「お兄ちゃん……お兄ちゃん……!むふふ……!」
ラティアスはそう言いながら俺に身体を預け、腕を絡めていた。ラティアスのハイライトのない濁ったような金色の目は他の物は一切映さず、俺だけを映している。
「いつまでこうしてるつもりなんだよ……」
「むふふ〜、永遠に決まってるじゃん。流石に二年も会ってないと私も淋しくてつらくて死にたくなってきちゃうもん。」
「はぁ…、つってもお前俺のことずっと見てたんだろ?あんま変わんねーだろ。」
「実際に会うのとは全く違うのぉー。むふぅ」
そう言って抱きしめる力を強める。俺は思わず溜息を吐いた。
ラティアスが恐ろしいほどに俺に依存し、執着する理由、それは2年前にある。
二年前……俺が8歳のころ、トレーナーズスクールで勉強していた頃だ。前世の記憶もあり知識だけは豊富だった俺は首席ということもあり、留学ということでホウエンに来ていた。校長曰く知識の差が激しすぎてかなーり浮いていたのでこのような方式で一旦距離を置くようにしてみたらしい。こうしてホウエンに渡った俺はミナモシティでポケモンコンテストなど、いろんなものを見て回っていたときのことだ。
「………やべぇ、ミナモシティなんもねぇ……。マップがほぼゲームの時と同じじゃねえか。ミナモシティってポケモンジムもないし……」
俺はバトルの無いミナモシティでかなり暇をしていたときのことだ。
ガサッ
「ん?」
ぶらぶらしていた時、となりの森の方で何か音が聞こえた。普段なら無視するところだがよくわからない胸騒ぎのようなものがしたので音の聞こえた方に進むことにしたのだった。
「確か……こっちの方だった……よな?」
道という道はなく草木を掻き分けながら進んでいた。少し奥に進むと開けた場所が見えてきた。少しホッとした俺はそこに向かおうと急いだ。
「ッ……!!」
そこで俺が見たのは……
「お兄ちゃん……!!お兄ちゃん!!!」
血だらけになって倒れている白い髪の青年とまだ俺と同じ……いや、それよりも幼い青年と同じく白い髪の少女だった。白い髪、青と赤、兄と妹、それを見て俺は一つの結論に至った。
(……ラティアスとラティオスか。)
人型が存在することは当時はまだ知らなかった俺だが、今回は何故か一目見るだけでわかった。ラティアスは大粒の涙を流しラティオスの名を呼びながら必死に揺すっているが全く起きる気配が無い。ぴくりとも動かないのだ。
「あぁ……ッ!やめて……行かないで……、行かないでお兄ちゃん……!!」
すると、ラティオスの身体が突然光り始めた。光り出したかと思うと、ラティオスの足の方から自然に消え始めた。
「やめてやめてやめてぇ!!行かないでよぅ……ッ!!」
ラティアスは泣き叫びながら消えて行くラティオスを抱きしめていた。そして、ラティオスは思いも虚しく完全に消滅してしまったのだ。
「あっ……、あぁ……ッ!!」
俺は草むらの陰で見ていることしかできなかった。動かなかったのだ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
泣き叫んだラティアスは気づけば倒れていた。俺は慌てて飛び出してラティアスの元に向かった。
「息は……しているな。気絶しただけか。」
俺は迷っていた。赤の他人である俺がこんなことに関わってしまっていいのか。それとも助けるべきか。目の前で起きたことを見ていることしかできなかった俺が関わってしまっていいのかと迷っていた。
『………少年。』
「ッ!?誰だ!?」
すると、突然どこから男の人の声が聞こえてきた。
『………頼みがある。俺は力が無いばかりに守ってやれず、俺の力が残ってなかったばかりに『こころのしずく』すら残してやれなかったんだ……。………赤の他人なのにこんなことに巻き込んでしまって申し訳ない。でも、無理も承知の上で頼みたい。ラティアスを……俺の妹を助けてやってくれ……!!』
声の正体……それはさっき消滅したラティオスのものだった。どのような力でしゃべっているのかわからないが俺に頼みこんできたのだ。
「……わかった。俺がなんとかするよ。」
