HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
皆、兵夜のことわかってるなぁ
キラとかいう吸血鬼の協力をもって外に出たが、事態は思ったより最悪のようだ。
港中が燃え盛っている。これ、俺が賠償金出した方がいいんだろうなぁ
「……まずい、流石の俺も懐が心配になってきそうだ」
「お前、実は意外と余裕あるだろ」
ないよ。ないから慄いているんだろう。
いくら超高級な霊地持ちの俺といえど、年間で稼げる金には限度がある。領地の規模だってそんなに大きいわけじゃないんだぞ?
こ、こうなればアーチャーが残してくれた魔術特許の使用料を解禁するほかないか?
できればアイツの稼いだ金は使いたくなかったが、この出費は世の為人の為の必要経費だし許してくれるよね、相棒!?
「ってちょっと待て。そういえば姫柊やシルシさん、ついでに煌坂が近くに来てるはずじゃなかったのか?」
「え? あの三人もいたの?」
「まあな。色々あって助けてもらってたんだが……」
暁と藍羽が話し合ってる中、俺は即座に使い魔を出して周囲を観察する。
ふむ、グランソードは雑魚と一緒にエドワードンをまとめて相手にしている。
こっちはこの調子なら何とか犠牲者を出さずに鎮圧できるだろう。なら、今は急いで行動する必要はなさそうだ。
シルシはドレッドヘアの小男と相手にしている。こっちも比較的有利に立ち回っている。不死すら使わずに対抗できているから、こっちも優先順位は低い。
そして、問題は姫柊ちゃんと煌坂だ。
「おい、姫柊ちゃんと煌坂が結構やばいぞ。……なんかすごい数の眷獣に追い込まれてる」
「何だと!? くそ、急がねえと―」
暁が慌てて走り出そうとしたその時だ。
ヴァトラーの戦闘の余波で、港のガントリークレーンの一つがぶっ倒れてきた。
おいおい勘弁してくれよ本当に!!。
「伏せろ藍羽! ぶち壊すが破片までは―」
素早く光の槍を形成するが、そんなことをする間にガントリークレーンが爆発した。
いや、厳密に言えば爆発物が着弾して軌道をそらした。
どう考えても歩兵の装備の領域ではないが、しかし魔導や異能でもない。科学的な榴弾によるものだ。
そして、その主は俺達から破片を庇う。
……なんていうか、昆虫のような印象を持つ、小さな戦車だった。
いや、砲塔と本体が一体化している。これは厳密には自走砲の類か? っていうか無駄にハイテクだな。学園都市技術にも対抗できるレベルの出来だぞ。
そして、その似非戦車から、小さな女の子が出てきた。
なんか、水着みたいなピッチリした服装をした女の子だ。歳は小学生ぐらいか?
「いやはや、アブないところでござったな、女帝殿」
「…………あんた、まさか戦車乗り!?」
おい、藍羽の知り合いか?
「えっと、とりあえず助かった」
「いやいや、気にしなくてもよいのでござる。……あ、拙者、戦車乗りことリディアーヌ・ディディエと申すもの。以後お見知りおきをでござる」
ああ、そういえば胸に「でぃでぃえ」って書いてあるな。
「「………濃いな、お前の友達」」
「いや、友達じゃないし」
思わず暁とシンクロしてしまった。
「っていうか、なんであんたが迎えに来るのよ戦車乗り。公社の問題何て、アンタ一人でどうにでも―」
「ところがそうもいかなくなったのでござる。……魔力消失が、かなり拡大しているのでござる」
マジか。ただでさえLCOと囚人達で手一杯だというのに!!
ただでさえ地方都市クラスの人口密集地。それも、観光客がごった返しているシーズン真っ盛り。とどめに海の上の人工島だから逃げ場がない。
よりにもよってなんでこのタイミングで!!
