異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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久し振りなのに短くて済みません。
リハビリだと言う解釈でどうかお許しを。


第8章

 女神様が持ってきた遺跡発掘クエスト。

 RPGでは定番中の定番クエストであり、クエストシステムがあるゲームだったら確実に一つは受けられるであろう異世界ファンタジーには無くてはならない、地味な重要な意味合いを持つことが多いイベントでもあります。

 

 多くの場合遺跡の奥には知られていなかった秘密の部屋があり、その先で世界を破滅を目論む悪の秘密結社やらなんやらの実験魔法生物が眠っているモノなのですが・・・この異世界では趣が大きく異なるみたいです。

 

 

「・・・・・・『毎年恒例、王家の方々がお墓参りするために陵墓に巣食う亡霊モンスターをお掃除クエスト。

 全滅させても一定期間が経過すると自動的にポップするアンデッドモンスター・レイスが出現するようになったため許可がない限りは立ち入りを禁じた陵墓を、一年間の埃と共に払い落としてしまおう。定員制限なし。報酬はランク毎に頭割りで』ですか・・・」

「ランク毎に担当できる場所が決まっていて、王家が所有する陵墓ですから範囲も広大。おまけに出てくるのが実体を持たない幽霊系のレイスばっかりなんで女神の私なら楽勝のクエストですよ!

 おまけに報酬は普段の二倍!二倍なのです!王家の方々太っ腹ーっ!

 ああ・・・これで今日こそ冒険者ギルドで味噌カツ定食が食べられる・・・・・・」

 

 どこか遠いお空に向かって祈りを捧げ始めた女神様。

 きっと世界のどこかで自分たちを見守っている、見てくれだけはよく似た幸運の女神様にでも感謝しているのでしょう。ご自分が『この世すべてを統べる者であったことなど』、今は遠き理想郷のお伽噺ですよ。

 

 

 

 ーーさて、ここで私が転生してきた(させられてきたとも言いますね)異世界における幽霊系モンスターに関して説明をさせて頂きたいと思います。

 

 一般に幽霊系、もしくはアンデッドと呼称されるモンスターの大半は死者の魂に何者かが仮初めの命を与えて骸骨か霊魂の状態で使役するものです。ここら辺は一般的RPGと同じなので分かり易いかと思われますが、違いというか問題はここから。

 

 「死者の魂をもてあそびおって!」とか、色々言われて否定的な目で見られがちな存在アンデッド。その認識自体はこの世界でも健在なのですが、なにかと即物的で即金的な思考法を尊ぶ傾向の強い異世界冒険者の方々の場合これら一般的価値観とは大きく異なる見解を有しておいでのようで・・・・・・。

 

 

「一年ぶりの幽霊掃除か・・・アンデッドとの戦闘自体はこの前行ったばかりだが、なんかやる気沸いてこないなー。

 あの時みたいに生前がそこそこ位の高い騎士とかだったら、高価な武具を持ってるし倒した後に高値で売れたりするんだが・・・」

「うむ、確かに。

 某も、どことは知らぬ国の王侯貴族と思しき豪奢な身なりをしたスケルトンと死合うた事が御座りまするが、ステータスが他と変わらぬくせに装備が高価な布切れだけでは勝負になりませぬ。

 あの時は剥ぎ取った王冠やら錫杖やらが高値で引き取られなければ、あやうく死者に攻撃スキルを連発してしまうところでしたぞ」

 

「あー・・・、今度の相手はアンデッドはアンデッドでもスケルトン系じゃなくてレイス系かー・・・メンドくさ。

 あいつら残留思念みたいなもんだから、魔法使ってくるタイミングを聖水振りまいて調整できるし、なにより物理的に触れないから直接攻撃の物理ダメージ0なんだよなー」

「その分魂に直接作用してくるから、精神強化の魔法かけとかないとフィアー状態に陥るけどね。

 でもまぁ、雑魚モンスターにカテゴライズされてるゴミだって事実に変わりはないのよねー・・・」

「出没するのが王家の先祖が眠る陵墓ってのが問題なだけで、そこ以外の場所で出没しても何一つ触れねぇから何一つ壊せないし、被害総額0なんだよなアイツらって。

 いや本当に、出没したのが神聖な墓所である王家の墓でよかったぜ。あそこ以外で出没してたら後始末教会に押しつけて終わりだったもんな王国政府」

 

 

『あ~、よかった。敵が物理利かない以外に強みの少ないアンデッドで。

 今回も楽勝だぜ!!』

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・あやまれ! お前ら全員モモンガ様に謝って土下座してこい!