俺はこの子、ラティアスを放ってはおけなかった。このままだとこの子はずっと独りぼっちになってしまう、それだけはダメだと思い、ラティオスの頼みを飲むことにした。
『ありが………と……ぅ……』
ラティオスは消えてしまいそうな声で俺に感謝の言葉を述べていた。俺は必ずラティアスを助けてみせると心に誓った。
取り敢えず俺はラティアスを抱えて、ミナモシティの下宿先へ連れて帰ることにした。
ラティアスを連れて帰った俺はラティアスの傷をきずぐすりなどで治し、ベッドに寝かせていた。ラティアスは苦しそうな表情でうわ言のようにラティオスの名を呼んでいた。
「……くそっ!」
こんなに苦しんでいるのに何もできない自分を歯痒く思った。俺にできることといえば、そばにいてやることしか無かった。だから俺は一日中ラティアスのそばで見守っていた。
その夜のこと……
「ぐぅぅ!お兄……ちゃん!お兄ちゃん!!お兄ちゃんッ……!!」
今までで一番苦しそうにうなされていた。気づけば俺は立ち上がってラティアスのそばに行き、ラティアスの手を握っていた。自分でも何をしているのかよくわからなかった。
「大丈夫……俺がいるからな……。だから、安心して眠ってくれよ……。」
すると、ラティアスはさっきまでうなされていたのが嘘のように穏やかな表情になり、寝息を立てて眠っていた。
俺はひとまずホッと息を吐いた。
しかし、ここからだった。
***
翌朝、目がさめると俺は机に伏せて寝ていた。俺のベッドではラティアスがぐっすり眠っていた……
「……ッ!?いない!!ラティアス!?」
ベッドを見るとそこには誰もいなかった。ラティアスがいなかったのだ。慌てて俺は自分の部屋を飛び出してリビングに出た。
「あっ!」
そこに居たのは白く長い髪をくくってポニーテールにし、赤色のエプロンをして朝食を作っているラティアスだった。表情は明るく、昨日のことがウソのようだった。
「おっはよ!
ラティアスは俺のことをお兄ちゃんと呼び、嬉しそうにそばにやって来たのだ。そして、抱きついてきたのだ。
「これ、お前が作ってくれたのか?」
テーブルの上にはトーストと出来立てのベーコンエッグがあり、隣にはサラダもあった。中々美味しそうだった。
「うんっ!さっき料理の本があって作ってみたくなったから作ったんだ〜えへへ///」
「へえ、すごいなぁ…!」
俺はラティアスの頭を撫でてあげた。
「それに……あの……将来、お兄ちゃんのお嫁さんになりたいし……ね?」
「……えっ?」
ラティアスは頰を赤らめて言った。えっ……お嫁……さん?俺の思考が少し停止した。ラティアスがとんでもないことを言っていることに気づいたのは5秒ほど経った後だった。
「い、いや…そもそも俺はお前のお兄ちゃんなんかじゃないぞ?」
続けて事情を説明しようとした時だった。
「!?」
ラティアスの抱きしめる力が強くなったのだ。
「なに言ってるの?」
「え?」
「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだよ。あれ、もしかして私のこと嫌いなったの?」
「あ、いや……。ぐっ…!?」
すると、ラティアスはとんでもない力で俺を抱きしめてきた。さっきの笑顔とは違い、無表情で能面のような表情で涙を流しながら強くこちらを見つめていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいお願いだから私のこと嫌いにならないで……!!お兄ちゃんまでいなくなっちゃったら私……わだじぃ……ッ!!」
そう、あの時、ラティオスが死んでしまった時に壊れてしまったのだ。もともとラティオスという兄にとても可愛がられていたのか、そのせいでラティアスの中のお兄ちゃんという存在が大きすぎたらしく、結果、その存在が無くなり、ラティアスの中でそのお兄ちゃんという枠に俺が勝手にはめられてしまったということになる。こちらからしたら傍迷惑な話なのだが、俺もこのラティアスを見捨てるなんてことはできなかった。だから、俺は『お兄ちゃん』になることにしたのだ。
