HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
「……図書館?」
「はい。この世界の魔術師や魔女が集まった犯罪組織です」
とりあえず、簡単な説明をフォリりんから俺は聞いた。
今回の下手人は図書館ことLCOとかいう犯罪組織。
なんでも、貴重な魔導書を集めて己の愉悦のために使いたがる危険思想の魔術関係者で構成された組織だそうだ。
研究どころか利益のためでもなく、己の遊び半分のためだけに貴重な魔術的資産を使い潰す組織か。
で、詳しいことはフォリりん達も分かってないようだが、分かっていることをまとめるとこうなる。
例の突然現れた人工島は、監獄結界と呼ばれているらしい。
なんでも、世界中から集められた質の悪い犯罪者を収監するための施設らしい。
で、今回の下手人はその中にいるLCOのトップを救出することらしい。
しかも、なぜか暁は美少女になってたとか。
「なんじゃそりゃ」
「それ、私がもう言ったんだけど」
そういって煌坂がため息をつくが、しかし事態は結構深刻だな。
「しかもアルデアル公もスタンバってて、もし本当に解放されたら絃神島が滅んでもおかしくないのよ」
アルデアル公っていうと、ディミトリエ・ヴァトラーとかいうやつだな。
欧州アルデアル自治領を収める、真祖に最も近い吸血鬼といわれる男。
長生きに飽いていることもあり、死ぬかもしれないレベルの戦闘をこよなく愛する危険人物。自分の長を狙うテロリストが、自分を殺せるかもしれないロストロギア級の超兵器を復活させるために協力したほど。一時期のヴァーリに匹敵する超危険人物でもある。
しかも戦闘能力も非常に高い。少なくとも真祖に最も近いというだけあるのだから俺らの世界でいうなら魔王クラスはいくか。
そして、監獄結界に収監されているらしい犯罪者も実力者が多いと踏んでいい。
少なくとも、LCOのトップの戦闘能力は相当にあるだろう。
そんな連中が絃神島で戦闘をしたらどうなるか。
人工島であるがゆえに脆い側面のあるこの島が持ち堪えらえる可能性は結構低い。少なくとも一ブロックぐらいは灰燼と帰すだろう。
これは結構緊急事態だ。
「今シルシ達が向かってるが、これは俺も急いだほうがよさそうだな」
「そうですね。では紗矢華を連れて行ってください」
と、フォリリンがさらりと言った。
あれ? 俺は煌坂はフォリりんの護衛って聞いたけど?
「私はこれからすぐに帰国します。どういうことかは分かりますね?」
なるほど、そうなれば護衛任務は終了だから、すぐに動けるということか。
流石に姫様を犯罪者にぶつけるわけにもいかないし、これは中々いい判断だ。
「出来るお姫様と出会えてうれしいよ」
「私も、察しのいい男は嫌いではありません」
俺達はニヤリと笑い合うと、すぐに頷いた。
さて、暁達は持ち堪えてくれてるといいんだが。
頼むぜ、俺の頼れる眷属達。
暁古城は、朝から例のごとく動乱に巻き込まれていた。
というより、先日から巻き込まれていたといってもいい。
幼少期からの友達である仙都木優麻に絃神島を紹介していたら、担任教師である南宮那月が行方不明になった。
その夜、風呂に入ろうとしたらなぜか隣の部屋の風呂に入る羽目になった。おかげで女子の裸を見て怒られた。理不尽だった。
さらに、以前戦ったことのあるルードルフ・オイスタッハと出くわして、挙句の果てに初対面の印象で襲われるという羽目になる。
そして部屋に戻ったら優麻に迫られキスされて、気づけば体が入れ替わっていた。
……なんでも、優麻は那月と同タイプの魔女であり、古城が第四真祖であることに気が付いて体のコントロールを入れ替えたらしい。
助けを求めに雪菜の部屋に行ったら、勘違いされて着替えを目撃されて気づかれたと思ったら折檻された。理不尽を感じる。
そんなこんなで体が何とか元通りになったかと思ったら、いきなり優麻の守護者が暴走を起こし、優麻を利用して那月を刺すという暴挙を行う。
気づけば、今自分たちは外へと転移して、そして今敵と相対している。
LCOと呼ばれる犯罪組織の長。別名図書館の支所長である優麻の母を名乗る仙都木阿夜。
彼女は優麻から守護者のコントロールを奪いとっている。
