HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
さて、一皮むけてるアインハルトは、どこまでチャンピオンに肉薄することができるのかな?
「……そっか、ヴィヴィとリオも負けたのかぁ」
それは残念だ。
いや、これで遠慮なくアザゼル杯にスカウトできるからそういう意味では朗報なんだが。
だからといって本気で挑んだ試合に負けたのは残念だ。ヴィヴィ達も結構ショックを受けてるだろうな。
『ああ。善戦した方だと思うけど、コーチとして結構思うところがあってなぁ』
通信越しで、ノーヴェもいろいろと複雑な感情なようだ。
まあ、コーチ業の素質はあるみたいだが、セコンドとかは初めての経験だろうしな。連続で敗戦してるのを見せられたら、複雑な感情にもなるだろう。
「だけど、あんまり気負いすぎるなよ。俺が言うのもなんだが、お前はよくやっているよ。……変に自虐しすぎるなよ」
『友達にも言われたよ、似たようなこと』
ノーヴェが苦笑するのがわかる。
しかし、まさか三人とも意外と早く敗退したな。
十九歳まで参加できる大会。十九歳なんて肉体的にも技量的にも成長し続ける年齢だ。十歳児が優勝できるとはさすがに思っていなかったが、まさかこうも早期に敗退するとは。
「同門対決だったコロナちゃんはともかく、ヴィヴィとリオちゃんを負かすとは相手も恐ろしいな」
ああ、心から感心する。
ヴィヴィもリオちゃんも、悪魔の中級昇格試験を突破できると断言できるほどの実力者だ。
得意な戦い方に持ち込めば、上級悪魔とだって勝負になる。それほどまでに優秀な実力者だ。
それが、地方予選の三回戦で敗退とかちょっと驚きだな。
『まあ、リオの相手は都市本選の常連だし、ヴィヴィオのほうも同じく常連のミカヤちゃんも1ラウンドで倒した猛者だからな。相手が悪かった』
「そりゃすごい。勝負は時の運とはよく言ったもんだ」
民間の競技選手でもそのレベルとは、時空管理局も優れたやつらが多いな。
大会の上位常連なら、最上級悪魔とも勝負になるんじゃないだろうか。実際、局のエースであるヴィヴィの母親なんか、アザゼルと肩を並べられるほどの実力者だからなぁ。
『つっても、そっちの世界の化け物に比べれば見劣りするさ。あんなのナンバーズが総出になっても勝てるかどうか……』
「いや、あのレベルは本当に規格外でほんのわずかな超少数だから気にしなくていい」
そもそも神クラスだ。ただの人間が一人で挑むような次元じゃない。
三大勢力を喧嘩のついでに蹂躙するような二天龍の片割れなんだ。ましてや、歴代最優といわれるイッセーが対象。それも乳技使ってる時だ。
英雄と呼ばれるような連中でも、策を使って倒すのが基本というようなレベルだ。比較対象としては間違っている。
「流石に人間レベルならあの領域は……片手の指が余るだろ。それもほぼ全員ロストロギア級の装備を持っての上だから、気にするな」
『ロストロギア級の代物がゴロゴロあるってのが問題なんだよ』
それもそうだな。
実際あのイッセーに対抗できる人間なんて、曹操とかストラーダ猊下ぐらいだろう。
あれは個人が相手にするような存在じゃない。それだけは断言できる。
「まあ、試合で当たる時は俺と須澄と暁の三人がかりで袋叩きにするから気にするな。……あいつを女にぶつけるわけにはいかない」
『ああ、
