HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ   作:グレン×グレン

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精霊使いと獣人と吸血鬼とあとチート

 

「そもそもなんで、那月ちゃんが浅葱と一緒にいるんだ!!」 

 

 ゲストハウスを飛び出しながら、暁がぼやく。

 

 ああ、割とトラブルに関わっていることも多い藍羽だが、それにしたってこれは変化球だ。

 

 想定できるかそんなもん!

 

 走りながら、暁はスマホの音声を皆にも聞こえるようにして藍羽を呼び出す。

 

「……浅葱! よし、まだ大丈夫だな!!」

 

『だ、大丈夫ってどうしたのよ古城。今パレード見てる最中だったんだけど―』

 

「それは見てる! あとで埋め合わせはするからとにかくその子を連れてキーストーンゲートまで逃げろ!! 雪侶とグランソードを送り込んだ!!」

 

 俺は暁からスマホをひったくると大声で怒鳴る。

 

 既にあいつらは先回しさせている。

 

 あの二人の戦闘能力なら、俺達が来るまでに十分間に合うはずだ。更にアイランドガードを護衛につけることもできるだろう。

 

 そこまであればそこそこ持ち堪えられる! それで済めばいいんだがな。

 

『宮白さんまで? えっと、つまりあなた達絡みのトラブルに巻き込まれたってことで……いい?』

 

「藍羽先輩。事情は後で詳しく伺いますので急いでください。藍羽先輩はともかく、隣にいる彼女を狙って一流の魔導犯罪者が大挙して押し寄せてくる可能性が!」

 

 そう、それが問題だ。

 

 藍羽は電脳では無敵に近いチート戦力だが、しかしあくまで素体はただの女子高生。

 

 あんなバケモノ集団に襲われて無事で済むはずがない!!

 

「……まずい!」

 

 シルシは舌打ちすると、俺からスマホを分捕ると大声を出す。

 

「貴方の後ろの老人! 彼が犯罪者の1人よ!! 密度だけなら下手な上級もびっくりの火力を放って攻撃してくるから、とにかく逃げて!!」

 

 うぉおおおおお最悪のタイミングがもろに出てきたぁ!!

 

「くそっ! 浅葱っ!!」

 

 暁がより速く走って、外に止めてある装甲車に辿り着いて―

 

「―ほう? 張っていたかいがあったようだな」

 

 ―その残骸を囲みながら、獣人が十名ぐらいたむろしていた。

 

 全員、獣人であることを差し引いてもしっかりと引き締まった体つき。加えて武術を習得していることを示す隙の無さ。

 

 そして、中心部に立っている男からくる気配はマジでやばい。

 

「……てめえも監獄結界の囚人か!!」

 

「おうよ! 混沌海域のほうでうぜえ吸血鬼(こうもり)をつぶそうとしてたら、空隙の魔女にとっつかまっちまってよぉ!! 部下が何人も助けにきたんだが、手も足も出ないみたいで困ったぜ!!」

 

 豪快に笑う獣人は、そこまで言うとさっきを出しながら牙を見せる。

 

「と、いうわけでてめえらがやべぇってことは空隙の魔女がやばいんだろ? 余計な邪魔が入らねえように足止めぐらいはしておかねえとなぁ?」

 

 チッ! 合理的な判断を!!

 

 だが、こいつを放っておくことができないのもまた事実。放っておけばいずれ俺達の脅威になる。

 

 だが、こいつの相手をしている時間的余裕もない。ここで立ち止まっている間にも、藍羽が死ぬかもしれないのだ。なんとしてすぐに行かなくてはならない。

 

 五秒で結論が出た。

 

「暁! 乗れ!!」

 

 俺はバイクを呼び出すと、暁をサイドカーに放り込んだ。

 

「シルシ! 足止めしながら藍羽の居場所をトレース……できるか!」

 

「……意地でも!!」

 

 ああ、きつい仕事だが頑張ってくれ!!

 

「いや待て宮白、シルシさんも! 流石に放っておけるわけが―」

 

「いいから行きなさい暁古城!!」

 

 抵抗する暁に、ぴしゃりと煌坂が剣を構えながら言い切った。

 

「まずは南宮那月の安全確保が第一! 大丈夫、これぐらいなら私と雪菜でどうとでもできるから!!」

 

「先輩達は藍羽先輩の安全確保に専念してください!! 最悪七式を使ってでも突破します」

 

 ああ、あれがあるなら大丈夫だろう!!

