ハルケギニア黄金譚   作:てんぞー

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発端 - 2

 貴族の家が大きい事に理由はあるのか? と言われたら、あるのだ、としか答えることが出来ない。

 

 なぜなら家格を示すのなら財力でそれを見せるのが一番対外的に解りやすいからだ。これだけ大きな家と領地を持っている我が家はこれだけ強いのだ! 凄いのだ! と証明する事が出来るのだ。基本的に権威や権限、家柄なんてものは目に見えないものである為、どれだけ領地が発展しているのか、そしてどれだけ富んでいるのか、その財力という基準を使う事で家の凄さを外に対して見せることが出来るのだ。なぜなら家とは安い買い物ではないからだ。貴族なら豪邸の一つ、魔法を使って建築する事も簡単だろう。固定化すればそれを維持することだってできる。

 

 だがその維持はただではない。掃除しなければ汚れるのは固定化があっても変わらない。そしてそれには人が必要で、それ以外にも飾ったり等の事で維持費が常に発生し続ける。そう、形のあるものには常に維持費が発生するのだ。その例外はウェイアード文明による錬金術を使用した建築ぐらいだろうが、それに関しては例外すぎるので考慮には値しない。そして維持費はどこから来るのか? となると領地からの税収になってくる。そして領地からの税収を徴収し過ぎれば、それだけ領地は荒廃し、税が満足に取れなくなってくる。

 

 故に、その貴族の強さは領地と家、その両方を見れば良い。力のある貴族はそのバランスが上手く出来ている。中までが綺麗な大きな家を持ちながら、ちゃんと領地を肥えさせている。収支のバランスをうまく管理し、そのうえで成功しているという事を示している証だ。税収は非常に面倒なところだ。税収を緩めすぎると最初の方は民が満足しても、あとから税を上げるとそれで慣れた民が反発を起こしてしまう。税を下げた時の感謝の気持ちなんてものを長く覚えている程、人間は優しい生き物ではない。じゃあ逆に税を上げれば、となると人が領地から離れるだけの話だ。

 

 堕落させず、そして逃がさず。そのバランスが難しい。領地や政治などの知識が自分には備わっていないが、それでもラ・ヴァリエール領はそういう意味では大きく成功している領地であり、貴族であると自分は記憶している。ラ・ヴァリエール領にはある程度のまとまった私兵を持つことを許可されている。それは隣接しているのがゲルマニアという大国の国境であり、そこからの侵入や侵略に対して睨みを利かせるという意味も存在するからだ。その維持費の一部は国家によって補填されるも、私兵を維持しながら領地を腐らせず、そして豪邸を持っているラ・ヴァリエールは間違いなく貴族としては成功者だと言える。

 

 なぜなら世の中には領地を持たず、平民以下の生活を送る貴族だって普通に存在するのだから。それは現代では決して珍しい話ではない。血筋は確かに尊ぶ要素となっているが、その前に必要なのは金だ。これがないとどうにもならない。

 

 そういう訳でガリアからの旅を終え、漸くラ・ヴァリエール邸へと長旅から帰還する事が出来た。直接貴族の家へと平民が馬車で乗り込むのは非常にマナーとして不味いので、最寄りの街で馬車を降りたらいったん宿をとる。

 

 貴族社会とは実に面倒なもので、謁見する際には多少のマナーや準備が求められる。特に平民、エナジストだと相手は解っているのだ、さらに慎重になる必要がある。相手がこちらに対して理解があって、同情的であるのも事実だが、それはそれ、ビジネスパートナーである以上、相手の流儀に従う必要はある。これは最低限の事だ

 

 まず移動している間はまともに体を洗えていないので、金を多少出して湯船で体を綺麗にする。そのうえでいつも来ている服装を多少綺麗にし、清潔であることを確認する。清潔であるか否か。それがまず最初に相手がこちらを見て判断する事になる。清潔感はどんな人間であれ、一番最初に判断するための材料になる。そしてその次に来るのが会話などから通じる品格だ。此方の場合はそこまで気にしなくては良い。服装まで着替える必要はないが、ある程度のおしゃれをアピールするために香水程度は使っていても悪くはない。

 

 ただ必要以上に入念に準備した、というのを見せてしまうとこいつ、こんな時に無駄に準備を……なんて変な逆恨みを買う時もある。そのため、あくまでも見た目が清潔であるように整えて、不快感を与えないように見た目を整える。これで漸くラ・ヴァリエール邸へと向かう準備が完了する。