「まさに十年前の事件と同様の反応なのでござる」
「……十年前? まさか、仙都木阿夜とかいう奴が関わってねえか!?」
暁が何かに気づいたのか、ディディエに問いかける。
阿夜ってあの時の元凶の一人だよな。あいつが今回の事件に関わってるのか?
「ご存じでござったか彼氏殿。さよう、闇誓書事件と呼ばれているでござる」
なるほど、つまり仙都木阿夜の目的は、十年前の事件をやり直すことか。
脱走してすることがそれな辺り、相当大事な目的らしいがどういうことだ?
「……行ってくれ、浅葱」
「え?」
暁は、藍羽の方を振り向いてそう促した。
「サナはこっちで何とかする。お前は絃神島を頼む」
こういうことを言うからフラグが立つのだ、お前は。
まあ、そこまで言うなら付き合ってやるか。
「そもそもフォンフはこっちの案件だ、俺も責任はとる。……藍羽、お前はお前にしかできないことをやってくれ」
バトル関連は俺や暁達で何とか対抗できるが、電脳関係は藍羽じゃないと無理だしな。
「行け、浅葱!!」
「……わかった、でも、これが終わったらお祭りに付き合ってよ」
何ていうか通じ合ってるようで通じ合ってないな、コレ。
「一応言っとくが暁、それ、デートの誘いだからな?」
「え、そうなのか? 皆でとかじゃなくて!?」
この馬鹿、一度死んだ方がいいんじゃないだろうか。
既に戦闘は激しくなっていた。
白衣の男ことサリファイは、純粋な人間である。
生半可な魔女を凌駕するほどの魔術師ではあるが、無限の生命力を持っているわけではないし、吸血鬼の血の従者でもない。
だが、同時に彼は単純な被害なら監獄結界の囚人の中でも群を抜く。
サリファイの研究する魔術はすなわち契約。
対価を与えることにより、眷獣を制御するという術式を研究していた。
そして、それはまさに成功している。
通常の吸血鬼が莫大な生命力を代償に眷獣を使うのよりも、彼は安全に眷獣を使用する。それも、後付けすることで半端な氏族を超えるほどの眷獣を使用することができるのだ。
そして、そんなものを安全に使うということは、すなわち他者の命を奪うことで使うことに他ならない。
その犠牲者、人間魔族合わせて合計37564人。
生半可なテロリストですら数十年かかっても出せない被害者を出した、生粋の危険人物なのだ。
………だが、その脅威も圧倒的な猛威の前には形無しだった。
「ようやくエドワードンを片付けたと思ったら、なんだこの状況は」
ため息を吐くグランソード・ベルゼブブは、慌てて先に行かせた姫柊雪菜と煌坂紗矢華を逃がしてから、総力を挙げて叩き潰した。
……叩き潰したはいいが、流石にやりすぎた。
一体一体が溶岩で出来た自走砲とでもいうべき、サリファイの操る眷獣。その恐ろしさは数にこそある。
師団規模の数で襲い掛かる彼を撃破するのに、グランソードも遠慮はできなかった。
既に港湾地区は崩壊寸前であり、更地になっている。
確かに、サリファイの眷獣は総力を挙げれば真祖の眷獣とすら戦えるだろう。それほどまでに脅威だった。
だが、第四真祖の眷獣は龍王から魔王クラス。逆に言えばそれだけの戦力があればまともな火力でも勝負になるということだ。
そして、グランソード・ベルゼブブは真なる魔王ベルゼブブの末裔。その才能を色濃く受け継いだ真なる後継者である。そのうえ努力も生半可な実力者をしのぐほどに積んでいる。
その戦闘能力は、既に魔王クラスにも匹敵するほどなのだ。
程なのだが―
「……大将に、給料何百年分ぐらい前借りすりゃ払えるのかねぇ、コレ」
あまりに大きすぎる被害に、グランソードはため息をついた。
グランソードが貫録勝ちをしている頃、逆にシルシは追い込まれていた。