「ごめんな……。俺はお前の『お兄ちゃん』だ。お前のことをわかってやらなくて本当にごめん。もう離れたりなんかしないからな。」
俺はそう言ってラティアスを優しく撫でてあげた。その後、この発言があまりにも迂闊すぎたということに気付かされるのはまた後の話。
「うん……!うん……!えへへ、お兄ちゃん……!」
気づけばラティアスも目を赤くしているが、さっきと同じような笑顔に戻っていた。
「よし!せっかく可愛い妹が朝食を作ってくれたんだし、冷める前に食べようか。」
「はーい!」
こうして俺はラティアスの兄として過ごすことになったのだった。
***
………お兄ちゃんが死んだ。
お兄ちゃんは悪いニンゲンたちの攻撃からの攻撃を全て受けとめて私を護ってくれていた。
でも、お兄ちゃんはボロボロになってしまい森に墜落した。
そして、間も無く死んだ。
その事実に気づいたとき頭の中がぐしゃぐしゃになってなにもわからなくなっていた。
『えっ……ここは…………どこ?』
次に目を覚ますと何一つ光のない真っ暗な空間にいた。周りが何も見えなくて怖くなった。一人で周りには光すらないこの空間はとても寒くて辛くて寂しくて悲しくて一生このままなのかと思うと怖くてたまらなかった。
やがて私は頭を抱えてうずくまった。怖くて怖くて震えが止まらない。今まで感じたことのない孤独感が私を襲った。
『うぅ……助けてよぅ……!』
震えてその場でうずくまっていると、突然一筋の光が差して、その直後周りが一気に明るくなった。思わず顔をあげるとそこには一人の人間がいた。
『もう大丈夫だ。俺がそばにいるからな。』
そう言ってその人間は優しい笑顔で手を差し伸べた。
その手を取ると、とても温かくて気持ちよかった。そして、優しく頭を撫でてくれた。私はそれだけで心が暖かくなって気持ちが良かった。
『
たしかにお兄ちゃんが生きていた頃頭をよく撫でてもらっていた。とても気持ちよくて心地の良いものだった。でも、
翌朝起きるとお兄ちゃんは私の手を握ってベッドに顔を伏せて眠っていた。お兄ちゃんはずっと私のそばに居てくれたのだ。お兄ちゃんは絶対に離れたりしない。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと一緒に居てくれる。
朝食の時に私がお兄ちゃんと呼んだことにお兄ちゃんは違和感を感じていたみたいだったけど、お兄ちゃんは受け入れてくれた。抱きつくとそれを優しく受け止め、頭を撫でてくれた。病み付きになるような気持ち良さで頭がいっぱいになって思わず笑みが零れた。
***
それからラティアスは俺から片時も離れようとはしなかった。買い物をするにも洗濯をするにも何をするにもそばにいてついてきていた。
あと、俺以外の人間を信用しなくなった。
大家さんに差し入れをもらってちょっと話していると俺の服の裾を掴んだまま、相手を殺さんとばかりに睨みつけていたのだ。
大家さんはその殺気を感じ、慌てて会話を打ち切るとそそくさと部屋に戻って行った。すると、ラティアスはいつもの笑顔に戻り、俺の胸に頰をなすりつけていた。
そして、俺とラティアスの中で一番最悪の事件が発生した。
それはラティアスと暮らし始めて2ヶ月くらい経ったとき
のことだった。
ラティアスと散歩をしていてちょうど公園のベンチで一休みしていたときのことだった。
「ラティアス?」
「なぁに、お兄ちゃん?」
「今日の夕飯何食べたい?ラティアスの好きなものでいいぞ。」
「うーん……」
夕方だったので夕食の支度もしないといけなかったので、ラティアスの好きな料理でも作ろうと思ったのだ。まぁ、料理はあまり得意とは言えず、少し不恰好になってしまうが……。
「あっ!そうだお兄ちゃんの××食べたい!!」
「おいコラやめろ。食べ物の話ししてるんだよ。そっち系の話しじゃねえよ。」
「冗談だよ。それに先に私の××をもらって欲しいしね///」
そう言ってラティアスは頰を赤らめる。
「マジでやめろ。」
そんな他愛もない(?)話をしていると、突然全身に鋭い痛みが全身に走った。