「だろ? 一応ルール上は使用禁止になっているが、相手側がOK出せばすぐに使えるし、何より新技開発されてたら初回はルール上何の問題もないしなぁ」
緩いというか甘いというかいい加減というか。トップがそうだからかなりフリーダムだよな、異形社会。
人間世界と交流することを考えると、もうちょっと厳しめに法を改正した方がいいと思うな。
「……そういえば、ヴィヴィはなんて?」
俺は少し話を変える。
ヴィヴィにはアザゼル杯に出てほしいという旨は伝えてある。
DSAAを優先するからアウトということは、DSAAがどうにかなったら考えるということだ。
ぶっちゃけ、本大会に参戦している選手を全員でランキング付けしても、どっちかといえば上位側に入るだけの実力はある。
時空管理局を舐められないようにするためにも、時空管理局の選手層は厚くしておきたいところだ。
それに、黒い発言だがDSAAでの成績もこの際有効だ。
たかが地方予選の序盤で敗退するレベルの実力。そんな十歳の女の子がアザゼル杯で善戦すれば、否応なく異形社会も時空管理局を見直すだろう。
そういう意味でもヴィヴィにはぜひ参加してほしいのだが……。
『お前、いま腹黒いこと考えてるだろ?』
「否定はしない」
グレーゾーンも通らずに、成功できるほど俺は卓越した能力はないのだ。
とはいえ、ノーヴェも俺の性格がだいぶ読めてきたのかすぐに話を戻してくれた。
『ヴィヴィオは乗り気だよ。アルサムさんもリオとコロナをスカウトしてるし、いい経験になるんじゃないかとは思ってる』
「それはありがたい。ファイトマネーは弾むと伝えてくれ」
十歳児とはいえ、あの子たちは優秀な競技選手だ。
アザゼル杯の裏の目的は強者の育成だし、ぜひ揉まれても折れずに強くなってほしい。
『ま、その前にアインハルトの試合だけどな』
「ああ、確か優勝候補との試合なんだって?」
俺はあまり情報をつかめていないが、何でもおととしの優勝者だとか。
『ジークリンデ・エレミア。途中棄権以外でDSAAで敗退したことはない、正真正銘最強の十代女子競技選手だ』
「競技選手とはいえ十代最強か。……どれほどの実力者なのか興味はあるな」
流石にイッセーより強いということはないだろうが、英雄派の幹部となら戦えるか?
時空管理局の底力の確認にもなる。これはぜひ見てみたい。
それに……。
「ノーヴェ。もしかしたら聞いているかもしれないが、三大勢力の使者が時空管理局と接触する」
『え? そうなの?』
おや、聞いていなかったか。
とはいえオフレコだし、知らなくてもおかしくないな。
「派遣団の形になっていて、若手からも何人か来る。時間があれば、ハイディの応援に行けるかもしれないな」
『そっか。その時は応援頼むよ』
「ああ、アルサムも誘ってみる」
だから、いい試合を見せてくれよ、ハイディ。
「とはいえギリギリになったが!」
「まったく、忙しいのも考え物だな!!」
「アルサム様、試合開始まであと五分もありません」
「道筋はトレースしてるから、私が先導するわ」
よりにもよって試合の当日に説明会とはついてないな。
俺とシルシは、アルサムとシェンを連れて急いで会場に入った。
おお、いくつもの次元世界を統合しているだけあって、すごい人数だ。
これ、席を探すのも大変だぞ。
「それで、宮白兵夜。席は何番だ?」
「ちょっと待て。…Dの16から四連続だ」
さて、どこだ?