 

 装備の類はそのまま、宿を出てラ・ヴァリエール邸へと続く道を歩いて行けば、空をフクロウが飛行し、それがラ・ヴァリエール邸へと向かって帰って行くのが見える。使い魔による視覚共有で此方が来たのを察知したのだろう、おそらくは受け入れの準備をしてくれる筈だ。

 

 シノと肩を並べて歩いていると、やがて豪邸へと続く大きな門の姿が見え、その前に立つ門番の姿も確認できる。歩いて近寄ってくる此方の姿に、門番が二人とも背筋を伸ばす姿が見える。近づき、門番の前で足を止めてこほん、と軽く咳払いをする。

 

「―――アレン・グリムウッド、秘宝ヘルメスの水をついに見つけ出した。ラ・ヴァリエール公爵との契約に従いその納品に参った。開門を願う」

 

 その言葉にフルフェイスヘルムで顔を隠した兵士は頷いた。なんとなくだが、その下には笑顔を浮かべている様な気がした。

 

「話は聞いている、良く戻ってきてくれた。……手遅れになる前に戻ってきてくれて良かった―――客人であることの確認は終わった! 開門!」

 

 仰々しい言葉と共に巨大な門が開いた。横へと退き、道を開けてくれる門番に従い屋敷の敷地内へと進んだ。ちらり、と横目にシノを見ればずっと無言を保っているのが見える。この女、貴族に対する口の利き方が全くなってないのを本人自身が理解しているので、こういう場合は全く喋ろうとしない。彼女もこちらの視線に気づいたのか、此方へとちらり、と視線を向けてから正面へと視線を向け直した。これ、改善する気がないな? と解る態度だった。

 

「面倒だからな」

 

「リードするなよ……」

 

「お前が解りやすいだけだ」

 

 そうかなぁ? と軽く首を傾げながら自分の顔に触れる。そこまで解りやすく表情に出るかなぁ? と何度か首を傾げているうちに前庭を抜けた。屋敷の前では執事が立って待っていた。此方を確認すると軽く一礼を取る。

 

「お待ちしておりました。おあがりになる前に、武器の類を預からせていただきます。必要はないと思うのですが―――」

 

「いえ、まぁ、一応そういうもんですからね」

 

 腰のベルトから鞘ごと剣を抜き、それ以外にもいくつかのナイフなどの武器をポケットなどから抜いて、それを執事へと渡した。一応、これは外に対して私は害意がありませんよ、というアピールでもある。身内扱いされていない以上は必要な事でもあるのでしょうがない。何より、ここはラ・ヴァリエール公爵家、つまりトップクラスの地位を持つ人物の家なのだから当然といえば当然だ。

 

 こうやって武装を完全に解除したところで、漸く本邸へと入ることが出来る。長い道のりだったなぁ、と少しだけ、感慨に耽っていれば、入り口を抜けた向こう側、ホールに長い間見ていなかった男の姿を見た。前へと数歩出たところで礼を取った。

 

「これはラ・ヴァリエール公爵、お久しぶりです。こうやって直接会うのは果たして何年振りでしょうか」

 

「そうだな……まさか治せる水メイジを見つけ出すよりも早く、伝説とも言われる古代の秘宝を見つけ出す方が遥かに早くなるとは思いつきもしなかった。果たして水メイジの無能っぷりを嘆くべきなのか、それとも伝説を見つけ出すお前の有能さを褒めるべきなのか、それとも伝説に縋らないとどうにもならない我が身の無能っぷりを笑うべきなのか……」

 

「公爵……今はそのことよりも本当にヘルメスの水がお嬢さんに効くのかどうか、それを調べるべきではないのでしょうか」

 

「……それもそうだな。こっちへ来い。カトレアは今離れの部屋にいる。お前との契約は……」

 

「いえ、実際の効能を確かめてからその話はしましょう。すべては結果で示す。それが探検家という生き物です」

 

「成程、一理ある。……こっちだ」

 

 ラ・ヴァリエール公爵との会話をそこそこで切り上げて、屋敷を公爵の先導で進んで行く。ここに来たのは初めてではない。とはいえ、そう回数が多い訳でもなく、現世代でのハイディア村一のエナジスト、という事でちょくちょく仕事に呼ばれる関係だったのが昔の話だ。そのため、屋敷で働いている人間とは数人ほど顔見知りである。ここ数年はガリアで活動していただけに、ここへとやってくるのもだいぶ久しぶりで、やや恐れ多い感覚は強い。