古城は詳しくは知らないが、魔女にとって守護者とは霊的につながった存在。
このままいけば命にすらかかわる。というより、十中八九死んでもおかしくない。
「あんた、優麻の母親じゃなかったのかよ!」
「そうだ。この監獄結界から脱出するために我が単為生殖によって生み出したコピー。……すでに用済みだ」
古城の非難をさらりと受け流す阿夜の目は、ある人物に似ていた。
時折兵夜が見せ、そしてフォンフが常時見せる目の色。
すなわち、倫理観が常人とは乖離している者の目だ。
つまり、言葉は通じても話は通じないものの目だった。
「……上等だ……っ」
ゆえに、古城は躊躇なく眷獣の発動を準備する。
どちらにせよ、
圧倒的なまでの負の生命力を糧に現出する眷獣。それも真祖の眷獣をもってしてすら、たやすくは倒せない強敵が目の前にいた。
ゆえに、躊躇する理由はかけらもない。
「俺の親友をこんな目に合わせて、言いたいことはそれだけか!!」
躊躇はしない。
遠慮はしない。
そんな気になるような相手でもなければ、そんな加減をできるような敵であるはずもない。
だが―
「……ぐっ!?」
魔力は霧散し、体から力が抜ける。
無理もない。簒奪された体の制御権を奪い返すために、古城は雪霞狼の一撃を受けている。
ただでさえ対真祖用の兵器として雪菜に与えられたもの。加えていえば、この奪還方法は体の反動が大きいということで、優麻の体に使用することを避けていた方法だ。
普通に考えればただで済んでいるはずがない。いかに胴体をミンチにされようと心臓を吹き飛ばされようと再生する真祖の再生能力でも、物には限度がある。
だが、それでも無理をすれば一撃は放てるはず。
一発勝負になると覚悟を決めたが、それより早く阿夜が言葉を紡ぐ。
「いいのか? 確かに真祖の眷獣ならば我を殺すことも容易だが、監獄結界もそれとつながっている那月も無事ではすまんぞ?」
「……!?」
それでは意味がない。
この世界においても圧倒的火力を持ち、神仏が争う兵夜たちの世界が相手でも神にすら太刀打ちできるであろう第四真祖の眷獣。
だが、その最大の欠点があまりに高い火力だ。
少なくとも今の古城では、阿夜だけを正確に狙って倒すなどという綺麗なまねはできない。
それに気が付いて魔力をかき消すが、その瞬間に胸の痛みがより激しくなり膝をつく。
「先輩、下がってください!」
雪菜が急いで割って入り、雪霞狼の切っ先を阿夜へとむける。
魔力を無効化する雪霞狼もやり方次第では監獄結界に害があるが、それでも真祖の眷獣よりはまし。
そう判断しての戦闘態勢だが、その槍をみた阿夜の表情には嫌悪と侮蔑が含まれた。
「ほう、
そして、その表情は雪菜に対する哀れみへと変わる。
「吾が娘にしたことなど、連中の汝への扱いに比べればかわいいものではないか」
「……どういう、ことですか?」
その言葉に、雪菜はけげんな表情を浮かべる。
今の言い方は疑問が及ぶが、しかし何がそこまでひどいのかが見当もつかない。
まさか、兵夜の推測通り雪菜の本来の目的が古城に対する妾だとでもいうのだろうか?
否、たとえそうだとしても優麻に対する阿夜の扱いに比べればましなはず。
「―なんか長話してるとこ悪いけどよ、肝心の南宮那月はどこ行ったんだぁ?」
その時、声が響いた。
その声に視線を向け、古城も雪菜も戦慄が走る。
そこには、何人も何十人もの人たちがいた。
服装も年齢もまちまちだが、その在り方だけは間違いなくわかる。
そもそも、監獄結界は通常の刑務所では封じきれない凶悪犯罪者を封じておくための代物。
すなわち、危険人物のオールスターに他ならなかった。
「
シルクハットの紳士が感謝の言葉を告げるが、しかしその表情は未だに忌々しげだった。
「汝たちだけか。監獄結界の囚人はもっといたはずだが?」
「てめえがしっかりと空隙の魔女をぶちのめさなかったのが原因だよ、総記《ジェネラル》さんよぉ」
阿夜に文句を言うのは、小柄な若者。
短く編み込んだドレッドヘアに、どこにでもいそうなストリートファッションだが、しかしその気配は明らかに常人のそれではない。
何より、彼も含めた何人もの者たちがはめている鉛色のくすんだ手枷が、凶悪な人物であることの証明だった。
「見ろ!!」
そういうと、若者は右腕を無造作に振り下ろす。