「Dの16」
「Dの16……」
きょろきょろと声に出しながら探していると、席の片隅から手が上がった。
「それならこっちだぜ。ほら、オレの近く!」
「ありがとう。助かったよ」
……ほう、この子とその隣の子、できるな。
「DSAAの観戦は初めてでね。少し迷ってたんだ」
「というよりかは、ミッドチルダが初めてなので不慣れでな、礼を言う」
俺たちはその子に礼を言いながら、席に座る。
さて、あと数分で試合が始まるわけだ。
「それで、アインハルトの対戦相手は前々回の優勝者だったか」
「ああ、ジークリンデ・エレミアっていうらしい。……ジークかぁ」
ジークはジークでもジークフリートを思い出す。
ああ、俺はろくに戦ってないが実に強敵だった。というより伝説クラスの魔剣五本も持つとか反則だろ。
それを圧倒した久遠がすごい。あいつ本当にハイスペックだ。
「ハイディちゃん勝てるかしら?」
「並大抵の相手なら歯牙にもかけんだろうが、しかし相手が元チャンプでは、少なくとも苦戦するだろうな」
首をかしげるシルシに、アルサムはそう言い切った。
だが、その目は冷たさに満ちてはいない。
「しかし、彼女もまた覇王を名乗ったものだ。ましてや一皮むけている以上、隙を見せれば喉元を喰い敗れるだろう」
「……何気にハイディ評価してるよな、お前」
最初に会話した時は、かなり酷評だったと聞いているんだが。
「アルサム様は成長はきちんと評価なさる方ですので。きちんと成長している者の、それを評価しない方ではありません」
しれっとシェンにそういわれるが、しかし問題は―
「隙を見せてくれるか、どうかだな」
「だろうな。……初参戦だというところで無意識に驕ってくれればいいのだが」
そう、相手は紛れもなくこの大量の世界の連合での、全世界大会チャンピオン。
そんな相手が、そんな隙を見せてくれるかどうかが問題だ。
とはいえ、相手もまだ十代。精神的な未成熟はあってもいいと思うんだが―
「いや、それはねえよ」
と、さっき席を紹介してくれた少女がはっきりと告げる。
「アイツはそんな油断なんて絶対しねえ。そんな舐めた試合は絶対しねえよ」
かなり真剣に、想いのこもった言葉だった。
「ちゃんと試合を見れば絶対にわかる。ジークはそんな腑抜けたやつじゃねえからよ」
「なるほど、それは彼女も苦労しそうだ」
その言葉に微笑を浮かべながら、アルサムはまっすぐに試合会場を見る。
「だが、それはアインハルト・ストラトスも同じことだ」
そう、彼女もまたただものではない。
「仮にも覇王を自称した彼女もまた、一流の戦士だ。その拳は世界最強にすら届くだろうさ」
「お、おう……」
なんかものすごい貫禄があったので、その少女も思わずたじろいだ。
ああ、やっぱりこいつは魔王剣に選ばれたこともある。
「貴女ねぇ、気持ちはわかるけど初対面の年上の人にさすがに失礼よ」
と、隣にいたお嬢様風に女性がその少女をたしなめた。
「申し訳ありません。この子、少しガサツなところがありまして」
「かまわんさ。気に入っている人物に対して根拠のない悪評を聞かされれば腹も立つだろう。こちらも知らぬとはいえ失礼な評価をしたのだ、非礼はこちらにもあるから気にするな」
「そう言ってくださると助かります」
おお、上流階級同士の会話っぽい。
お、試合が始まったみたいだ。
「さて、どちらにせよ、全てはこの試合ですぐにわかる」
ああ、それは完璧に同意だな。
「格闘家は拳で語る生き物だと思うのでな、全ては戦いぶりで見させてもらおう」
DSAA四回戦、ハイディとチャンピオンの対決。
その試合は、チャンピオンに対する歓声とともに幕を上げる。
ああ、これはまたすごい歓声だ。流石は元チャンプ。
だが、アインハルトにも立派な声援が出てくるさ。
「「「「アインハルトさぁーん! ファイトー!!」」」」
ヴィヴィたちはあんな所にいたのか。あとであいさつに向かった方がいいな。
さて、それでチャンピオンはどう出るか? そしてハイディはどう立ち向かうか?