「ぐっ!!?」
あまりの痛みの強さに意識が自然と薄れていく……
「………お………まえ………はッ…………」
意識が朦朧とする中最後に見たのは鋭い眼光で俺を睨みつける、気を失ったラティアスを抱えた白い髪の男だった。俺はその男の雰囲気が何かと似ている気がした。
***
「ん……んん?」
目を覚ますとそこは静かな森の中だった。辺りを見渡すとひとり私と同じ白い髪の男がいた。私は一目で分かった、この男は私と同じ種族である『ラティオス』だと。
「目が覚めたか。」
「……誰。」
全く知らない顔だったのでとりあえず尋ねた。
「私はお前の兄の昔からの友だ。お前の兄からいつも言われていたんだ。『妹に何かあったら助けてやってくれ』とな。お前があのニンゲンに捕まっていたようだったから助けに来たんだ。これから一緒にみなみのことうに行って仲間たちと合流する、……だから行くぞ。」
「やだ。」
私は即答した。
「何か勘違いしてるみたいだけど私は捕まってなんかいないよ。それにあなたが言うアレはもう私の兄なんかじゃない、私の兄……お兄ちゃんはあの人だけなの。だから、私はもう二度と仲間と合流なんてしないよ。」
すると、ラティオスは目を見開いて言った。
「な、何を言ってるんだ!!?そうか、お前あのニンゲンに洗脳されてるんだな!!?」
「そんなわけないじゃん、あの人がお兄ちゃんってことはもう絶対何があろうとも揺るがない事実だよ。私はお兄ちゃんのところにかえるんだ。」
「どうしてだ!?なんであんな下劣で下衆で醜い生き物であるニンゲンに肩入れする必要があるんだ!?種族の違うニンゲンとは一生分かり合えるはずないのに!!それにお前の慕うあのニンゲンもどうせ影ではお前を何か悪いことに利用しようとしているに違いない!!考え直せ!こっちに来るんだ!!」
そう言ってラティオスは手を差し伸べてきた。
だから私はその手を
とりあえず吹き飛ばした。
「………え?」
吹き飛ばした際に飛び散った血が私の頰にへばり付いた。お兄ちゃんならまだしもそれ以外の生き物にこんな穢れたものをつけられるなんて最悪の気分だった。でも、今はそんなことはどうでもいい。
「お前、今お兄ちゃんのこと貶したな?」
「……は?」
右手が吹き飛ばされてまだ未だに状況が飲み込めていないのか腑抜けた返事が帰ってきた。だから私はサイコキネシスで右腕ごと吹き飛ばした。
「がぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!???」
「とっとと答えろ、今お兄ちゃんのこと貶しただろ?」
痛みでラティオスは苦しそうに表情を歪める。
「ぐっ、あぁ……ッ!!貶した……さ…ッ!!お前をここまで変えてしまったそのニンゲンを憎んでいるからな……ッ!!」
ラティオスは痛みに苦しみながらも鋭い眼光でそう答えた。それを聞いた私は思わず軽く笑みをこぼした。
「そっか………なら、
「……え?」
私はラティオスの左腕を切り落とした。こいつはまだそのことに気づいていないようだ………あ、気づいた。
「ぐぉぉぉぁぁぁあッ!!!」
両腕を無くしたラティオスは苦しそうにうめき声をあげた。
「お兄ちゃんを傷つけたり貶したりするゴミ共は絶対に許さない。誰であろうとね。そんな愚か者は私が一人残らず消してやるよ。」
そう言って私はどうやって
***
「……ハッ!!」
目がさめると公園の地面にうつ伏せになっていた。外が少し明るくなっていた、朝まで気を失っていたようだ。
「……あれは、間違いなくラティオスだった……よな。」
そう、あの気配はあの時ラティアスを残して死んでしまった時のラティオスと感じが似ていたのだ。
「連れ戻しに……来たのか。」
すぐに襲われた理由がわかった。アイツはラティアスを助けに来ただけだったのだ。俺がどうしようともラティオスから見れば俺も憎たらしい人間の一人に過ぎないのだから。仲間を守ろうとするとは当然である。
「平和に暮らしてるといいなぁ…ラティアス。」
俺はそう言いながら空を見上げていた。