 

「増援は要請しておく。……死ぬなよ!!」

 

「……姫柊! 無事でいろよ!!」

 

 その言葉を最後に、俺達は即座にアクセルを踏むと加速する。

 

「逃がすな!!」

 

「はい!!」

 

 俺たちを逃がさないために対戦車ミサイルを構えてぶっ放す奴がいるが、しかしそんなものは通用しない。

 

「悪いけど見えてたわ」

 

「させません!」

 

 限定的な未来視のできる姫柊ちゃんとシルシの二重防御は鉄壁。いかに獣人といえどそう簡単には突破できない。

 

「ああもう! わたしの可愛い雪菜が火傷したらどうするのよ!!」

 

 そして、煌坂の魔弓は広範囲攻撃において真価を発揮する。

 

 本当に頼りになる連中だ。一時期のグレモリー眷属にも匹敵するぜ!!

 

 死ぬなよ、藍羽!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてトレースするシルシの言葉はいろんな意味で緊迫感を増した。

 

 なんでも、最初の方は撃退したらしい。

 

 ……アイツ本当に何者だよ。軍隊ですら手をこまねくレベルの実力者のはずだが?

 

 なんでも地下排水溝を逃げ回りながら海水で弾き飛ばしたら、アイランドガードが掻き集まっているところにまで誘い込んだそうだ。あいつネット無くてもチートなんだな。

 

 しかもラッキーなことに、アスタルテがそこにいたらしい。あの割とチート能力の持ち主がだ。

 

 おかげで老人ことキリカ=ギリカはそのままお縄に。あいつはたぶん上から数えた方が早いレベルだから、そんなのがとっ捕まったことはラッキーだ。

 

 だが、続けて女吸血鬼が来襲してきた。

 

 まずいまずいまずいマズイ!!

 

 なんか、アイランドガードが全員操られてるんだけど!?

 

 うぉおおおおおお! 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て―

 

「―待てこの年増ぁ!!!」

 

 間に合ったぁ!!

 

「浅葱ぶじグフッ!?」

 

 俺は暁を掴んでそのまま飛び降り、バイクを女吸血鬼に叩き付ける。

 

 女吸血鬼は鞭を振るってそれを弾き飛ばすが、しかし仕切り直しにはなった。

 

「藍羽、無事だな!?」

 

「古城! 宮白さんも!!」

 

 うわ、なんか無茶苦茶泥だらけになってるな。

 

「ゲホゲホッ! 首しまったぞこの野郎」

 

「悪い悪い。開幕速攻のつもりだったんだがなぁ」

 

 そんなわけで俺と暁は、女吸血鬼を睨み付ける。

 

「浅葱が世話になったようだな、この年増」

 

 暁が全身からびりびり電気を放ちながら、女吸血鬼に敵意をぶつける。

 

 暁古城は第四真祖。それはすなわち、単純なスペックなら吸血鬼全体でも最高峰だということの証明だ。本来なら上位四位を他の真祖と争うだろうし、いまだ使いこなせていないことを差し引いても、上から数えた方が圧倒的に強い立場だろう。

 

 だが、女吸血鬼は余裕の表情を浮かべている。それほどまでに自分の能力に自信があるということか。

 

「第三真祖の系譜としては、真祖と戦うのは避けるべきなんでしょうけど、これもまた仕方ないわねぇ」

 

 まさに余裕だなこの女。何か隠し玉でも持ってるのか?

 

「古城、気を付けて!! そいつクァルタス劇場の歌姫よ!!」

 

 藍羽が俺達に声をかけるが、しかし二つ名まで持ってるのか。

 

 ああ、これは禍の団の武闘派幹部クラスは想定した方がよさそうか。

 

「暁、そのカルタスってなんだ?」

 

「クァルタス劇場な。どっかの国の皇太子と交際してた高級娼婦が、口封じにされかけてブチギレて皇太子ごと王族が殺されたって事件だ」

 

 なるほど、それは確かに凶悪犯だ。

 

「補足します。更にジリオラ・ギラルティはそれ以前にも猟奇犯罪を犯しており、ヒスパニアの魔族収容所に収監されていたのですが……」

 

「そこのホムンクルスの言う通り。そこにいた人全員支配して楽しんでたら、空隙の魔女に見つかって監獄結界に送られたのよ。……こんな風にね!」

 

 ジリオラが指を鳴らすと、アイランドガードの警備員が、一斉に銃火器の照準を俺達に向けた。

 

「……精神干渉か この数を一気にとかできるな」

 

「気を付けてください宮白兵夜。ジリオラ・ギラルティの鞭は精神支配の眷獣です」

 

 サンキューアスタルテ。

 

 なるほど、これは逃げ込んだのが逆効果になっちまったってわけか。

 

 にしても、俺って毎回数の暴力に襲われてるよなぁ。一応今は体制側のはずなんだけどなぁ。敵はテロリストか犯罪者が殆どなんだけどなぁ。

 

「……ああ、ついてない」

 

 そうぼやくと同時に、一斉に砲火が放たれた。

 


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