異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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更新遅れてすみません。前回の指摘を受けて自分なりに反省し、一応書き換えてはみましたが、まだまだ矛盾点や無理やりなご都合主義的部分が多いと思われます。
徐々に直していきますので、とりあえず今はこれで。

あと、精神的な理由などから短めです。


第7章

 侍ガールさんの逮捕から三ヶ月。私たちは未だに町に居座り続けて小銭かせぎに精を出す毎日を送っております。

 

 私が受けたクエストは、《食堂でお客様に注文された冷水を魔法で注げ》。

 すさまじく地味であり、本当にクエストなのかと疑われる方も居られるでしょうが間違いようもなく正真正銘のクエストです。ええ、絶対だと断言できますとも。

 

 そもそもにおいて《クエスト》の定義は《人々から冒険者への依頼》であって、別にギルドを通さなければいけないなどと言うルールは存在しません。むしろ掲示板がいっぱいになるような数の依頼はご遠慮しているほどなのです。

 

 個人で受けてもらった方が手間が省けて面倒もなくて良いと言うようなクエストは、基本的に冒険者個人が町の家々をまわって求人募集を探し歩きます。食堂のオバちゃんに「オニオンを三つ取ってきて欲しい」とか言うのがこれですね。

 個人からの依頼なので仲介料は取られず、その分ギルドが関わり合いにならないので報酬は全額ポケットマネーへ。その代わり負債を抱えた時には全額自分持ち。国もギルドも関知してくれません。自己責任が徹底しすぎて偶に怖いです・・・。

 

「《ウォータ》、つづけて《スノー・ウィンド》・・・はい、冷えたお水が完成と。

 ・・・これ一杯で並のゴブリン一匹倒すよりも稼ぎが良いってRPG好きから石投げられても文句は言えませんよね・・・」

 

 溜息をつきつつ、私は二杯目に水を注いで冷気で冷やすために再度魔法の詠唱に入ります。

 

 

 

 このクエスト、一見誰にでも出来そうに見えますし、事実として魔法使い系の職業に就いてさえいれば誰でも出来ます。

 にも関わらず需要と供給が常に釣り合っていないのは、本質的に冒険者が“家業を継ぐのがイヤで故郷の村を飛び出してきた夢追い人という名のフリーター集団”だからです。

 

 

 平凡な暮らしはイヤだから、波乱のない人生はつまらないから、漢に生まれたからには浪漫を追いたい! そんな感じのノリで上京してきた方々が目指すのが大抵の場合冒険者だったので、結果的にギルドは大きく成らざるを得なくなったわけですね。

 

 英雄志願な若者たちがフリーターとして都に押し寄せた挙げ句、あちらこちらで「俺の信じる正義の名の下」正義の刃を振るい続けたら、血風と白刃の魔都と化してしまいます。幕末京都の人切り抜刀斎が大量生産されて大安売りです。人切り対策用に新撰組つくって人々を守らないと、治安と人心の崩壊は待った無し状態ですよ。

 

 と言うわけで出来たのが冒険者ギルド。最初はささやかな規模だったのが時流に乗り、魔王軍の侵攻が本格化してきたのにも付け込み、幾人かの謀略家や策謀家と大多数の見栄えする英雄たちが輩出されたことで現在の地位と規模と権限を手に入れたという訳。

 なんかオバロよりも夢がないな、この世界の冒険者ギルド。モモンガ様的にもガッカリです。

 

 

 そんなこんなで夢追い人と書いてルビはフリーターと書く方々が大半を占めてる冒険者の皆様方は、実入りが良くても夢がないこの手のクエストが非常にお嫌いで借金返済期日でも差し迫っていない限りは募集に応じようとはなさいません。

 

 水道がなく、井戸から水を手作業で運ぶしかないこの異世界において非常に重宝がられる仕事なのに勿体ないことですよね、まったくもう。

 

「《ウォータ》、《スノー・ウィンド》。《ウォータ》、《スノー・ウィンド》。《ウォータ》、《スノー・ウィンド》。《ウォータ》、《スノー・ウィンド》。・・・・・・」

 

 ちなみにですが、このクエストが不人気な理由の最たるものは「なんか穴掘っては埋め返すだけの刑務所(この世界風に言えば監獄)生活を彷彿とさせるから」との事でしたが・・・うん、確かにそっちは納得できるかもしれませんね・・・・・・。

 

 

 

 ドカドカドカ!

 

 どがしゃんッ!!

 

 

「きましたよ! お水くださいセレニアさん!

 今すぐ早急に!一秒でも早く! 40秒で支度しな!」

 

 どっかの空賊さんが露出狂女神の姿形をとって来店されました。早急に追い返したいところですが、こちとら只のバイト店員です。そんな権限はありません。

 言われたとおりに冷や水つくって、女将さんに持って行ってもらうだけです。

 言い忘れてましたが、個人経営なので他の従業員は一人もいません。うまい食事と居心地の良いアットホームな店舗がウリの田舎風食堂です。孤独なグルメで紹介して欲しい。

 

 

 

「はいよ、お待っとうさん。いつもの冷や水だよ」

「ありがとうございます、女将さん!

 ごくごくごく・・・・・・ぷはーっ! 仕事の後の一杯は最高においしいですねぇ!

 この一杯のために生きてますし、仕事もしてます!

 冒険者稼業で得たい物は、よく冷えた一杯の水!」

 

 ・・・ブラック発言! なんか今、すごいブラック発言しなかったですか女神様!?

 異世界社会の労働者たちがものすごい生活送らされてるような言い方やめてくださいよーっ!

