次の投稿はもう少し早く出します!
あと今回も自信が無いです。
それでもよければよろしくです!
『エルシュ王子がこの町に来てくださった』
数日前に流れたその噂は瞬く間に町中に広まった。噂を特に気にしない自分の耳に入るくらいなのだから、おそらく町の人間で知らない者は居ないだろう。
エルシュ様は数年前にもこの町に来て、一年ほど滞在していたことがある。自分とそう変わらない年齢であろうエルシュ様であるが、自分と違って町中の人間の人気者である。
それもそのはずだ。
この国の王族や貴族は城下町の人間ならまだしも、ニップルの町のような田舎町の人間は軽視する傾向がある。
酷い場合だとどんな命令であろうと文句を言ってこない、言えないような都合のいい働きアリか何かだと勘違いしている貴族だっているのだ。
だがエルシュ様は違った。
王族なのに町の人間に等しく平等に接し、自分よりも子供やあまり歳が離れていない人間には弟や妹と接するように優しい声音で話しかけ、歳が離れている人間には礼儀のなっている少年のように敬語で話していた。
性格は決して驕らず、悩みや困り事のある人間には手を差し伸べ、それを解決するような優しい人間。
人気が出ないはずが無い。
だが、一部の人間には快く思われていない。
…………自分もその一人だ。
まぁ、あまりエルシュ様の事を好いていない人間の大半はエルシュ様が人気だからという下らない嫉妬からくる悪感情のせいらしい。はっきり言って下らない人間達。
残り少数のエルシュ様の事を好いていない人間は、彼の父君に当たるルガルバンダ王と会ったりした事がある者ばかりで、理由もルガルバンダ王にあるためだ。
普通ならば王に会えた人間はそれを誇りに思い王やこの国の為に己の全てを投げ打ってでも頑張ろうと思うだろう。
数代前の王に会った事がある詩人が歌った歌の内容はそんなのだった。まぁ自分で考えたのか歌わされたのかは正直言って怪しいものだが。
だが、もしそれが本当に自分で感じた事を歌っているのであればその時代の人間が本当に羨ましい。
ある人間は片腕が無いだけで城から追い出された。
ある人間は歳だからという理由で兵士達の小隊長であった人間を無理矢理辞めさせた。
ある人間はあり得ないような噂を流され、城下町に居られなくなった。
ある人間は供物として神へ捧げられた。
そして…………自分は親が居なく、その日暮らしをしていると言うだけで、蔑んだ目で見られ、どかせろと近くにいた兵士に命令して自分を放り投げさせた。
自分は近くの路地裏に放り込まれ身体を打ち付けたが、それでも打ち所が良かったのか余り痛みを感じずに済んだが、それが面白くなかったのかルガルバンダ王の方へもう一度顔を向けると自分を投げ飛ばした兵士がまた此方へと向かって来ていた。
痛い思いをさせられると判断した自分は直ぐに立ち上がり、路地裏の奥へと逃げて難を逃れた。
他にも同じような経験を持っている人間は多い。
たしかにこの町にルガルバンダ王を嫌っている人間は極少数だ。だが、他の町に行けばゴロゴロといるだろう。
そんな人間の息子を好くわけがない。
エルシュ様が一年間ニップルで過ごしていた時は5、6回ほど顔を合わせた事があったが、自分の事なんて覚えて無いだろう。
だから今回はエルシュ様に会うつもりは無かった。
そう決心した時にエルシュ様がこの町に来た理由を聞いた。この頃町の畑を荒らしている魔猪の討伐らしい。
だが、自分には関係のない事だ。
そう思い、お金を手に入れる為に今日も日給払いの畑仕事のお手伝いをしていると、急に畑仕事をしていたほかの人達が怯えながるように逃げ始めた。
そして自分の後ろの方を指差して逃げろ!と言ってきた。
最初は何が何だかわからなかったが、後ろを見てみると………そこには見上げる程に大きい魔猪が自分の事を見下ろすように佇んでいた。
自分は声も出ず、逃げている人達に助けを求めるように手を伸ばしたが、その行為に返ってきた声は自分を絶望させるには充分なものだった。
『おい、魔猪の前にいるあいつ、助けなくていいのか!?』
『バカお前!よく見てみろ!ありゃ
『…………それもそうだな。
それにあいつが襲われている間に俺たちは逃げれるし、助けに行ってもどうせ助けられないだろうしな』
孤児?よそ者?お前達は自分の事をなんだと思っているんだ。目の前には魔猪、逃げようにも子供の足で逃げられるほど魔猪は優しくない。
死ぬのか?ここで?
