残っている本体らしきバーサーカーが即座に撤退。

 

 それと同時に、残り二人の分身が一気に襲い掛かってきた。

 

 なるほど、大体読めてきたぞ?

 

「宮白! あいつの能力の種は?」

 

「推測でいいならわかる!」

 

 俺達は同時にフォンフを迎撃しながら、言葉を交わし合う。

 

「人間に対する特攻。フロムヘルという真名を持つ宝具。そしてこの分身能力。……該当するのは俺が知る限りで一人」

 

「言わせると思うかぁ!?」

 

 フォンフは俺の口を塞ごうと、一気に連携で俺に襲い掛かるが、しかし甘い。

 

「させません!」

 

「こちらも動けるのを忘れるな!」

 

 いまだハイディは七式を起動中であり、アルサムもまたダメージを回復している。

 

「人間を殺す存在である殺人鬼であり、フロムヘルという言葉をスコットランドヤードに送り、そして正体不明のまま終わったがゆえに悪魔そのものとも複数人とも言われる地球で最も有名な連続殺人鬼」

 

 そう、いくら殺人鬼を反英霊として召喚するにしたって、そんなもん知名度が低いに決まっている。

 

 そんな中、例外ともいえる世界的知名度を持つ殺人鬼などそうはいない。

 

 そう、奴こそ世界でもっとも有名な連続殺人犯。

 

「ジャック・ザ・リッパー! それがお前の正体だ!!」

 

「確かに当たりだよ、これが!」

 

 正体を知られ、しかしフォンフ達は余裕を残す。

 

「だが、わかったからといってどこまで対応できる? 悪魔の駒の生産量には限りがあるし、お前だって常時時空管理局全てをカバーできるわけでもないだろうこれが!」

 

「だったら口封じするな!」

 

 俺は反撃で光の槍を叩き込みながら反論する。

 

 よし、この分身性能が落ちてる。これなら押し切れる!

 

「押し切れると思ってるだろう! だが甘い!」

 

「こっちはインターバルさえあれば再使用も簡単! だから―」

 

 いうが早いか、フォンフは躊躇なく俺に攻撃を集中させる。

 

「「とりあえずお前から殺す!」」

 

 ええい、この野郎!

 

 オリジナルを始末したの根に持ってるな! まあ当然だよな!

 

 とはいえ俺とて雑魚ではない!!

 

「返り討ちにしてくれるわ! 冥府へ誘う死の一撃(ハーイデース・ストライク)!」

 

 カウンターを自分で見事といってもいい具合に決めることができた。

 

 あと一人―

 

「かかったな?」

 

 しかし、喰らった方が俺の両足を掴むと同時に、全方位に炎を放つ。

 

 まさに自爆といってもいい攻撃だが、その所為でこっちは動きを封じられる。

 

「もらったくたばれぇ!!」

 

 あ、これやばいな。

 

 よし、仕方ないからここは左足を捨て駒にして防ぐしかない!

 

 そう覚悟完了したが、しかし何故か攻撃が当たらなかった。

 

 あれ?

 

「人のことを忘れてもらっては困りますね!」

 

「俺ら全員に喧嘩売ったの、忘れてねえかオイ!」

 

 見れば、ハリーとエルスがバインド使ってフォンフの動きを封じていた。

 

「……管理世界も粒揃いじゃねえか!」

 

 フォンフはそう褒めながらも、瞬時にそのバインドを力任せに弾き飛ばし―

 

「ガイスト・クヴァール」

 

 顔面にジークリンデの拳が叩き込まれた。

 

「……やるじゃねえか、チャンピオン!」

 

 それでもフォンフは倒れないが、しかし既にその隙は致命的。

 

「……こちらを忘れてもらっては困るな」

 

 そう、こっちには何人もの味方がゴロゴロいるのだ。

 

「クロス・クライシス!!」

 

 ゼノヴィアの渾身の二刀流攻撃がフォンフを背中からぶった切る。

 

 ああ、これは確実に致命傷。

 

「……ちっ! やはり足止めが限界か」

 