 

「お客さん、毎日きてくれて毎日水を注文してくれるのはありがたいんだけどさ・・・たまには別のモンも一緒に注文しとくれよ。

 うちは食堂であって水を専門に売り買いしてる業者じゃないんだからさ・・・」

「うぐっ・・・し、仕方ないじゃないですか! お金ないんですから!

 だいたいギルドがいけないんですよ! クエスト受注にランク制限なんて設けるから・・・。

 どれだけ強くても信頼度と実績が高くなければ高収入なクエストを受けられないって変だと思いません!? こんなの絶対おかしいですよ!」

「ああ、今のアンタを見るまで私も同じ事考えてたね、確かに」

「でしょう!? そう思うでしょう!? この制度、絶対におかしいですもんね!」

 

 噛み合わない会話と、交わらない意志。

 

「でも、僧侶系の仕事は需要あるだろう? それも高額で好待遇なのが大量に。

 なんたって高レベル僧侶はハイウィザードよりも希少で、民需にとっては最もありがたい魔法使い様だ。

 どこに行ってもありがたがれるだろうに、なんだって毎日コップ一杯の水だけで腹膨らませようと無駄な努力してるんだい」

「・・・・・・以前に一度パーティー戦闘に参加して、混乱の状態異常になった味方を「殴れば治る」と言って実行したら、干されるようになりまして・・・・・・」

「自業自得じゃないか」

「その上、ブラックリストに載せられてると警告されてイエローカードもらったから、闇医者に仕事を斡旋してもらおうと事務所に行ってみたらガサ入れが入ってレッドカードに・・・」

「100%自業自得じゃないか」

「止めとして回復魔法を強制的に使用できなくする呪いのアイテム《愚者の首輪》まで無理やりに装備させられて・・・・・・」

「自業自得を飛び越えて犯罪者まで超越し、遂には奴隷みたいな恰好させられてるねアンタ・・・」

「女の子相手にヒドいと思いませんか!?」

「いや? むしろザマーミロだと思うけど?」

「ですよね!?そうですよね!? かわいそうだって誰でも思いますよね!?

 だって私、かわいいですもん♪」

 

 ・・・なんでしょうかこの女神様。超ウゼー・・・。

 

「ーーはっ! こんな事している場合じゃありませんでした!

 セレニアさん!セレニアさんはどこですか!? 明日の休みの日にご一緒していただきたいクエストがあるのですが!

 なんと! 遺跡発掘クエストですよ!冒険者の本領発揮です!

 偉人の墓から伝説のアイテムひとつ持ち出さずして、どうして冒険者などと名乗る事が出来ようか!?

 平和を愛する自称平和主義者たちよ。死者の眠る墓に手をつけるなど許されないと叫ぶ一部の自称宗教家たちよ。迷妄から覚めよ! 諸君等のやっていることは結果として我ら冒険者の利益を侵犯しているのだ!

 法を守ることを押し付けられることほど、冒険者にとって迷惑なことはない!」

 

 言い切りやがった!自分が人のクズだと言い切りやがったぞ、この女神!

 

「さぁ、セレニアさん。共に征きましょう!

 二人で伝説のアイテムを盗掘して高値で売り飛ばし、左うちわな生活をするために!」

 

 格好良く言ったつもりなんでしょうけど、全然かっこよくない首輪の女神様(注:装備は布切れみたいなのが申し訳程度に胸と腰を覆ってるだけで、しかも裸足です)。

 

 

 

 ーー先行きが見えすぎてて行きたくねー・・・。

 

 

 

 

 三ヶ月の間に更新されたステータス。

 女神:レベルが2上がった。パラメータは全て10ずつだけ上昇している。

 強すぎる状態でスタートしたから早々にザコ敵倒しても経験値が得られなくなった。

 食料買うお金がないから遠出することが出来ず、遠征に参加した際には上記の理由で出禁を食らい、二度と遠征には参加させてもらえないレッドカード保持者となる。

 

 所持金はドラクエ風に換算すると50ゴールド。

 現在の相場は、冷えた水一杯で10ゴールド。生ぬるい水は3ゴールド。宿屋は飯なし一泊15ゴールド。飯ありだと25ゴールド。

 物置や屋根裏部屋なら7ゴールドなので、女神はもっぱらこれらを利用している。

 

 セレニア:《ウォータ》と《スノー・ウィンド》の熟練度だけが上がっている。それ以外はいっさい変動していない。つまりは弱いまんまである。

 

 この世界の魔力値は精神修行や日頃のトレーニングで上昇させる仕組みのため、同じ魔法使い続けてれば経験値がたまりレベルアップして何故か知力までもが上がるという謎現象が起きることはない。知力は勉強して上げるものである。敵倒して上がる知力ってなんじゃい。

 熟練度はあくまで魔法の習熟度を示す値であって、威力などの向上には影響しない。効率配分や出力の調整などで継続時間が増すだけである。工夫次第で応用できるが、そちらは知力と知識量の分野であろう。

 

 所持金は総額5000ゴールド近く。日当が70ゴールドと破格だったのも大きいが、特にこれと言って使い道が思いつかずに銀行へ預けて貯金してたら気づかない間に貯まってた。

 銀行はギルドが経営してるので、預けられた資産の運用は彼らが行っている。教会側と大きく利権が被さる重要案件であり、永らく対立の火種と成り続けているためにか従業員の質はよく、セレニアの資産も含めて良好な状態で都市の経済を牛耳るのに役立てている。

 守秘義務があるのでセレニアには知らされていないが、初心者冒険者の多くが一攫千金を夢見て甘い話に乗り、投機的な投資に手を出しては失敗してギルドに身売りするため、彼女のように始めから銀行に頼る者は極めて希であり、それが理由で一部において有名になりつつあるが余談である。

 

つづく


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