親に捨てられ、流れ流れで着いたこの町。
よそ者だからと言う理由で避けられていたが、頑張って仕事を手に入れて皆に認めて欲しいから今まで我慢して来たもいうのに。
邪魔者扱いされた事もあった。
蔑まれた事だってあった。
それでも捨てられたくなかった。
だから頑張ったのに。
なんで?
嫌だよ。
「アァァァアア!!!」
自分でも信じられない位の大声が出てしまう。
でも、そんな事を気にすることができる余裕なんてものは今の自分には持ち合わせていない。
『グルァァァァァ………!』
叫び声を上げてからどれ位の時間が経ったのだろうか。
10分?1時間?半日?………いや、きっと数秒から数十秒しか経っていないだろう。だが、それがとてつもない程の時間が経ったように感じる。
魔猪は何の行動も起こさない自分に興味が無くなったのか、1唸りするとゆっくりと口を開きながら顔を近づけて来た。
……………もう、良いや。
自分の身体から力が抜けていくのを感じる。
ゆっくりと目を閉じる。
覚悟を決めたのではない、もう全部を諦めたのだ。
目を閉じている間、瞼の裏には一人の少年が写っていた。
道の端で少年を見つめていた自分を見つけて笑顔で話しかけて来てくれたあの人。
あの時、彼は手を差し伸べてくれた。
一緒に来ないかと誘われた。
だが、自分はその手を払いのけてしまった。
彼の事を信じられなかったから。
でもそれ以上に、彼の父親から何があったのかを聞かされると捨てられると思ったから。
捨てられたくなかったから、もう捨てらるような経験は味わいたくなかったから。
だから遠回しに断った。
次の機会があればもう一度誘ってくださいと。
その時は貴方の手を取らせていただきますと。
きっとあの時に彼の手を取っていたらこんな事にはならなかったのだろう。
まだ見たいものが沢山あったのに。
綺麗な泉で遊びたかった。
あのはるか向こうに見える赤い葉をつけた木が沢山あるところに行ってみたかった。
ウルクの城下町の活気ある様子を見てみたかった。
神様にも会ってみたかったな。
王宮の中も歩いてみたかった。
友達も欲しかったな。
花畑でピクニックをしたかったな。
あぁ、本当にやりたい事が沢山あったな。
誰か…………今まで頑張ってきた自分の願いを一つだけ叶えさせてください。
「死にたくない………誰か助けて…………!」
最後の言葉となってしまうと思っていたその言葉を言い終えたと同時に目の前で大きな音が聞こえて来た。まるで大きな肉の塊に大きくて硬いナニカをぶつけた様な音だった。
驚いて目を開けると、そこには少年が立っていた。
純金でできているような金髪に絹のような白い肌。
炎のような赤い瞳、首から翡翠のネックレスを掛けている少年だ。
そんな少年はこちらを安心させるようにそっと微笑みながら何かを呟いたように見えた。
なんと言ったのかは分からなかったが、きっとこう言ってくれたのだろう『助けに来た』………と。
自分はズルい人間だ。
先程まで彼の事を色々と言っていたくせに、助けに来てくれと懇願してしまったのだから。
先程までの緊張感から解放されたためか、意識が朦朧としている。だが、1秒たりとも彼から目を離さない。
目を覚ました時、自分の主人となる人間を少しでも多くこの脳裏に、心に、魂に刻み込むために。
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《エルシュside》
目的地である畑に着いたら町の人間が襲われていた。
とりあえず助けて、『大丈夫か?』と声をかけたら気を失ってしまった。おそらく緊張から解放された事による気絶だろう。まぁ魔猪に襲われかけて正気を保っていられるような人間はそうそういないだろうがな。
気絶している子を見てみると、緑色のロングヘアーに中性的な顔立ち、そして白いローブを着ている。