 その言葉と共に、フォンフは二体とも爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲撃してきた賊は、その大半が捕縛された。

 

 魔法世界(ムンドゥス・マギクス)式の魔法及び気の運用方法、および学園都市式の能力者による襲撃は、後方とはいえ本部であるがゆえに相応に実力者のいる時空管理局の武装隊と戦いにはなった。

 

 だが、しょせんそれが限界。

 

 殆どがチンピラで構成されていた敵陣営では、負傷者を出すことこそあれ戦死者を出すことなく戦闘は終了した。

 

 ほぼ固有能力と言ってもいい能力者はともかく、魔法世界式の戦闘能力に関しては対抗ノウハウが多少はできている三大勢力の支援があったことも大きく、時間こそ掛かったが一部を除いて手間取ることなく戦闘は終了した。

 

 だが、フォンフからしてみればそれで十分だったのだろう。

 

 時空管理局は、その成立までの間に質量兵器による被害が大きかったゆえに質量兵器の所有禁止を原則としている。

 

 それはスイッチ一つで誰でも簡単に使える上に、環境汚染の酷い質量兵器に対するトラウマ故。使用者が限られ比較的クリーンである魔導士を中心とした方針への変換は一理あるし、変な方向にぶっ飛んでいるわけでもない。

 

 だが、魔導士になりえない者も数多いがゆえに、それは必然的に潜在的な反発意識を持つ者を産んでしまう。

 

 それを知っていたからこそ、三大勢力は警戒の為に誰でも使える上に魔導士とも渡り合えるであろう技術関係を今回の会談で説明し、それの対策準備を行わせるつもりだった。

 

 が、まさにそのタイミングでフォンフはそれを公開したのだ。

 

 それは偶然だろう。だが、絶妙なタイミングで成功してしまったともいえる。

 

 既にフォンフによってネットを利用して全世界レベルでばらまかれているこの技術。否応なく今後はこれを利用した犯罪が勃発するだろう。

 

 誰でも習得できる魔法世界由来技術に、覚醒方法が麻薬であるがゆえに時空管理局では習得困難な能力者技術。

 

 この双方による隙の無い包囲陣により、時空管理局の治安は悪化する可能性が非常に高くなった。

 

 元より将来的にこの技術による治安悪化を想定していたがゆえに、三大勢力がもたらした情報は大きな助けになったが、フォード連盟との睨み合いが解決された状況での不意打ちに、時空管理局は苦労を強いられることになる。

 

 そして当然、D×Dもこれの対処に協力する。

 

 しかし、アザゼル杯をいまさら中止などできない。

 

 数多くの事件によって民衆の心はかなり落ち込んでおり、このハレを中止にすればどれだけの負担になるかがわからない。

 

 間接的なものも含めて、この大会で動いている金銭の流れも莫大であり、今更中止した場合、異形社会は大恐慌を起こしかねない。

 

 そもそも規模が巨大すぎる為、中止にするのも時間が掛かるし負担も大きい。

 

 これに関しては時空管理局も理解しているが、しかしだからといって対応をしないという判断も信条的にとれないお人好しなのが異形社会。

 

 数多くの事件により後代に後を任せ始めていた神々や、大会に参加していない者達を中心に対策部隊を編成することになるが、しかしだからといっても簡単にはいかなかった。

 

 この対応が整えられるまでの間、異形社会はどうしても対応の為に人手を割かねばならない。そして時空管理局も自分の対応を優先するのは当然である為、地球側への対応が後手に回るのは必然。

 

 結果として、フォンフの本命である地球に関しては、手薄になるしかない状況が発生していた。




いまさらアザゼル杯を中止にはできない問題。現実にもありますよね、金が動きすぎてるからやめたくてもやめられないことって。





それはともかく、フォンフ・バーサーカーはかなり不完全な再現度な素体でもあります。

……というより、祖は惨劇の終焉に値せずがむちゃくちゃすぎて再現できない。これができたら始末に負えない最悪の業獣鬼が誕生しているところでした。

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