 私の夢を壊すなぁーーっ!!

 

 ・・・・・・はぁはぁ、ふぅふぅ・・・・・・

 

 失礼、取り乱しました。オバロ大好きなものですからつい。以後気をつけます。

 

 

 

 私たちと同じクエストに参加するため馬車に同乗している冒険者の方々が交わし合っていた会話を見れば一目瞭然なように、この世界のアンデッドモンスターは妙に軽い扱いになってます。

 

 たぶん、冒険者ギルドと教会が三代勢力の一角同士で利害が対立しているのが大きいのでしょう。

 折衷案として教会は冒険者に対し「ギルドに所属するなら洗礼を与えない。既に与えられてたら無効にして、死んでも葬式はしてもらえないことを宣誓しろ」と教皇令を発布したそうなのですが、これで別段なんの実害も被らないあたりが世知辛すぎる異世界の法則で、破門された後も普通に神聖魔法を使えるは覚えられるわで、本当に信仰する価値あるのかねこの神様は?な感じの異世界最大宗教の御神体です。

 

 「このすば」において女神アクア様やエリス様の前例もあることですし、この世界でもうちの女神様は信仰されているのかなと思って聞いてみたところ、笑い飛ばされ否定されました。

 

「ないです、ないない全然ナッシング。確かに古代には神代に実在した神様とか龍とか名状しがたきナニカを信仰したりしてたんですが、途中で「神様からのお告げがー」だの「私は○○神の生まれ変わりだー」だの「お布施という一つの慈善行為が七つの大罪すべてを倒すのだー」だの「たった一つの真理、それは今生で得た金を寄進して来世で幸福になることだー」だの、戯言ほざきだした髭のオッサンとかが新興宗教ブチ立てて権力者洗脳して神権国家作って他の宗教弾圧して絶滅させて数年で破綻して群雄割拠して戦国時代やって「金が世界を救う」を掲げる魔王と、「労働者万歳、拝金主義者撲滅」を唱える聖人が最終戦争したりしてるうちに昔の神様みんな忘れられちゃいましたからねー。

 今では大半の宗教が、どっかに落ちてた石ころや、木を削って作った変なオッサン像とかを崇め奉ってて昔の神様大激怒。「もう人類なんて知らんプイっ!」と言って他の世界線へお引っ越しして早数千年。

 見捨てられて管理人いない世界だから私も好き放題やれてます。てへっ☆」

 

 ーーとりあえずこの話を聞いた後、私は女神様に冒険者ギルド名物、東方出身者と西方出身者が合同で作り出した異世界最先端の料理「味噌カツ定食」を初任給で奢るのやめときました。

 

 

 

 

 とまぁ、そんな感じで(どんな感じなのでしょう・・・?)宗教の影響力を軍事力と権威と金で維持しているらしい異世界の教会は、影響下に含まれていない国々から依頼されるアンデッド退治には、さして協力的ではありません。

 権威付けを目的として大物退治には出張ってきてくれるのですが、逆に司祭級の大物聖職者を出撃させてくれないから戦果はかなり半端な程度です。

 

 土着の神様とか山とか谷とか森とかを崇めてる税収低い田舎村にアンデッドが出没しても教会ガン無視。墓の前とかに浮かんでプカプカしてるだけだから、近寄りさえしなければ実害無いけど、遊び盛りの子供たちとかが危ないですからね。

 そう言うときこそ我々冒険者の出番がーーーないです、ごめんなさい。水系魔法に回復術あるから聖職者系の職業とる人少なすぎるんです。対アンデッド専門職に近い感じのビルドになっちゃうんで成りたがる人ほとんどゼロです冒険者には。

 

 代わりに何処からともなくやってくるのが『さすらいの聖職者』とか名乗って問答無用で国境を踏破し、人々に害なすアンデッドを退治して回ってる正体不明のシスター&牧師さんたち。

 パーティーではなく単独で動き回り、独自の信仰心の名の下すべての『この世成らざる悪』を成敗して回ってる不可思議すぎる方々。

 

 時には巨大な十字架で敵を殴りつけ、時には投剣乱舞で針山状態にし、時には股ぐらに頭つっこませて昇天させて成仏させるというキチガイじみたド変態尼さんシスターもいるようですが、会ったことないので真偽のほどは不明です。不明なままで十分です。

 

 

 彼ら彼女らのお陰で辺境では割と人気の高い(帰依する人は少ないですけど)教会ですが、逆に彼らとしてはモグリ風情に神の名を唱えられるのは不愉快極まりないらしく、賞金賭けて追い回したり討伐隊編成して殲滅しようと狙ってみたり聖撃隊とか言うエスカフローネの「竜撃隊」っぽいのを編成してたりするそうですが、大半は返り討ちにあって、残りには裏切られてます。

 

 いい感じに末期的というか末世と言うべきか、無法ではないけど平和でもない時代を象徴しているかのような異世界の宗教団体。

 

 そのうち私も戦わされるんでしょうかね・・・?