断言するが、シュトラ・Dとの相性は抜群に良い。其れどころか、監獄結界の囚人の中で、シルシが最も有利に立ち回れるのは間違いなくシュトラ・Dだ。
サーヴァントの宝具にも匹敵する力を秘めた千里眼。ことみることにおいては規格外の目。それを保有するのがシルシ・ポイニクスだ。
その目は不可視程度ではごまかされない。生半可な見えない攻撃など、彼女の前でははっきりと視界に収めることができる。
シュトラ・Dの優位性は攻撃力もあるが、それ以上に不可視だという点がある。
見えないということは回避も防御も困難だということだ。ましてや、それが上級悪魔すら殺しうる火力だというならばなおさらだろう。
だが、逆に言えば見ることさえできれば難易度は大幅に下がる。
戦闘能力ならば宮白兵夜眷属最弱のシルシでも、見えにくいという特性を持つ相手に限っていえば逆にいなしやすいのだ。
ましてや彼女はフェニックスの系譜。たとえ頭を吹き飛ばされようと、炎と共に即座に再生するフェニックス。
通常の千里眼ならば、相打ち覚悟で目を破壊すればまだ倒しようはあるだろう。
だが、シルシにはそれが通用しない。破壊されても短時間で再生するのだから。
それもあって、シュトラ・Dは南宮那月を相手にした時並に追い込まれていたのだ。
……それが、彼の本気を引き出してしまった。
「ハッハァー! どうした貧乳女! 防戦一方じゃねえか!!」
「流石に、調子に、乗りすぎたわね!!」
六本の腕から放たれる念動力の刃とその余波の暴風が、シルシを追い込んでいく。
最初は、間違いなくシルシが有利だったのだ。
両腕から放たれる不可視の攻撃も、シルシは見切ることができるのだから回避しやすい。
これが兵夜や雪侶なら、見えない攻撃に戸惑って戦闘は苦労していただろう。……グランソードは耐久力でごり押しできるので無理やし押し切って強引に倒せるが。
だが、今のシュトラ・Dは厄介だ。
背中から異能でできた腕を二対も生やした今のシュトラ・Dは、攻撃の数も範囲も単純に三倍になっている。
攻撃そのものは見えているが、しかし反応速度も武器も追いつかない。
今のシルシはその猛攻に、全身から再生の炎を巻き上げさせていた。
「ようやくてめえをぶち殺せるぜ! 俺は俺より背の高い女が大嫌いなんだよ!!」
「あなたが小柄なのは私の責任じゃないわよ!!」
反撃で炎を放つが、シュトラ・Dは強引に弾き飛ばす。
そして、ものすごい形相でプルプルと震えていた。
「てめえ! 俺が心底気にしていることを良くも言いやがったな!! 絶対に許さねえぞこの人間タワーが!!」
「……いや、私は確かに背が高くて細いけど、そんな規格外じゃないわよ」
「うるせえ!!」
シルシの指摘も無視し、シュトラ・Dはさらに攻撃の密度を上げる。
直撃が当たらなかろうと、数で強引にダメージを蓄積させればいい。
そんな強引な理屈に基づいた連続攻撃は、しかしシルシにとっては面倒だった。
一撃で殺されるほどの神クラスの火力はないが、しかしこれ以上何度も続けて喰らえば精神の方が疲弊する。
間違いなく、この状況下では苦戦必須だった。
「そろそろ終わりにさせてもらおうかぁ! くたばりやがれ貧乳女!!」
「人が、気にしてることを―」
シルシは何とか反撃しようとするが、間に合わない。
そのままの勢いで攻撃が放たれようとして―
「
そして、次の瞬間掻き消えた。
「なんだぁ!?」
確実に当たると思った攻撃が避けられ、シュトラ・Dは唖然となる。
そして、次の瞬間。
「……できればこれで死んでくれ」
……絨毯爆撃で、辺り一帯ごとシュトラ・Dは叩きのめされた。