 

 故にシノの様に、黙ってついて行く。

 

 屋敷の中を抜けて裏庭へと出ると、その向こう側に離れが見える。その周囲には熊を初めとする自然動物が休んでいるのが見える。そういえばラ・ヴァリエール公爵の息女、カトレアは動物に好かれる体質の人物だったな、という事を思い出す。基本的にそちら方面の才能はメイジではなくエナジスト側の才能になるので、メイジとしてその才能を持つのは少しだけ、驚きでもあった。動物たちも大人しい物で、屋敷の敷地内にいる間は暴れようとする意思を一切見せずに、大人しくカトレアのそばに控え、見守る様な姿が目立つ。今も離れに入りきらない大型動物が扉の外で控えているが、此方へと視線を軽く向けても威嚇する事はせず、道を開けてくれている。

 

 それは少しだけ、不思議な光景でもあった。そんな動物たちを避けて扉の前に立つと、公爵が扉を軽く叩いた。

 

「カトレア、良いか?」

 

「えぇ、待っていましたから」

 

 その言葉と共に公爵が扉を開けて、その向こう側に広がるそう大きくはない離れへと進んだ。それに続くように入って見えるのは大量の動物によって占拠された、しかし風通しの良い部屋だった。病床にあるカトレアの事を考慮してか常に室内の空気が入れ替わる様に設計されているのはやはり、彼女の為だけにここを作ったからだろうか。なにせ、普通の屋敷の一室とかだと空気が籠りやすい。病気の時はそうやって空気が淀んで体調を悪化させる。

 

 カトレアの視線が公爵から此方へと向けられる。ベッドの中でパジャマ姿、上半身だけを持ち上げていた彼女は此方へと気づき、軽く頭を下げた。

 

「お父様、其方の方々は」

 

「うむ。お前の体を治療する為の秘薬を持ってきてくれた方々だ。万病にも通じる秘薬らしく、これでついにお前の病を倒せると豪語している」

 

 そんな事一言も言っていない。とはいえ、藁にも縋る思いで薬を探している公爵と、実際に病に侵されているカトレアの前では何も言えなかった。静かに背に冷や汗を流しつつある状況で、公爵が此方へと視線を向けて来た。これは出せ、という事なのだろう。失敗しなければ良いなぁ、と思いながらベルトポーチの中からヘルメスの水を収めた瓶を取り出した。それを持ち上げながら、

 

「一応、自分の体で何度かこれを使って検証した結果だけ、いいですか?」

 

 その言葉に公爵が頷いた。

 

「自分の指を千切って使ったら繋がりましたし、猛毒を飲んでから使ったら即座に毒が消えました。一応風邪の類にも軽く試した結果成功しましたが。ただ、飲んだところで目に見える変化は外傷がある時しか解りませんので……」

 

「あぁ、安心してください。体の中に巣食う病魔の気配でしたらずっと感じています。これが体の中から消え去る瞬間を絶対に見逃しません」

 

 言い方がかなりマジっぽい。どうやら本気で病魔の気配を感じているらしい。なら偽る様な事はないだろうし、解るだろう、と公爵にヘルメスの水の入った瓶を渡した―――一応、これが全てではなく、もちろん自分やシノ用に別に瓶を用意してある。これだけの効能のある万能薬を全部渡すわけがない。

 

 怪我をしたときに使えばいいし、金に困ったら売ればよい。今回の様に病で苦しんでいる所があれば使って恩を売るのも悪くはない。やや、邪な考えであるのは否定できないが、今、人の命を救っている所なのだから問題はなかろう。そう自分に言い聞かせている間に公爵がカトレアの背中を抑え、口元にヘルメスの水を寄せていた。室内にいる動物たちもその様子を固唾を飲んで見守っているように見えた。

 

 そこから数秒間、たっぷりとヘルメスの水が入った瓶を半分ほど飲むと、カトレアが片手で瓶を抑え、動きを止めた。それに公爵が語り掛ける。

 

「どうしたカトレア、不味かったか? それとも―――」

 

「いえ、もう充分です」

 