俺は下宿先に帰り、帰る準備をしていた。ラティアスが居なくなってしまった以上、ここに長居する理由もない。シンオウに帰ってもっと勉強に励みたいと思ったのだ。俺は明日に帰る事にしたので荷物をある程度まとめて下宿先の大家さんにもその事情を話し、お礼をしてから眠ることにした。
「もう10時か。明日も早いし寝るか。」
俺は電気を消してベッドに潜り込んだ。すると突然窓が開き、冷たい風が入り込んで来た。俺は驚き思わず体を起こした。すると、突然誰かに強く抱きしめられた。
「お兄ちゃん………!お兄ちゃん………!会いたかったよぅ……!!」
「おまえ………ラティアス?」
急に抱きしめて来たのはラティオスに連れ去られた筈のラティアスだった。そして、恐怖したのがラティアスが顔を上げて俺を見つめた時の彼女の瞳だった。前よりも黒く淀んでいて光はなく、俺以外を映していなかった。すると、つぎは俺の胸に顔をうずめ匂いを嗅ぎ始めた。
「あぁぁ……!!この匂い……お兄ちゃんだぁ……えへへへ……!!もう二度と離さないよお兄ちゃん……ッ!!」
「おまえ、向こうで何があったんだ?」
明らかに様子が変だったので原因を探ろうとした。すると、
「お兄ちゃんは気にしなくていいよ。話をつけて来ただけだから。」
そう真顔で答え再び俺を強く抱きしめた。
本気でマズイと思った俺は切り出すことにした。
「ラティアス、俺は明日シンオウに帰る。」
「そうなんだぁ……!!じゃあわたしもついていくよぉ……!」
「いや、おまえは連れて行けない。」
「えっ………」
それを聞いたラティアスはまるで地獄に落とされたかのような絶望の表情を見せた。
「なんで……、なんでなのお兄ちゃん……?もしかしてお兄ちゃんわたしのこと嫌いになっちゃったの?」
「違う、そうじゃない。おまえも兄離れしてしないといけないと思ったからだ。」
「いやだ、お兄ちゃんと離れたくない離れたら私生きていけないよ……」
ハイライトのない絶望感の溢れる瞳でそう言ってきた。胸が痛んで仕方がなかった。しかし、本当の兄に任された以上このままにはしておけない。
「ダメだ。俺はおまえに成長してほしいんだ。………わかってくれ。」
翌朝
「お兄ちゃん!起きてー!!」
「んん……もう朝か……」
ラティアスは普段と変わらない明るい笑顔で俺を起こしてくれたのだ。
「船は10時出航でしょ?早くしないと間に合わなくなっちゃうよ?……まぁ、私はそっちの方がいいんだけどね。ひひ。」
そう言ってラティアスは意地の悪そうな笑みを浮かべた。彼女は俺の頼みを受け入れてくれてホウエンに残ることを決めてくれた。進もうとしてくれたのだ。
そして………
『まもなく……シンオウ行き出航いたします。』
ミナモ船着場でアナウンスが流れた。
「ラティアス、俺は絶対またホウエンに帰る。その時は俺のポケモンになってくれ。」
「わかってるよ、私はいつでもお兄ちゃんの所有物なんだからね。」
ラティアスはそう言って涙で目を赤くしながら俺を抱きしめた。俺も優しく抱き返したのだった。
「それじゃ……行くよ。」
「うん……待ってるからね。お兄ちゃん。」
俺はラティアスにゆっくり背を向け、船の方へ足を進めた。
こうして、俺はシンオウに再び帰ったのだった。
***
「ふふ……これでお兄ちゃんといつも一緒だよ……!」
お兄ちゃんの下宿先の一室で私は笑っていた。実はお兄ちゃんがシンオウに帰ってしまう前に
試しに目をつむり、念じてみるとそこには私のお兄ちゃんがいた。お兄ちゃんからは見えないが私がみることができるだけで満足だった。お兄ちゃんがそばにいるように感じたのだ。気分が昂り、満たされた気持ちになった。
「ふふふ………お兄ちゃん……いつまでも一緒だよ。」
そして、2年後私は再びお兄ちゃんと再会する。
独自設定→ラティアス、ラティオスは自分の命を削り自分のこころのしずくを創り出すことができる、そのこころのしずくには周りの環境や状況を自分と共有する力がある。
ps.この話におけるこころのしずくは現代風に言うと盗聴器と盗撮機を合わせたようなものだと思ってください。
無理やりすぎっすねw