あっ何処かで見た事あるかと思ったら前回この町でお世話になっていた時にあった子だ。
たしかその時に一緒に城に来ないかと誘った事があるんだった。普段の俺なら特に気にしないような子だが、この子は異様にある人に似ているから本人と勘違いして誘ったんだったな。
まぁすぐに別人と分かったから着いてくると言われたらどうしようかなと考えてたんだが『次の機会があればもう一度誘ってください』なんていう遠回しに嫌ですって言われたし。
まあちょうど良かったんだけどね。
どうせすぐにウルクから出て行くんだから、変にいろんな人を受け入れても後の混乱に繋がるだけだから出来るだけしたくないのだ。
『グ………ガァァ…………!!』
土煙が舞っている背後から唸り声が聞こえてきた。
振り返ると先程俺が吹き飛ばした魔猪がこちらを睨んできている。その周りには
FGOで魔猪はバーサーカーのクラスを持っている敵キャラなだけあってアホみたいに耐久力がある。
というよりは痛みに対する抗体が強いのだ。
だから剣や槍を射出して刺したとしても特に気にせずこの子を攻撃していただろう。
だから魔猪を倒す時は一撃必殺を狙わなければならない。
しかし、魔猪を一撃で殺すには脳か心臓の破壊をしなければ死なない。だが、魔猪の心臓は大きくて狙いやすいが体のちょうど中央にあるため狙いづらい。脳は眉間のすぐ近くにあるが、子供の手の拳サイズ程度しかないから狙いづらい。
狙って攻撃とか無理。
だから傷を狙うのではなく、吹き飛ばすように鈍器をぶつけるしか無いのだ。
できるなら骨の一本や二本はへし折っておきたかったが………残念な事にヒビすら入っているかどうか。
取り敢えず緑髪の子を抱き上げる。
しかし近くで見ると余計に似ていると感じる。
ギルガメッシュ叙事詩の主要人物の一人でギルガメッシュの唯一の友人であり『分かるとも!』が口癖の泥人形。
そう、この子は『エルキドゥ』にそっくりなんだ。
『グルガァァァ!!!』
またこちらに向かってくる魔猪。
緑色の子を片手で支えながら片腕を振り上げる、そしてその腕を勢いよく振り降ろすとその行為に反応したかのように大量の武器が魔猪に向かって飛んで行く。
『グルブァァァ!?』
一本、また一本と魔猪の体や顔に武器が突き刺さる。
その時、一本が魔猪の脳に直撃して魔猪がゆっくりと倒れる。………あれ?
「………なんか他の魔猪とあんまり変わんない?」
イシュタルが育てたにしては弱すぎないか?
あいつは腐っても、どんなに腐りきっても女神だ。その女神が育てたのだからどんなに弱くても魔猪が数体分位の力は持っているはずだぞ?
にしては走ってくる速度も耐久力も多分力も変わんないし、体の大きさも予想していた大人の20倍には程遠い。
あったとしても2、3メートル程度だ。
報告と現場証拠の全てが外れた?
報告なら嘘をついていた程度で済むが、現場証拠はどうなる?イシュタルがわざわざ作った?
うーん、あいつはそんな事するような性格じゃないしな。
…………あれ?怪我をした奴の報告は確か『赤黒い大きな魔猪』だったか?がいるはず。
だが、あいつはただの黒い魔猪。
あと被害があった畑にはいくつもの大きさの魔猪の足跡があったよな?
…………あっやばい、なんかすごく嫌な予感がしてきたんだけど。
『『『グルブァァァ』』』
周りを見回すと先程の大きさの魔猪から赤黒い全長30メートル近くまである大柄の魔猪まで様々なレパートリーが見える。
その上、全ての魔猪は俺に向かって殺気を込めて睨みつけてきている。
これ詰んでね?
「ざっと20匹ってところか?」
不味いな、最悪
ギルくんを頼る?ふざけんなぶん殴るぞ。
逃げる?出来たらやってるが、逃げたら後々文句言われそうだし、隠居時の手掛かりが無くなる。
やっぱり
「戦わないとダメだよな」
生きてたら取り敢えず
さて、緑髪の子の性別はどちらにしようかしら?