 その先を聞くのが恐ろしいような言葉をカトレアは一旦置いた。静寂が完全に支配する離れの中で数秒間、緊張感と共にカトレアが言葉を目を閉じて飲んでいた。公爵の視線が此方へとちらちらと向けられてくるのがめちゃくちゃ怖い。此方もチラリ、とシノへと視線を向けるが、シノは目を閉じてエナジーを使っていた―――こいつ、リードを使って先に結果だけ把握してやがるな? それを理解した直後、カトレアの言葉が室内に響いた。

 

「―――まるで嘘のように病魔が消え去りました」

 

「真か、それは真かカトレア!」

 

 詰め寄る公爵の姿にカトレアは微笑みながらはい、と答えた。

 

「体が軽い……臓腑を蝕む病の痛みがない……視界がはっきりして、食欲まで感じます。あぁ、健康な体で吸う空気とはこんなにも美味しかったんだと、今心の底から感じています」

 

「おぉ、おぉ……カトレア、カトレア……!」

 

「もう、泣かないでくださいよお父様……あっ」

 

「あっ」

 

 感極まった公爵が両手を広げてカトレアへと抱きつこうとした瞬間、その手からヘルメスの水が入った瓶が勢いよく投げ飛ばされた。宙を舞う奇跡の秘宝が放物線を描きながら壁へと向かって高速で飛んで行くのを、素早くキャッチのエナジーを使って叩きつけられる前に回収し、床に落ちた栓を拾って、それでしっかりと口を閉ざした。それを近くのテーブルの上に置きつつ、軽く頭を下げる。

 

「では、親子の時間が必要そうですし、私たちは外の方でお待ちしています」

 

 そう告げて、離れを出て行く。

 

―――長年の苦労、それが漸く終わった瞬間でもあった。

 

 

 

 

 数時間が経過した。それは本当に目に見えない病魔という存在がカトレアの中から消えたのかを確かめる為の時間だった。そのあとで水メイジを呼び出してカトレアの検査を行い、彼女がまるで新品の体を得たかのような健康さに度肝を抜かれたことによって、本当に彼女が原因、そして治療法も不明であった病から解放されたという事が証明された。

 

 そして子煩悩である事で有名なラ・ヴァリエール公爵がこれを祝わない理由がなかった。その日はささやかながら祝宴を開く事となった。無論、ゲストとしてヘルメスの水を持ってきた自分たちも参加する事になった。大急ぎで帰ってきて参加する事になった長女エレオノール、回復した次女カトレア、そして近いうちにトリステインの学園へと入学する事が決まっている三女のルイズ、と三姉妹全員が揃っている他、ラ・ヴァリエール公爵夫人と公爵本人、ラ・ヴァリエール家全員が揃った祝宴であった。

 

 それは外部から人間を呼ぶ事のない、身内のみによって開催された祝宴であり、カトレアたっての希望で中庭に、動物たちを交えるように開かれた立食形式の祝宴だった。病から解放され、寝たまま、或いは座ったまま食べる必要がなくなった今、足を思いっきり延ばしたまま立って食べたい、というちょっとお嬢様らしからぬ願いではあったが、それを二言で公爵が快諾した結果実現した。

 

 そして祝宴開幕直後、

 

 リードで動物たちの心の言葉が理解できるシノがこっちを捨てて動物達に混ざって逃げた。

 

生物の心を読み取ることが出来るリードという風のエナジーを使えるシノが早々に逃げ出した事に軽い絶望感を感じつつも、祝宴は始まった。立食というスタイルである為、中庭にはいくつかテーブルが広げられており、今日ばかりはある程度の無礼は許す、という公爵の言葉によって使用人たちもこの日を喜びながらローテーションで立食を楽しんでいた。

 

軽い絶望感に打ちひしがれつつ、此方へと誰も来ませんように、とテーブルの一つから適当につまめるものを選んで食べていた。

 

「んー、流石に公爵家。いいもん食ってるなぁ……」

 

 基本的にこのハルケギニアは肉文化をメインにしているが、トリステインは海に隣接しているという事もあって漁業も盛んだ。ラ・ヴァリエール領はトリステインの中でもとりわけ内陸に位置する場所だが、平民落ちしている水メイジを使った運送によって魚の鮮度を保てるようになっている。

 

 こればかりは内陸部に領土を保有しているガリアではできない事だ。

 

 そう、トリステインでは魚を食べられるのだ。内陸部では鮮度の問題では高級品であるこれも、ここでならそこまで高くはない―――だが美味しい物を食べようとすれば、必然的に高級品のラインへと戻るだろう。その中で、ちゃんと美味しい魚を引っ張ってきているラ・ヴァリエール家は中々やる、と評価できる。