実に気になる戦いだ。さあ、どうなることか。
そして、試合が始まった瞬間。ハイディは速攻で動いた。
放つのは彼女の十八番、覇王断空拳。
その一撃の威力が上級悪魔にすら届く。それも分家の当主クラスにだ。
そんなシャレにならない一撃を、しかしチャンピオンは素早く対処する。そして即座に反撃の拳が放たれる。
だが、それをハイディは最小限の動きでかわすと、反撃の拳を放った。
速い。それも高レベルの攻防だ。
こんなもの、レーティングゲームでもそうそうみられないハイスペックな戦いだ。
「やるじゃねえか。ジーク相手に打撃戦であそこまで戦えるなんてよ!」
「ええ。純格闘戦であれほどの実力者、DSAAでもそうはいませんわ」
さっきのお嬢さん二人が感心する中、俺も結構感心している。
ハイディ、ちょっと見ない間にかなり腕を上げているな。
「流石だ、覇王。やはり子供は伸びるのが速い」
「貴方も私もまだまだ若輩者でしょうに」
「違いない」
軽口をたたき合いながら、アルサムとシルシも試合に見入る。
全体的にチャンピオンが優勢だが、ハイディもきちんと食いついている。
『これは! アインハルト選手の攻撃が、着実にチャンピオンのライフを削っていきます! チャンピオン、これは思わぬ苦戦かぁ!?』
実況も驚くこの善戦。だが、俺たちからしてみればそこまで驚くほどではない。
俺とアルサムはその理由がよくわかる。
「従僕との戦闘経験などが生きているな」
「ああ、過去の残影とはいえ、我らの世界の若手の規格外たちとの戦いが生きている。流石にサイラオーグ・バアルの動きに慣れていれば、あれほどの動きとは言え目で追えぬことはないだろうからな」
ああ、これはまたハイスペックの激戦だ。
ジークリンデ・エレミア。俺が今まで見てきた中でも、十代であれほどの戦闘技術を習得しているとは驚きというほかない。
まだ底が見えていないが、乳技さえ使われなければイッセーでも通常状態の禁手ではそう簡単には倒せないだろう。油断すれば返り討ちだ。
だが、そんな化け物たちとの戦いにハイディは関わって生き残った。
歴史に名を残しかねない規格外たちの戦いをその目にしたことで、彼女は確かに伸びている。
ああ、これはまだ勝敗はわからない―
そう思った次の瞬間、チャンピオンがハイディの拳を避けると同時に、一気に関節を極めた。
「関節技!?」
シェンが驚く中、さらにそれで生まれた隙をついて、ハイディは地面にたたきつけられる。
「さらに投げ技か! チャンピオンは打撃系かと思ったのだが……」
「初めて見るなら、驚くかもしれませんわね」
お嬢様風の少女が、真剣な瞳をリングにへとむける。
「ジークは格闘戦から投げ技関節技、そして魔法による砲撃戦まですべてが高水準。正真正銘のオールラウンダーです」
「ここまで全方位対応型とは。
同感だ、アルサム。
高速戦闘も魔法戦闘も、そして攻撃力も完備
彼女が女王の駒で転生悪魔になったら、彼女の主はその時点でレーティングゲームで一気に名前を広めるだろう。
少なくとも、若手で彼女とまともに戦えるのは、若手四王クラスの眷属のそのまたエース格だろう。というか、俺たちでも神器抜きで勝てる相手ではない。
あの激闘の一年を潜り抜けたグレモリー眷属でも、本腰を入れてそれでも倒されかねない実力者。
時空管理局、ここまでの者かっ!
さらにチャンピオンは魔法砲撃戦に移るが、こちらに関してはハイディはあっさりと対応する。
旋衝波。魔力弾を投げ返すあの技は遠距離戦には有効だろう。
とはいえ、打撃戦中心かと思ったらまさかの格闘系はおろか遠距離まで完備のあの実力。
これは、アルサムでも魔王剣なしでは苦戦は必須か。
「勝てるか、アルサム?」
「断言はできんな。人間で神器や伝説級の装備もなしにあのレベル、真の悪魔とまで呼ばれたヴァスコ・ストラーダですら、デュランダル抜きでは苦戦するだろう」
ああ、ちょっと俺たちは時空管理局を舐めてたな。
人間、やっぱりすげえ。
そして、リングでは少しチャンピオンとハイディが言葉を交わしている。
そして、次の瞬間チャンピオンは両腕に手甲を展開した。
「……どうやら、ハイディちゃんはチャンピオンに本気の価値ありと認められたようね」
わずかに戦慄しながら、シルシは目を細める。
ああ、俺も少し戦慄している。
チャンピオン、まだこの上で底があるのかよ!
そして、その手甲を見た瞬間、ハイディの動きが一瞬止まる。
………む? なんか嫌な予感がするんだけど?
vividのキャラもちょい役ですが登場。ちなみにvivid編でもあるここからは、次元書庫探索編までやる予定です。
とはいえ、原作其のままというわけにもいきませんというかそこははしょって、いろいろと動いていく世界情勢……主にフォンフが何やらかすかに注目してください。
PS:フォンフシリーズと七式の追加がこの章であります。驚きのあのサーヴァントや懐かしいあのサーヴァントが出てきますよ?