 思想的にめっちゃ敵視されそうで、なんかイヤ。

 

 

 

「冒険者さんたちー、もう少しで陵墓に着くよー。

 今日と明日の二日がかりで大掃除するんだから、キャンプの道具は馬車に忘れてくれるなよー。取りに追いかけてきても待ってやらんぞー」

 

「見くびるなよ御者の分際で! ワシを誰だと思っているんだ?

 この道三十五年、毎年の陵墓大掃除において冒険者たちの生活を世話するために働き続け、剣一振りすら持ったことのない陵墓管理官の老いぼれが並の騎士隊長様方よりも高給食んでる事実こそが、諸君らがクエスト期間中なに不自由ない生活を送れる事を保証する証である。

 明記せよ、この事実を! 勤続三十年で恩給もつくようになり、さらには来年の退官時には昇級して年金も増額!

 バラ色の退役軍人年金生活を守るため、私は諸君らの生活を何一つとして汚させはしない! なぜなら何か問題が一つでも起こると昇級がパァーになるどころか年金すらもらえなくなる恐れがあるからだ!

 私は私の豊かな老後を護るためにも諸君らの生活空間、その全てを快適な状態にして守り通すことをお約束しよう。

 わかったか!? この愛し慈しむべき最高最良のお客様共めが!!」

 

 

『お、おう・・・・・・。

 ーーなんかスゲーな、この爺さん・・・』

 

 

 

 うん。もういいや、こういう人は。なんか疲れた、現実に。

 

 

 ところでーー

 

 

「女神様。今日になってクエスト内容教えてもらってからずっと気になってたんですが、聞いても宜しいでしょうかね?」

「え? 珍しいですねセレニアさんから私に質問なんて・・・。

 いいですよ! お答えしましょう! なんでも聞いてください!

 この私の豊かで大きな胸は、いつでも愛と知識で満ち満ちているのですからねっ!」

「ありがとう御座います。それじゃあーー

 ーーこのクエストって全然、遺跡“発掘”じゃありませんよね? どうしてなんですか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・貴女にはわかりませんよ、私の気持ちなんて!

 魔王から異世界を救う勇者物語にあこがれて異世界転生させたのに、三ヶ月もの間トム爺さんと戯れられてたマスタードラゴンの気持ちなんか、貴女には決してわからない!

 理解できるはずがないんだぁぁぁぁぁっ!!!

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっん!!!!!!」

 

 

「・・・・・・」

 

 えーと・・・なんて言うかその・・・・・・うん、まぁーー

 

 

 

 ーーごめんなさい・・・・・・。

 

 

つづく




書き忘れてた設定説明:
エネルギー体に過ぎない残留思念のレイス系モンスターは物理法則が邪魔して物質に干渉できません。逆側からも同様です。
一方で精神や霊魂は肉体によって物質界に留められてる存在のため、触れられたら干渉できます。

魔法などを使えるのは無念の思いが暗い情念となって憎しみの炎を象ったから。肉体を持たない情念だけが残された存在だから自然の理にも限定的に干渉できるようになった設定です。

死んだ時に未練と無念が「死にたくない、他人の命を食ってでも生きたい」と言う具体的な志向性を持たない妄執が幽霊の形を取っただけの存在ですから、特定の目的を持てずに個人に対する想いも記憶も残っていません。ただの残留思念が幽霊の形を取ってるだけです。
脳が無くなってるので思考する事が不可能になっちゃってるんですよね。なので話しかけても口きけないから時間の無駄です。

普通の人間が死んだ時に強い情念を抱いたくらいでは取るに足らない残留思念にしか成れなかったと言う、相変わらず世知辛い異世界モンスター。

置き忘れられた想いだけの存在ですので、一度染み付いた場所からは中々離れられない性質をもってます。一定期間で復活するのは、そう言う理由。
ようするに会話できない地縛霊もどき。世知辛い。

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