 

 マリネにカルパッチョを始め、ほかにも見たことのない魚料理がテーブルの一つを支配していた。長い間ガリアで活動していただけに、こうやって魚を食べるのは久しぶりだった。肉とは違った冷えた触感が口の中を支配する。食べごたえは肉程ないが、それでもするりと飲み込めてしまうその感触と味に関しては、肉に負けない部分があると思っている。

 

 ただ、やはりライスが欲しくなってくる。魚とパンの組み合わせは悪くはないが、調理の仕方が違う。パンと魚の組み合わせをするならもっと塩辛い魚で焼くべきであると考える。或いはサンドイッチ風にした方がいいかもしれないなぁ、とマリネを口の中へと運んでいると、

 

「失礼、良いでしょうか」

 

「ん、これはラ・ヴァリエール公爵夫人。私の様なものに対してなんでしょうか」

 

「カリーヌで結構です。それよりも貴方には感謝を伝えたくて。夫共々方々に手を伸ばし治療法を長年求めて来ましたが、それでもこうやって実際に治療できたのは貴方のおかげです。娘の命を救ってもらい感謝しています」

 

「いえ、此方こそ良い仕事でした。当初は霧を掴むような話でしたが、ラ・ヴァリエール家が提供してくれた資金のおかげでこうやって見つけ出す事が出来ました……失礼かもしれませんが、あまり情とかで動いたとは思わないでください。腹芸は出来ないので率直に言いますが、私は故郷への恩義、そして同胞であるエナジスト達の待遇が少しでも改善するように、と考えて探しましたから」

 

 まぁ、多少同情しなかったと言えばウソになる。だが、同情した程度で瀕死になるの理由にはならない。そこにちゃんとしたメリットがなければ、動くに足る理由にはならないのだから。正直な話、あまり自分に対して幻想を抱いてほしくないというのが今、カリーヌに正面から誤解しないように言った理由だった。

 

 勝手にこっちが便利に使える手駒だと思われては困る。

 

 言外に報酬が出るからこそこっちは働いているのだ、と伝える。多少下品な物言いかもしれないが、正直ラ・ヴァリエールとはここらへんで個人としては縁を切りたい。大きな貴族がスポンサーとして存在していると非常に活動しやすいのは事実だが、スポンサーがいるという事はその意向に従う必要が出てくるという事でもある。個人的に、そこは遠慮しておきたい。

 

 俺は自由に探検するのが好きであって、誰かに従って探検している訳ではない。

 

 これはライフワークで、趣味なのだ。その意図を悟ってか、少しだけカリーヌは表情を曇らせた。

 

「そうでしたか……出来る事ならば取り立てようと思っていたのですが」

 

「正直恐れ多いですし、身が重くなるので遠慮させていただきます。個人的に探検家として世の遺跡を探検、発掘しているだけで十分楽しいですし。……まぁ、エナジストという身分が引っ張って論文を書いても発表できないってのが心苦しい事ですが」

 

 名誉欲はそこそこある。だが一番重要ではない。自分にとって一番重要なのはこの自由な生活を守る事にあるのだから。

 

「成程、一般的な報酬は貴方には通じそうにはありませんね」

 

「まぁ、基本的には世俗と無縁な生活を送っていますからね。ただ、まぁ、魔法学院にあるフェニアのライブラリには少し興味がある、って事でしょうか。王立図書館は錬金術関連の書物を処分しましたが、あっちの方は保存しているようですし」

 

「成程、考えておきます」

 

「いえいえ、此方こそ」

 

 貴族との会話は疲れるな、と愛想笑いを浮かべながらそのまま、カリーヌとの会話を終わらせる。その次にやってくるのは長女のエレオノールであり、どうやって、どこで、などと学術的な話を仕掛けてくる。今夜はこのペースでまだまだ大変そうだ、と、溜息を気づかせる事無く吐き出しながら、祝宴という拷問の夜が更けて行く。

 




 貴族は面倒本当に面倒超なりたくない。お金だけもらって庶民の生活する方が遥かに楽です。という訳でコネと顔つなぎゲットだけするというお話。なんだか夫人バーサーカー説あるけど恩義のある人に勝負を挑むような人間が公爵夫人になれるとは思わないので狂犬はしないよ!

 アポさんとカロンさんがうずうずしながらハルケギニアを眺めてる。

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