同時に、その振り下ろした方向にいた何人かが飛び退った。
そして次の瞬間、飛び退らなかった者たちが鮮血を巻き上げえて苦悶の声を漏らす。
「シュトラ・D!」
「貴様ぁ!!」
「ハッ! 耐えられねえ体をうらみなぁ!! くるぜぇ!!」
絶叫にあざ笑うシュトラ・Dの声とともに、攻撃を喰らった者たちに鎖が巻き付いてくる。
そして、そのまま空間の中へと溶け込むように囚人たちを引きずり込む。
「う、うわぁあああ!!!」
「やめろぉおおおお!!」
悲鳴とともに消え去っていく囚人たちに視線すら向けず、煽情的な娼婦の服装をした女性が肩をすくめる。
「こんな風に、弱まったり力が足りないとすぐに監獄結界に引きずり込まれちゃうの。格下は全員出てくることもできないってわけ」
「そういうわけだ。我々はまだ完璧に自由にはなれんのだよ」
ジャケットを着た壮年の巨漢が、鋭い視線を阿夜に向ける。
「……空隙の魔女の居場所を知っているのなら、さっさと教えてくれんかね?」
「同感ですな。我々としても、これ以上あんな所にはいたくないですしね」
白衣を着た男が、眼鏡を動かしながら神経質そうに告げる。
そして、スーツを着た中年も視線を向ける。
「居場所を知っているのなら教えてもらおう。下手な庇い立ては寿命を縮めるぞ?」
その視線はほぼ全員が共通していた。
彼らは基本一匹オオカミで自己中心的。仲間意識など欠片もない。
役に立たないなら殺すまでと、その視線が告げていた。
「ふむ、居場所は知らんが、手を貸してやろう」
そう告げると、阿夜は一冊の本を取り出す。
「ほう? No14……固有体積時間の魔導書ですか」
眼鏡の青年が訳知り顔でうなづく。
一部の者たちはよくわからなさそうにしている中、白衣の男性がにやりと笑った。
「わかりやすく言うならば、今の空隙の魔女は身も心も子供になっている……と推測するべきですかな?」
「そう……だ。十年かけ策謀を巡らせ、実の娘を囮にして、ようやく牙を届かせることができ……た。致命傷ではないが、空隙の魔女として体験してきた時間そのものを奪った今、奴は今魔術も守護者も使えん」
空隙の魔女とまで称される南宮那月の恐ろしさは、敬虔と守護者も大きな比重を占める。
魔女と悪魔と契約して力を得た存在。その結果として手に入る守護者があってこそ、その凶悪性は進化を発揮する。
さらに何年もかけてきた戦闘経験がその老獪さに拍車をかけ、彼女は真祖すら評価する傑物と化した。
だが、その時間は今奪われている。
どれだけ奪われたかは不明だが、もし魔女としての時間全てを奪われていれば、彼女はただのか弱い女でしかない。
「完全に力を奪うことはできなかったようだな。まあ、それでも木っ端の魔女と同程度。それ位なら我々ならどうとでもできるな」
つまり、雑魚を一人殺すだけで後は完璧に脱獄できる。
その事実に、彼らの嗜虐心が燃え上がった。
憎んでも憎み足りない空隙の魔女を、遊び半分で殺すことができるという事実に、彼らはみな歓喜した。
「そういうことなら手を貸してあげてもいいわよ。あの女を殺したいと思ってるのはみんな同じだし、早い者勝ちでいいかしら?」
女が微笑みながら告げる言葉に、全員がにやりと笑う。
それを微笑みながら受け入れた阿夜は、しかしけげんな表情を浮かべる。
「だが、それにしても結界は弱りすぎているな。汝らの言ったことが本当なら、出てこれるのはせいぜい十に足らんはずだが―」
「それは、俺たちが手を貸したからだよ、書記長」
そんな言葉とともに、銀にも思える白髪の男が舞い降りる。
口元に髭を生やした細身の男は、しかし髭さえ除けば古城も雪菜もよく覚えている。
なにせ殺されかけたこともあるのだ、当然覚えていなくてはおかしい存在である。
「……まさか、ここでてめえが来るのかよ」
「……フォンフ……あなたが……っ!」
その視線を満足げに受けながら、白髪の男がにやりと笑う。
「初めまして。俺の名前はフォンフ・ランサー。以後よろしく頼むよ」
フォンフシリーズもまだまだ登場。今度はランサー。
このランサー。非常に独特な設定で構成されており、二重の意味で絶対に原作Fateシリーズでは出てこないです。なので真名あてとかはしない方が得策です。
かなりの強敵となる予定なので、お楽しみください!